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人物:カイ (クレイ)
場所:王都イスカーナ
NPC:クレア
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日が昇り、クレイがそっと出かけた後も、クレア姫は眠り続けた。
よほど疲れていたのだろうか。もう朝食には遅い時間だ。
「……きゃっ!ウルザ、今何時?」
彼女が慌てて飛び起きても、側にはカイしか居ない。
暫くきょろきょろと見回していたクレアもホッと一息ついた。
「そっか、眠っちゃったんだっけ」
まだ寝ぼけまなこの彼女は、しきりにまぶたを擦っている。
「目が覚めたか」
入り口のドアに体を寄りかからせて、カイは静かに立っていた。
「それで、ウルザとは誰だ?」
お腹がすいたとさえずるお嬢様に、カイはサンドイッチを調達してきた。
差し出しながら、それとなく訊ねる。
「お付きの侍女よ。どうして」
サンドイッチに伸びる手が、ほんの一瞬止まる。
「寝言に出るくらいだ。親しいのだろうな」
「そうよ。まるで姉妹みたいにそっくりなんだから」
ふふっとクレアに笑みが洩れた。
「……姉妹か。歳は幾つくらいだ?」
もぐもぐもぐ。
「ふはふぅえ」
「……悪かった。食い終わってからでイイから」
もぐもぐもぐもぐ。こきゅこきゅ。ぷはっ。
「あー、おいし。で、なんだっけ」
流石にカイも頭を抱える。
「フィーとは大違いだな」
「え?誰?」
「………………秘密だ。」
カイは微かに顔をしかめた。
自分の知る上流階級の人間と目の前の彼女とは、あまりにもかけ離れている。
(どういう環境で育ったんだろう)
大公家で許される食事風景とは思えない。しかし、初めてにも見えない。
(……わからん)
「ふぅん、まあいいけど」
クレアは一つ伸びをした。
「会ってみたい?ウルザに」
野次馬根性的な好奇心たっぷりの目でカイをのぞき込む。
「私よりも二つ上だし、ちょっと貴方とも似た感じがするし」
水を得たような勢いにカイが気圧されると、クレアは一人の世界へ入っていく。
「顔立ちはね、私をちょっと大人びさせた感じかな。それでね……」
「ちょっ」
「指もすごく綺麗で、器用なの。私の知らないこともいっぱい知ってるのよ」
「待て、いきなり一度に言われても」
何かが引っかかった。
ゆび、が、きよう。
にたかんじ、が、する……?
「……どの辺が似てると思ったんだ?」
「そうだなぁ、時々影みたいな感じがするところかなぁ」
コレ、だ。彼女に違いない。
琥珀のカラスが変装を得意にしているとはいえ、そんなに若いというのはどういうことだろう。別人だろうか。いや、直感はコレだといっている。
「……是非会ってみたいものだ」
「そう?わかった。どうにか……」
その先はあまり耳に入っていなかった。楽しげに喋り続けるクレアとは対照的に、
カイは一人、物思いに耽っていた……。
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人物:(カイ) クレイ
場所:王都イスカーナ
NPC:サイアス
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サキと話しているうちに、だいぶ時間がたったらしい。
史料課をでて外に出るために王宮の中央にもどると、きる時とは打って変わって、けっこうな人の流れができていた。
(政務官はともかく、役職の貴族まで出てきてるって事は、昼少し前か)
忙しく動き回るにたような長衣を羽織った人や、一般人にまぎれて、そろいの家紋をつけた数人の集団がいくつかまぎれている。
名前だけの役職についた貴族の直参であろう。
かれらは仕事らしいことをしないので(こなす能力がないともいう)、だいたい昼になる前に、主だった有力者にあいさつだけしに城に上るのだ。
ある意味憧れともいえる彼らの姿を、クレイはついつい目ざとく見つけてしまうのだ。
「よう、こっちに顔出してるとはめずらしいなぁ」
なるべく邪魔にならないように壁沿いに出口に向かうクレイは、聞き覚えのある声に振り返った。
「サイアスか。……飲み屋以外で顔を合わすと変な気分だな」
「おいおい、それはこっちの台詞だろう」
良くいく酒場で知り合ったサイアスは、実のところかなりのエリートで、上級職からの直接の指示で動く監察官の地位にいる。
家柄もそうだが、実務の多いこの役職は能力がなくては勤まらない。
仕事上ではクレイとはかすりもしないはずの男、それがサイアスであった。
サイアスは現在は王太子派の貴族の下に入っているため、中立、というかどこの派閥にも影響力ゼロのクレイは、イスカーナ貴族の仲では数少ない気の許せる友人でもあることから、姿を見かけたときは必ず声をかけるようになっていた。
「クレイがこっちにくるなんて、なにか失敗でもしたのか?」
「ばかいえ、たまには過去の資料とかをしらべて捜査にやくだてよーってな」
「おいおい、せいぜい見回りぐらいしかしねーお前が捜査とは、昇進でもねらってんのかよ?」
「まあどーだろうな。 厄介ごとに巻き込まれてるのは確かなんだが……」
軽口をたたきながら連れ立って出口へと向かう。
そして人並みが切れたとき、ふいにサイアスが方に手を回し、声を潜めてささやいた。
「おめー、カラスのこと探ってるらしいな。理由はきかねえが、気をつけろよ」
「?」
「俺たちにも命が下った。それもあのサウディオの入れ知恵みてーなんだ」
「神殿がかかわってんのか?」
「ああ、裏まではわからんがな。だが神殿のほうも俺たち任せのはずがない」
神殿では表と裏があるとうわさされていることをクレイも知っていた。
裏で飼われているやつらが出てくるとなると、命にかかわる。
なにしろ謎のままのわけが、関係者は必ず殺すからといわれているのだから。
(カイならともかく、俺に勝てる相手じゃねえな)
そしてサキのところで仕入れた歴史の真実。
神殿はまだあきらめてなかったのだろうか。
サイアスはいうことをいうと、元の快活な声に戻りクレイとは別の方向へと離れだした。
「また今度暇ができたらのみにいこーぜ」
その声に軽く手を振ってこたえると、クレイは早足で週者のある区画へと歩き出した。
(とりあえずカイと相談して、どこまで踏み込むかきめねーとな。クレアにすべてを話して完全に踏み込むか、適当にあしらって家に追い返すか)
すでに悩んでいる時点で答えは出ているような気もするのだが、とにかく急いで戻ることにしたのだった。
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人物:カイ クレイ
場所:王都イスカーナ
NPC:クレア
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足音が近付いていた。奥まった部屋の位置とカイの社交性の無さから、目の前の廊下を利用する人間は少ない。しかしクレイにしては少し不自然な歩き方だ。
カイは入り口から中を見渡せないように、さり気なく立ち位置を変えた。
「たっだいまぁ」
よっ、と肩でドアを押すように入ってきたのはやはりクレイだった。
両手に余るほどの大きな紙袋を二つ抱えて、少しよろけながらテーブルに向かう。
「収穫は?」
「もう、予想以上」
重かったらしい荷物をテーブルに載せ終えると、ゆっくりと伸びをした。
「さて、どうする? 相棒」
「拾ってきた情報次第だが、どうも彼女を送り届けることになりそうだ」
「……へぇ、コッチでも収穫があったってコトか」
「不確かだが、そうとも言えるな」
小声で話す二人の会話が聞こえているのか聞こえていないのか。勝手に紙袋を開け始めたお嬢様は、中身を見て少しがっかりしたようだった。
「プレゼントでも入っているかと思ったのに」
クレイはにっこり笑って見せた。
「間違ってはいないな」
片方の袋には三人分の食事、もう片方には少年用の洋服や帽子が詰め込まれていたのだ。もちろん彼女の変装用である。
「腹ごしらえをしたら送っていこう。一人で返すのは危険だからね」
「じゃ、お父様に挨拶してくれるの?」
「あー、ソレ、ソレね。その事は、う゛~ん、また落ち着いてから話そう」
「ふぅん、ま、いいけど」
少し口を尖らせながらも、クレアは洋服を広げ始めた。
「これって私が着るのよね?」
成人前の少年の、簡易礼装と上着、帽子と靴が入っていた。
帽子はゆったり目で、何とか髪の毛を押し込めそうな作りにはなっている。
「なんて言って買ってきたの?」
「新品じゃなくて悪いんだが、お古なんだ。家から取ってきた」
不承不承と言った顔がぱぁっと輝いた。
「じゃあ、クレイが着ていたモノなのね」
「あまり着る機会もなくて、新品同様だけどね」
「あー、見てみたかったなぁ」
「……聞いちゃいねぇ」
そんなこんなで(どんなだ?)軽い食事を済ませると、クレアが着替えるためにクレイとカイは部屋を閉め出された。まぁ、彼女に知られずに情報交換が出来るというのは、非常にありがたかったのだが。
「……というワケ」
「それは引き返すのは無理だろうな」
「だろうね。執事の偽物が出た時点で、神殿が動いてたって考えるのが妥当でしょ」
カイはウルザに対する違和感をどう伝えるべきか、迷っていた。
カラスの条件を満たすのは女性というだけ。年齢的なコト以外にも、おかしなところがたくさんあるからだ。しかし、一度浮かんだ疑惑はそう簡単に拭い去れない。
「ウルザという女性のことだが……」
結局、感じたモノを正直に伝えることしかできなかった。
「カイを信じよう」
疑うでもなく、クレイはあっさりと言い切った。
「噂は噂でしかない。誇張もされれば間違いもする。カラスが代替わりしてる可能性だってある。だったら、カイの直感の方があてになりそうだ」
胸が、熱くなった。
「信用して、間違っていたらどうするんだ」
「どうもしない。コレでも人を見る目には自信があるからね」
クレアの着替えが済んだようだ。クレイが先に部屋へ入る。カイは僅かの間、頬を緩めると、すぐに何事もなかったかのようにクレイに続いた。
琥珀のカラス19 ひろ
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人物:カイ クレイ
場所:王都イスカーナ
NPC:クレア
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「へへへへ」
部屋の中では男装したクレアが、はにかむようにして姿を見せる。
「どうかな? 似合う?」
これが恋愛ものの物語なら、なかなかに嬉しハズかしの場面であろうが、
「どうでもいいがわざわざ変装してるんだから、カマっぽい動きにならないようにしろよ」
好みの女性はときかれれば、「妖艶な貴婦人」と答える微妙なお年頃なクレイは普通に観察しただけだった。
(ちなみに、貴婦人とは当然貴族階級の人妻のかたがたを指していたりする)
ふくれるクレアを煙にまきながら簡単に用意を済ませる。(というか、カイが戸締りとかをするのをまっていたのだが)
「でも、私結婚のこと何とかならない限りはまた逃げ出すわよ」
いよいよ出かけようかというときになって、クレアは疑問を口にする。
送ってくれるのはいいけど、原因が取り除かれないなら、何度でも繰り返すというのは、当然といえば当然だろう。
そしてクレイとカイは、その言葉の意味するところを察して目をかわす。
(つまり、いつでも逃げれるってことか?)
(それだけの自信があるのだろう)
あの妙な器用さ、はっきりいえばスリテクだけではないであろう盗賊系のスキル、そしてたぶん協力者。
(それがウルザ?)
「なによ?」
ひそひそと話すクレイとカイに、クレアは不満そうに口を尖らす。
「ん? ああいや、これなら屋敷まで余計な邪魔もはいらずにすみそーだなってな」
「ああ。これで大公家の手の者につれていかれるんじゃ、クレアの立場が悪くなるだけだからな」
そう、ただ家に帰すのなら追いかけてきたやつらや、それこそ隊長にでも頼めばすむ話なのだ。
だが、事の発端がなぞのままでは何も終わらないのだ。
かといってクレアと結婚する気はさらさらないクレイとしては、自分を犠牲にして丸く治める気もなかった。
だいたいクレアと結婚となれば、確実に婿入りなのだ。
いかに下級とはいえ、ディアス家をたやすわけにもいかない。
「一応、スリのことはだまっといてやるし、自発的に戻る気になったってことにしといてやるからな」
「そこまで気を使ってくれるなら、お父様に婚約のあいさつぐらいしてくれてもいいのに」
「いつ婚約したんだ! あのな、そもそも俺たちはお前が家を出た理由すら聞いちゃいねーんだ。隠し事したままで信頼は生まれないんだぞ」
「えー……、女は隠し事の多さで大人になるのよ」
「……一度じっくりと大人の女について教えてやりたいところだが……」
あいも変わらずこたえないクレアに、うめきながら半眼になっているクレイにの肩をカイがたたく。
「そろそろこう。やっかいなやつらにかぎつけられる前に、安全圏にいれておこう」
クレアにはなんのことだかわからなかったが、クレイにはよくわかっていた。
「そうだったな。よし、夕刻までには屋敷にはいっておこう」
もしカラスと大公家のかかわりがクレイの推測どおりで、カイの『予感』があたっているなら、遠からずクレアは幾つかの勢力に狙われることになりかねない。
そうなる前に、とりあえずの安全は確保しておくのだ。
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人物:カイ クレイ
場所:王都イスカーナ
NPC:クレア
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「へへへへ」
部屋の中では男装したクレアが、はにかむようにして姿を見せる。
「どうかな? 似合う?」
これが恋愛ものの物語なら、なかなかに嬉しハズかしの場面であろうが、
「どうでもいいがわざわざ変装してるんだから、カマっぽい動きにならないようにしろよ」
好みの女性はときかれれば、「妖艶な貴婦人」と答える微妙なお年頃なクレイは普通に観察しただけだった。
(ちなみに、貴婦人とは当然貴族階級の人妻のかたがたを指していたりする)
ふくれるクレアを煙にまきながら簡単に用意を済ませる。(というか、カイが戸締りとかをするのをまっていたのだが)
「でも、私結婚のこと何とかならない限りはまた逃げ出すわよ」
いよいよ出かけようかというときになって、クレアは疑問を口にする。
送ってくれるのはいいけど、原因が取り除かれないなら、何度でも繰り返すというのは、当然といえば当然だろう。
そしてクレイとカイは、その言葉の意味するところを察して目をかわす。
(つまり、いつでも逃げれるってことか?)
(それだけの自信があるのだろう)
あの妙な器用さ、はっきりいえばスリテクだけではないであろう盗賊系のスキル、そしてたぶん協力者。
(それがウルザ?)
「なによ?」
ひそひそと話すクレイとカイに、クレアは不満そうに口を尖らす。
「ん? ああいや、これなら屋敷まで余計な邪魔もはいらずにすみそーだなってな」
「ああ。これで大公家の手の者につれていかれるんじゃ、クレアの立場が悪くなるだけだからな」
そう、ただ家に帰すのなら追いかけてきたやつらや、それこそ隊長にでも頼めばすむ話なのだ。
だが、事の発端がなぞのままでは何も終わらないのだ。
かといってクレアと結婚する気はさらさらないクレイとしては、自分を犠牲にして丸く治める気もなかった。
だいたいクレアと結婚となれば、確実に婿入りなのだ。
いかに下級とはいえ、ディアス家をたやすわけにもいかない。
「一応、スリのことはだまっといてやるし、自発的に戻る気になったってことにしといてやるからな」
「そこまで気を使ってくれるなら、お父様に婚約のあいさつぐらいしてくれてもいいのに」
「いつ婚約したんだ! あのな、そもそも俺たちはお前が家を出た理由すら聞いちゃいねーんだ。隠し事したままで信頼は生まれないんだぞ」
「えー……、女は隠し事の多さで大人になるのよ」
「……一度じっくりと大人の女について教えてやりたいところだが……」
あいも変わらずこたえないクレアに、うめきながら半眼になっているクレイにの肩をカイがたたく。
「そろそろこう。やっかいなやつらにかぎつけられる前に、安全圏にいれておこう」
クレアにはなんのことだかわからなかったが、クレイにはよくわかっていた。
「そうだったな。よし、夕刻までには屋敷にはいっておこう」
もしカラスと大公家のかかわりがクレイの推測どおりで、カイの『予感』があたっているなら、遠からずクレアは幾つかの勢力に狙われることになりかねない。
そうなる前に、とりあえずの安全は確保しておくのだ。
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人物:カイ クレイ
場所:王都イスカーナ
NPC:クレア
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通りを三人が歩いていた。
先頭を足早に歩く男、それにじゃれつくような少年、数歩後ろに従う男。
これがクレイ・クレア・カイであると知っているのは当人達だけである。
「よお、クレイじゃねーか」
「わりぃ、仕事中」
「またメシ食いに寄んな」
ちょっと訂正。
クレイを見知っている人は、まぁ、そこそこ居る。
だが、一緒に歩いている人物を知る人は少ない。
「おや、新しい相棒かい?」
「今度ヒマな時、紹介するよ」
新入りのカイは、まだ覚えられていないし、
「迷子のおもりも大変ねぇ」
クレアが大公のお嬢様だと気付く人も居ない(気付かれては困るのだが。
「クレイって人気者ねぇ」
ちょっと羨ましそうにクレアが呟いた。
大公家に近付き、人気がまばらになった頃だった。
「誰が聞いてるか分かんないから、喋るなって言ったろ?」
クレイがぶっきらぼうに、でも声を抑えて話しかける。
「どうやって帰りたい?正面から行くか?」
少し歩速を緩めたモノの、相変わらず前を向いたままだ。
「うーん、私のこと、門兵は知らされてないと思うよ」
「表向きには、家出の事実はありませんってか」
「そう。クレア姫はか弱い乙女だから、きっと床に臥せっておられるのよ」
「おいおい、他人事みたいに」
「いつもそうよ。……いつだってそう」
少し遠い目をして、足を止める。暫く下を向いたかと思ったら、屋敷を左手に、川沿いの小道へ入っていく。目的の場所はコッチにあるらしい。
(……な、泣いたのかと思った……)
(あのお嬢さんのすることはわからん……)
クレイとカイのアイコンタクトを余所に、どんどん小道を進んでいくクレア。
二人も慌てて後を追った。
「何処まで行く気だ?」
クレイが声をかけたのは、木々に遮られて屋敷が見えなくなってからだった。
「……もうすぐ」
それだけ言うと、クレアは先を急ぐ。
見えるのは、小川のせせらぎと大きめの砂利、涼しげに立ち並ぶ木々と木漏れ日。
森林浴には絶好の場所かも知れないが、屋敷を目指すには不釣り合いな道である。
「待て」
カイが鋭い声で二人の足を止めた。
「どうした!」
「火薬の匂いがする」
「そんな匂い、しないわよ?」
「我々よりも少し前に、誰かが通ったようだ」
クレイとクレアが見ても、なんの痕跡もないように見える。
「で、どうする?」
「敵意や殺気は感じない。もう去った後なのか、それとも……」
『……それとも?』
突然聞こえてきたのは、知らない女の声だった。