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2024/04/30 07:53 |
クロスフェードA 第1話 Invitation/リーデル(陽)
PC:リーデル
NPC:ミリア
場所:クーロン
___________________________________

 自分が場違いであることは分かっていた。
 クーロンで名の知れた組織の、それも上級幹部御用達の高級ホテル『アンバ
ー・アイ』のバーの客たちは、くたびれたコートにペインターパンツという出
で立ちの俺に、一様に奇異な視線を向けていた。

「お客様、こちらは会員制のバーとなっておりまして――」

 ボーイのひとりが慇懃無礼そのもの笑顔で俺の行く手を遮った。俺はエント
ランスから延々と繰り返された行為に半ばウンザリしながら、金縁の悪趣味な
カードを目の前に突き出した。ボーイの笑顔が凍りつく。俺をどこぞの組織の
お偉いさんだとでも思ったのだろう。ここクーロンで金を持っているヤツの職
業などヤクザ以外の何物でもない。

 コンクリ詰めにされて用水路で水泳している自分の姿を想像しているであろ
うボーイにせいぜいにこやかな笑顔を見せると、俺は目当てのテーブルに向か
った。

「早速、送った会員証が役に立ったみたいね」

 そう言って艶やかに微笑したのは、ワインレッドのドレスを着た黒髪の美女
だった。派手な紫のアイカラーと真紅のルージュという水商売一歩手前のメイ
クのはずなのだが、不思議と下品に見えない。

 ミリア・レリアック。
 こう見えても大陸中に支部を持つ巨大組織であるギルド――その中の魔術師
ギルドを統括する幹部のひとりである。

「で、用件は?」
「お願いがあるの」

 艶のある声が俺の鼓膜を揺らした。俺が(勝手に)先天性テンプテーション
と名づけたこの熱っぽい声は、適度な暖色照明と緩やかなジャズのムードの中
でその効果を倍増させる。俺はわざとらしく伊達眼鏡の位置をずらして、その
アメジストの瞳から視線をそらした。

「引き受けて欲しい仕事があるのよ」
「内容は?」
「誘拐犯の追跡」

 便利屋という看板を出しながらも、俺は荒事専門の魔術師として傭兵まがい
の仕事で糊口を凌いでいるクチである。こういった依頼は珍しくない。だが、
とある理由からギルドを出奔せざるを得なくなった俺に、ギルドの幹部である
ミリアが依頼を申し込むということは、この仕事が表では大々的に扱えないよ
うな種類のものであることを示している。

 つまり、何らかの裏があるのだ。

「依頼主は?」
「ディアン・ローガンよ」
「アスクレピオスの現社長の?」

 俺が驚いて聞き返すと、ミリアは微笑を浮かべて頷いた。『アスクレピオ
ス』は大陸でも最大規模を誇る製薬会社のひとつだ。5年ほど前、一週間以上
高熱が続く「七日熱」という流行病が蔓延した際に特効薬をいち早く市場に流
し、その名は一挙に知られることなった。また、効果の優れた回復薬や副作用
の少ない鎮痛剤など次々と開発し、傷の絶えない傭兵達からは非常に高い声価
を上げている会社でもある。

 だが、同時に黒い噂も絶えない会社でもあった。主な理由は、効果の割には
短すぎる開発期間や出どこのハッキリしない膨大な研究費などだが、何よりこ
の現社長であるディアン・ローガンが権謀術数の数々を駆使する辣腕家として
知られているのだ。

 そして、かなりあくどい手で会社を拡大させたせいか、外に敵の多いディア
ン・ローガンは「私兵軍団」と揶揄される精強無比なボディーガード集団を常
に引き連れている。おそらく俺以上に荒事に慣れているその人員を使わないと
いうことは、かなりキナ臭い仕事であるには違いない。
 
「ディアン・ローガンからの依頼か………ギルドが慎重になるのも無理ない
な」

 俺の呟きにミリアが頷いた。

「ええ、このような仕事は、様々なトラブルに対応するだけの経験と実力、そ
して裏世界に精通した人物が必要なの。つまり、あなたのような」
「そういう素直なところが大好きだ、ミリア」
「――かつ、どんなトラブルに巻き込まれようが、どこかでのたれ死のうがギ
ルドがガン無視するだけ後腐れなくその存在を抹消でき、しかも人権も人間と
しての尊厳も無視したやさしさ無添加の契約でも金次第で引き受ける人間が必
要なの。つまり、あなたのような」
「そういう素直なところが大嫌いだ、ミリア」

 俺の笑顔の裏に隠された感情に気付いているのかいなのか、ミリアはもう一
度笑顔を見せると小さな皮袋を俺に手渡した。中に結構な量の硬貨が入ってい
るのは、重さで分かる。

「前報酬よ。仕事の詳しい内容は、ソフィニアの本部で依頼人から直接聞いて
ちょうだい。仕事が終わり次第、その倍が支払われるわ」
「ずいぶん気前がいいが――俺は受けるなんて一言も言ってないぞ」

 ミリアの持ってくる仕事は高給なのはいいのだが、危険度が非常に高い場合
が多い。実際、俺はミリアから受けた仕事で3回ほど死にかけたことがある。
頭の中の天秤は、今回の報酬と自分の命とが微妙なバランスで上下していた。

「でも、受けないとも言ってないわよね?」

 やはり笑顔のまま、ミリアが首を傾げる。

「受けない、と言ったらどうするつもりだ?」
「あら、残念。せっかく上に部屋を取ってあるのに」

 小さく舌を出すと、ミリアはいたずらをするように目を細めて微笑した。

「仕事、受けてくれる?」

 俺の葛藤の天秤は、あっさり傾いた。
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2007/02/14 21:17 | Comments(0) | TrackBack() | ▲クロスフェードA
クロスフェードA 第2話 雨の日/ライントェイブ(ハヤメ)
PC:ライントェイブ
NPC:アルミナ
場所:ソフィニア
___________________________________

その日は朝から雨だった。
 ぽつ…、ぽつ…、ぽつ…。雨戸から聞こえるその音は、宿の中に響き渡る。
一定のリズムを奏でるそれは、まるで一種の音楽隊のようだった。

宿屋には二三人の客がいた。そのうちの一人カウンター席に突っ伏した様に、
座っている白髪の男がいた。
名前はライン・トェイブ。ギルド所属の冒険者。ランクはCだが彼は、珍しい
能力の持ち主であった。精霊魔法使い(エレメンタラ―)。精霊とは普段に、
おいて万物に宿っている物である(精霊獣や召喚獣を除けば)。彼は自身に宿
る精霊を変化させ物体に宿る精霊に対して干渉をおこなう事ができる。戦闘や
治癒はたまた物体変質など様々な能力があるため(実際には誓約が多いが)。
色々な種類の依頼をこなしていた。
 グーギュルギュル、突然のその音は外の雨音を消し店内に響き渡っていた。
「ライン、また無一文か?」
 店のマスターがラインに話しかける。ラインは突っ伏したまま片手を上げ、
その問いに肯定した。
 正義感の強いラインは、よくギルドに仕事を、依頼できないようなお金の無
い人の依頼を聞いてしまう。その際無償で働く事がしばしばあった、当然その
ような都合の話に、人が来ないわけが無い。従ってラインは忙しく、お金を貰
えるような依頼に、よくありつけないでいた。
「マスター、お願いです。ツケで何か食べさせて貰えないでしょうか。」
ラインが泣きながらそういうと、マスターはにっこりと笑みを浮かべて答え
た。
「水ならタダだぞ」
情け容赦ないその答えに、ラインは本気で水でお腹は、膨れるのか考えた後。
無理だと悟ったのか、泣きながらカウンターに突っ伏した。

 ふとラインは窓の外を見る。いまだに雨足は治まっておらず。雨戸はまだぽ
つ…、ぽつ…、ぽつ…、と一定のリズムを奏でていた。
降りしきる雨を見て、ラインはふと物思いにふける。雨になると彼女のことを
思い出す。長い髪の彼女の事を…。
彼女の事でよく思い出すのはみっつ。水のような青い髪、まるで自身の信念を
写しているような強い瞳、そしてとびきりの…、正拳突き…。
あぁ思い出しただけでも顔が、痛くなる。彼女は周りの人には、優しかっ
た。…が弟子であるラインには滅法厳しかった。唸る拳…、唸る精霊魔法…、
容赦ない彼女のそれらは、ラインを徹底的に指導(調教)していた。
元気にしているかな…、師匠は、と思いつつも彼女なら元気に、飄々と生き
ているだろうと思うラインだった。
「ライン、お前に手紙が来ていたぞ?」
ふとマスターに声をかけられそちらに振り向く。
「えーと、どなたからですか?」
ふむ誰であろうか。今まで手紙がこの店に届いた事は無かったし。ここに自分
が入浸っていることも誰も知らないはずだ。大方間違いだろうと思いながら聞
き返した。
「ふむ…アルミナって名前らしい。知り合いか?」
ガタガタッっと大きな音を立ててラインは、椅子から転げ落ちる。即座に立ち
奪う様に手紙を取る。ガクガクと震える手で、クマのかわいいシールが、つい
ている手紙の中を覗く。そしてそのままラインはぶっ倒れた。

拝啓春の到来を告げるウンタラカンタラ(面倒くさいから飛ばすわね)。はー
い! ライン元気にしていた?(ハート)こっちは元気でやっています。突然
なのですが、私に回ってきたギルドの仕事を、あなたに任せるわ。まぁわかっ
てはいるだろうけど断らないわよね?(ハート)報酬は前金で振り込んでおき
ます。じゃぁ頑張ってねー。byアルミナ(最後にかわいらしいクマのマークが
書いてあった。)
その後に仕事の詳細らしき紙が何枚か入っていた。

ラインはわかる…、彼女に依頼される仕事は殆んどが、死ぬほどハードな事
を。そしてもう答えは決まっている。このまま飢えて死ぬより仕事して死んだ
ほうが、ましだし。そしてなにより…、彼女の正拳突きだけは…。死ぬほうが
マシかも知れないという事だ。

「マスター…、暫く会えないかもしれません。いや…もう会えないかもしれな
いので、もう一杯水下さい。」
ラインは出された水を、一気に飲み干す。

雨の日は彼女の事を思い出す、彼女の事でよく思い出すのはよっつ。水のよう
な青い髪、まるで自身の信念を写しているような強い瞳、とびきりの正拳突
き…、そして面倒な事を押し付ける性格…。


2007/02/14 21:18 | Comments(0) | TrackBack() | ▲クロスフェードA
クロスフェードA 第3話 依頼ミス/チップリード(ハセ)
PC:チップリード

NPC:チョロ、謎の男

場所:クーロンと戦士ギルド(過去)







ああ、やっと着いた・・。

俺はクーロンの町の門の前で感涙を抑え切れなかった。



たとえ門番が俺を不審な目で見ようと関係ない、町の人が白い目で見ようと関係ない。


この感動を抑えることなどなぜ出来よう?





俺がなぜこうなったか説明がいるな。

俺はある依頼を受けているのだ。



依頼内容はある人物のサポートだった。



そこまではいいだろう、いつものことだ。報酬も内容にしては破格だった気がする。



しかし解せなかったのは、依頼を受けた場所から依頼主の場所まで4日間寝ずに歩かなければたどり着かず、しかも町まではモンスターの徘徊する場所を通らなければならない。モンスターを回避するために遠回りした山中では山賊に襲われ、食料が底をつきて飢えを凌ぐために山菜を食べたら食中毒になりかけ、ようやくここまでたどり着くのに1週間もかかり・・・・・。



・・・・・まあ、いろいろあったのだ。



確かに自分の落ち目はあったと思う。



ちゃんとした所を通れば4日くらいですぐに着いただろう。

わざわざ山中を通ることもなければ山賊に襲われることもなかっただろうし、山賊との戦闘を回避するために食料を差し出す必要もなかったかもしれない。

猛烈な飢えを凌ぐためとはいえ、まだら模様のキノコやおかしな形をした雑草を食べなければあんな苦しみはなかったかもしれないな・・・。





・・・・・まあ、いろいろあったのよ。







俺は今までの苦い思い出を捨て、依頼主の指定した場所【酒場】に向かった。







そう、始まりはあの日だった。



「チップ、今日は面白い依頼があるんだけど・・・やってみるか?」



ギルドの依頼受付所にいたチョロさんはそう言って俺に切り出したのだ。



チョロさんは俺の親父・・・本当の親父じゃないが俺にとっては親父だ。

孤児の俺を引き取って、なおかつギルドに入れてくれた。それは感謝している。



だけどな・・・・



「面白い依頼?また夫の浮気相手の飼っている猫探しとか、バーのウェイトレスの口説き方を教えてくれとかいう変な依頼じゃないだろうな?」



ここは戦士のギルドである。しかし俺みたいな傭兵崩れが多く、実情は何でも屋だ。

俺はその中でも特に異端な人間だろう。まともな依頼を頼んできたことがない。だが、まともな依頼を望むならもっと繁栄した都市のギルドに行けばいいし、今の所俺にそのつもりはない。



チョロさんが俺を心配して危険な依頼は引き受けて来ないのは前々から分かってた。

もちろんモンスター退治とか行方不明者の捜索とか“まとも”そうな依頼もあった。



そのモンスターってのが体長3メートルある化け物「食用カエル」で、退治した後村でそれを素材にした料理を食わされる羽目になったとか。



行方不明者は実は家出少女で、彼女を説得する為に親と彼女の家を行ったり来たりするのに3日もかかり、しかもお互いに駄々をこねて進展せず、最後に俺がぶち切れて強引に仲直りさせたとか・・・。





まあ、そんなもんさ・・・、おかげでまだギルドランクはEだしな・・・。





「今度はちゃんとしたやつだよ・・・。ほら、これが依頼内容の書類だ」



そういってチョロさんはニヤニヤと俺に一枚の書類・・・というか紙切れと皮袋を取り出した。



「チョロさん。それは書類といえるのか?」



「ギルドの規約だからね、ほら」



そう言ってチョロさんは俺にその“書類”を手渡した。

彼はそういった“規約”には真面目なのだ。まあ、そこだけなのだが・・・。



俺はその“書類”に目を通してみた。







「どれ・・・・・ふむ・・・・・つまり、この依頼者のサポートすればいいって話なのか?」



「ま、そういうこと」



そういうチョロさんの表情は穏やかではなかった。

こういうときの依頼はただ事ではない。俺はほかのギルド員が依頼を受けている時を知っている。

どうやら本当に“まともな”依頼らしい。



「サポートっていうのはどんなことすればいいんだ?」



「ま、そこらへんは依頼者に聞いてくれ。あとこれが前金な。ちゃんとした報酬は依頼が完了したら後日払うらしいから。それじゃよろしくー」



チョロさんはそういって皮袋を俺に渡し、受付に戻っていった。



「ちょ、ちょっとチョロさん・・・・。ああ、行っちまった」



チョロさんは依頼内容の深入りは決してしない。あくまで依頼者が快適に依頼を頼めるギルドを目指しているらしい。



しかし、実行する俺らギルド員が後々苦労するのは言うまでもない。もう少し内容をはっきりさせて欲しいが・・・ま、要は慣れだ。



俺は皮袋の中身を確認する・・・。これは前金にしては凄い量だ。



「ま、何とかなるでしょ!」



そう言って俺は旅立つ準備をする為、ギルドから出た・・・。









まあ、ここまではよかったかもしれない。でも、よくよく考えてみればこれが“何とかなる”

依頼で終わるはずがないというのは容易に想像がついただろう。



確かに前金の多さに浮かれていたのも事実だ。

その金が酒場で半分まで消えるくらい飲んだのも失敗だったと思う。結果食料の量が減り、あんな事態に陥ったのだ・・・。





ま、要は慣れさ・・・。







そんな思い出に浸っているうちに待ち合わせの酒場に着いた。

俺は憂鬱と不安と諦めが入り混じった顔をしたままその入口に入っていった。









~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~





「チョロさん、俺に依頼が来ているんだって?」



そう言って戦士ギルドの入り口から入ってきたのは体格のいい男だった。

その肉体は鋼鉄のように硬そうで、その腕は丸太のように太い。



「ああ、・・・・・・さん。やっと下山してきたね。まったく、少しは顔を出してくれないと困るよなぁ」



チョロは男を見て困った顔をしながら笑った。



「ふん、俺がどうしようと勝手だろ。それより今回の依頼はやばいんじゃないのか?」




「ああ、結構なヤマだよ・・・これはSランク並みかな。あんたじゃなくちゃ頼めないよ・・・」



そう言いながらチョロは真剣な顔をして話し始めた・・・。









「なるほどな、そりゃやばい」



「あの会社が絡んでいるとなると・・・ね」



「んで、その依頼書はどこだ?早く見せてくれ」



「はいはい、今出すよ・・・」

そう言いながらチョロは受付の机をごそごそと漁りだした。



「・・・・・・あれ?」



「どうした?」



チョロは慌ただしく机を探す・・・。



「・・・・・・無い」



「は?」



「依頼書が・・・無い!!」



「な、何!?」



チョロは顔を青ざめて放心している。



「おいチョロ!依頼書が無いってどういうことだ!?」



「ま、まさか・・・」



「まさか・・・って何が!?」



「チップだ・・・」



「チップ?あいつがどうしたんだ?」



「先日あいつに別件の依頼が来ててね、その時きっと依頼書を間違えたんだ・・・どおりでおかしいと思った。あの依頼であいつが真面目な顔をするはずがないのに・・・あいつ妙に真面目な顔つきになってて・・・、それで・・・。」



「別件の依頼ってこれの事か?」



男が持ってるのは一枚の紙切れ・・・。



「何々・・・【八百屋】の荷物運び?お前・・・まだこんなのをチップにやらせてるのか?」




その時、チョロの目つきが変わった。



「それの何が悪い。あいつは・・・・・・」



「お前の養子・・・いや息子だってんだろ?分かっちゃいるけどなぁ・・・」



「分かっているなら・・・」



「分かっているからさ。あいつももう子供じゃない。あいつの実力はもうAランクはあると俺は思ってる、後は実戦だけだ。あいつに足らないのはそれさ・・・あんたが過保護にしてるからさ」



「・・・・っく」



黙り込むチョロ。ギルド内は沈黙に包まれる。



その沈黙を先に破ったのはチョロのほうだった。



「まあ、そんなことで話し合ってる暇は無い。早くチップを探さんと・・・」



「もう遅い・・・あいつは4日前にはここを発った・・・」



「そ、そんな・・・それじゃあ・・・」



「ああ、普通ならもう着いてるだろう・・・」



「クーロンに行くまでの道はモンスターの巣があるんだぞ!あいつに何かあったら・・・」




「まあ、落ち着け。俺が今からクーロンに行ってあいつと代わってくるなんて無理な話だ。下手すればお前はギルドから破門だ。それはチップの生活にも響く・・・。安心しろ、あいつは簡単には死なん」



「あ、ああ・・・そうだな、そうだよな・・・」



「こっちの依頼は俺が受けておこう。荷物運びなんて久しぶりだしな」



そう言って男は持っていた依頼書をポケットに突っ込んだ。



(まあ、あいつが早々くたばるはずがないだろ・・・。なんて言ったって俺が見込んだ男だからな。)



男はそんなことを考えながら、青白くなっているチョロに背を向け出口に向かった。



(ああいう奴は一回でもスイッチが入れば化けるものだ。果たして俺を超える奴に化けるかな?)



そんなことを思う男の顔はなぜか薄く笑っていた・・・。

2007/02/14 21:19 | Comments(0) | TrackBack() | ▲クロスフェードA
クロスフェードA 第4話 『Gathering』/リーデル(陽)
PC:リーデル ライン チップ
NPC:ローガン
場所:ソフィニア(アスクレピオス本社)
___________________________________

「よく来てくれましたね」
 
製薬会社アスクレピオスの社長ディアン・ローガンは、部屋に入ってきた俺を
にこやかな笑顔で迎えた。やや白髪の混じった壮年の容貌は柔和で、その筋で
は梟雄として名を馳せる男としては驚くほど穏やかな物腰だ。だが、口元に浮
かべた笑みは作り物めいており、瑪瑙色の瞳はどこか昏く、底が知れない。

「まあ、掛けてください。今、秘書がコーヒーを持ってきます」

 俺はローガン氏の指差した革張りのソファーに視線を向けた。そこには、す
でに二人の先客がいた。窓側に座った常に笑顔を浮かべているような白に近い
銀灰髪の男、もう一人はどこか緊張の表情を浮かべた戦士風の青年。

「ああ、彼らも私が同じ目的で雇った人たちですよ。こちらの窓側の青年がラ
イン・トェイブさん、そしてこちらがチップリード・ラクフェールさん。報酬
は山分けではなく人数分払いますので、協力を忌避しなくても結構ですよ」

 俺はうなずくと、上座にローガンが座るのを確認してから、ソファーの一角
に腰を下ろした。

「さて、では早速仕事の話に移らせてもらいます」

 ローガン氏は紙袋に入った資料をテーブル上に広げた。

「皆さんは事前に大まかな話を聞いていると思いますが、あなた方にはある誘
拐犯の追跡をお願いしたい」
 
 ローガン氏が示したのは一枚の写真だった。まだ若い男女が二人写ってい
る。二人ともまだ若い。年上に見える女の方も、おそらく20歳に届いていな
いだろう。
よく似通った容姿を見る限り、姉弟のようだ。

「攫われたのは、ここに写っている二人――リーズ・エルダートとラーズ・エ
ルダート。我が社の新薬開発研究所に入院していた患者です」
「新薬開発研究所?」

 首を傾げたのは、戦士風の青年――チップリード・ラクフェールだ。

「文字通り、新薬を開発すべく5年前に作られた研究所です。うちの社員の間
では、初代所長の名をとって『グレゴール研究所』と呼ばれています」
「そこの患者ということは、この姉弟は何かの病気だったんですか?」
「はい――ラクフェールさんは、『遺伝子』というものをご存知ですか?」

 逆に聞き返され、答えたのは反対側に座るライン・トェイブだった。

「確か、人の身体の中に『人間の設計図』があるとかいう話ですか?」
「大まかな認識はそれで構いません。人を人たらしめているもの。存在の決定
因子。少しロマンチックな科学者は神の設計図とも呼びますがね――グレゴー
ル研究所では、この遺伝子と、そして遺伝子の欠陥から来る様々な遺伝病の治
療法を研究していました」
「すると、この二人にも何か遺伝子的な欠陥が?」
「はい、私たちは『月光病』と呼んでいました」
「月光病……ですか」
「はい、ある一定の周波数の光線――この姉弟の場合は月の光ですね――を視
神経が捉えると全神経が過剰反応を起こし、脳内で一種の興奮物質が異常分泌
される状態に陥ります。つまり、まるで人が変わったように凶暴化するので
す。さながら、伝説上の人狼のように。実際、中世期にはこの遺伝病が原因で
人狼だと勘違いされ、迫害されたケースも少なくないようです」

 ラインが粛然と頷いたところで、俺は口を挟んだ。

「……それで、犯人の目星は?」
「すでに判明しています」

 と、ローガン氏はもう二枚、新たな写真を差し出した。年齢は20代半ばら
しい若い男と壮年の男性の写真だ。
二人とも生真面目さそうな容貌をしており、パッと見た感じでは誘拐犯という
単語から程遠い。だが、人物の容姿と中身が一致しないことなど、この稼業に
ついてから無数にあったことだ。

「若い男はケヴィン・ローグ。グレゴール研究所では月光病治療の第一人者
で、エルダート姉弟の治療にあたっていた男です。もう一人は、グレゴール研
究所第3研究室室長のゼリッグ・ベルナール」
「この二人が姉弟を攫う理由は?」

 俺の質問に、ローガンは首を傾げてみせた。

「さあ、誘拐犯の気持ちなど私には分かりかねますが――おそらく、月光病の
治療薬の独占を狙っているのでしょう。実際、ケヴィン・ローグは研究資料を
洗いざらい持ち出していますしね。姉弟は生きたサンプルというわけです」
「それは違うな」

 俺は即座に首を振った。

「遺伝子の研究なんて大層なものは、ちょっとやそっとの施設できるもんじゃ
ない。ただの一研究員でしかなかった二人が、一体どこで治療薬を作るってい
うんだ?」 

 それなりに核心を突いたつもりだったが、ローガン氏の口元に浮かべた笑み
はいささかも揺らぎはしなかった。

「ふふ、『ただの研究員』ですか。たしかにゼリッグ・ベルナールについては
その単語もあてはまります。が、ケヴィン・ローグは違いますよ。何といって
も彼はデューロンのローグ家の次期当主ですからね」
 
 それは俺も予想していなかった答えだった。デューロンのローグ家といえ
ば、元々はとある王家の宮廷医師を務めていた名家の一族で、数多くの優秀な
医者を世に輩出している。また、医療の世界においては最大の派閥を持つ一族
としても知られており、ローグ家資本の製薬会社『エリクサー』は、このアス
クレピオスに匹敵する規模を持つ。

「ケヴィン・ローグがローグ家の次期当主……だが、ならばなぜ彼はエリクサ
ーではなく、アスクレピオスに?」
「本人は経営方針の違いから父と諍いとなり、家を勘当されて当主の座は弟が
継ぐことになった、と言っていたそうですが……おそらく今の状況から察する
に、それも嘘でしょうね。そう言ってこちらの研究を盗む機会を窺っていたの
かもしれません」
「――となると、ケヴィン達の目的地は……」

 俺はテーブルに広げられた世界地図の一点を指で示した。

「デューロンのエリクサー本社、か」


2007/02/14 21:20 | Comments(0) | TrackBack() | ▲クロスフェードA
クロスフェードA 第5話 『A deep sigh』/ライントェイブ(ハヤメ)
PC:リーデル ライン チップ
NPC:ローガン
場所:ソフィニア(酒場)
___________________________________

どうしてこんな事になったのだろうか…? リーデルはため息を吐きながら考
えた。

辺りには散乱した酒瓶と今日知り合った奴らの寝相。むせ返るようなアルコー
ルの匂いを嗅ぎながら、リーデルは今日一日を振り返った。

事の起こりは三時間前の話だった。アスクレピオスの会社を出た三人。
「とりあえず作戦会議がてらに酒場にでも行きませんか?」
 というラインの話に乗ったのが、そもそもの間違いだったのかもしれな
い…。最初の一時間はまともだった。デューロンのエリクサー本社に向かう
事。そして旅の用意もあるのでソフィニアに一泊して、次の日に必需品を揃え
る事。
「じゃぁ大体決まったことですし、軽く食事でもとりましょう。」
 そうラインは言ってボーイを呼んだ。
「これとこのお酒をボトルで下さい」
 軽く食事といっておいていきなり酒を頼む奴も始めて見た、しかもボトル
で。
「んじゃぁ、俺はここから…ここまで一個ずつ持ってきて。」
 軽く食事といったのに店のメニューの3分の1を頼む奴も始めて見た。
「あ、大盛りで!」
 しかも大盛りで。
「軽い食事か…?」
言わずにはいられなくなってリーデルは言ってしまう。
「はい、お酒は百薬の長ですから!」
「腹が減っては戦は出来ぬっていうだろ!?」
………。
「そうか…」
絶対おかしいと思いながらも運ばれてくる酒と食事に軽く手をつける。
そして問題はその一時間後。まずラインがよった調子に12皿目(大盛り)を
平らげたチップに酒を飲ませたことから始まった…。
「俺…、ずっとついてないんだ…。仕事貰っても八百屋の手伝いとか…、迷子
の猫の探索とか…。朝は犬の糞を踏むし…、昼はマンホールの穴に落ちる
し…。夜は寝込みを野党に襲われるし。お金が無いからご飯食べられない
し…。」
しまった、こいつ泣き上戸か…。
「私もついてないですよ…。三食全て水とか…。」
 しまった、こいつはつられ酒か…。
 自分達の不幸を話す二人を見て、酔うしかこの場を打開できないと悟ったリ
ーデスは、やたらアルコールの強い酒を無理にあおり早めに酔う事に決めた。

 そして現在に至る…。マスターに起こされたリーデルは、どうしたものかと
ため息を吐いていた。
幸いだったのは、酒場の2階が宿になっていた事。不幸だったのは、食事代と
宿代を払ったら旅費として貰ったお金が3分の2になってい
た事…。
 重い二人をマスターに手伝ってもらいながら2階へとあがる。疲れとアルコ
ールが抜け切ってないせいか、二人に怒る気も起きず。落ちるかのようにベッ
ドの中に沈み込んだ…。


2007/02/14 21:20 | Comments(0) | TrackBack() | ▲クロスフェードA

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