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2024/04/30 03:54 |
ワッチ「温泉にて」/ワッチ(さるぞう)
PT :    ワッチ
場所:    ヴァルカン
PC :    ワッチ
NPC:    

-------------------------------------------

オイラの名前はワッチ、今オイラがどこに居るかって-と……温泉の中だったりす
る。

「ふぅー極楽だぜぇ~~」
温泉に浸かりながらチビリチビリと飲酒(や)ってるんだけど、これがまた、乙な物
でよぉ。
と思いながらも、いつの間にかラッパ飲み状態になってるのは、しょうが無ぇっても
んでな。

「これと言って良い仕事も無ぇしなぁ…まぁランクFの冒険者に回ってくる仕事なん
か、大した事無ぇし…」
と、まぁ今は鉱夫のアルバイト真っ最中ってな、無料温泉と酒が飲み放題ってのは嬉
しいけどよぉ。
飲みながらオイラは苦笑してた。

「明日また、ギルドにでも行って、手ごろな仕事探さないとなぁ」
オイラはぶつぶつ言いながら、結構出来上がってきている。

日雇い労働…ハンターなんて同じようなもんだけどな、ただ、オイラの剣闘士として
の魂が許しちゃくれないらしい。
強ぇ奴との出会い…まぁ、腕っ節の強そうな奴なら、この街にゃゴロゴロしてるんだ
けどなぁ…喧嘩は嫌いだからな、ホントだぜ。



ヴァルカン…この火山に生き、火山を喰らう街
ポポルがエルフと人間が共存する街なら、ここはドワーフと人間が共存する街だ。

多くの鍛冶屋が存在し、生まれながらの職人であるドワーフの名工たちを輩出した
街、もちろん人間の名工も多い。


話は一週間前に遡るんだけどよ…
オイラも剣を使う者の端くれとして、この街の武器を見て回ったのさ…そして、見つ
けたんだ…掘り出し物といっても良い

町外れ…メインストリートから外れた下町のさらに外れた所で今にも潰れそうなボロ
ボロの鍛冶屋「暴れ山羊」
そこに投げ捨てられるように置いてあったその剣を見て、気に入っちまった…オイラ
が気に入ったのは剣だけじゃなく、お揃いの盾。

立派な山羊のモチーフと、オイラの為に作られたような重さ…ただ……気にいらねぇ
のは、値段だ!!
銀貨二枚だと?安すぎるのさ…

「親父…なんかの冗談だろう?この剣と盾が銀貨二枚ってのは?」
オイラは不自然なまでの値段に親父に聞いてみた。

「けっ、どうせワシゃ呪われた武器職人よ…ワシの作った武器はそれで最後じゃよ、
それが売れたらこんな街とはおさらばじゃ。」
酒瓶を抱え酔いつぶれ気味のドワーフの親父は、吐き捨てるようにオイラに言ってき
た…

「呪われた武器職人ってなんだそりゃ?」
気になったオイラは、聞いてみることにしたんだが…

「聞いて驚け、ワシの作った武器を買った奴は、みーんな、戦いで命を落としちまっ
てるんじゃよ、フンっ、剣を振るえば死と隣り合わせ、そんな事は当たり前の事なん
じゃ……ワシが作った剣は、全部で九振り…そして今まで8人の戦士が、命を落とし
ておる…じゃからの、最後の一振りには盾をサービスで作った…命を落とす危険を少
しでも減らすためにの…が、最後の一振り、どうしても売れぬのじゃ、これを売らぬ
限り、ワシはこの店を閉めたくないのじゃよ…」
そう言って口を閉ざした店の親父の顔には、無念さがにじみ出てきてたんだ…

「……親父…その剣と盾、オイラが買うぜ…今金が無ぇんだけどよ予約って事で良い
だろ?手付けに銀貨一枚置いていくからよ、な?オイラは死な無ぇぜ、オイラは強く
なるって決めてるからよ…そして…強ぇって事は生きるって事だって、オイラの爺さ
んが教えてくれたからよ。
その剣と盾で、オイラは一つ強くなれる気がするんだ…」
そう言って、銀貨を渡す。

店の親父は銀貨を受け取ると、剣と盾を磨き始めながら、「お前さんが取りに来るま
でピカピカに磨いておくよ。」と笑いながらオイラを送りだしてくれたんだ…


でっ、今オイラはのんびりと温泉なんぞに入っている訳なんだが…未だに殆ど無一文
に近い上に、大した仕事にも有り付けず…


オイラは酒の回ったぼんやりした頭で、明日も鉱山か、それとも何か起きるのか、そ
んな事を考えていた……
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2007/03/09 00:47 | Comments(0) | TrackBack() | ●浅葱の杖
ランブル: a heartrending sorrow/月見(スケミ)
出演:月見
場所:ソフィニア~ヴァルカン
NPC:青年・女占い師


何だか、不思議な感じだった。
自分ではない誰かが自分の中にいて、気付いたら同化してたり入れ代わっているよう
な。
まぁ、ここはあたしが住んでた世界とはまったく違うファンタジィな世界だし何が起
こってもおかしくはないんだけど…。
それとも健忘症か?!まだまだ現役の女子高生なのに……くッ。
しかし、気付いたらブラジャーつけ忘れてたりノーパンだったりするのは御勘弁して
もらいたい。
いや、マヂな話。
生理の日なんてもっての他だって!



「さーてとっ…そろそろ行ってみよかッ★」

フォーちゃん達と別れてから数分後、あたしも新たな世界(というか温泉)に旅立つ
べく部屋からマイリュックを取りに行った次第である。
愛用の緑のリュックをしょったあたしは未だ慣れない現在の状況にどきどきしつつ、
『一人で』宿屋を出た。
今日の天気はまあまあって感じで、時たま太陽が雲に隠れる晴れのち曇り。
とりあえずあたしの旅の始まりにしてはオッケイな感じで…。

(一人旅…か…。)

見知らぬ世界で見知らぬ人町での一人旅。
今までならフォーちゃんやソフィアちゃんがいたからなんとかこのあたしでも何とか
やってこれたんだけど……。
あたしは今朝、大問題を発見してしまったのだッ。
右手をスカートのポケットに突っ込み、くしゃくしゃのメモ用紙を取り出す。
今朝、旅立つ前にソフィアちゃんが書いてくれたこの世界の有名な温泉のある場所を
書いてもらったものだ。
さすがはソフィアちゃん、可愛いし気がきくし愛らしいし………
……やはしルシードにやったのは間違いだったかッ?!
いやいやいや!
それはどっかに投げ捨てて。
あたしは改めてソフィアちゃん直筆のメモ用紙を読もうと試みた。

「………………………どぅふっ」

読めない。
爆発的に読めない。
よーっく考えてみれば当たり前じゃないか自分!
あたしはこの世界の住人でないのだからこっちの世界の文字が読めないのはッ!!
くそ、お茶目さんな自分め……こんなところでお茶目しても誰も見て無いというか見
ても何も思わないッ。
ということはアレだ。
地図を読めない、標識読めない…旅どころじゃない。
いやいやッ、それよりもだッ。
食べ物屋だと思って入ったところがこう……アレだ、アダルティックアイテムショッ
プだったらどうするんだあたしッ!!!
願ったり叶ったりだわよッ!!!!!

そんなことを悶々と考えて考えて考えまくったりするあたし。
なので、人影があたしの前に立ちはだかったも気付く事はなく…。

「おい、貴様。」
「ぬぉあああッ?!」

あたしはその声に驚いて足を止める。
いきなり話し掛けられたからではない。
文字では分かりにくいとは思っちゃったりしますが……
アレです、田舎産まれのあたしでもかなりアレです旦那。

「やっと見つけたぞ。」

かなり訛ってるッ!!!

折角のまとも気な台詞が台なしだ!!
立ちはだかった青年は年の頃は……私的鑑定眼によるとおおよそ二十代後半かッ?!
ぼさぼさの茶髪をポニーテイルに結んだ青年はまるで侍のような格好で、着流しを着
ていた。
腰には日本刀らしきものまでも。

(ぶ、物騒なモンをッ!)

きっと下着はフンドシだと予想。
いや、その前に見知らぬ人に話し掛けられたこの状況をどうにかしなければッ。
これは…アレか、ついにあたしにもナンパが……。
ん?
気付けば、あたしは刀を突き付けられていた。
なんて…なんて大胆なッ!
ここでこの心意気に答えられねば女の恥ッ

「いやいや青年よッ!そんな刀で脅さなくともお茶なら是非とも付き合……」

あたしは爽やかに刀を押し退けて青年に近付こうとしたが…。

ざくり。

「ぬぉ?」

左手を、少し斬られた。
血がじわじわと溢れてくる。

「な、なんて遠慮ないッ!!」

そう言って青年を睨みながら言う。
しかし青年は口元に嫌な笑みを浮かべ、こう言った。

「充分遠慮してるぜ。……なんだ、本気だしてもいいのか?」

本気だとどうなってしまうのだろう自分…。

「……すみません」

取り敢えず謝るが吉ッ。
しかしながら青年は刀を納めない…どころか徐々に近付いてくる。
どうやら……色んな意味であたしの大勘違いだったらしい。
奴はあたしの命を狙う気か?!
それとも大穴大本命でハードSMをやりたいのかッ?!
それならば考えないこともないがッ

「ちょっと待て…ここは穏便に甘く柔らかく話をば…ッ」
「その姿でごまかせると思うなよ!オレから逃げようったってそうはいかねぇ」
「というか斬るな!!!この油ギッシュな肌を斬るたぁいい度胸だッ」

必死にあとずさりつつ色々と言葉責めをしているあたしだったりしますが青年、全然
耳をかしませんッ。
やっぱり訛ってるから標準語がわからないのか?!
まあ、あたしも多少は訛ってるので人の事は言えないがな!!!

「うあ…行き止まり…ッ★」

背後に手をつく。
どうやらずりずりと後ずさりしていくうちに裏路地に入った挙げ句、行き止まりの道
に来てしまったらしい。
後ろには逃げられない。
目の前には謎のハードSM田舎侍が刀を構えつつ近付いてくる。
とても、あり得ない状況におちいっている。

「死ね!」

刀があたしの頭を狙って一直線に落ちてくる!
ヤヴェ、死ぬ。
そう思った刹那…
あたしは身体が分解したような奇妙な感覚に陥った。



ソフィニアの中心部にそびえたつ時計塔。
女占い師は時計塔の最上階にいた。
その部屋は長い間使われてなかったようでところどころ埃があった。
窓は、無い。
集中を解き、瞳を開ける。
術は、成功した。

「最後だし…ね。」

今頃彼女は遠く離れた地にいるであろう。
これでしばらくは彼等から逃れられるはずだ。
しかし…いつかきっと、対面しなければならない時がくるであろう。
真実と。
どこからか鈴の音が聞こえる。
澄んだ音色だ。
気付くと、女占い師の姿は消えていた。



傷がやけに染みる。
身体がなんだかあったかいものにつつまれていた。
これは…お湯、だろうか……。
でも実際そんなこたぁ、どうでもいい感じやも。
あたたかくて、気持ちよくて、このまま寝てしまいたい。



月見は落ちた地。
そこはヴァルカン。
火山に生き、火山を喰らう街。
彼女はまだ気付いてはいない。
彼女が今漬かっている湯、そこが男湯だということに。


続く

2007/03/09 00:47 | Comments(0) | TrackBack() | ●浅葱の杖
ワッチ「大騒ぎ!?」/ワッチ(さるぞう)
PT:  ワッチ、ファング、月見
PC:  ワッチ、ファング、月見
場所: ヴァルカン(”月見亭”の温泉)

-------------------------------------------
オイラはワッチ、今は温泉に浸かってる…

「って…とこか な」

丁度さっき知り合った、名前も知らない奴の最後の声が、ちょっと震えた気がしたん
だけど、気のせいだろっ

「ふーん、一人旅ってこたぁ、冒険者か?」
その男の身体のあちこちにゃ、大小の傷が見える。
普通の旅人じゃぁ、あんまり考えられねぇ。

「ま…ねっ」
オイラは返事をしたその男の視線の先が気になった。
どう見ても、気がオイラの背後の湯気の向こうに行ってるみてぇだったからな。

「……ここってもしかした、憧れの男湯☆っすか」
振り返ると、そこには…目を輝かせながら、オイラ達を見ている、ずぶ濡れの少女…
どー見たって風呂に入る格好じゃねぇ…

「………おい、ここって混浴だったっけ?」
オイラはさっきから固まっている男に向かって聞いてみた。

「………はっ!…違うと思うけど、って言うか混浴でも服着て入らないっしょ?」
オイラの一声で我にかえったのか、男はオイラと視線を合わせた。

「見た所、ここは温泉、そして、男風呂、この二人の他は、ボクだけ☆ もしかして
ハーレムっ」

きゃぁきゃぁと意味不明の言葉を羅列しながら、オイラの目の前の女の子はバシャバ
シャとお湯を掻き分け、はしゃいでいる。

「おいっ、おい!お前ぇ」
騒ぐ女の子にオイラは大声で呼びかける。

「はいな?なんでしょう?」
きょとんとした表情で、オイラを見つめる…状況が分かってやってるのか、それとも
頭がおかしい可哀相な子なのか判断がつきにくいぜっ。

「ちょっと聞きてぇんだが…なんでお前ぇ服着てるんだ?」
聞き方がおかしかったかな、と思ったがまっ良いか。

「……これはひょっとしてセクハラ返し?☆ボクにこの服を脱げと?」
嬉々として自分の服を脱ごうとする女の子。

「ちが-うっ!!!脱ぐな、触るな、黙っておいらの質問に答えろっ!」
半脱ぎになりながらオイラににじり寄る女の子。
後で名前を聞いたファングって奴は、呆然とオイラと月見(これも後で聞いた)のや
り取りを見ている。

「へっ?違う?温泉でいたいけな少女を襲う、素敵な男性二人組…萌えるシュチエー
ションぢゃあーりませんか☆」
オイラ頭痛くなってきた…

と、オイラが頭を抱え視線を落とすと…

バシャ---ン

少女がお湯の中に突然崩れ落ちるように沈んでいったんだ…そう、スローモーション
のようにゆっくりと…
そして、はじけたお湯の音だけが、オイラの耳にいつまでも残っていた。

「ちょ、ちょっとっ、助けなきゃ!」
ふと男を見ると、少女の沈んだ場所にバシャバシャと近づいて少女を引っ張り上げて
いる。

「ぼーっとしてないで、早く彼女を部屋にでも運ばなきゃ!」
男の一声に、オイラは少女を受け取り担ぎ上げると、温泉を後に、オイラの部屋まで
彼女を運び込んだんだ。

…この後オイラは鉱山のバイトを辞め、新たな冒険に旅立つ事になるんだが、そい
つぁ後の話だ。


「で、ファングつったっかな?」
お互いの自己紹介を簡潔に済ました後、倒れちまった女の子をベッドに寝かせ…着替
えさせたのはオイラだけど、別に変な事はしてねぇぞっ、念のため…
彼女が起きるのを待つ事にする。

「ああ、この娘どうすんの?」
聞きたかった事を先に言われると、ちっと腹が立ったりする…が、オイラは大人だ、
じっと我慢する。

「どうするも何も、名前もしらねぇんだぜ?起きるのを待つしかねぇんじゃなぇの
?」
まぁ、どっちが先に聞いた所で、答えは同じだったろうけどなっ。

「そっすね…のぼせたのかな?病気とかじゃないっすよね?」
聞いてくるファング…この状況でオイラが分かる訳がねぇだろう…ちょっとまた腹が
立つ。

「知るか、普通、服着た女が男湯に居て、それも騒いだと思ったら、突然倒れちまっ
て…そんな状況生まれて初めてなんだからよっ」
ちょっとだけ声が荒くなる。

「ふぅ、頼りにならないっす。」
何故か溜息を吐くファング。

プチッ…

オイラの中で何かが切れた…酒が入ってるのもあったんだろうけどよぉ…

ガチッ!

オイラはいきなりファングの腕を固める…片羽締めって奴の変形…オイラのオリジナ
ルバージョン。

「イテテテテッ、ギブ、ギブッ」
ファングの奴は、オイラの右手をパンパンとタップする。

オイラ達がドタバタやっていると、少女の口から「うーん」と声が聞こえた。




これがオイラ達の出会い……

そして、旅立ちのプロローグだった。

2007/03/09 00:49 | Comments(0) | TrackBack() | ●浅葱の杖
虫の音。/月見(スケミ)
◆――――――――――――――――――――――――――――
出演:ワッチ・ファング・月見
場所:ヴァルカン(”月見亭”の温泉)
◆――――――――――――――――――――――――――――
温泉で、何故か少女の笑い声が響く。

「うひょーっひょっひょっひょ★」

温泉の煙が、月見の視界をせまくしていた。
しかしながら彼女はかなりのレヴェルで幸せものであった。
理由は、彼女をとりまく環境にある。
彼女の右隣には褐色の肌をしたガタイの良い青年。
彼女の左隣には榛色の髪の青年。
つまるところ、彼女は小規模ながら憧れのハァレムである。
月見の趣味だろうか、何故か二人の青年はふんどしを装備していた。
ちなみに月見は制服のまま、3人揃って着衣温泉である。

「やっぱヴァルカンは温泉だよなぁ~」

榛色の髪の青年がポツリと呟く。
ちゃっかり肩を触ったりなんだりとセクシャルハラメントされているのにあまり動じ
ずに温泉を満喫している。
レヴェル高し。

「良い筋肉してるわねぃ★この胸筋肉の手触りがまた…ッ」

もちろん言葉のセクハラも忘れない。
しかし

「だろッ?オイラ、筋肉には自信があるんだぜ!」

輝かしいばかりの笑顔で答えるガタイの良い青年。
ちゃっかりセクハラがスルーされている。
さりげなく、手強い。
しかしこの手強さから恋に落ちることもありえるようでありえないような感じだ。
そう、それは衝撃的な恋。
衝撃的な…
衝撃的な…


『ごめっ』


腹部に激しい衝撃が。


その衝撃は月見を『夢』(妄想)から覚まさせるのに充分であった。





『あ。』

ファングとワッチの二人は起きた出来事に同時に声をあげていた。
羽交い締めの変型バージョンをファングに仕掛けて段々ヒートアップしたワッチは新
たな技を繰り出した。
その技の名はブレーンバスター。
相手の背後から腰に腕を廻し、そのまま仰け反り相手の頭を地面に激突させるという
…そんな、あまり説明しづらい技である。
本来なら今ごろ、ファングの頭は床に激突しているはずだった。
しかし、彼の頭には柔らかい感触。

「……う、うごあああああ……★し、子宮ぐぁあああ……」

ファングの頭はベッドで眠る浴衣姿な月見の腹に激突していた。
脂肪でダメージ吸収である。
思いもよらない事態に焦るワッチとファング。
ちなみにいまだブレーンバスターの体勢は解かれていない。
その間にも月見は腹をかかえて唸っている。

「…おい…大丈夫か?」

ゆっくりとブレーンバスターの体勢を解くワッチは自分のせいと思っているのか少し
慌てた様子で心配する。
しかし月見は下を俯いたまま唸っているだけだ。
相当痛かったらしい。
そんなあ月見と同じく唸っている者がいる。
ファングだ。

「うぇぇええ……気持ちわりぃ…」

逆さまになっていたため頭に血が昇ってしまったらしく床にへたりこんでしまってい
る。
これでは疲労を回復するために温泉に入った意味がない。
一人だけ元気なワッチ。
なんとなく居心地が悪い。
プラス、腕に居心地が悪い感触。
気付けばベッドで呻いていた月見が決死の表情でワッチの腕で掴んでいた。

「うっうっうっ…乙女の子宮に衝撃を加えるなんて…なんて大胆なアプローチッ★」

どこをどうやってどのように勘違いしたのか、ブレーンバスターを恋のアプローチと
認識したらしくかなり浮かれた表情でにじりよる。

「オイラはアプローチなんてしてないッ!!」
「しかも合体技でなんて…まさに萌えシチュエーションッ!!」
「何か…俺らの話、耳に入ってないみたいだな…」

とかいいつつ、ちゃっかり二人から離れるファングである。
月見はちゃっかりセクハラも忘れずにワッチの腕に『の』の字を描く。

「ッ!!」

気色悪い感触に全身の毛が逆立つ。
いまだ消えないアルコールのせいだろうか、先程のように怒りがふつふつと湧いてく
る。
いつもはそんなこともないのだろう、しかし酒の力は恐ろしい。
一つの怒りを思い出したら最後、酒のせいもあってか日頃は放っておいたやり場のな
い怒りまでも噴出される。

(くっそー…ツイてねぇッ。酒でも飲んでのんびりしようと思ったのに邪魔されちまっ
たし、いきなり着衣入浴な女が男湯にくるし脱ごうとするし!腕の怪我の治療もして
やったのに意味不明な行動とるしッ。金ないしッ!最近ジーパンの破れが激しいしッ!
最近全然闘ってないしッ!暖かいしッ!食堂の飯は旨いしッ!酒飲めるしッ!!)

「ちょ…ニィさん、どうしたんだ?」

ファングが話し掛けるが聞こえていないようだ。
思わず最後の方でほんわかとした気分になったワッチだったが、一度出た怒りは納ま
らない。
いまだ自分の腕を掴んでキャーキャー騒ぐ月見を怒りの視線でじとーっと睨む。
そして右手を月見のデコ正面に持っていき…

「とりゃ。」

デコピンを喰らわせた。
ただのデコピンと笑ってはいけない。
なんたって趣味が肉体鍛錬のツワモノである、彼のデコピン一発は関西人のツッコミ
の百倍の威力があると思われる。
まさにツッコミオブツッコミ。

ばづん。

音も何か凄い。

「ぬおっ★」

思わぬ衝撃に仰け反り倒れそうになる月見を思わず受け止めるファング。

「ぬぁ…?!重……ッ」

しかし、ファングも月見の思わぬ重さで仰け反り倒れそうになり思わず受け止めた手
を放してしまう。
勢いよく、月見が地面に激突接吻する。
あまりにも勢いが良かったのでファングがノーマルに心配する。

「おいおい!大丈夫か?」
「い、いやいや…マゾだからこれしきは…つーか青年よ…君のお陰で地面激と……」

ぶぉん。

唐突に、二人の近くで風を裂くような音がした。
何かと思い音のした方向を向いてみると…。

「へへへ……へっへっへっへ」

ワッチが虚ろの笑みを浮かべながらデコピンの練習をしていた。
どうやらアルコールと怒りが変な風に作用したらしく奇妙な感じに仕上がっている。
しかしながらデコピン素振りだけであそこまで素晴らしい音を出すとは、流石は趣味
が肉体鍛錬。
ひと味もふた味も違う。
そんなワッチはじりじりと二人の方へと歩みよっていた。
あまりの恐ろしさに二人は後ずさる。

「こっ、ここはやっぱりバンダナファーストって事で青年が先にデコピンをばッ。」

といいつつファングの背中に廻り促す。
しかしファングも負けてはいない。

「でも、あんたマゾなんだろっ。あんたが喰らった方がきっと世のため俺のためだっ
て!」

背中の月見を押し返そうとするファング。
あくまでもバンダナファーストを実行すべく拒否する月見。
『ぶぉん、ぶぉん』と快音を鳴らしつつにじり寄るワッチ。
いち宿の普通の部屋に異様な世界が繰り広げられている。
間違った方向での張り詰めた緊張感が部屋を支配する。

そんな中、とある音が響いた。


ぐーきゅるるるるる………。


腹の虫の音。

「あ。」
「…お」
「ぬ★」

しかも3人分である。

「うう…何か美味しいものが食べたいぃ…」
「なんか腹減ったなあ…。」

ファングが自分の腹をさする。
いつしかワッチも正気に戻っていてしきりに鳴る腹の虫の音をなだめている。
一気に下がる3人のテンション。
そして上がる腹の虫の音。
ひとしきり腹の虫の音が鳴り響いた後、ワッチは拳を握りこう言った。

「とりあえず何事も飯を喰ってからだッ!飯くおうぜッ!!」

「異義なしッ!!」
「あたしも青年と同じで異義なしッ。」

そうして互いの名前も分からぬまま、空腹と言う名の共通のノリで3人は食堂へと向
かったのであった。


続く

2007/03/09 00:50 | Comments(0) | TrackBack() | ●浅葱の杖
浅葱の杖――其の一/ファング(熊猫)
キャスト:ワッチ・月見・ファング
場所:ヴァルカン―月見亭
―――――――――――――――
「いやぁなんつーかなんつーか、これも何かの縁ってやつ?」
「ファング君★この状況にスペシャルナイスディな言い訳だねッ」
「すぺ・・・?」

骨付き肉を片手にしているワッチ(なぜか違和感がない)が、小さくつぶやいて首をひねる。
月見は相変わらず――怪我は応急処置に巻いてやった包帯で事足りたらしい――で、
元気に同じテーブルについている。

二人とも食欲は旺盛だが、なぜかどちらも付け合せのサラダには見向きもしない。

ファングは口の端についたグラタンを指で拭いて、アイスティーをごくりと一口飲んだ。
ついさっきテーブルに肘をついて食事をしていたら、ワッチに『行儀が悪い』と
関節技を極められた――そのせいで、全身がまだ痛む。
もしかしたら、温泉に入る前より体調が悪くなったかもしれない。

温泉宿――という名目に恥じず、というわけでもないだろうが――宿では食堂も兼営されている。
その中でも一番盛り上がっている(というか騒がしい)テーブルについている三人は、
とどまる事もしらず喋りつづけていた。

「てゆーか・・・さっきは俺の骨格が爆発的にアブなかったんだからな。
ここは普通、ワッチのオゴリだよな!」
「えッ!?いや、オイラは今金が・・・」
「ゴチになりますオヤジ殿vv
ちなみに言ってしまえばあたしの子宮にもセンセーショナルな大打撃を与えてミリオンセラーな」
「いや・・・。マジわかんないから・・・」

もはや呪文のように喋りまくる月見を、ファングは頬にひとすじ汗をたらしたまま遮って、グラタンを一口ほおばる。
もぐもぐ口を動かしつつ、二人の顔を交互にスプーンで指す。

「んで?話を整理すっとだ。月見とワッチは――」
「はいはーい★あたしは異世界から来たプリティ女子高生!ハードSM田舎侍に追われてぶらり一人旅中のところを
湯煙温泉混浴パーティで」

ごわぁん。

「オイラは剣闘士だ。武器を見にヴァルカンに来たってぇクチだが・・・金が無ェんだ。今。
だから日雇いで炭鉱夫をやってる。今のところはな。もちろんオゴリは無理。
ちなみにギルドランクはFだ。笑うなよ・・・」
「・・・つか、鉄ナベはさすがにヤバイだろ」

まだ血のりがついている鉄製の鍋を、片手で軽々と持って自嘲気味に笑っているワッチを見ながら、
ファングは景気よく血潮をまき散らして昏倒する、月見をげんなりと見下ろした。

「あぁぁあぁ・・・なんだか顔が生ぬるーい♪そして赤錆のニオイがデンジャラス・・・★☆」
「なんかそー、かたくなにまで自分を見失わないオマエを見てると、俺、なんか泣きたくなるわマジ」

目の下を拭うしぐさをして、ファングは半眼になりつつも姿勢を正した。
そのまま、続ける。

「俺は――トレジャーハンター。ここヴァルカンにお宝があるっていう情報がゲットして、来たわけ。
健康で文化的な最低限度の生活を営むのが今年の目標・・・
だったけど、変更してとりあえず平和な毎日を希望かな」
「・・・達成できんのか?」
「そこ、現実見ない」

鉄鍋を置いて、かわりに大皿に乗った巨大な焼き魚を
普通に一人分として食べようとしている(既に骨付き肉は制覇したらしい)ワッチの言葉に、
遠い目で切り返す。
すると、既に復活したらしい月見がにょきとテーブルの底から顔を出してきた。

「お宝!?『男湯を混浴のフリしてタダで入れます券』とか!?んまぁステキ!」
「なにっ!?」
「あー。月見違うしワッチ信じなくていいから」

からになったグラタン皿を押しやった手で、追い払うように手を振る。
そして、言いながら懐からがさがさと手描きの地図を取り出し、テーブルの上に広げる。
羊皮紙製の古い地図――全ての大陸に、印やら言葉がこと細かく書かれていた。

「見てくれよ。これ、全部お宝なんだよ。俺のオヤジが世E各国渡り歩いて、ゲットしたお宝」
「ファングの?」
「――俺のオヤジもトレジャーハンターでね。ギルドでももうちょいのところで
Aランクに行けたはずなんだ。もう、あんま自慢にもなりゃしねーけど」

興味深げに地図を覗き込んでいる二人をぼんやり眺めて、こっそりケーキを注文する。

「けど死んじまった・・・その前に、俺に遺したのがコレってわけ。
この地図ってさ、オヤジが見つけた宝を隠した場所が描かれているんだな。俺は
それを全部見つけてやろうと思ってさ。
で――今探してんのが」

そこで一旦ことばを切って、地図上――ヴァルカンを指差す。

「『月も太陽も星もいらぬ。欲望は闇に埋まる―――闇を食らう浅葱の杖』ってわけ」
『ほほ~う』

同時に頷く二人を見て、ファングは不敵に笑ってピザを注文した。

・・・★・・・

「・・・秋ねぇ」
「・・・秋です」

そんな会話が、こっそり追加注文されたメニューに驚いて騒ぎまくるテーブルを
遠い目で見ていた店員の間で、静かに交わされていた。

2007/03/09 00:50 | Comments(0) | TrackBack() | ●浅葱の杖

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