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2024/05/17 04:00 |
浅葱の杖――其の一/ファング(熊猫)
キャスト:ワッチ・月見・ファング
場所:ヴァルカン―月見亭
―――――――――――――――
「いやぁなんつーかなんつーか、これも何かの縁ってやつ?」
「ファング君★この状況にスペシャルナイスディな言い訳だねッ」
「すぺ・・・?」

骨付き肉を片手にしているワッチ(なぜか違和感がない)が、小さくつぶやいて首をひねる。
月見は相変わらず――怪我は応急処置に巻いてやった包帯で事足りたらしい――で、
元気に同じテーブルについている。

二人とも食欲は旺盛だが、なぜかどちらも付け合せのサラダには見向きもしない。

ファングは口の端についたグラタンを指で拭いて、アイスティーをごくりと一口飲んだ。
ついさっきテーブルに肘をついて食事をしていたら、ワッチに『行儀が悪い』と
関節技を極められた――そのせいで、全身がまだ痛む。
もしかしたら、温泉に入る前より体調が悪くなったかもしれない。

温泉宿――という名目に恥じず、というわけでもないだろうが――宿では食堂も兼営されている。
その中でも一番盛り上がっている(というか騒がしい)テーブルについている三人は、
とどまる事もしらず喋りつづけていた。

「てゆーか・・・さっきは俺の骨格が爆発的にアブなかったんだからな。
ここは普通、ワッチのオゴリだよな!」
「えッ!?いや、オイラは今金が・・・」
「ゴチになりますオヤジ殿vv
ちなみに言ってしまえばあたしの子宮にもセンセーショナルな大打撃を与えてミリオンセラーな」
「いや・・・。マジわかんないから・・・」

もはや呪文のように喋りまくる月見を、ファングは頬にひとすじ汗をたらしたまま遮って、グラタンを一口ほおばる。
もぐもぐ口を動かしつつ、二人の顔を交互にスプーンで指す。

「んで?話を整理すっとだ。月見とワッチは――」
「はいはーい★あたしは異世界から来たプリティ女子高生!ハードSM田舎侍に追われてぶらり一人旅中のところを
湯煙温泉混浴パーティで」

ごわぁん。

「オイラは剣闘士だ。武器を見にヴァルカンに来たってぇクチだが・・・金が無ェんだ。今。
だから日雇いで炭鉱夫をやってる。今のところはな。もちろんオゴリは無理。
ちなみにギルドランクはFだ。笑うなよ・・・」
「・・・つか、鉄ナベはさすがにヤバイだろ」

まだ血のりがついている鉄製の鍋を、片手で軽々と持って自嘲気味に笑っているワッチを見ながら、
ファングは景気よく血潮をまき散らして昏倒する、月見をげんなりと見下ろした。

「あぁぁあぁ・・・なんだか顔が生ぬるーい♪そして赤錆のニオイがデンジャラス・・・★☆」
「なんかそー、かたくなにまで自分を見失わないオマエを見てると、俺、なんか泣きたくなるわマジ」

目の下を拭うしぐさをして、ファングは半眼になりつつも姿勢を正した。
そのまま、続ける。

「俺は――トレジャーハンター。ここヴァルカンにお宝があるっていう情報がゲットして、来たわけ。
健康で文化的な最低限度の生活を営むのが今年の目標・・・
だったけど、変更してとりあえず平和な毎日を希望かな」
「・・・達成できんのか?」
「そこ、現実見ない」

鉄鍋を置いて、かわりに大皿に乗った巨大な焼き魚を
普通に一人分として食べようとしている(既に骨付き肉は制覇したらしい)ワッチの言葉に、
遠い目で切り返す。
すると、既に復活したらしい月見がにょきとテーブルの底から顔を出してきた。

「お宝!?『男湯を混浴のフリしてタダで入れます券』とか!?んまぁステキ!」
「なにっ!?」
「あー。月見違うしワッチ信じなくていいから」

からになったグラタン皿を押しやった手で、追い払うように手を振る。
そして、言いながら懐からがさがさと手描きの地図を取り出し、テーブルの上に広げる。
羊皮紙製の古い地図――全ての大陸に、印やら言葉がこと細かく書かれていた。

「見てくれよ。これ、全部お宝なんだよ。俺のオヤジが世E各国渡り歩いて、ゲットしたお宝」
「ファングの?」
「――俺のオヤジもトレジャーハンターでね。ギルドでももうちょいのところで
Aランクに行けたはずなんだ。もう、あんま自慢にもなりゃしねーけど」

興味深げに地図を覗き込んでいる二人をぼんやり眺めて、こっそりケーキを注文する。

「けど死んじまった・・・その前に、俺に遺したのがコレってわけ。
この地図ってさ、オヤジが見つけた宝を隠した場所が描かれているんだな。俺は
それを全部見つけてやろうと思ってさ。
で――今探してんのが」

そこで一旦ことばを切って、地図上――ヴァルカンを指差す。

「『月も太陽も星もいらぬ。欲望は闇に埋まる―――闇を食らう浅葱の杖』ってわけ」
『ほほ~う』

同時に頷く二人を見て、ファングは不敵に笑ってピザを注文した。

・・・★・・・

「・・・秋ねぇ」
「・・・秋です」

そんな会話が、こっそり追加注文されたメニューに驚いて騒ぎまくるテーブルを
遠い目で見ていた店員の間で、静かに交わされていた。
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2007/03/09 00:50 | Comments(0) | TrackBack() | ●浅葱の杖

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