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2024/04/30 03:21 |
アクマの命題二部【1】 オルドと愉快な仲間達/オルド(匿名希望α)
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PC:オルド
NPC:いろいろいっぱい
場所:ソフィニア地方のどこか
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「ここも久しぶりだな。なーんもかわってねぇクソツマラネェ所だぜ」

 森のはずれにある岩場。草原との境目になっており、気持ちのいい風が通り抜
けている。

「あいつは何やってっかなー。 っつっても幽霊だったしな。成仏してンかねぇ」

 小さい頃に初めてここに来たとき、妙にキョロキョロしている半透明な人物に
会った。
 その頃のオルドと歳が近そうな子供の幽霊。初めて見るソレにオルドは興奮し
しばき倒していた。
 だが少年の霊も負けておらず、拳と言葉で語り合っていた。長く続く交流は友
情となりやがて禁断の愛とかわって……そして!」

「って、変わるかボケ。勝手に俺様のモノローグ騙ってんジャねぇこのクサレネ
コがぁぁぁぁ!」
「きゃぴるん☆」



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アクマの命題 第二部【緑の章1】 オルドと愉快な仲間達
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「なーなーオルドー。そのあとどうなったの?」

 複数の子供が和になって一人の男の話に聞き入っている。
 呼びかけられた名前の通りオルドである。黒猫のせいで気分が悪くなったの
で、ちょっとした昔話を使って子供の反応で楽しむコトにしていた。

「あぁ?こっからか? まぁマテマテ。ちゃんと話してやっからよ。テメェでオ
トシマエつけてもらうためによ、冷徹男から貰った怪しい薬飲ましたんだ。打ち
上げられた魚みてぇに跳ね回るのは笑えたな。ンで俺がトドメ刺そうとしたらあ
の高慢女が止めやがって「もっといい方法がありますわ!」とか言ったワケよ」

 子供に話す内容ではないのだが、子供達は悪役が懲らしめられる場面と思って
いるのか期待に目を輝かせている。
 溜めを作りわざとじらせて、続きを話そうとしたオルドだったがここで邪魔が
入った。

「やっとみつけたぜオルドの兄貴!」

 大声上げているのはオルドの友人、犬系の獣人のジョニーだ。筋肉質だがそう
は見えない細長い躯体。背はオルドよりも高い。彼の普段の姿は人間と同じた
め、獣人とは区別がつかない。
 オルドの周囲にいる子供たちも、実は様々な種の獣人である。純粋な人間も混
じっているが。

「ア? これからイイところだっつーのに……なんだってんだ?」

 気分を害したオルドはジョニーを睨むが、予想外に焦っているのを感じ取り怪
訝に思う。

「ったくしゃぁねぇな。おらガキども、今日はこれでおしまいだ」

 しっし、と手のひらで追い払うオルド。
 えー、と一斉に声を上げるがしぶしぶと次は何をして遊ぶかを話し合いながら
散っていった。

「すまねぇ兄貴」
「で? 昼間っから俺を探してるっつーことはナんかあんのか?」

 ジョニーは軽く息を切らしているが、オルドは息を整えるのを待つことなく聞
き返す。

「それが……ボブのやつが大変なんすよ。一緒に来てくだせぇ」
「あん?」


 ‡ ‡ ‡ ‡


「スタンレェェェェ!! 一体どこいっちまったんだよぉぉぉ!!」

 昼間から酒をあおっているずんぐりとした男。ちょっと獣化しかけている。

「なんだありゃ」
「俺っちが見かけた時にはもうあの状態ですぁ。ボブ!いい加減泣きやめ!う
ぜぇ!!」

 ため息ついた後にずかずかと机に突っ伏している男、ボブに近寄る。
 それに気づいたボブはうぁ?と顔をあげる。ぴたっと声が止まるがまた叫び出
した。

「ジョニィィィ!! スタンレーがぁぁぁ! うおぉぉぉぉ!!」

 名前を言った後に叫ばれては意味が分からない。
 ジョニーに抱きつかんばかりの勢いのジョニーにオルドがイスに足蹴をかます。
 勢いで転げ落ちるボブを見下ろして平然と言ってのける。

「ドアホ。意味わかんねーぞゴルァ」

 またぴたりと声がやむ。が、
 立ち上がりそのままの抱きつかんばかりの勢いで突っ込んでくるボブ。

「オルドォォォ!! スタン(ゴッ)……」

 オルドの頭突きが炸裂!
 ボブは致命的なダメージを受けた!
 ボブは沈黙した!

「だから落ち着けって言ってンだろ?」

 言ってない。
 さらには聞こえてもいない。ボブ、轟沈中。
 ジョニーはうつ伏せに倒れているボブの側に屈みこみ、頭をぼりぼり掻きなが
らボブおきろーと囁いている。ダメージの心配など微塵もない。
 突如、がばっと起きあがるボブ。

「で? どうしたよ」

 オルドが何事もなかったかのようにボブに問いかける。
 よつんばの体勢まで立ち直ったボブは呟いた。

「頭が痛ぇ」

 そりゃそうだ。
 げんなりとしたジョニーの表情は無視。見下ろし状態のままで再度オルドが問
いかける。

「スタンレーがどうのトカ言ってたミテェだけどよ」

 ボブは立ち上がった!

「ハッ! そうだ! オルドォォォ!! スタン(ゴッ)……」

 ボブはオルドに迫った!
 オルドの頭突きが炸裂!
 ボブは致命的なダメージを受けた!
 ボブは沈黙した!

「おぉボブよ。死んでしまうとは情けない」
「まだ死んでないっすよ。つーかやった本人が言うセリフっすか?」

 やれやれといった表情のオルド、またかといった顔のジョニー。

「繰り返しはギャグの基本だ!」

 真顔で叫ぶオルドだが、話がかみ合ってない。
 まぁいいですけど、とボヤくジョニー。いいのかオイ。
 いつま経っても話が始まらない。

「オレが走り回った時間、無駄になっちまったかな……」
「あん? ンなわきゃねーだろ」

 遅くても同じコトしてるだろうしな! という意志をオルドのサムズアップか
ら察する。
 てぃ。と後頭部をチョップするジョニー。
 むくりと起きあがるボブ。

「ハッ! そうだ! オルドォォォ!! スタン(ガッ)……」

 三度抱きつきそうな勢いで突っ込んでくるボブの顔面をオルドは鷲掴みにした。

「三度目はネェ」

 眉間にシワをよせて見下ろしながらガンつけオルド。

「オウ」

 こめかみに青筋を浮かばせオルドの手の指の隙間からガンつけボブ。
 周囲からの「またかコイツラかよ視線」を受けつつ、ようやく話が進みそうだ。

 ‡ ‡ ‡ ‡

「ったく余計な手間とらせやがって」
「兄貴が言うことじゃねぇって……」
「まったくだぜオルド」
「……」

 もう誰にツッコんだらいいかわからなくなったジョニーは閉口。
 いちいちリアクションするのは無駄だとわかっているのだが律儀にも反応して
しまう。
 それもいつものコト。ジョニーはため息一つでやり過ごした。
 オルドとジョニーはボブの座っていたテーブル席に着き、視線をボブへ向ける。

「ンで?」
「実は……カクカクシカジカってワケなんだよ」
「あ? てめぇの弟のスタンレーが悪い魔女にだまされて獣化が解けなくなる炒
飯盛られちまって苦しんでる所を幽霊に拉致られた上にくそまずいモルフ羊食わ
されてグロッキーになっている所でキツネに道案内頼まれて追っ手に囲まれたの
が20日前に見かけたけど今はどこにも見あたんねぇけど昨日いたような気がした
からから心配でしかたネェってこのブラコン」

 真面目な顔で一息にしゃべるオルド。ジョニーは再びため息をつきながら一言。

「兄貴。ボブはカクカクシカジカしか言ってねーっス」

 一間を置く。そして、

「なんだとぉ!?」
「な、なんだってぇ!?」
「いい加減ハナシ進ませろやテメェラ」
「「オウ」」

 問答無用に突っぱねるジョニー。ボケ二人は息を合わせて即座に応答する。
 潮時と感じたのか、オルドもボブも真面目に話す気になったようだ。
 ボブは息を大きく吐いて気持ちを落ち着かせている。

「オマエラも知ってるだろうけどよ……弟のスタンレー。最近どこいったかわかん
ねぇんだよ!」

 ボブの弟スタンレー。身内には珍しく知性みなぎる優男である。
 その優等生っぷりに部族内ではいい噂も悪い噂も流れている。
 小さい頃から知っているオルド達は悪い噂を流した根元に殴り込んだ事もあった。

「いつからよ」
「気づいてから……7日目、だ。 最後にあ見たのは、アレだ。あん時だ!」
「ボロボロになって帰って来た時か?」
「おう。その日は家で寝たのは見たんだけど……おぉぉぉ!スタンレェェェ!!」
「落ち着け」

 オルドの質問に答えていたボブだったが、スタンレーを思い出して嘆きモード
になりかけた。
 すかさずジョニーがボブの頭に斜め45度からチョップを入れる。

「俺が家を出てから帰ったらスタンレーいなくナテタ」

 スイッチが入ったかのように元に戻るボブ。語尾がおかしいのは気にしてはい
けない。
 10日前、ジョニーとオルドがイいイ人というものについてくだらない談義をし
ていた所、ぼろぼろになったスタンレーと遭遇した。ボブに知らせ手当をした彼
らの記憶はまだ新しい。

「あいつが何も言わず遠出するってのは考えづらいなぁ」

 首をひねって考えるジョニー。オルドも同意見だ。

「だろ? だろ!? それにココんところ見なくなったやつも何人かいるっぽい
し……し、心配で! 心配でぇぇぇええええ!」

 黙っとられんのか、と再びジョニーがチョップしたあとにうーんと唸りながら
口にする。

「あん時の落ち込みようは酷かったっすね。こぼこになった原因はスタンレーが
何も言わなかったからわかんねーけど」

 スタンレーは「何でもない。大丈夫。転んだだけ」の一点張りだったのをオル
ドも思い出す。

「俺も自分で探し回ったんだけどよ……行きつけの場所とかあいつが付き合ってる
女の家とか」
「は? あいつ付き合ってるヤツいたのか?聞いてねぇぞ?」

 オルドは眉間にシワをよせてボブを睨む。

「言ってなかったか? つーか言ったって! 俺は言ったぞオマエラに! 夢の
中で!」
「「知るかよ!」」
「どこにもいねぇんだよ! 女の家にもキてねぇっていうし」

 ボブの本気なのか冗談なのかわからないボケにオルドとジョニーは叫び返す
が、二人のつっこみを無視してすでに話をすすめている。
 いつものコト。ボブが言う事言ったので汲み取って話を進めなければ、いつま
でたっても終わらない。
 オルドの頭の中では、一応情報は蓄積されている。一応。
 

「つーかその話信じられんのかよ? グルかもしんねーだろ? 誰から聞いたン
だよ?」
「スタンレーの女からだからそれはない! 美人だし!」

 理由になってねー。とツッコむ気にもなれなかったが、ボブはさらに。

「でもあんなかわいこちゃんなら、俺、だまされてもいいかも……」
「ちょ、おま……」

 ボブの浮かべた表情にヒキ気味なジョニー。こいつ女で身を滅ぼすな、とオル
ドも暗黙一致。
 そんな最中、ジョニーはふと思い出す。

「あ、でも兄貴。最近この辺りで最近みかけなくなったヤツ多いらしいっすよ。
関係ないから気にしてなかったんすけど」
「……あのガキどももなンか言ってたなそんなコト。ったく雲行きが怪しくなって
きたもんだゼ」
「あん? 晴れてっぞ?」
「……」

 外の天候を確認しながら疑問符つきの顔なボブ。盛大にため息なオルド&ジョ
ニー。

「当たり前だろ。俺様天気予報でそう出てたしな!」

 俺が真実だと言わんばかりに自信満々のオルドと、その言葉に納得した風なボブ。

「ツッコむトコ違うし! ボブも納得した風にうなずいてンじゃねぇ!」

 そんな二人はハっとしてツッコんだジョニーを見つめる。視線があつまったの
でジョニーは思わず言葉に詰った。

「さすがは俺らのヒーロー」
「あぁ。ツカミはバッチリだ!」
「話戻せ話!ったく……で、どうすんのさ兄貴」

 頼れる司会進行その名はジョニー。今日も絶好調である。

「あ゛ー。 まずはいろんなトコでスタンレーの目撃情報集めて足取りを辿るか」
「おぉ!オルドなんか探偵みたいだぜ!」
「考えナシで学院の講師がつとまるかよってンだ。あとはその女も気になるな。
後で調べっか」
「それは俺が「ンなもんダメに決まってンだろ?俺かジョニーだ」何で「騙され
ていいやつが疑うことなんかできるかよ」だおあぁあ」

 セリフの途中でオルドとジョニーに却下され頭を抱えて机に突っ伏すボブ。な
にやらブツブツ呟いているがよからぬコトだろうからこの際無視。

「ボブはこの辺の知り合いやらを回ってスタンレーの目撃情報探せ。あと時間が
あればトルバとバイコークもまわってコイ。ジョニーはソフィニア南経由で西ま
でまわってギルドやら知り合いやらを回って似たようなコトねぇか見て来い。範
囲絞り込むぞ」
「随分範囲広いなオイ」

 大人の徒歩で3日はかかります。

「気にすんな。集合場所はーっとファイゼンの飯屋な」
「ファイゼンっつーと?ソフィニアの北西だっけ?」
「確かそこらヘン」

 無茶な注文すらスルーして話が彼らに似合わずトントン拍子で進んでいく。
 難易度とか実現できるかどうかっていう検討をすっとばして。
 彼らにとってそれは問題ではないようで、とりあえずレールを引いてから考え
るらしい。
 大雑把だが彼らはそういう人物だ。

「で、北西ってどっちだ?」
「店の名前は?」

 方角のコトを聞いたボブは無視。
 ジョニーの問いに対してオルドが神妙な顔で答える。

「とれびあ~ん」

 妙にオカマっぽい口調だったためにジョニーが椅子からずり落ちそうになる。

「そうか、とれびあ~ん、か」

 ボブも真面目な顔をしてオルドに続く。店の名前を言う時も同じように抜けた
ような発音だった。

「そう、とれびあ~ん、だ」
「とれびあ~ん」

 ジョニーは頭を抱えている!

「「とれびあ~ん」」

 裏の組織が取引をしているような雰囲気の二人だが、発する言葉はあまりに場
違い。

「「とれびあ~ん」」

 にらみ合う二人。そして先に口を開くのはオルドだ。

「合言葉は」「とれびあ~ん」
「日進月歩の」「とれびあ~ん」

 オルドの問いに対して合いの手を入れるボブ。

「アタナとワタシの」「とれびあ~ん」
「デンジャラスだぜ」「とれびあ~ん」
「あばんぎゃるどだ」「とれびあ~ん」

 そして腹の底から笑いだす。同時に椅子を蹴飛ばし立ち上がった。

「くくくくっくっはっはっはははは!とれびあ~ん!」「ぎゃっはっはっはっ
は!とれびあ~ん!」

 鬼の様な形相で睨み合い……

「「とれびあ~ん!」」

「「とれびあ~ん!」」

「「とれびあ~ん!」」

「「とれびあ~ん!」」

「「とれびあ~ん!」」

 誰 か コ イ ツ ラ と め て く れ 。

 ジョニーは先程のボブのように机に倒れこんでいる。
 背景に”ドドドドド”という謎擬音語が憑きそうな雰囲気の中、オルドとボブは
頭の中の何かがトンだように「とれびあ~ん」を絶叫連呼している。

「お前らとれびあ~んに行くのか?」

 渋いCOOLな声が通る。この酒場のマスターだ。その声にオルドとボブがピ
タっと止まる。
 ジョニーも顔を上げて声の主を見やった。この流れをさりげなく止めたマス
ター。只者ではない。

「あ?マスター知ってンのか?」
「主のイビアンとは顔見知りだ。最近は会ってねぇがな」

 女の名前にピクリと反応するボブ。

「美人か?」
「表現によっちゃぁ太陽のような明るさの美人だ。それに最近は可愛い女の子が
入ったって言う噂だ」
「女の子……」

 ボブの表情がニヤついている。あからさまによからぬ妄想をしているのがわかる。

「おいおい。12、3歳のおじょうちゃんって話だぞ?」
「かまわない!」
「この変態が」
「テメェも変態だろ」

 吐き捨てるように言い放つオルドに対し、ボブは正面から突きつけるように低
く言う。

「変態!」「変態!」
「「変態!」」
「「変態!」」
「「変態!」」
「イビアンに宜しく伝え……って聞こえてねぇな」
「スンマセン。すぐ撤去します」

 ジョニーはマスターにお代を払った後オルドとボブに近づき……

「オイテメェラ」
「ヘンおぐあ!?」「ヘンうぐふ!?」

 首根っこ鷲づかみ。

「ちったぁ静かにできんのかあぁぁああ!!」

「「おおおおおおおおおおお!?」」

 ブン回してから酒場の入り口から外へ放り投げ。

「すんません、お騒がせしましたぁー!」

 騒音がいなくなり急に静かになる店内。ジョニーは彼らを追うように脱兎の如
く飛び出した。

「おう、また来いよ」

 やはりマスターは強かった。


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PR

2007/04/06 23:46 | Comments(0) | TrackBack() | ○アクマの命題二部
アクマの命題  ~緑の章~ 第二部【2】 思い出の欠片/メル(千鳥)
「どうしよう…」

 森の空き地で一人呟いたのは、天使画から抜け出したような美しい少年だった。 
 赤く染まったオークの葉が、少年の胸の辺りをすり抜けて行く。
 少年の身体は、透けていた。
 しばらくその朽葉の往く先を目で追い、少年―――ロビンはまるで神の迎えを待つ
かのように空を見上げた。

 行くべき先が見つからない。
 帰る道すら見失った。
 今居る場所も分からない。

 ロビンの『本体』は、修道院の書物庫の物陰にあった。
 夜までに何とかしなければ、シスターたちが彼を探し始めるだろう。
 この力に気づかれてしまう。
 元の場所に帰る事が出来るかもしれないが、きっと『妹』と会えなくなってしまう
だろう。
 知らずうちに俯いていた顔を上げたとき、ロビンは眼前に迫り来る拳に気がつい
た。

「わぁ!」

 物質の影響を受けないはずの精神体。
 それなのに、思わず声を上げて上空に飛び上がったのは、本能的に危険を感じたか
らだ。
 ロビンの淡い金髪が少年のパンチの風圧に、初めて風を感じた。 

「逃げるなんて卑怯だぞ!ゆうれいっ!」

 拳の主は、あちこちに絆創膏を張った腕白そうな少年だった。
 本来見えぬはずのロビンにしっかり視線を向け、叫んでいた。 
 健康そうに日焼けした腕をぶんぶんと振り上げて少年は言う。
 
「ここは俺様のシマだ!さっさと失せな」

 初めて耳にする粗野なセリフにロビンは不愉快になって口を尖らせた。

「僕は、幽霊じゃない」
「自分が死んだのがワカンネェのか」
「違う!僕はただ妹と妹の母親を探して・・・」
「じゃあ迷子じゃねーか」

 少年が勝ち誇ったかのように腕を組んで笑った。
 
「・・・」

 図星だったので、ロビンはそれ以上言い返すことが出来なくなった。 
 少年は、面倒見のよい性格だったので、自分より年下のロビンが泣きそうな顔で押
し黙ると、少し口調を柔らかくして尋ねる。

「じゃあ、一緒に探してやるよ」 
「え・・・?」
「妹だよ。妹を見つければ成仏できるんだろ?」

 どうやら少年はロビンのことを幽霊だと決め付けてしまったようだ。

「妹は生きてンのか?」
「もちろんだよ」
「だったらしょうがねぇ。手探すのを手伝ってやるよ。オマエがここに居ると子分た
ちが怖がるンだ」

 そういうと、少年は鼻の上を擦って少し照れた顔で名乗った。

「俺様はオルド。オマエは?」
「僕はロビン。妹の名前は・・・」

 それは十年以上前の記憶―――。 

††††††††††††††††††††††††

 アクマの命題  ~緑の章~

          【2】


PC   メル オルド
NPC ジョニー ボブ 女将(イビアン) ロビン
場所  ファイゼン(ソフィニアの北西)


††††††††††††††††††††††††

「我らを守りし偉大なるイムヌスの神よ 白き教えがこの地に光を与えた事を感謝い
たします」

 アメリア・メル・ブロッサムにとって、朝のお祈りは物心がついた時からの日課で
あった。
 まだ、鳥の囀りしか聞こえぬ静かな朝の寝室に、歌うような少女の祈りが満ちた。

「勇ましき騎士 聖ジョルジオよ  悪魔の罠より我を守り給え
 貞節なる母  聖女ブロッサムよ 貴女の子なる我を守り給え」

 最後に守護聖人たちへ祈りを捧げると、メルはその若草色の瞳を開いた。
 隣の部屋にいるこの家の女主人はまだ寝ているようだ。
 メルは静かに立ち上がり、寝巻きを脱ぐと鏡に映った自分の身体を見て思わずため
息をついた。
 痩せた手足とは対照的な、丸い頬。
 胸にはふくらみの前兆こそあったが、ぽっこりと膨らんだ下腹部のほうが目立って
いた。

 ―――5年前から全く成長していない。

 己の業を知りながらも、修道服という鎧を脱ぐとつまらない事が気になってしまう
ものだ。
 まだ整理されていない旅行鞄の中から、13歳の頃に着ていた流行おくれのワン
ピースを取り出す。
 いつも身につけている修道服は鞄の奥底に隠したままだ。
 
「わたくし…わたしはメル。この食堂に身を預けられた身寄りのない13歳の少女」

 イムヌス教第四派閥に所属するエクソシストという身分を隠すこと。
 これが、今回彼女の任務に課された条件の一つだった。

 皮肉なのか偶然にも、それは5年前孤児院にいた彼女の生い立ちそのままでもあっ
た――。

 † † † † †

「メルちゃん。ジャガイモのマスタード炒めにビール一つ。あのテーブルね」
「はい!」

 恰幅の良い女将さんから大きなお盆を受け取ると、メルは器用にバランスをとりな
がら煩雑に並んだテーブルと椅子の間を通り抜けた。
 
「お待たせしました!」
「ありがとよ、嬢ちゃん」

 食堂『とれびあーん』は、活気のある店だった。
 特に夕方は仕事帰りの客が酒を片手に歌ったり踊ったり、殴りあったりと一段と騒
がしい。
 その熱気にあおられメルの頬もほんのりと赤くなっていた。 

 しかし、女将のイビアンに言わせると、「以前はもっと明るかった」そうだ。
 確かに、日に日に深刻な顔をつき合わせているテーブルが増えていた。

 「何故?」「何処に?」小さく紡がれる疑問と絶望。
 きっと、彼らはある日突然大切な人を失ったのだろう・・・・。
 今この辺り一帯で起きている『失踪事件』。
 一般人へと身をやつし、この事件を調査するのがメルの仕事であった。

 今日も若い男が二人、顔をつき合わせて話し合っている。
 はじめて見る顔だったが、たまに他の客と親しげに声を交わすところを見ると、近
くに住む若者たちなのだろう。
 隣のテーブルを拭きながら、メルは情報収集の為に聞き耳を立てた。

「とりあえず分かったのはこんなもんだ」 
「そだな。後はオルドの兄貴が来ないと・・・」

 オルド。
 男の言葉に、メルはその手を止めた。 
 オルドという名前を最近何処かで聞いたような気がしたのだ。

「メルちゃん!なに油売ってるんだい!?」

 女将の大声に慌てて振り返る。


 
ちょうど後ろに居た客に思い切りぶつかってしまった。
 突然の衝突に相手はびくともしなかったが、メルはまるで壁にでもぶつかった様に
後ろに飛ばされた。

「ぁん?どこ見て歩いてんだよ」

 言葉こそ粗野だったが、男は尻もちをついたメルを助け起そうと手を出した。 
 
「すいません・・・ありがとうございま・・・」

 その手を取って相手の顔を見た瞬間、メルは一瞬ぽかんと口を開いたまま固まって
しまった。
 白髪の短髪に、きつい目をした若い男。
 それはソフィニアの魔術学院で会ったスレイヴの友人だった。

(な、なんでこんな所に魔術学院の人がいるの!?)
 
 いや、むしろ彼の場合はこの酒場にいるほうが似合っているのだが。
 オルドは最初メルのことが分からなかったようだった。
 手を握ったまま固まった小さな店員を見下ろしていたが、すぐに顔つきが変わっ
た。
 

「もしかして、あン時のシス・・・」
「オッ」

 イムヌスの関係者だとばれてはならない。 
 焦ったメルはオルドの手を強く握ると、そのまま店の外へと走り出した。

「お客様出口はあちらです!!」

「あぁ!?兄貴が幼女に拉致!?」
「変態入店お断りってか!!」
「そりゃお前だろ」

 後ろでは男たちのどつき漫才が始まったが二人の耳には届かなかった。

††††††††††††††††††††††††

2007/06/04 21:48 | Comments(0) | TrackBack() | ○アクマの命題二部
アクマの命題 第二部 ~緑の章~【3】/オルド(匿名希望α)
「あれは~だれだ~……♪」

 ソフィニアの一角にある公園。
 少年はよくわからない歌を口ずさみながら軽い足取りで歩いている。
 天気は晴れ。夕方の斜光が射す中、彼はしまりの無い顔をしていた。
 涼しげな風が流れるこの時間の雰囲気からは浮いているが、良くも悪くも周辺
に人はいないようだ。

「ハリィアイは透視力♪ハリィイヤーは地獄耳♪」

 金髪蒼眼、そばかすのある少年。
 名をハリィ・D・ボッティと言う。

「あ~くま~のちから~手に~入れ~むっふっふ♪ カァッ!」

 目がキランと怪しく光った。
 その視線の先には……公園の外を若い女性が歩いてる。

「見える! わたしにも敵の下着が見える!」
「何色ですか?」
「それはもう、見紛うこと無きみd……!? え、あ、スレイヴ、さん!?」

 いつの間にか背後に立っていたスレイヴ・レズィンスに気づくハリィ。
 瞬時に2、3歩ほど間を空けるように引いた。

「買物に行かせただけだというのに、こんな所で白昼堂々覗きですか。悪魔の力
は目立ちます。イムヌスの異端審判にかかりたくなければ私の監視外では使うな
と何度言ったらわかるのですか。貴方という貴重な研究資料を失うのは残念です
が、貴方がどうしてもアメリア・メル・ブロッサムに会いたいというのなら止め
はしませんよ」
「会いたいですけどォ! でも僕には他にも沢山の妹(※注:妹候補)がいるんで
す! だから命を奪われるわけにはいかないんで「頼んでいた資材の調達はどう
なりましたか?」あ、う……うぅ」

 ハリィの叫びを無視して問うスレイヴ。
 熱意が伝わるはずもないが、反応の薄い対応をされたのでハリィは落胆した。

「辺りを回ったんですけど、緑系の染料だけがありませんでした」
「まぁ、なくても困りませんがもう数件探してみてください。手紙を出す余裕が
あるのならばまだ行けるでしょう」
「え、みみみ見られた!?」

 オーバーリアクションで驚いた表情を作ったハリィ。これが素なのだろうか。
 演劇の表現をしているかのようだ。

「宛先が遠方のご令嬢だなんて私は知りませんよ。ましてやその方が貴方より年
下なんて知るはずもありません」
「ぎゃー! あ、あの子は僕のたった一つの心のオアシスなんだ! 純真無垢で
僕を”お兄ちゃん”って慕ってくれるいい娘なんだ! 僕がたぶらかして…… じゃ
なかった。いろいろ教えてあげてるんだ! 僕だけの……僕だけの……!!」

 夕刻の赤光の中よろめき地面に倒れこんで呟きはじめるハリィ。こうなった場
合、周囲の声は耳にはいらないらしい。
 だが、それでもスレイヴは口の端を歪めながら聞こえるように言い放つ。

「さて、誑かされてるのはいったい誰なのか……」


‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡

 アクマの命題  ~緑の章~

          【3】


PC  メル オルド  スレイヴ
NPC         ハリィ
場所  ファイゼン(ソフィニアの北西)


‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡

「責任、とってよね」
「何の責任ですか!」

 可愛く言ったつもりだったオルドに即座に切り返す。
 その対応にちょっと快感。
 ソフィニアの北西の街『ファイゼン』にある食堂『とれびあーん』。
 その入り口から脇にそれ、裏手に引っ張り込まれたオルド。
 少し息を切らして脱力する様に手を離すメル。
 建物は間を置いて建っているので食堂の横は少し空き地になっている。
 傾きかけている太陽。その影の中に二人は立っていた。

「つーか俺様みてぇなオトコマエの手を掴んで走りだすなんざぁ、シスターも
「メルです」あ?」
「今の私はただのメルです」
「あん?」

 オルドの戯言をスルーして強い視線を送るメル。オルドはその視線を合わせた
まま眉間にシワを寄せる。
 食堂の騒音が壁越しに伝わっている中、オルドの考えが巡る。が、

「シスター辞めたのか? ロリシスターなんてもう一部で大人気だろってのによ」

 思考より先に口が出た。

「わた……しは……」
「それとも何か?辞めさせられたってか? 学院のアクマ騒動がバレたとか……
あ、もしかしてヤっちまったとかか? ひゃっはは! そりゃしゃーネェなぁオイ」
「……」

 ニヤニヤと下衆な笑みを浮かべるオルド。
 話し始めるきっかけを失ったメルはうつむきつつ沈黙してしまった。
 そしてそれを表通りから視界を覆うように立ちはばかるガラの悪い男。
 側から見れば絡んでいるようにしか見えない。

「いやいや、わかってる。わかってるって。よくある潜入捜査ってやつでもぐり
こんでンだろ? ったくめんどくせーよなぁ末端構成員ってのはよ」
「! 知って……?」

 勢いよく顔を上げる。いや上げてしまったメル。眼を見開いてオルドを見る。
 だが、メルが確認したオルドの表情は少し呆けていた。

「テキトーに言ったンだがよ、そんな反応されちゃぁその通りって言ってるよう
なモンだぜ?」
「え、あ……」
「オイオイ、しっかりしろよ調査員さんよぉ? そんなンじゃ相手に裏ぁかかれ
るのがオチだっての」

 この台詞でメルの警戒ランクが上がるのは承知の上。

(つーかコイツラ何調べてんだ? イムヌス教ってのは何やってのンだ?……獣人
嫌ってるってぐらいしかシラネーな。後で調べておくか)

 再び黙り込んだメルを見やる。自戒のためか、先程よりもきつく唇を結んでい
るようだ。
 素直な上に頑固。
 がんばっちゃってるこの子に免じて突っ込むのはヤメテやろう。と偉そうな事
を考えているオルド。
 自分が拉致?られた理由は理解できた。どうにも素性を周囲に明かされたくな
いらしい。
 まぁ、捜査であれ調査であれ、探ることには変わりない。教会のシスターと聞
けば出し惜しみされる情報もあるのだろう。
 こっちの情報は別にくれてやってもかまわないな、と判断した。

「俺様は今な、探しモンしてンだよ」
「さがしもの、ですか?」

 唐突に話が飛んだのでメルは訝しげに聞き返した。
 硬くなっていた雰囲気が少し和らいだようにオルドは感じた。根掘り葉掘り聞
かれると思っていたのだろうか。
 メルから視線をはずして「そ、探しモンだ」と続ける。
 周囲を一見。目立った視線も感じなかったので続きを話す。

「最近よ、俺様の縄張りでいつのまにか居なくなってるヤツラが多くてな。つー
か俺様が気づいたのもダチの弟が居なくなってからなンだけどよ。ってわけで俺
様はそのダチの弟とかその他大勢を探してンだ」
「お友達の弟さんですか……その人の特徴とかはわかりますか?」
「人ってか獣人だ。犬系のな。まぁ、普段は人間と同じナリしってっから見分け
つかねぇと思うけどよ。俺と同じぐらいの背で、学者が似合いそうな雰囲気の青
二才って所か……他の特徴はあれしかネェな。黒い髪の毛ン中にたて髪みてぇな緑
の髪の毛が頭の中央分断してンだ」

 オルドは「このヘンな?」といって自分の頭……額の中央から延髄辺りまで指で
滑らせて示す。
 前屈状態で見せたためメルからはオルドの脳天が見える。
 とりあえずオルドの髪の毛は白い。メルはオルドの髪の毛……頭をマジマジと見
つめた後、考える仕草を見せる。
 宿屋『とれびあーん』で働き始めてからどれくらい経っているのか知る由もな
いが、その記憶の中から答えを探している。

「わたしは……わかりません。もっと多くの人から聞いていればよかったのかもし
れませんが今は……すみません」
「あん? 謝ンなバカ。そン時ナイ情報を探せるはずもネェだろ。ソコまで期待
してねーよ」

 様子から察するにメルもメルなりに何か情報を探しているようだ。
 と、ここまで来て考え直す。
 食堂に身を置いてるってことは固定的な情報収集してる。オルドの縄張りと主
張しているのはソフィニアの東側中心。そして食堂『とれびあーん』は、ソフィ
ニアの北西にあるここ『ファイゼン』の街にある。
 旨く立ち回れば多くの情報が得られるかもしれない。

「つーワケで情報提携ってのでどうだ?」
「……」
「俺様以下二人はソフィニアの東とかでいろいろ情報聞きまわっていたワケよ。
広範囲カバーするためにここを集合地点にしたってンだが……」

 一息置く。
 声の応答は無かったが興味はあるようだ。
 オルドの目を見ている。
 そういや族長も言ってたな。「話す時、聞く時は相手の目を見ながらやれ」っ
て。臆せずもまぁ可愛いもんだ。

(そん時はガン付けしあって族長にブン殴られたな。「喧嘩売ってるんじゃない
んだぞ」とか言われたが)

 子供のコロの記憶がよぎる。
 話しかけられる度に睨みあって喧嘩になっていた。その対象は年下だろうが幽
霊だろうが関係なかった。
 喧嘩に明け暮れた日々を懐かしんでいたが、思考を現実へと引き戻す。

「っと。そっちも何か欲しい情報あンだろ? ついでに嗅ぎまわってやるよ。連
絡役は俺様か……ジョニーだな。こっち側はあンま来ねーからシス……メルがスタン
レーって、これダチの弟の名前な。スタンレーの情報を集めるって事でどうよ」

 一息で喋った後「ムサい野郎より可愛い嬢ちゃんのほうが集まりはイイって
な」と冗談めかした言葉を加える。
 メルは2、3まばたきした後、オルドから視線をはずして考えをまとめている
ようだ。

「こっちはおおっぴらに行動しても問題ねぇ。で、そっちの欲しい情報、アンだ
ろ?」


 ‡ ‡ ‡ ‡
 ‡ ‡ ‡ ‡


 ソフィニアの公園。

「あ。あと……」
「なんです?」

 我に返ったハリィは歯切れ悪そうに上目使いでスレイヴを見る。

「ネギが売り切れてました」
「そうですか」

 とりあえずブーツでハリィの顔を踏んだ。


‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡

2007/06/21 02:33 | Comments(0) | TrackBack() | ○アクマの命題二部
アクマの命題 第二部 ~緑の章~【3】/オルド、スレイヴ(匿名希望α)
「あれは~だれだ~……♪」

 ソフィニアの一角にある公園。
 少年はよくわからない歌を口ずさみながら軽い足取りで歩いている。
 天気は晴れ。夕方の斜光が射す中、彼はしまりの無い顔をしていた。
 涼しげな風が流れるこの時間の雰囲気からは浮いているが、良くも悪くも周辺
に人はいないようだ。

「ハリィアイは透視力♪ハリィイヤーは地獄耳♪」

 金髪蒼眼、そばかすのある少年。
 名をハリィ・D・ボッティと言う。

「あ~くま~のちから~手に~入れ~むっふっふ♪ カァッ!」

 目がキランと怪しく光った。
 その視線の先には……公園の外を若い女性が歩いてる。

「見える! わたしにも敵の下着が見える!」
「何色ですか?」
「それはもう、見紛うこと無きみd……!? え、あ、スレイヴ、さん!?」

 いつの間にか背後に立っていたスレイヴ・レズィンスに気づくハリィ。
 瞬時に2、3歩ほど間を空けるように引いた。

「買物に行かせただけだというのに、こんな所で白昼堂々覗きですか。悪魔の力
は目立ちます。イムヌスの異端審判にかかりたくなければ私の監視外では使うな
と何度言ったらわかるのですか。貴方という貴重な研究資料を失うのは残念です
が、貴方がどうしてもアメリア・メル・ブロッサムに会いたいというのなら止め
はしませんよ」
「会いたいですけどォ! でも僕には他にも沢山の妹(※注:妹候補)がいるんで
す! だから命を奪われるわけにはいかないんで「頼んでいた資材の調達はどう
なりましたか?」あ、う……うぅ」

 ハリィの叫びを無視して問うスレイヴ。
 熱意が伝わるはずもないが、反応の薄い対応をされたのでハリィは落胆した。

「辺りを回ったんですけど、緑系の染料だけがありませんでした」
「まぁ、なくても困りませんがもう数件探してみてください。手紙を出す余裕が
あるのならばまだ行けるでしょう」
「え、みみみ見られた!?」

 オーバーリアクションで驚いた表情を作ったハリィ。これが素なのだろうか。
 演劇の表現をしているかのようだ。

「宛先が遠方のご令嬢だなんて私は知りませんよ。ましてやその方が貴方より年
下なんて知るはずもありません」
「ぎゃー! あ、あの子は僕のたった一つの心のオアシスなんだ! 純真無垢で
僕を”お兄ちゃん”って慕ってくれるいい娘なんだ! 僕がたぶらかして…… じゃ
なかった。いろいろ教えてあげてるんだ! 僕だけの……僕だけの……!!」

 夕刻の赤光の中よろめき地面に倒れこんで呟きはじめるハリィ。こうなった場
合、周囲の声は耳にはいらないらしい。
 だが、それでもスレイヴは口の端を歪めながら聞こえるように言い放つ。

「さて、誑かされてるのはいったい誰なのか……」


‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡

 アクマの命題  ~緑の章~

          【3】


PC  メル オルド  スレイヴ
NPC         ハリィ
場所  ファイゼン(ソフィニアの北西)


‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡

「責任、とってよね」
「何の責任ですか!」

 可愛く言ったつもりだったオルドに即座に切り返す。
 その対応にちょっと快感。
 ソフィニアの北西の街『ファイゼン』にある食堂『とれびあーん』。
 その入り口から脇にそれ、裏手に引っ張り込まれたオルド。
 少し息を切らして脱力する様に手を離すメル。
 建物は間を置いて建っているので食堂の横は少し空き地になっている。
 傾きかけている太陽。その影の中に二人は立っていた。

「つーか俺様みてぇなオトコマエの手を掴んで走りだすなんざぁ、シスターも
「メルです」あ?」
「今の私はただのメルです」
「あん?」

 オルドの戯言をスルーして強い視線を送るメル。オルドはその視線を合わせた
まま眉間にシワを寄せる。
 食堂の騒音が壁越しに伝わっている中、オルドの考えが巡る。が、

「シスター辞めたのか? ロリシスターなんてもう一部で大人気だろってのによ」

 思考より先に口が出た。

「わた……しは……」
「それとも何か?辞めさせられたってか? 学院のアクマ騒動がバレたとか……
あ、もしかしてヤっちまったとかか? ひゃっはは! そりゃしゃーネェなぁオイ」
「……」

 ニヤニヤと下衆な笑みを浮かべるオルド。
 話し始めるきっかけを失ったメルはうつむきつつ沈黙してしまった。
 そしてそれを表通りから視界を覆うように立ちはばかるガラの悪い男。
 側から見れば絡んでいるようにしか見えない。

「いやいや、わかってる。わかってるって。よくある潜入捜査ってやつでもぐり
こんでンだろ? ったくめんどくせーよなぁ末端構成員ってのはよ」
「! 知って……?」

 勢いよく顔を上げる。いや上げてしまったメル。眼を見開いてオルドを見る。
 だが、メルが確認したオルドの表情は少し呆けていた。

「テキトーに言ったンだがよ、そんな反応されちゃぁその通りって言ってるよう
なモンだぜ?」
「え、あ……」
「オイオイ、しっかりしろよ調査員さんよぉ? そんなンじゃ相手に裏ぁかかれ
るのがオチだっての」

 この台詞でメルの警戒ランクが上がるのは承知の上。

(つーかコイツラ何調べてんだ? イムヌス教ってのは何やってのンだ?……獣人
嫌ってるってぐらいしかシラネーな。後で調べておくか)

 再び黙り込んだメルを見やる。自戒のためか、先程よりもきつく唇を結んでい
るようだ。
 素直な上に頑固。
 がんばっちゃってるこの子に免じて突っ込むのはヤメテやろう。と偉そうな事
を考えているオルド。
 自分が拉致?られた理由は理解できた。どうにも素性を周囲に明かされたくな
いらしい。
 まぁ、捜査であれ調査であれ、探ることには変わりない。教会のシスターと聞
けば出し惜しみされる情報もあるのだろう。
 こっちの情報は別にくれてやってもかまわないな、と判断した。

「俺様は今な、探しモンしてンだよ」
「さがしもの、ですか?」

 唐突に話が飛んだのでメルは訝しげに聞き返した。
 硬くなっていた雰囲気が少し和らいだようにオルドは感じた。根掘り葉掘り聞
かれると思っていたのだろうか。
 メルから視線をはずして「そ、探しモンだ」と続ける。
 周囲を一見。目立った視線も感じなかったので続きを話す。

「最近よ、俺様の縄張りでいつのまにか居なくなってるヤツラが多くてな。つー
か俺様が気づいたのもダチの弟が居なくなってからなンだけどよ。ってわけで俺
様はそのダチの弟とかその他大勢を探してンだ」
「お友達の弟さんですか……その人の特徴とかはわかりますか?」
「人ってか獣人だ。犬系のな。まぁ、普段は人間と同じナリしってっから見分け
つかねぇと思うけどよ。俺と同じぐらいの背で、学者が似合いそうな雰囲気の青
二才って所か……他の特徴はあれしかネェな。黒い髪の毛ン中にたて髪みてぇな緑
の髪の毛が頭の中央分断してンだ」

 オルドは「このヘンな?」といって自分の頭……額の中央から延髄辺りまで指で
滑らせて示す。
 前屈状態で見せたためメルからはオルドの脳天が見える。
 とりあえずオルドの髪の毛は白い。メルはオルドの髪の毛……頭をマジマジと見
つめた後、考える仕草を見せる。
 宿屋『とれびあーん』で働き始めてからどれくらい経っているのか知る由もな
いが、その記憶の中から答えを探している。

「わたしは……わかりません。もっと多くの人から聞いていればよかったのかもし
れませんが今は……すみません」
「あん? 謝ンなバカ。そン時ナイ情報を探せるはずもネェだろ。ソコまで期待
してねーよ」

 様子から察するにメルもメルなりに何か情報を探しているようだ。
 と、ここまで来て考え直す。
 食堂に身を置いてるってことは固定的な情報収集してる。オルドの縄張りと主
張しているのはソフィニアの東側中心。そして食堂『とれびあーん』は、ソフィ
ニアの北西にあるここ『ファイゼン』の街にある。
 旨く立ち回れば多くの情報が得られるかもしれない。

「つーワケで情報提携ってのでどうだ?」
「……」
「俺様以下二人はソフィニアの東とかでいろいろ情報聞きまわっていたワケよ。
広範囲カバーするためにここを集合地点にしたってンだが……」

 一息置く。
 声の応答は無かったが興味はあるようだ。
 オルドの目を見ている。
 そういや族長も言ってたな。「話す時、聞く時は相手の目を見ながらやれ」っ
て。臆せずもまぁ可愛いもんだ。

(そん時はガン付けしあって族長にブン殴られたな。「喧嘩売ってるんじゃない
んだぞ」とか言われたが)

 子供のコロの記憶がよぎる。
 話しかけられる度に睨みあって喧嘩になっていた。その対象は年下だろうが幽
霊だろうが関係なかった。
 喧嘩に明け暮れた日々を懐かしんでいたが、思考を現実へと引き戻す。

「っと。そっちも何か欲しい情報あンだろ? ついでに嗅ぎまわってやるよ。連
絡役は俺様か……ジョニーだな。こっち側はあンま来ねーからシス……メルがスタン
レーって、これダチの弟の名前な。スタンレーの情報を集めるって事でどうよ」

 一息で喋った後「ムサい野郎より可愛い嬢ちゃんのほうが集まりはイイって
な」と冗談めかした言葉を加える。
 メルは2、3まばたきした後、オルドから視線をはずして考えをまとめている
ようだ。

「こっちはおおっぴらに行動しても問題ねぇ。で、そっちの欲しい情報、アンだ
ろ?」


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 ソフィニアの公園。

「あ。あと……」
「なんです?」

 我に返ったハリィは歯切れ悪そうに上目使いでスレイヴを見る。

「ネギが売り切れてました」
「そうですか」

 とりあえずブーツでハリィの顔を踏んだ。


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2007/08/24 23:44 | Comments(0) | TrackBack() | ○アクマの命題二部

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