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2024/04/30 06:49 |
モザットワージュ - 1/マリエル(夏琉)
PC:マリエル
NPC:ハーフエルフの青年
場所:魔術学院

*新キャラです。魔術学院学生の14歳女子。詳しいことはこちらのプロフをどうぞ。というか、プロフ読んでからじゃないと内容よくわかんなさそう。
http://terraromance.rulez.jp/pc-list/list.cgi?id=56&mode=show

------------------------------------------

 魔術学院の教授の研究室や資料室の集中している棟に来ると、マリエルは毎回どうしても表情が強張ってしてしまう。

 ふだん使っているの講義棟では同世代の友達と固まっているし、周りも似たようなもので、移動時間は賑やかなものだ。
 しかしここは、すれ違う人間は、今年14になるマリエルより少なくとも10前後は年上の人間ばかりだし、高齢の教授であることのほうが多い。
 しかも、なんだか皆いつも怒っているようにしかめっつらをしているように見える。
 やっぱり、自分のような年ごろの人間がうろちょろしているのは不自然な場所だ。

(でも、魔術学院の知識は、学生に…いや全ての人間に開かれてしかるべきよね)

 思わず雰囲気に押されてしまいそうな自分に言い聞かせながら、マリエルは目的の研究室を目指す。
 誰かとすれ違うたびに、軽く会釈を返しながら埃っぽい廊下を進む。

 いくつか階段を上って、さらに廊下を進んだあと、1つのドアの前で足を止めた。

 やや緊張しながらドアをノックする。
 中に人がいた場合、その人物に資料貸出しの手続きをしてもらえばよいが、ノックをしても返事が返ってこなかった場合、この資料室の管理者である教授―その人はこの部屋のはす向かいに別に部屋を持っているのだが―に部屋を開けてもらう必要がある。
 それはマリエルには少し気の重いことであったし、さらにその教授がいなかった場合、また出直す必要があり、もっと億劫なのだ。

「はーい、あいてますよー」

 明るい男性の声が返ってきて、マリエルは少しほっとする…と同時に、おや、と思う。
 
「失礼します」

 できるだけ音を立てないように注意してドアを開け、部屋の中に入った。

「あれ! 君若いね~。何の用かな?」

 部屋の中は奥から規則正しく背の高い本棚が並んでいるが、閲覧者のための席も入口近くに確保されている。
 そこに一人の若い男性が腰かけていた。資料を読んでいたところのようで、テーブルの上に置いた本のページに指をはさんでいる。

(あれ…、この人)

 髪がかけられて露出した耳は、マリエルにはない特徴的な形をしていた。
 先のとがった形は、マリエルとは違う種族の生き物であることの現れだ。

(ハーフエルフ…かな)

 確信はなかったが、なんとなくそう思う。
 魔術学院はエルフの学生も、数は少ないが何人かいるので、マリエルも彼らを見かけたことがある。
 青年は、透明感のある肌や髪の色はエルフの特徴を有しているのだが、エルフの学生たちのように遠目からでもわかるような華やかさや淡麗さがあまり感じられなかったのだ。

「論文集をお借りしたくって」

 驚きを表情に出さないように気をつけながら、マリエルは言う。

「貸出希望ねー。あ、ごめん。そういうときっていつもどうしてる?」

「貸出簿に名前と所属を記入して、資料を探してもらってます」

「そうなんだ…。えーと、あの辺の棚かな。ちょっと待ってね」

 青年は明らかに不慣れな様子で、何冊か並んだ帳面を調べていたが、「あった」とマリエルの見慣れた貸出簿を取り出た。

「はい。筆記用具は…」

「あ、いつも、そこの用具入れのものを使わせていただいています。えっと…今日は、いつもいらっしゃる女性の方は、今日はおやすみなんですか?」

 思い切って、マリエルは質問をしてみる。

 普段だったら、いつもこの資料室で作業をしている女性が貸出手続きをしてくれるのだ。
 短くした髪や男性のような長身から印象に残る人で、最近は少し雑談もするようになり、彼女が学院で研究助手のような仕事をしていて、この部屋を使っていることも聞いていた。

 実は部屋にいたのが違う人物で、すこしがっかりしていたのだ。

「あー、えっちゃんね。うん、彼女今、コールベルの方に出張なんだよ」

「コールベル…」

「そう。ていうか彼女、結構出張多いからそんなにいつもいないんだけどね。君、ここって結構くるの?」

「あ、何回かですけど…。ベッケラート先生の講義の課題が出たときに先生の研究室の資料が参考になるので…」

 ベッケラートとは、この資料室の管理者でもある教授の名前だ。

「ふーん。あれかな。君の年齢でベッケラート先生ってことは『魔法才覚基礎』? あの講義ってそんな資料参照させるっけ」

「はい、そうです。せっかくの機会なので、ちゃんと調べておきたくって」

 マリエルが答えると、青年はにやっと笑って言った。

「真面目だねぇ、君。君みたいな歳から論文なんか読んでたら、将来ハゲるよ」

 彼流の冗談だとしても、あんまりな言いように、マリエルはとっさに返答ができない。
 ぐらっと気持ちが苛立つが、なんとか表情に出さないように努めて愛想笑いを浮かべる。

「はは。あ、貸出簿だよね。ごめんごめん。とりあえず書いてもらえる? 僕は資料を探しとくから」

「あ、はい」

 青年が本棚を探し始めたので、マリエルは自分で戸棚を開けて、筆記用具を用意することにする。
 本来ならば、勝手に部屋の備品をいじらないほうがいいのだろうが、青年は別に構わなさそうであったし、彼に自分から声をかけたい心境でもなかった。

 マリエルが貸出簿に記入しおわった頃、青年が数冊の資料を机の上に置いた。

「おまたせー。いくつかここにない資料があったから、あとで図書館の方も行ってみてね」

「ありがとうございます。お忙しいところをすみません」

「いいよー。忙しくないっていうか今、ここにさぼりに来てたとこだし」

「……」

「僕、普段、会計科にいるんだけどさー。先生たちの請求資料の領収書届けと資料室の在庫確認のついでにさぼってたわけ。
 えっちゃんがいたらお茶でも飲んでたんだけどねー」

 へらへらと説明する青年に、マリエルは、ほんのり重たい感情を感じる。
 普段、与えられた課題には全力を持って取り組むことをよしとするマリエルには、青年の行動がいま一つ理解できないのだ。

(……苦手なタイプかもしれない)

 魔術学院の友人たちはおおむね勉強熱心な人間たちだということもあって、青年の不真面目さを肯定する様子に、マリエルはそう結論づけた。

「ありゃ?」

 マリエルが筆記用具を片付けていると、青年が貸出簿を見て、妙な声を上げた。

「ねぇね、もしかして、君、コールベルのあたりの出身だったりする?」

 言いあてられて、マリエルは驚く…と同時に、彼と何かつながりがあるかもしれないという予感に少し不快になる。

「あ、はい。そうです」

 遠慮がちにマリエルがうなづくと、青年の表情がぱぁっと明るくなる。

「えー! そうだったんだ! コールベルのマリエル・フォールってことは、あれだよね。ベッケラート先生の魔法査定器具の標準化の調査のときの子だよね。
 うわぁ、びっくり」

「確かに、先生の調査を受けましたが…」

 急に大声を出して、やけに嬉しそうな様子の青年に、マリエルはついていけずに、あいまいな笑顔で返答する。

「あれって4年前だよね。僕、あのとき、先生んとこのゼミ生だったんだよ。えっちゃんもだけど。んで、あの調査のテスターでコールベル組だったんだよ」

「え、そうなんですか!」

 さすがに、マリエルも目を見張る。
 マリエルが魔術学院に進学するきっかけが、まさにその魔法査定器具の調査だ。
 魔力の強さや適性を測定する器具を開発のため、いくつかの地域の子どもたちを対象に行われたもので、マリエルの通っていたコールベルの学校も、その調査の対象だったのだ。

「うっわぁ、ちょっと感動。そっか。そりゃあいるよねぇ。
 たしかあの調査がきっかけで魔力があることがわかってうち来た子って、君とあと何人かってくらいだよねぇ。
 君の調査とったのは僕じゃないから、会ってはないんだけどね。いやでも懐かしいなぁ。
 あ、そっか、だからさっきコールベルの話でたときちょっと変な顔したのかぁ」

 興奮した青年はまくしたてるように話す。

「いやぁ、なんかまた機会あったら話そうよ。僕はたいてい会計科にいるからさ。学費払うときでも来てよ。
 会計科のハーフエルフの人って言ったらたいてい事務畑のみんなはわかるから」

「またよろしくお願いします」

 できるだけこれからもこの人には会いたくないな、と思いながら、マリエルは青年に軽く頭を下げた。



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新キャラつくりました。マリエル・フォール。通称マリ子。
精神不安定な14歳です。
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2010/02/03 02:24 | Comments(0) | TrackBack() | ○モザットワージュ
モザットワージュ - 2/アウフタクト(小林悠輝)
件名:

差出人: 小林さん "小林"
送信日時 2009/12/31 02:56
ML.NO [tera_roma_2:0941]
本文: PC:アウフタクト
場所:ソフィニア-魔術学院

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(随分と様子が変わった……ような、気がする)
 アウフタクトは無機質な廊下を進みながら、そう思った。
 最後にソフィニアを訪れてから二年と経っていないが、魔術学院の敷地に足を踏
み入れるのは、七年か、或いは八年振りであるように思えた。というのも、成績不
良と校則違反で退学になってからというもの、学院に対して一切の用事も未練もな
かったからだ。
 元より学生時代からして、学業に対する思いは冷めたものだった。情熱に燃えた
時期もあったかも知れないが、その感覚は不確かだ。
 兎角、退学以来、学院とは縁のない人生を送ってきた。
 それが再び、研究棟の廊下を歩いている。時を遡りでもしたように現実感のない、
なんとも奇妙な気分だ。旅用のブーツの底に挟まった小石が床を叩く度、固い音が
響く。
 学部時代と内装は変わり様がないが、研究室の顔ぶれが変わったせいか、あちこ
ちに些細な違和感がある。三つの部屋を占有していた老齢の女教授は引退し、扉に
飾られていた華美な名札は消え失せている。扉の表面に残る接着剤の跡が、妙なも
の寂しさを感じさせた。
「先輩、こっちです!」
 行く手の扉から半身を乗り出した女が手を振っている。
 アウフタクトは余所見していた視線を彼女に据え、右手を上げ返した。手首で魔
除の銀鎖が鳴った。

 切掛は昨日だった。
 魔術の札を作るために必要な、特殊な墨を使い切ってしまったため、間道を抜け
てソフィニアに入った。
 魔術に使われるが魔力を持たないため販売を規制されていない品々を並べている
店で、その女に声を掛けられた。「あの、――先輩じゃ、ありませんか」
 振り向けば、立っていたのは五つ下の後輩だった。本来なら交流ないはずの年の
差だが、利発なその少女は高等部に籍を置いている頃から屡々、夕方になると、学
部の教養科目を聴講しに現れていた。目立たぬよう端の席を定位置にしていたアウ
フタクトは、たまたま隣に座った少女が覗き込める位置に教科書を動かしてやった。
それ以来の曖昧な付き合いだったが、退学と同時に途絶えた。
 少女はもう少女とは呼べない年齢になっていたが、相変わらず、利発そうだがど
こか無邪気な、昔と然程変わらない表情をしていた。「あの、このあと暇ですか?
 せっかくですから、飲みに行きましょうよ!」
 どうも昔の印象を消せず、彼女が酒を飲める年齢になったことに驚くあまり、つ
い頷いてしまった。そして気づけば、学生街の居酒屋で酒と焼き鳥を奢らされた上、
翌日の実験に付き合う約束まで取り付けられていた。

「この部屋、懐かしいでしょう! あたし今、ベニントン先生に教わってるんです。
先輩の担当教授だったって聞きましたよ」
「ええ、まあ。専攻分野が違うので、名目だけでしたが」アウフタクトは曖昧に答
えた。その教授は出張で留守だという。今更よく顔を出せたと嫌味を言われないの
は幸いだ。
 研究室は無人ではなく、数人の生徒達が屯していた。ベニントン教授は己が不在
の時でさえ学生のために書架を開放する稀有な――或いは酔狂な人物だったと、思
い出す。
 学生たちは一瞬だけ視線を上げたが、すぐにそれぞれの作業や読書に戻った。研
究室に卒業生が出入するのは珍しいことではないし、目の前ではしゃいでいる元少
女のことを知っているから、その同行人を必要以上に怪しむことはないのだろう。
「貴女、今、何年生でしたっけ?」
「四年です! 先輩と違って、留年なんかしてないですから」
 アウフタクトは苦い顔をした。「そういえば、実験って、何の実験です?」と話
題を逸らす。元少女は「こっちです」と研究室の奥へ進んだ。机と書架の先には、
簡素な仕切りで区切られた教授の机と、学生が実験や仮眠に自由に使える空間があ
る。
 自由空間の中央に設えられた台に鎮座していたのは、なにやら得体の知れない塊
だった。アウフタクトはその形を表す言葉を探したが、“本性の知れない”以上に
ふさわしい表現は見つけられなかった。大きさは両手で持てる程だ。木材や金属を
組んだ枠に、硝子球がいくつか嵌め込まれている。
「何です、これ?」
「個人の魔術特性を調べる機械です。クロフト式の診断機を元に作ったんですけど、
ちょっと精度を上げる細工をしたので、筐体に収まらなくて。見た目が悪いのは大
目に見てください」
「これが卒研なんて言いませんよね?」アウフタクトは呆れ声で尋ねた。
「まさか!」元少女は首を横に振った。「卒業研究が一段落ついたから作ってみた
んです。古典の再現をしてみたくて。でも、検体になってくれる人がなかなかいな
いんです」
「何故です? ちょっと手を置くだけでしょう」とはいえ、そのちょっとを忌避す
る魔術師は案外、多いが。
 元少女は困ったように首を傾げた。その頬の線は昔と変わらぬように見えた。
「……血が、必要なんです」
 笑い返しかけたアウフタクトは、表情を引きつらせた。「はい?」
「冗談ですよ」元少女はくすくすと笑った。「昨日、足りなくなった材料を買いに
出たときに先輩を見かけたので、声を掛けたんです。さっき完成したばかりなんで
すよ」
「はあ……それはご苦労様です」
「ほら、ここを触ると、この硝子球が光るんです。右から――」元少女は説明した
が、アウフタクトは聞き流した。クロフト式の診断機は、彼が教鞭と取っていた六
十年前に主流だった魔術特性の分類が廃れたためにすっかり過去の遺物になってし
まっている。こういった器具や分類法は流行りものだ。多くが発明され、多くが忘
れ去られた。次に本格的に実用化されると見られているのはベッケラート教授の検
査機器だったはずだ、というのも数年前の知識で、現在どうなっているのか知らな
い。
 少女が、こっちが光るとナントカ形で、こっちが……と話をしても、そういえば
そんな話を授業で聞いたことがあるかも知れない程度の思いしか沸かなかった。
 元少女が診断機の金属板に触れる度、左から二番目の硝子球が青く光る。やがて
彼女はアウフタクトを振り向いて、「さ、試してください」と言った。アウフタク
トは正直なところ、こういった診断機の類は好きではない。診断基準の正しさがあ
やふやで気味が悪いし、その癖、他の魔術師に手の内を晒すようで警戒心が働くか
らだ。
 それでも金属板に指先を当てた。きらきらした目の元少女を裏切るのは忍びない。

 硝子球は光らなかった。
「あれ」元少女は首を傾げた。「おかしいな」それから彼女は他の学生を呼び、な
んだなんだと集まった彼らにも試させた。硝子球はぴかぴかと光り、元少女から解
説を聞かされた学生達は、おーと感心の声を上げた。元少女は彼らをすぐに解散さ
せた。
「先輩、魔力ないんですか? そんなわけないですよね。一般入試だって言ってま
したし」
「よく覚えてるなそんなの。俺がどうして退学になったか、教授から聞いてないん
ですか?」アウフタクトはうんざりと呻いた。理由は簡単で、扱える魔力が少なす
ぎ、理論はともかく実践についていけなかったからだ。そして暴挙に走った。
 元少女は首を傾げた。「家の都合で自主退学、ですよね?」
「……まあ、恐らく」あの件は隠蔽されたのか、教授の進退に関わるもんなぁと思
いながら、答える。「やめるとき、きみに教科書あげればよかったですね、どうせ
あれきり読みませんでしたし。私はそんな真面目じゃなかったので」
 元少女は、はっとしたような表情をした。「あの、あたしもです。不真面目で。
本当は、あの頃、講義の内容なんてわけわからなかったし、教科書買ったり、調べ
たりとかしないで……教授の話がちょっとだけわかるから自分って頭いいんじゃな
いかって思えて……いい気になって」
 アウフタクトは元少女を横目にした。落第生をフォローするために、自分まで貶
めることはないだろう。急に深刻そうに語り出すことと併せて、彼女の昔からの悪
い癖だ。
 嘆息。
「真面目や秀才のポーズ決められるだけ立派だ。大抵は、表面と現実の違いに挫け
て脱落します」アウフタクトは誤魔化しの言葉を発しながらとんとんと金属板を叩
いた。
 一瞬、手首に熱が走った。同時に全ての硝子球が鋭く光り、歪な筐体の内部で、
何かが焼けるような音がした。光は何度か不揃いに点滅し、消えた。
「「――あ。」」
 二人が同時に声を上げた。アウフタクトは手を引っ込め、反対の手で手首を押さ
えた。診断機を使う際には、魔力を帯びた品は身につけるべからず。と、テキスト
の一文が今更ながら脳裏を過ぎった。あれそれこれと所持品を思い描くが、服の衣
嚢に入れっぱなしの触媒も含めて三種類以上を身につけている。強力なものも含め
て。
「あー……すいません。魔法系の道具、結構持ってて……」
「い、いえ、大丈夫です」元少女は、あまり大丈夫でなさそうな表情で首を横に
振った。
 アウフタクトは気は進まなかったがいくらかの罪悪感は覚えたので、診断機を眺
めながら申し出た。
「直すなら手伝いますよ。どうせ今日は暇しています」
「本当ですかっ?」少女は顔を上げ、両掌をぱんと合わせた。「是非お願いしま
す! あたしはこれを分解してどんな故障か確かめますから、先輩は、図書館から
資料を持ってきてくれませんか?」
 アウフタクトは思わず頷いた。年頃の女の子は元気だな、自分がこの子のテン
ションで行動したら十分と持たないだろうなと雑念を働かせていたら、欲しい文献
リストの何割かをしっかり聞き逃した。元少女もそれを察したのか、「とりあえず
分解図とか断面図とか、それっぽいのが載ってればいいですから」と言い直した。
「たぶん、先輩ならすぐ見つけられます。あっという間です、ばっちりです」
 何だその根拠のない期待は。
 アウフタクトは、努力しますと呻いた。窓の外で、小鳥が莫迦にしたような声で
鳴いた。

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2010/02/03 03:09 | Comments(0) | TrackBack() | ○モザットワージュ
モザットワージュ - 3/マリエル(夏琉)
PC:マリエル、アウフタクト
場所:魔術学院
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“真面目だねぇ、君。君みたいな歳から論文なんか読んでたら、将来ハゲるよ”

 マリエルは、棟を出て図書館に向かいながら、先ほどハーフエルフの青年にかけられた言葉を思い出して、改めて腹を立てていた。

 さっきは、驚きが先に立ってなんとか受け流したが、一人になって思い返すと、思いかえるほど胃の中がぐっと熱く重たくなるようだった。思わず、先ほど資料室で借りた分厚い資料数冊をぎゅっと胸に抱える。

 マリエルは、学院を目指すことになるまで、ほとんど魔術に触れたことはなかった。コールベルの両親にそのような力はないし、親類縁者に魔法使いもいない。
 魔術学院入試のために父親の知人の魔法使いに、最低限の基礎を教えてもらったのが、マリエルが魔法の力に本格的に触れた最初だった。

 そのような環境だったから、魔術学院に合格したのも奇跡のようなものだと、マリエルは思っている。

 実際マリエルは、入学1年目の頃、幼いころから自然と魔法の力に慣れ親しんでいた級友から、知識面でも技術面でも大きく引き離されていたのだ。
 そんな自分が、現在級友たちになんとかついていけているのは、与えられた課題に対して全力で取り組むようにしているからこそだ…というのがマリエルの現状認識だ。

 ハーフエルフの青年の言葉は、そのような自分のあり方を意地悪く全面的に否定したように、マリエルには感じられた。

 確かに、いま胸に抱えている資料に乗っているような文献は、今のマリエルには難しいものだ。読んでいて、わからない言葉が沢山でてくるし、そもそも本文の意図するところを捉えることすらおぼつかないこともある。
 それでも、わからない言葉1つ1つを調べることで確実に知識は増えるし、わからないなりに以前よりは概要もつかめるようになってきているような気もしているのだ。

 それになにより、自分が魔術学院にくるきっかけとなったベッケラート教授の授業は、少し無理をしてでもしっかり勉強したいと思っていた。

 イライラと考え事をしながら足を動かしていたら、いつもより早足で歩いていたらしい。重たい資料を抱えているにも関わらず、気がついたら、図書館の前まで来ていた。

 魔術学院には、図書館がいくつか点在している。主に、学問領域ごとにわかれていて、立地も図書館によってそれぞれだ。
 授業によっては、学院の敷地内を回って本を借りる必要があり、要領を得ないうちはそれだけで休日がほとんどつぶれてしまうこともあった。

 そしてなにしろ魔術学院という場所だ。マリエルの周りでは、学生には所在地すら知らされていない図書館や、肉眼では見ることのできない図書館すらあるのでは、という噂すらあった。

 マリエルは入口の前で一度立ち止まる。ドアをあけるために資料を抱え直していると、後ろに人の気配がして、ぐっと入口が動いた。
 マリエルが見上げると、マリエルよりも年次が大分上の学生だろうか、明るい髪の色の男性が、ドアを支えてくれていた。

「ありがとうございます」

 マリエルが礼を言うと、男性も頭だけを動かして軽く会釈を返した。



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2010/02/06 03:43 | Comments(0) | TrackBack() | ○モザットワージュ
モザットワージュ - 4/アウフタクト(小林悠輝)
PC:アウフタクト, マリエル
場所:ソフィニア-魔術学院

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 図書館へ足を踏み入れると、微かに紙と黴の匂いがした。アウフタクトは本を抱
えて歩いていく少女に続いて奥へ向かおうとしたが、受付員に呼び止められ足を止
めた。
「あの、卒業生の方ですか? 入館受付をお願いします」
「ああ、はい」
 用紙を受け取り、名前、年齢、性別といった至って平凡な項目を埋めていく。連
絡先で僅かに迷ったが、泊まっている宿の場所を書いた。魔術の取り扱いに関する
簡単な設問に答え規定の入館料を支払うと、入館証は問題なく発行された。
「こちらの入館証は半年のあいだ有効ですから、次回からご提示いただくだけで結
構です」
「そうですか。ありがとうございます」アウフタクトは、その時は連絡先は変わっ
ているだろうなぁと思いながら頷いた。案外、こういった施設の入館手続きはいい
加減だ。学生時代に昼寝のために入り浸っていたからよく知っている。書籍の持ち
出しともなればそうはいかないだろうが……と思ったところで、気づいた。
「……本の借り出しとか、できませんよね」
「申し訳ありません、資料の持ち出しは学生の方のみとなっておりまして」受付は
申し訳なさそうに頭を下げた。アウフタクトは「そうですか」とだけ答えて書架へ
向かった。
 とりあえず資料を探して、図を書き写すか、面倒だったらそこら辺の学生を捕ま
えて借りさせればいいだろう。在学していた当時は、大人しそうな後輩を見つけて、
自分の貸出記録を残したくない本を一緒に借り出させる者は、いた。
 入り口を抜け、一望した光景は昔とさして変わっていないように見えた。古びた
木の書棚が並び、色褪せた背表紙が整然ながらも乱雑に押し込まれている。学院に
は複数の図書館があるが、ここはその中でも最も一般的な、魔術概論や歴史の資料
が蔵められている棟だ。蔵書が他と比べて専門化されておらず、入館基準が甘い為、
最も幅広い年齢層の学生の他、市井の魔術師や学者、時には暇な貴族や冒険者まで
が出入りする。
 館内は今はがらんとしていた。靴の反響音が懐かしい気がして目を細める。埃く
さい空気を循環させる魔術の機構が、天井付近で、羽虫のような微かな音を立てて
いる。そして、一度、はたと翼の音がした。見上げれば、目録帳の棚に文鳥がと
まっていた。
「……コロラトゥーラ」無声音で呼びかけると、鳥は振り向き、小首を傾げた。ア
ウフタクトは小声で続けた。「外で待っていなさい。動物を連れてきてはいけない
ので」
 鳥は、はたはたと羽ばたき、奥へと向かう。アウフタクトは誰にも見られなけれ
ばいいがと思った。階段の手前で案内図で目的の分野の資料がある階を確認し、階
段へ。書架は地下に配置され、深いほど専門性が強くなる。吹き抜けから見下ろす
階下は広く、開放的だ。鳥は翼を広げてゆるやかに降りていく。
 アウフタクトは階段を降り、目的の書架へ向かった。階段で、鳥がちぃと鳴いた。
更なる地下へ誘う様子に、アウフタクトは首を横に振った。どこへ誘おうとしてい
るのかはわかっていた。下層には禁書の収められた閉架があり、そこには嘗て読み
かけで放置したままの本がある。続きを読みたいと、そう思わないではなかったが、
もう何年も前に読んだ本の内容は殆ど覚えていなかった。再び忍び込むことは気乗
りしなかった。一度目は発覚しなかった。二度目はないだろう。
 鳥は幼子のような一途さでじっと視線を注いできていたが、ふいに顔を背けると、
小さな姿は階下へ消えた。アウフタクトは追わなかった。鳥は時折、好きに行動す
るが、決まって半日もせず戻ってくる。
 アウフタクトは踵を返し、書架の番号を眺めながら奥へ向かった。
 目的の資料はすぐに検討がついた。魔力や素質の分類や、それらの測定法や検査
器具の資料は充実していた。“用具の貸出は研究棟受付まで”と記された紙片が棚
の上部に貼られている。
「クロフト式……」呟きながら背表紙に手を伸ばし、ぱらぱらと中身を眺めて書架
に戻す。それらしい図がある本は、他の本の手前に立てかけて、次を探す。暫くそ
れを続けていると、不意に視線を感じた。アウフタクトは手にしていた本を閉じて
からそちらを見た。
 両手に本を抱え、困った顔をした少女が立っている。彼女はアウフタクトと目が
合うと、気まずそうに視線を逸らし、書架の間に去ってしまった。
 アウフタクトは散らかした本を眺め、彼女もおなじ分野に用があったのだろうか
と思った。だが本が必要ならまた来るだろう。たまたまおなじ目的の他人が本を散
らかしていたとして、どくのを一々待っているようでは、レポートや試験の度に貴
重な時間を無駄にすることになる。マナーの悪い学生などいくらでもいるので、対
処には慣れておいた方がいい。と、他人の要らぬ心配をして(それなら、そもそも
自分が散らかさなければいい)、資料探しを再開する。
 クロフト式診断機、と書いてある本を一通り調べ終わった頃、先程の少女が再び
現れた。取り分けておいた資料を集めていたアウフタクトは彼女を横目にし、立ち
去ろうとした。
 そして立ち止まった。本の借り出しはできない。近くにいるのは、気の弱そうな
少女だけだ。
 アウフタクトは振り向いた。「あの、今日、本を借りる予定ありますか?」
「え……あ、はい……?」
 少女は目を丸くして答えた。年の頃は十三歳か一つ上か。十五歳にはなっていな
いだろうというのは――根拠のない勘だった。大人と子供の境界線に、まだ足をか
けてはいないだろうと見えたからだ。その境界線とやらの定義もできないが。色気
がない、とは、身も蓋もない表現だが、そういうことでもある。
「それが、どうかしましたか?」と、少女は問いかけてきた。真面目そうな表情に、
警戒の色が浮かんでいる。アウフタクトは苦笑で場の空気を誤魔化そうとした。
「後輩から本を借りてくるよう頼まれたんですが、学生証がないので本を持ち出せ
ないことを失念していて。迷惑じゃなければ――まあ、迷惑でしょうが、一緒にこ
れ借りてくれませんかね」そして少女が抱えている資料に視線を落とす。少女は勝
手に表紙を覗かれたことに僅かな不快感を滲ませた。
「……そういうの、いいんですか?」
「よくない。けど、お願いします」
 少女は言葉を失った。
 アウフタクトは苦笑した。目的がわからない相手に何を言われても信用できない
に違いない。「ベニントン教授の研究室で、これの」と書名を示す。「再現実験し
てるんですよ。それに本が必要で。代わりにレポートか何かなら手伝いますよ。一
応、大学部には通ってたので……」基礎科目ならまだなんとか覚えている――無理
でも研究室の元少女に押し付ければなんとかなるだろう。
 喋りながら今の自分は不審者そのものだと思ったが、きっと気のせいだ。

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2010/02/08 21:31 | Comments(0) | TrackBack() | ○モザットワージュ
モザットワージュ - 5/マリエル(夏琉)
PC:マリエル、アウフタクト
場所:魔術学院(図書館)
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「わかりました。でも、レポートのお手伝いは必要ありません」

 マリエルは、青年の申し出に固い口調で答えた。

 ベニントン教授の名前なら聞き覚えがあった。講義を受講したことはまだないが、文献
を参照しているときに、見かけた名前だ。
 資料を代わりに借りるというのは抵抗を感じたが、青年の申し出を断れるほどの強い理
由をマリエルは持っていなかった。

 青年の持っている本の中にはマリエルが必要としているものも混ざっていたが、まだレ
ポートの期日までは時間がある。とやかく言うよりは、あとで代替策を考えたほうが面倒
が少ないだろう。

「ありがとうございます。助かります」

 青年が礼を述べ、それにマリエルは少しほっとする。

 自分が困っているときに助けを求めた場合ならともかく、自分の力でなんとかできる課
題に対して、助力を申し出られたことに戸惑いがあったのだ。

「私も、借りにいくところだったので、一緒に持っていきますよ」

「いえ、カウンターまで持っていきます。手続きのときは、お願いしますが」

 マリエルの抱えている本の量をちらっとみて、青年が言う。
 資料を探しているときに見かけた青年の様子からは、よい印象を受けなかったのだが、
基本的には親切な人なのかもしれない、とマリエルは思う。

 マリエルが先が貸出カウンターに向かって歩きだすと、青年が後ろについてくる形になる。

 青年の話を信じるならば、彼はここの卒業生か何かで、現在は部外者ということになる。
だとしたら、内部の人間のマリエルが案内するような形になるのは当然なのかもしれない。
しかし、年長の人間の前を歩くという慣れない立ち位置に、背中がむずむずするような違和感を覚えた。

「え…」

 入口に近づいたところで、マリエルは思わず足をとめた。

 いつもなら、本棚の向こうに貸出カウンターが見えてくる場所なのだが、
 本来ならば、カウンターがあると思っていた場所には、見慣れない本棚が並んでいた。

 場所を勘違いしたのだろうか。
 しかし、概論や解説書が納められているこの図書館は、以前から何回も利用している。
貸出カウンターへの行き方も、ほとんど考えずに移動できるくらいだ。

「すみません…本を借りるのはこっちだと思っていたんですけど、勘違いしていたみたい
です。さっきの場所の反対側に行ってみればいいでしょうか?」

 マリエルは振り返って青年に話しかけた。



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2010/06/13 02:05 | Comments(0) | TrackBack() | ○モザットワージュ

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