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2024/04/30 08:01 |
へザーその1/ヘザー(周防松)
PC:へザー
NPC:子供とその母親
場所:どっかの街

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とある街の川にかけられた橋。
その欄干に寄りかかり、すぼめた両手をぴたりとくっつけ、それを長いことじっと見
ている、フードをかぶった少女がいたら。

あるものは気付きもせず通り過ぎ、またある者は怪しいと思って近寄らず、またある
者は何かとても辛いことがあったのだろうなと同情を寄せ、またある者は。

「ねーねー、何してるの?」

――真相を確かめようとするだろう。

声をかけたのは、古ぼけたぬいぐるみを片手に持った子供である。
少女は、ゆっくりとした動きで顔を動かし、子供を見た。

「こんにちは、ですの」

そして、にこり、と笑う。

「こんちは! ねーねー、何してるの?」

子供は同じ質問を繰り返す。
少女は微笑みの表情を変えぬまま、そっと己の両手を子供の前に差し出した。

子供がのぞきこむと、両手の中にできた空間に小さな小さな赤い蝶がいて、羽根を閉
じたり開いたりしていた。
子供は、今までそんな色の蝶を見たことがなかった。
――捕まえて、もっと近くで見たい。
子供は少女の了解を得ようともせず、指を差し入れた。
「あっ」
子供の口から、かすかな声がもれる。
指が触れた途端、蝶はかき消えてしまったのだ。

「消えちゃいましたわ……」

がっかりした顔つきで、少女はうなだれる。

「ご、ごめんなさい!」
「いいんですの。まだまだへザーさんは“みじゅくもの”だから仕方ないですわ」

へザーさん、と言ったかこいつ。

子供はきょとんとエルフ族の少女を見上げる。

自分は、名前で自分のことを呼ぶのは、とっくに卒業した。
それなのに、自分より年上にしか見えないこいつは、今確かに「へザーさん」と言っ
た。
へザーというのはおそらくこいつの名前だろう。
名前で自分のことを呼ぶうえに、「さん」までつけるとは。

……変なやつだ。

子供はぽかーんと見つめるより他になかった。

少女の方もニコニコ笑ったまま、子供を見る。

……悪意も敵意もないが、意味もない見つめ合いがしばらく続く。

「何やってるの、早く来なさーい!」

そのうち、母親らしい女性に呼ばれ、子供は走り去っていった。

へザーというらしい少女は、子供の後ろ姿をしばらくぼんやり見ていたが、そのう
ち、再び両手をすぼめてくっつけると、視線を落とした。
その手の中に、ゆっくりと形を現してきたのは……小さな青い魚。
魚は、手の中を泳ぐがごとく、ちろちろと動き始めた。


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2008/03/05 19:07 | Comments(0) | TrackBack() | ○ヘザー

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