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2024/04/30 04:25 |
消えない足跡:-1/トウヤ(ミキ)
PC: トウヤ(PL:ミキ)
NPC: サーカス
場所: カルマーン


その物語は壮大ではなかったかも知れない。


『ぼくのこの短い腕で出来る事なんて限られてるんだ、結局。』


その少年は強くなかったかも知れない。


『いつまで人に守られ続けてるの?!大切なモノがあるなら自分で守りなさいよ!』


その少年は賢くなかったかも知れない。


『ミキさん。ぼくはどうしたらいいの・・・・?』


それでも、この旅は少年の人生を大きく変えた。



2006年秋、テラロマが贈るワクワクファンタジー!
剣と魔法の世界で繰り広げられる少年達の命の花火!
題名未定!!現在台本執筆中!!

この秋、キミと少年の世界は広がる!





木漏れ日が眩しくてぼくはカーテンを閉めるために身を起こした。
なんだか不思議な夢を見ていた気がする。まぁ、所詮夢なんて夢か。
カーテンに手をかけて窓から外を覗くと、沈む夕陽と真っ赤にそまる街並みが見えた。

普段真っ白なカルマーンの道路や、無駄に自己主張の高い煌びやかな屋敷たちが、
一緒に夕陽の色に染まって、次第に空と共に黒くなっていくのをぼくはのんびりと見入ってしまった。
ふと、視線を落とすと道路に中の良い友人の姿が見えた。どうやらうちの屋敷に向かってくる所らしい。
ぼくはさっきまで寝ていたし、こんな時間だからきっと入れて貰えないだろう。
ぼくは窓を開けて3階の窓から、屋敷の門に張り付いている門番に向かって叫んだ。

「アイン!カークを入れてやってくれ!ぼくが呼んだんだ!」


ぼくの名前はトウヤ・アルゥ・セルシエナ。
ガルドゼント王国の貿易商セルシエナ家の長男だ。
年齢は13歳。趣味は読書。特技は勉強。
ぼくははっきり言っておぼっちゃまだ。
一代で富と地位を築いた立派なパパ、面倒見の良いママ、
仕事は何でも確実にこなす執事達に囲まれ、ゆくゆくはパパの跡を継ぐ。
欲しいモノは何でも手に入る、何も怖くない。
そんなどうしようもない金持ちのぼんぼんだ。
本の中の知識ばかり詰め込んで、本当の世の中のことは何も知らない。

「トウヤおぼっちゃま、サーカス様をお連れしました。」

「カーク、入ってくれ。」

ぼくは相変わらずベットに寝たまま半身を起こし、ぼくの友人を迎えた。
サーカス・アルゥ・ミリアム。ぼくはカークと呼んでいる。
彼はぼくの友人。ぼくの良き相談相手だ。
ぼくは少し前、彼にある頼み事をした。その報告に来てくれたのだろう。
無言で手招きして近くのイスに座らせ、ぼくは彼の言葉を待った。

「トウヤ、要望通りに依頼を出しておいたよ。馬車も食料も備品も用意した。」

ぼくは歓喜で飛び上がりそうになったけれども友人の手前上ぐっとこらえた。

「人間必ず死ぬのに、こんな平和ボケした生活ばかり続けるのはつまらない。
 だからぼくは旅に出たかったんだ。カーク、ありがとう。」

「トウヤ、本当に行くのか・・・・・」

「ああ、ぼくには時間がないんだ。16になるまでにもっと人生を楽しみたいんだ。」


「・・・・・・・今日はそれを伝えに来ただけだ。」

立ち上がり部屋を出ようとしたカークにぼくは言った。

「そうか、ありがとう、カーク。」

「明日、またギルドに行ってからくるよ。おやすみ。」


ぼくは旅に出たかった。北の村に住む姉のミキさんに会いに行きたかったし、
出来れば国外にも出てみたかった。色々な場所を旅したかった。
だから、カークに頼んで、旅のための馬車や護衛を3人雇った。
雇ったというかギルドに護衛の依頼を出させた。
女性の冒険者がいれば旅の間に仲良くなれるかも知れない。

どんな冒険が出来るのだろうか、どんな世界がぼくの前に広がるのか。
ぼくは旅が待ち遠しくてたまらなくなった。
ぼくは棚に並べた、有名な冒険者の探検記をとりだし、
ランプをつけて、来る自分の旅の参考にするために読み始めた。

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2007/02/12 21:14 | Comments(0) | TrackBack() | 消えない足跡
消えない足跡 0/カロリーナ(千夜)
PC:カロリーナ
NPC:フォガス
場所:カルマーン

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 時間を浪費する罪悪感がいつも目の端にいて、煩わしい。
 パティオでだらだらとお茶を飲みながら思う。
 あの生活も、悪くはなかった。日が昇る前に起きて水を汲み、日が暮れるま
で戦闘訓練。時々は遠征に参加して死と隣り合わせに戦う。そしていつかは命
を落とす。それは日常であって、日常である限り苦痛はなかった。厳しく、優
しい両親。命を預けられる仲間。スリヴァン家の長女として慕ってくれる町の
人々。そしてアレク。私は、恐らく幸せだった。日常が、非日常に変わってし
まう瞬間まで。
 家を飛び出した途端に、私は途方に暮れてしまった。ある人物を探し出すつ
もりだったのだが、幼い頃から戦う術しか教わらなかった私には、名前さえ知
らない人物を一体どう探せばよいのかまるで分からなかった。やがて持ち出し
たお金も尽き、一時は本当にこのまま行き倒れてしまうかと思ったが、冒険者
ギルドに登録することで何とか日銭を稼いでいる。
 だが、未だに途方に暮れていることには変わりはない。探す人は、その手が
かりすら見つからない。
「お待たせしました。クランベリーチーズケーキです。それと、この干菓子は
サービスです。ごゆっくり、カロリーナさん」
 私は顔なじみのウェイトレスに礼を言って、フォークを手に取った。濃厚な
チーズと、爽やかなクランベリーの風味が口の中に広がる。
 お茶を一口啜って、このままずっと途方に暮れているのも悪くはないかな、
と思い始めている自分を自覚した。

 日が暮れ始めて、カフェがバーに姿を変える頃になって、ようやくカロリー
ナは腰を上げた。
 熟れる前の青白い月が、所在無げに空に佇んでいる。
 熱気の引きはじめたカルマーンの町はどこか現実感を失っていて、カロリー
ナは少し不安を感じた。足早に、歩く。
 たどり着いた先は冒険者ギルドと提携している宿屋であった。
「こんばんは、フォガスさん」
「ああ、カロリーナちゃん。いらっしゃい」
 マスターへの挨拶もそこそこに、依頼の張り紙が掲示されている一角へ進
む。
 カロリーナはしばらく張り紙を眺めていたが、やがてその中の一枚に目を留
めた。
「フォガスさん、これなんだけど・・・」
「ああ、そいつは今朝来たばかりのヤツだ。条件はそこそこいいんだが、ほ
ら、ちょっと遠いだろ? 護衛した後、帰って来るのが一苦労だ」
「でも、帰って来ないのなら問題ないわ」
 宿屋のマスターは少し目を大きくしてカロリーナを見た。
「そうか、そうだな、確かに。馬車に乗れて、しかも金までもらえる。最高の
移動手段だ」
 言いながらも、マスターの声には寂しさの響きが含まれていた。
「正直、オレはカロリーナちゃんはここに根を張るものだとばかり思っていた
んだが。カルマーンは良い町だろ? 36年住んできたオレが言うんだ。間違い
ない」
「ええ、私もそう思うけれど、でも、前に話したでしょう? 探している人が
いるの」
「じゃあ、何か手がかりが?」
 首を横に振るカロリーナ。
「案外、この町にいるかも知れないぜ? 灯台元暗しってな」
「でも、行かないと。そうしなければ私は、ここに住み着いて静かに暮らした
いと思ってしまう」
「もう、思ってるんだろう? そうしたらどうだ。名前も分からない赤の他人
を闇雲に探すより、ずっといい」
 また、首を横に振るカロリーナ。
「故郷に住む大切な人たちを、私は裏切れない」
 カロリーナはいつもの淡々とした表情。マスターはそれは数刻見つめていた
が、無言でカウンターに引き返すと、詳しい連絡先が書かれた紙を取り出して
カロリーナに渡した。
「ありがとう、フォガスさん。本当にお世話になったわ」
「いや、悪かった、引き止めるようなことを言って」
「いいの、うれしかった」
 そうして、その日の夜は更けていった。
 それは一つの別れであったが、同時に物語の始まりでもあった。

2007/02/12 21:15 | Comments(0) | TrackBack() | 消えない足跡
消えない足跡:1/トウヤ(ミキ)
PC:トウヤ(PL:ミキ)、カロリーナ(PL:千夜)
NPC:サーカス、カイン、ライアン、エリザベス
場所:カルマーン

朝食時を過ぎたカフェは人が少ない。と思っていたのだがそれはどうやら間違
いのようだ。
ぼくとタークの二人だけで五人分のテーブルとイスを確保しているのが申し訳
なく思えるぐらい、
カフェは客でにぎわっていた。隣のテーブルを見る限りでは、みな遅めの朝食
が目当てらしい。
知り合いに会いたくなかった、冒険者ギルドのならず者と待ち合わせをしてい
るところを知り合いに見られたら、
ぼくの行き先がばれるのもかなり早くなってしまうはずだ。
だから、ぼくの似合わない安いカフェで、カークの服を借りて着ているのだ。
カークの方は逆に、ぼくの持っているような品格の高い服はあまり持ち合わせ
ていないらしい。
そこは身分の違いだし、それを超えてぼくはカークを良き友だと思ってる。

「こんな時間に朝食とは・・・・どうせ夜遅くまで酒ばかり飲んでいたんだろ
うな。
 貧しい人間は時間を有効に使う力も貧しいんだな。夜早く寝れば朝日がとて
も気持ちいいのに。」

「夕陽が暮れると共に目覚めるトウヤからそんな言葉が聞けるなんてね。」

「この旅のために朝早く起きる生活にしてみたんだ。
 あんなに早起きが清々しいモノだとは、思っても見なかったよ。」

苦笑しながら、ぼくはカークがさっきくれた紙に目を落とした。
その紙にはカークが調べてきてくれた冒険者の名前と経歴のようなモノが書い
てあった。

まずは、ライアン。ファミリーネームはないのか、身分はきっと平民以下だ
な。

「なぁ、このライアンってヤツは、元騎士って書いてあるけどどういうこと
だ。
 しかも人情深く女子供に優しい、それで居て努力家?こんな騎士向けのヤツ
が何で今も現役じゃないんだ。」

「分からないよ。」

「辞めたか、辞めさせられたか、とにかく何か事情があったんだろうな。信用
できない。」


ぼくがサーカス・アルゥ・ミリアムをタークと呼ぶのは親愛を込めてだ。
短い呼び名は親近感を感じさせる。
だが呼びやすいのにはもう一つ利点がある。それは命令しやすいことだ。
立場の上の者が下の者の名を略して呼び、逆に立場の低い者は高い者に対し
て、
ミスターやマスターなどつけて呼び、自分の意見や報告を的確に伝えるのだ。
それが、ある世界ではルールになっているのだとパパから教わったことがあ
る。
ライアン、この男の呼び方はライでいいかな。

次の男はカイン・アデル。
金に強欲な男。金を払えば何でもする。と書いてある。
こいつも信用ならないやつだな。マシなのは居ないのか。不安になってきた。
それでも持っている金には少し自信があった。
この旅のために、自分の持ち物や家の安い調度品を売り払った。
買い与えてくれたパパには悪いとは思ったが、金がないのが理由で旅を失敗さ
せたくない。
この旅は、他人から見たらたいしたこと無いかも知れないけれどぼくにとって
は大切だった。
ぼくはあと二年とちょっとしか・・・・・それなのに一生家と学校の往復ばか
りしているのは耐えられない。

呼び方はキーンで良いかな。
次は女性だ。カロリーナ・スリヴィエ。
人柄が掴めるほどこの街のギルドには長くいるわけではないらしい。
この人だけランクがDなのはおそらく、女性は腕より美貌で選べとぼくが言っ
たからだろう。

「このカロリーナってのは、美人なんだろうなぁ。」

「多分ね。私だって会ったこと無い。オヤジどもには評判が良いらしい。」

「年は幾つぐらいなのか分からなかったのか。」

「女性の年を知るのがどれだけ大変か分かってないね・・・。」

「知るか。」

まぁ、長旅の間に仲良くなれるだろう。
ぼく自身が長旅に耐えられるか心配だが、寂しくなったと泣きつけば案外簡単
に落ちるかも知れないな。
それとも頼りない子供より、同行する別の男の方が女性にとっては魅力的なん
だろうか。

ぼくからみんな離れていってしまうのだろうか、ミキさんのように・・・・。

「ところでカーク・・・・。」

「ん、なにか?」

「・・・・ここまでぼくに付き合ってくれてありがとう。お陰でずっと願って
た旅に出られる。
 でも、本当に一緒に来るのか。護衛を雇ったんだから別に付いてきてくれな
くても良いんだぞ。」

「いや、絶対に付いていくよ。ここでトウヤを一人で行かせたら、もしかした
らもう二度と会えないかも知れない。
私はトウヤの最後の時まで、ずっといっしょにいるんだ。だから一緒に行かせ
てくれ。」


「カーク、何があるか分からないんだぞ。」

「大丈夫さ、トウヤより先には死なない。最後の時まで絶対一緒だ。」

「だといいが。」

「・・・・・。なぁ、トウヤ。実は・・・・・」

カークの言葉を遮って、男が一人話しかけてきた。

「もしかして、トウヤ・アルゥ・セルシエナかな。」

「ぼくがそうだ。ギルドの者かな?」

「驚いた、まさかこんな子供だったとは!」

「子供でも依頼人だ、口を慎んでくれ。」

「ははは、言うねぇ。私はカイン・アデルだ。よろしく。」

「よろしく。まぁ、かけたまえ。こっちはぼくの友人だ。」

カークの紹介をしようとしたとき、近くのテーブルに座っていた男女が飲み物
を持って立ち上がった。
そしてこっちを見ながら歩いてくる。
男の方は太い腕に、厚い胸板で、頭まで筋肉かいと聞きたくなるくらい体中ム
キムキだった。
そして女性の方は、男に比べたら子供のように小さかったけれども、きっとぼ
くより背は高い。
綺麗な人だったが、顔に染みついたような冷たい表情のせいで、ぼくにはいま
いちぴんと来ない。

「もし、セルシエナ殿かな。」

「いかにも。ライアンにカロリーナだね。かけたまえ。」

カークがぼくの隣にずれ、三人と向き合う形でテーブルに着いた。
ライアンとカトリーナは確かぼくらより前から居たはずで、
ぼくが依頼人だとはきっと微塵も思わなかったんだろうな。

「改めて、ぼくがトウヤ・アルゥ・セルシエナだ。こっちは友人のサーカス・
アルゥ・ミリアム。」

「よろしくお願いします。」

「ぼくのことは、マスターと呼んでくれ。」

「こんな子供がマスターか。これは暫く楽しくなりそうだ。くっくっく。」

キーンめ、子供扱いしやがって。いつか立派な大人になって見返してやりたい
な。
大人になれるものなら・・・・。いや、年じゃないさ、この旅でぼくは大人に
なるんだ。


「ライアンとカトリーナは知り合いなのか?」

「ええ、一度仕事であったことがあるの」

「そうか、よろしく。みな旅の準備はもう出来てるか?」

「荷物はまとめてありますが、まだ宿屋に置いてありますよ。」

「カフェになんて持ってくれるかっての。」

ぼくは持ってきてしまったよ。カークと出かけてくるとママに行って家を出
て、
ばれないよう用意しておいたスーツケースをもって家を出てきたのだ。

「じゃぁ、一度とってきてくれ。キャメロンという馬車小屋で合流しよう。」




「カーク・・・・・・まさか、さっき言いかけていたのはこのことか?」

「すまない。」

「どうしてこんなことに!」

「すまない、ついつい話してしまって、そしたら付いていくって聞かなく
て。」

ぼくはいま馬車小屋にいる。カルマーンの中央通りに面した比較的寂れた馬車
小屋だ。

そこにはカークが用意してくれた馬と、馬車だけが用意されているはずなのだ
が、
スーツケースを引きずってたどり着いたぼくらを待っていたのは、
馬に話しかけながらブラシで背中を撫でる、良く見知った女の子だった。

「あ、やっときたのー?遅くて待ちくたびれちゃった!」

「エリ、なにをやってるんだ。」

「む、あたしはずっと待ってたのに、全然来ないからブラシ借りてお馬さんの
世話してたのよ!」

エリザベス・マルゥ・マックウィルソン。
ぼくとタークと同じ学校に通う、仲の良い友人だ。
たしかタークがお熱だったはずなんだが、まさか危険な旅に連れて行く訳じゃ
ないだろうな。

「昨日はね、ワクワクして眠れなかったんだ~」

「じゃぁ眠いだろう、今から帰って寝ると良いよ。」

「あれ、まだ今日は出発しないの?」

来るつもりだったのか、やっぱり!
タークめ、何を考えているんだ。

「本当にすまない。」

ああ、首っ丈だからダメとは言えないのか。惚れた男の弱みだなぁ。
でも女の子を連れて行けるような軽々しい旅じゃないし。
エリの親は・・・・ああ、そうか、駄目な飲んだくれ親父が一人だったな。

「いえ、これから出発のはずですよね」

「なにー!トウヤってば騙して置いてきぼりにしようとしたなぁ!」

誰が余計なことを、と振り向くと居たのはキーンだった。
金に強欲、という文句にはそぐわない、優しい微笑みをエリに向けていた。

「絶対行くんだから!あたし一人だけ留守番なんて絶対ヤダよ!」

「といってますよ、マスター。大丈夫、安全は保障しますよ。払う金を払って
くれればね。」

エリに聞こえないよう、キーンは囁いた。
やはり金のことを考えていたのか、くそ、一瞬でも微笑みに愛情のようなもの
を感じたのは、
金のためなら表情も作れると言ったところなのだろうか。

「なんのことだい。」

「いやですねぇ、マスター。お二人様護衛の依頼が三名様になるんですよ?」

「つまり依頼料を増やせと言うことかな。」

「頂けないならお坊ちゃま方お二人だけを護衛するだけですから。」

「・・・・・二割増やせばいいか?」

「二人が三人ですよ、五割り増しでお願いします。」

「三割だ。」

「五割いただきます。」

金を渡せば何でもやる男、逆にいえば金がなければいつ裏切るか・・・。
金の量に答える男なら多く渡しておかないとまずいかもしれない。

「四割増しでどうだ。」

「その四割、前渡しして貰えますか。」

「逃げる気じゃないだろうな。」

「逃げませんよ、ただ頂いたら預けに行きますが。」

ランクCの冒険者だ、こんなところで依頼をすっぽかすわけがない・・・。
ぼくはちらっとエリの方を見た。今はカークと二人して馬車の荷物の点検をし
ている。

カークはエリを説得しているつもりだろうが、ここからは馴れ合っているよう
にしか見えない。
この旅で二人が仲良くなれたらそれも良いかもしれないな。
ぼくには未来はない、この旅はぼくの自己満足。でも、二人の間に残る何かが
あるなら・・・・。

ぼくは、金貨を入れた袋から何枚か硬貨を取り出してキーンに手渡した。

「すぐ戻りますよ。荷物はここに置いておきますね。」

そういってキーンは外へ出て行った。
入れ替わりにカロリーナが入ってきた。

「やぁ、実は旅の仲間が一人増えたんだが、いいかな。」

「私はかまわないわ。」

そう言い捨ててカロリーナはぼくの隣を通って馬車に向かった。
同じ女性が来たのでエリが喜んでカロリーナに話しかけ始めた。
鉄砲のように放たれるエリの言葉をカロリーナは淡々と短く返す。
それでも女性二人の会話というのは男性には入りにくいもののようで、
タークが居心地が悪くなったらしくこっちに戻ってきた。

「金を渡したのかい。」

「ああ、渡さないとどうなるか分からないからな。」

「すまない。」

「まぁ、賑やかになったし、これで道中飽きることがないだろ。」

話していると、ライアンが大きな荷物を持って入ってきた。

「皆さんお揃いですか、遅れて申し訳ありません。」

「ライアン、一人女の子が増えたんだが、構わないかな。」

「それは賑やかになりそうですね、カロリーナさんも女性が増えて安心でしょ
う。」

ガシャンガシャンいう自分の荷物と、置いてあったキーンの荷物を軽々と持っ
て、
馬車に積み始める、ライアン。どうやら悪いヤツじゃなさそうだ、頼りにな
る。
ぼくとタークの荷物を積み終わった頃、キーンも戻ってきた。
ぼくはキーンに聞こえるようにだけつぶやいた。

「他の二人は追加で金なんて必要ないみたいだよ?」

「それは良かったですね、マスター。ですがいざというとき私は命など惜しく
ありませんよ。
 私は金さえ頂ければ、何でもしますので、覚えておいてください。」

この人は何のために生きて居るんだ。ぼくはそんな疑問が浮かんだ。



「予定通り、まずは北のハイゼンに寄る。そしてその後、ソフィニアに向か
う。さぁ、出発だ!」

馬車に馬を繋ぎ、ぼくは出発の声を叫んだ。
馬車小屋を出て中央通りを北へ登る。まずは門から街を出なければならない。
街を出る者に対して警備は厳しくない、ぼくら子供の行き先がばれぬように、
馬車の中で見つからないようにしていた。
ぼくは遠く、小さくなっていくぼくの生まれた街を見るのが楽しみだったのだ
けれども、

街を出てすぐ森に入ってしまったため、気が付いたらもう街は見えなくなって
いた。
ちょっと寂しくなったけれども、ぼくにはもう旅の仲間がいたから辛くなかっ
た。

実は、昨夜はなかなか寝付けなかった。
見知らぬ人間と旅に出なければいけない。
ぼくは死なないけれども、売られて一生奴隷として働かされ、
16になったとたん過労死なんて事があるかも知れないと思っていた。
それにぼくが大丈夫でもカークのことは心配だった。
期待より不安に押しつぶされて夜を過ごした。
でもいまは、期待で胸がいっぱいになっている。
賑やかな、ぼくのこの世で一番仲の良い友達二人と、
金のためだけどこうして微笑みあいながら共に歩める仲間がいるから安心だ。
そう思ったら急に眠気が襲ってきた。

「さっそく馬車酔いしたみたいだ。しばらく寝かせてくれ。」

「そうですか、遅めの昼食の時間には起こしますよ。ゆっくり休んでくださ
い。」

マスターをつけろ、という前にぼくは眠りに落ちてしまった。


2007/02/12 21:16 | Comments(0) | TrackBack() | 消えない足跡
消えない足跡 2/カロリーナ(千夜)
PC:カロリーナ トウヤ
NPC:サーカス エリザベス ライアン カイン
場所:林道

___________________________

 既に夜営も三度目。道中は穏やかであった。
 地図によれば道から外れたところに水辺があるらしく、ライアンとカインが
水を汲みに行くことになった。
「残ったのは女子供か。まぁ、あの陰気なレディに力仕事は期待できないから
仕方ないが、あまりのんびりはしない方がよいな」
 前を歩くライアンに話しかけるカイン。
「確かに、早く戻るに越したことはありませんが、彼女なら大丈夫です。余程
のことがない限り心配ありません」
 妙にはっきりと言い切るライアンに、カインは眉をひそめる。
「そういえば、前に仕事で会ったとか言ってたな」
「はい。丁度一年くらい前だったと思います。その頃私は傭兵として戦争に参
加していて、彼女もそうでした。そして、ある戦で同じ陣営で戦いました」
 その時のことを思い出しているのだろう。ライアンは目を細めて森の暗がり
を見つめているようだった。
「カイン、彼女の戦闘スタイルをどのように推測します?」
「推測も何も、弓しかないと思うが。肌身離さず持ってるじゃないか。見た限
り他に武器はなさそうだし、まぁ魔法の心得があってもおかしくはないが」
「そう、彼女はよく弓を使う。しかし、あなたは矢を見ましたか?」
 記憶を辿るカイン。思わず足を止めてしまう。
ない。確かになかった。矢がなければ弓など何の役にも立たない。ではなぜ?
 なぜ彼女は弓だけを持っているのか。
「傭兵団の中で、彼女は『魔弓の射手』と呼ばれていました」
「魔弓だって? あれが? 俺はそっちの方面には詳しくないが、随分と安っ
ぽい魔弓があったものだな」
 カロリーナの持つ弓は、特に何の意匠もないありふれたものだった、ように
思う。
「私はこの目で見ました。彼女が弦を弾くと、一人、また一人と敵兵が倒れて
ゆくのを。そして、彼女の戦術の本質は弓での遠距離攻撃ではない」
「何なんだ?」
「口止めされています。『敵を欺くにはまず味方から』だそうで。・・・いず
れ目にする機会があるかも知れません」
 いつの間にか二人は完全に足を止めて話し込んでいた。
 来た道の方から微かな悲鳴が聞こえたのはその時であった。

 時はやや遡る。
 焚き木を囲む四人。トウヤとサーカスはカルマーンの思い出や、まだ見ぬ希
望の地について語り合い、カロリーナはどうやら木に彫刻をしているらしい。
エリザベスはその手元をじっと見ている。
「すごい・・・どうしたらそんなに上手く彫れるんですか?」
「もう、随分長い間続けてるから・・・私がこれを始めたのは五つか六つの時
だったわ。それに、とても腕の良い先生がいたの」
 エリザベスは出来上がった小さな鳥を見てしきりに感心している。女性二人
ということもあって、彼女たちは大分打ち解けているようだ。
 その様子を見ていたサーカスがエリザベスに声を掛ける。
「エリザ、私にも見せてくれないか?」
 はい、と手渡される小鳥。
 トウヤとサーカスはそれをまじまじと見て、思わず感嘆の声を上げる。
「これは、すごいな。屋敷にも高名な彫刻家の作品がいくつかあったが、それ
に引けをとらない」
「カロリーナさんは、どうしてこんな危険な仕事をしているんです? これだ
けの腕があれば工房で働けるんじゃないですか?」
「・・・・・」
「カロリーナさん?」
 カロリーナは無言で手元の弓を取った。何かを察したサーカスが後ろを振り
返り、釣られて残りの二人も振り向く。
 エリザベスが悲鳴を上げた。

 駆けつけたライアン達が見たのは、刃物を突きつけられて縛られようとして
いる四人だった。
 二人は茂みに隠れ、様子を伺う。相手は旅人を狙う盗賊団のようだ。数
は・・・六人。
「何が心配ありません、だ。ライアン、どうする?」
 ふむ、と考え込むライアン。頭の中身まで筋肉のように見える彼だが、その
実思慮深いようである。
「彼女ならこんな盗賊団物の数ではありません。しかし戦おうとしない」
「武器がないんだろ」
「いえ、弓は足元にありますし・・・・彼女に武器は必要ない」
 その間にも四人は縛られ、馬車から荷物が運び出されてゆく。
「おい、早くどうにかしないと、あいつらは売られるか殺されるかのどちらし
かないぞ」
「そうですね・・・きっとそうだ。恐らく彼女はそれを待っている。行きまし
ょう。正面から」
「こっちは人質を取られてるんだぞ?」
「大丈夫、心配ありません」
「お前の『心配ありません』はあてにならない」
 そう言うカインを無視して、ライアンは茂みから飛び出した。カインも慌て
て後を追う。どうにでもなれ、と呟きながら。
 盗賊団は二人が姿を現すなり、人質に向けた刃物を近づけ、二人を牽制し
た。
「武器を置け、こいつらの命が惜しくなければな」
 あっさりと武器を置くライアン。それを倣うカイン。
 二人の登場に期待の表情を見せたトウヤは、再び絶望の色を浮かべ、エリザ
ベスに至ってはほとんど泣き出しそうである。そんな中でカロリーナだけが平
然としていた。
 武器を地面に落とした二人に近づく四人の盗賊。彼らが人質がからやや離れ
た時、カロリーナが動いた。
「・・・・・・っ!」
 声にならない悲鳴を上げながら、喉を切り裂かれた二人の盗賊が倒れる。カ
ロリーナ達に刃物を向けていた二人だ。ライアンとカインに近づく四人は気づ
かない。
 カロリーナは足元にあった弓を取って、矢もなしに、射る。風切り音がし
て、背を向けていた盗賊の延髄に透明な何かが突き刺さった。
 異変に気づいて振り返った三人だが、その瞬間に四人目の犠牲者が出た。い
つの間にかに二人だけになっていた盗賊たちは混乱しつつも、身構える。そし
て武器を拾い上げたライアンとカインに一人ずつ後ろから殺された。
 全ては一瞬の出来事であった。トウヤ、サーカス、エリザベスの三人は何が
起きたのか分からず、ただ呆けている。
「水は?」
 沈黙を突き刺したのはカロリーナの平坦な声であった。
「いや、途中で悲鳴が聞こえて・・・・」
「そう。まだ多少余裕があるのだし、あきらめて移動しましょう。ここに留ま
るのは、この子達に良くないわ」
 そうだな、と呟いて、カインは冷たい汗が背中を伝うのを感じた。
「あれが彼女の能力です。何もないところから透明な武器を作り出す・・・・
知らない相手はひとたまりもありません」
 一行は慌しく薄闇を移動しはじめた。
 馬車の中は奇妙な沈黙に支配されている。この夜はこれで終わったが、それ
は本当の始まりの前の、ささやかな余興でしかなかった。


2007/02/12 21:16 | Comments(0) | TrackBack() | 消えない足跡

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