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2024/04/30 04:24 |
蒼の皇女に深緑の鵺 01/セラフィナ(マリムラ)
PC:セラフィナ ザンクード
NPC:
場所:カフール国境近辺
―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 前日まで、酷い豪雨が続いていた。少なくとも、カフールへ急ぐ旅人が宿に
連泊するほどには、一帯は旅に不向きな環境であった。雨の勢いは強く、数件
離れた家も霞んで見える。窓をぼんやり眺め、それでも風がないだけましなの
だろうか、とセラフィナは考える。横殴りの雨ではなく、上から叩きつけられ
るような雨。修理の追いつかない宿の一角では、雨漏りが奏でる水滴の音が止
まずに響いている。もう何日降り続いていただろうか……急いで馬を駆ってい
たときには考えないようにしていた顔が浮かんでは消えた。何事もなかったか
のように目の前に現れ、笑いかけてくれたらどんなにいいだろう。だが、自分
が突き放したのだ。彼を危険に晒さずに済むようになるまで、会いには行けな
い。

 そんなもやもやを抱えたまま、さらに数日が過ぎ、ぬかるんだ大地にようや
く雲間から光が差し込んだ。

「……まだ止めといたらどうだい。足場が悪いし、馬が滑ると怪我するよ?」
「いえ、ちょっと急いでいるものですから」
「そうかい? 無理に引きとめはしないが、気を付けな」
「ありがとうございます」

 雨が止んで、一番に身支度を整える。祖国カフールへ戻るために。
 セラフィナは宿を出て街道を少し進むと、馬を山道の方へ向けた。今でもセ
ラフィナの命を狙っているものがどこかにいて、帰国を阻止しようとしている
はずだった。だから、街道沿いに国境を越えるわけにはいかない。普段人通り
のない山から入った方が無難だろう、という判断だった。

「この辺まで来れば、後は東へ向かえばいいはず」

 口に出しながら、雲間に途切れ途切れに顔を出す日の位置を確認する。もう
随分カフールへと近づいているはずだった。

「!?」

 川を渡ろうと浅瀬を探していたところ、上流に倒れた人のような姿が見え
た。豪雨のせいで川は増水し、川幅も広くなっている。もちろん流れも速い。
すぐにでも助けに行きたいところだが、その人影は泥にまみれ、反対側の川岸
に流れ着いているようだった。小さく唇を噛む。

「馬は渡れそうにないですね……」

 優しく馬を撫でると、馬具の後ろに積んだ旅支度を解き始める。毛布や携帯
食料の入った背負い袋を下ろし、縛っていたロープを解く。ロープは細めだ
が、長く丈夫なものだった。先に鉤状の爪が付いている。そのロープをヒュン
ヒュンと音を立てながら数度振り回すと、向こう岸へ投げた。そして頃合を見
計らって軽く引き寄せる。迫り出した木の幹に三度巻きつくと、鉤爪は狙い通
りにロープを固定した。セラフィナが安堵の息を漏らす。

 実際はここからが大変なのだ。ロープのもう片方の端をこちら側の木に結び
つける。ピンと張るのはなかなか困難な作業なのだが、向こう岸よりも高い位
置の太い枝にロープを引っ掛け、体重をかけて慎重にロープを張った。滑車が
あれば楽に渡れるだろうが、そんなものは旅支度に含まれていない。
 セラフィナは少し考えると、馬から鞍を外し、ロープの上に渡した。毛布も
背負い袋の紐で縛り付け、一緒に背負い込む。

「いずれにしても、渡る必要があるんですから……」

 自分に言い訳をしつつ、危険を承知で身を躍らせる。鐙(あぶみ)にかけた
手が、かかる重さに悲鳴を上げる。セラフィナは渋面になりながらも必死に堪
え、足が流れに飲み込まれないよう体を曲げた。硬い鞍はロープを滑るように
向こう岸へセラフィナを運ぶ。
 木にぶつかる前に足を何とかクッションにし、勢いのついた体を止める事が
出来た。しかし、手は真っ赤に染まり、じんじんと痺れが残っている。腕や肩
にも余計な負担をかけたようだが、倒れている人影の方が気がかりだった。息
はあるのだろうか。

 よろり、とセラフィナが立ち上がる。泥流にまみれた人影は、よく見ると人
ではない何かだった。しかし、かすかに動くのを見た事が、セラフィナに力を
与えた。

(アレは……蟲と呼ばれる種族かしら)

 セラフィナが蟲について知っていることは少ない。文献で読んだ中には、大
きく3つの勢力があることと、蜂種・蟻種には女王が存在することが書かれて
いたくらいだろうか。ああ、もっとも危険な殺戮集団“侵略種血統”を忘れて
はいけない。カフールでは殆ど見かけるどころか噂も聞かない蟲種だが、過去
に蟲種特有の毒で死者が出た事があったはずだ。カフール奥地の山に隠れ住ん
でいないとも限らない。

(でも、怪我をしている。助けなければ)

 複眼は見慣れないものだったが、その腕には深い傷が見えた。傷を閉じる前
に荷物を降ろし、毛布をかけて暖め、水筒の水で傷口をすすぐ。毒でただれて
いる様な傷口を出来るだけ触れないように両手で覆うと、解毒に集中する。

「……ね、え……さん」

 途切れ途切れに聞こえたのは間違いなく人が話す言葉で、一瞬意識が戻る
と、再び意識を手放したようだった。セラフィナは一度かすかに笑みを浮かべ
ると、まだ赤く腫れた両手で治療を再開した。


  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 ぱちぱちっと枝が爆ぜる音がする。事情があって帰国を急いでいるにもかか
わらず、患者を放って行けないのがセラフィナであった。くたくたになるまで
治療を続け、解毒をし、傷を塞ぐ頃には日は傾いてきていた。山は夜に歩く場
所ではない。そのくらいは分かっているつもりだ。
 携帯食料をかじりながら焚き火に拾ってきた細枝をくべる。折れ落ちた細枝
は水分を含んでいるから、しばらくするとまたぱちっと火が爆ぜた。空には星
が出始めていた。雲も随分減ったようだ。

「……!?」

 気が付いたのだろう、毛布を跳ね飛ばして臨戦態勢になった患者に、セラフ
ィナは動じずに声をかけた。

「一応傷は塞ぎましたが、完治にはまだかかりますよ」

 穏やかに語りかける。蟲種の患者は傷跡と毛布を見比べ、辺りに殺気がない
ことから少し離れた位置に腰を下ろした。

「セラフィナです。あなたは?」
「……ザンクード」

 まだ警戒を解かない患者に、セラフィナは尋ねた。

「この川は、カフールを通っていますね。何があったんですか」
「……」
「答えられないなら違う質問にしましょう。ねえさんって誰です?」
「!?」

 ザンクードは目に見えて狼狽した。そして、しどろもどろに語りだしたのだ
った。

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2007/02/12 21:20 | Comments(0) | TrackBack() | ○蒼の皇女に深緑の鵺
蒼の皇女に深緑の鵺 02/ザンクード(根尾太)
PC:セラフィナ ザンクード
NPC:ゴキブリ血統種軍団&侵略種幹部
場所:カフール国境近辺
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
───空そらには…僅かな重低音が響き始めていた。
全てが深い闇に包まれた刻、東の果ての森の奥深く…霧に包まれ濃い緑がかかった更
なる闇の中を…高速で蠢く影が飛び交っていた。
通常の人間が飛び出せば一瞬ではね飛ばされる程の超高速で、樹木駆け回り時にぶつ
かり合うその影は…
時に刃物の衝突する音を立て、火花を散らし辺りの枝から果ては樹木まで斬り裂いて
いた。

と……突如その中で大きく呻く断末魔。それはヒトのモノどころか、一般に見られる
生物のそれよりもずっと醜いうなり声である。
醜い断末魔が森の中に響きわたり…バラバラになって大木から降ってくるナニカ…。

それは当然ヒトでも無く…余りにも醜くく、まるで鳥でも獣でもなく…昆虫に近い異
形の外骨格に覆われた怪物の骸であった。
それも無数の投擲小鎌が胴体を貫き、首から腕まで細切れにされた無残な死骸であ
る。
<ギズリーッ!!>

直後に轟く…硬質な物を激しくこすりあわせるような、ギチギチと鳴り響く“声”…

その“声”の根元を辿ると、そこには亡きギズリと呼ばれた異形の同族達が、巨大な
大木の枝に群をなしていた。
彼らは黒色とも言って良い程濃い茶色の外骨格と鎧に体を覆われ、黒い複眼と鋏状の
口のあるバケモノの形相で憤怒し、長く伸びた触角で相手を探る
<後悔すると言ったはずだ。>
そんな言葉が先程のような“声”で響く。
群の異形達は振り向くと、更に高い巨大な大木の先端に、朧気な月光に照らされたも
う一体の異形を見つける。

先程と同じく異形の外骨格がその一体にも覆っていたが、対峙する群のおどろおどろ
しい形状をした茶色の外骨格とは異なり、どちらかと言えば細長く人型に近く、付近
の樹木の葉の如く深い緑に染まった外骨格だった。

<ザンクードッ!!…てめぇよくも…>

<安心しろ…、もう直ぐ仲間の下に送ってやる、貴様ら外道をな…>


そんな言葉を彼らの触角が感知すると、逆上した群はほうこうし、直後に頂点まで唸
り声が達した暗雲が月光をかき消し、稲光が呻く。
高速移動で襲いかかる群。
事態の全ての動きを予め読み切っていた…ザンクードという名で呼ばれしその異形
は、深緑の闇に落下し…地に着く直前で羽を展開し飛ぶ。
すると低空飛行で辺りの落ち葉を撒き散らした直後、外骨格の体色が変化し、落ち葉
が地面に落ちる頃には…判別不能な領域までに深き森の景色の闇に紛れ、群はその姿
を見失う。

ギチギチと牙を擦りあわせ発生させた音波で、
<探し出してブチ殺せェッ!!>
と空中で騒ぎ出し、辺りを探るが…
……背後から突如として投擲小鎌の雨が飛来し一体が斬り刻まれ、
その攪乱に乗じて続いて二体目が突然背に重圧がかかるかと思うと…そこに深緑の闇
と同化したザンクードが、その一体の背に乗るような体勢で元の体色を露わにして姿
を現し、背後からの至近距離で…鋭利な棘と爪が付いた手刀が繰り出す斬撃で斬り刻
み、相手の異形がバラバラになると…次の“足場”へ跳躍するように空中を飛んでま
た姿を消す。

<探せェッ!!ブチ殺せェ!早く奴の擬態を炙り出してブチ殺せェッ!!>

姿を察知し、群達は鉤爪を剥き出し闇雲に辺りの森の木を斬り裂き始めるが、
最中にある一体は突如鎖で締め殺され、またある一体は混乱を利用されて斬り倒され
る樹木に潰され…
群は相手の思惑通りに攪乱されその数を消耗していく。

<騒かずとも…、お前らは全員死ぬ。>

とうとう生き残りが三体となった群はその声に反応し振り返ると、そこには泥で湿っ
た草村に着地し…いつの間にか既に元の体色に変化していたザンクードがそこにい
た。
周囲に生き残った三体の異形が舞い降りると同時に待ちかまえる…

三体は連携を取って標的を取り囲み、それを察知すると鎧の背部に手を回すと、ザン
クードはヌンチャクのような武器を取り出してから振り回し始め…構えると同時に棍
の部分が鎌のような武器に可変し、二丁鎌が鎖で繋がれた鎌ヌンチャクに形態を変え
た。

次第に三体は速度を上げる。それは到底人間の肉眼では確認出来ぬ程の超速にまで達
し…
そしてそれが一定にまで到達したその時…

<くたばれぇッ!!!!>

風を切って彼らの姿は消え、そのいびつ爪が標的の異形の腹を喰い破る…
その寸前───…

腰部を軸にして上半身をほぼ90度に反ると、構えていた鎌ヌンチャクの鎖で…
腹を喰い破ろうとして急接近した群の一体の腕を捕らえ、
そのまま体に回転をかけて次に攻撃を仕掛けるもう一体に叩きつけ、鎖を解くと同時
に外骨格の関節を狙い投擲小鎌を投げつけ、空中で回転する刃で二体はバラバラに刻
む。
直後、その背後に最後の一体であるリーダー格が高速接近し…牙で噛み千切ろうとす
るが…

──<…遅い>

瞬間的に反応した彼の殺戮能力の方が速く、もう少しで牙が触れる直前で外骨格の体
色が変化し、回避と同時に消えた。

相手は激情し、気配をその長く伸びた触角で探ろうと振り返るが…

──……刹那─ 息が止まる程の殺気が背後から襲い……
触角が斬り裂かれた瞬時にリーダー格の四肢に鎖がを巻き付き、身動きがとれなくな
ると…元の体色で相手が現れたのを確認した直後…

<終わりだ…>

リーダー格の心臓は…回転をかけて縛り付く鎖の最先端についた鎌に突き刺され、鎖
を解かれた勢いで鎌を引き抜くと…さらに首から下をザンクードの持つもう一方の鎌
に千切りにされ…激しい流血を上げてリーダー格の首が落ちた。


暫時───森の気配が静かになり、倒れた異形を…見下ろして首を蹴りで異形の仲間
の死骸へと寄せると、“彼”は手にした二丁鎌に付着した己の命を狩りに来た者達の
血を振り払う。

──ふと物思いにふけるように、彼は…“皮肉”にも、仲睦まじく寄り添う骸を見つ
め佇んでいると…
やがて激しい雨が降り出す。
雨に打たれ…彼は思う。
これは重ねる殺戮の天命を洗い流すモノではなく、ただその寒気で彼を攻め続ける拷
問のソレでしかない、と…───

彼は次の標的の動向も掴んでいたため、即座な足を歩ませた…が…。
──その時
殺気を感じた彼は鎌ヌンチャクを構えたとほぼ同時に…紫色の刀身の刃が襲った。

間一髪、外骨格に多少かする程度ですみ、鎖で受け止めた刃を跳ね返し、
襲いかかる脅威を確認すると…それは…自分と同族の異形の外骨格を持つ者ではな
く、唐笠をさし紅い着物を羽織った一人の舞子の女だった。

「どこへ行く気だい…“暗鬼刀”さん…。あたいと遊ばないかい?」

無色なまでに白い肌で、紅く塗られた口で嘲笑い、手には先程の紫色の刀身をもつ刀
が握られており、
女の真上の闇には、巨大な獣がまるでそこに隠れているかのように・…不気味な眼球

浮いていた。

彼は牙を擦りあわせ無害な超音波を発生させて女に放ち…触角に跳ね返り伝わる音波
の反応を、感覚神経を通して複眼に“映像処理”させる。
蝙蝠の超音波の扱いに酷似したこの能力は、
簡単に言うなら骨格レベルでの硬質な物質のみを視覚化する透視能力。
つまりは骸を被った“侵略種”を見抜く護身術であり…
案の定…彼の察しは的中した。

女の背後にあるのは…獣の眼球では無かった。木陰から見せた…獣の眼球のように見
えるその正体は、血のように濃厚な紅い四枚の羽の異様な模様であり、彼は即座に投
擲小鎌を投げつけ距離をとるが、女はその四枚の羽で宙を舞い軽々と避けた。

「声帯言語で…俺出し抜けるとでも思ったか?」
「あら、残念。“見た”のねェ~。えげつないわぁ~」

すると、彼はさっきまでのギチギチという音波から…通常の声帯から発せられる声に
変わり女に話かけると…
女の声は…男の声のモノへ変化していく。

「貴様らのような外道に許されるのか…、他者をえげつないと言うセリフを吐く事
が…」
「殺りまくりのあんたも同じ穴のムジナじゃないのよぉ~♪あたいら“仲間”じゃな
ぁい♪」

「そんなもの俺には不必要な要因に過ぎない。ましてや貴様は下世話すぎる。連携な
ど取らずとも…お前の首を斬る事は出来る。」

鎌ヌンチャクを構え戦闘体勢をとる。
「カリカリしちゃって…。そんなに根に持つような事?…あの女“喰った”事が…」

と…ここで女が言った言葉に対し…
先ほどまで、彼の冷淡な思考に怒りのブレが見え始めたのはこの時だった…
彼にとって、この相手が出現する事は想定外だったが…

殺傷能力で比較するなら、さっきまでの雑魚よりも多少高い程度で脅威とは思えない
範囲だと、先程受けた攻撃から推測していた…。“連中”の幹部の奴を殺すなら今だ
という事は充分察していた…。

逆上の殺気が彼から漏れだし……体色変化と高速移動で姿が消えた瞬間、
直後、その殺気のみを具現化したような刃が女の首に食らいつこうと迫った………。

─ところが…
消えてから女が微笑みながら指を鳴らした時だった。──

刃が女の首に触れる寸前…
切っ先の速度が鈍り女に回避されると、彼に突然目眩と息苦しさが襲い、足下がぐら
つき始めた。
痛覚に感じる痺れの感覚を踏ん張るが…
…周囲の闇の色素にとけ込んでいた外骨格が…茶色の斑模様に変色し始めた……。

彼は…女の姿をかぶったソレが宙に浮き、急降下で猛毒の塗られた刀で斬りかかって
くるのを反射的に交わそうとしてギリギリ鎌ヌンチャクの鎖の防御で防ぎるが…毒が
体力を奪い続け、全感覚が次第に薄れていく。

<この神経毒食らってよく立てるねぇ~♪けどォ…十八番の擬態は使用不可ッ♪!!つ
いでにあんたの体の機能は…もって1日も経たないうちに止まっちまうんだからねェ
エッ!!♪この刃の毒が外骨格に触れた時点で…あんたの負けさぁッ!!♪>

斬り合いの最中に伝えられる死の宣告…
薄れゆく意識の中、怒りで立ち上がるものの…必死に防御の動きを止めなかったザン
クードだったが、
とうとう腹を毒の塗られた刃が貫き、
勢いよく引き抜かれ…ザンクードは牙の隙間から血を吐き出すと、痺れが限界を越え
た脚は遂に膝が着き…ゆっくりと力尽き果てて倒れた。

「もう少し楽しませてくれたら良いのにねェ…。」

毒に侵食されていく相手を見下ろしながら、それだけ言って…ゲタゲタと笑うその女
の表情は…
次第に禍々くなっていき、すでに鋏状の牙がむき出し眼球は昆虫の複眼と化してい
た。

意識が全く無いザンクードは…外骨格ごと首もとを掴まれ、
片腕一本で…人間の女のものとは思えない程の力で投げ飛ばされると…

嵐で濁流化した付近の河川に叩き落とされた。

<さぁて…そろそろ行かないとね…ギドリが五月蝿く言わないウチに…、蜂や蟻ども
に気付かれると厄介だしね…>


>>>>>>>>>>>>>>>>>>

―――――――─良いかい?…ザンクード。あんたがもしこの“戦い方”ってやつを
完全に会得したその時…、あんたは誰かの“刀”になるんだよ…────

ふとそんな…懐かしい声が聞こえ…、悪夢に覚めかけていた彼には…ぼやけた長い髪
の女の残像が見え…─

────「姉…さん…?」
やがてそれは…彼がよく知る人物でない事がはっきりと視覚化されていき…、完全に
覚醒したと同時に体が反応し、…仰向けに倒れた状態の自分の付近に女の姿が映った
瞬間、
──半身を起き上がらせ、相手が身を引き戦闘に充分な距離を取らせる間も与えない
程の速度で…手刀の爪を相手の眼前すれすれに突き立てた。

自身の記憶が途切れた箇所が確かなら、あの突然現れた毒蛾血統に死の宣告を受けて
から…嵐の濁流に飲まれたはずだった。
周囲を見た状況判断から、俺は嵐が収まった夜中の山中におり…
焚き火が燃えている最中…目の前には全く面識の無い人間の女がいる…

「一応傷は塞ぎましたが、完治にはまだかかりますよ」

人間の女の顔には…恐れというものが無く、この状況にも関わらずただ満面に微笑み
ながら…そんな医者のようなセリフを吐く。

音波探知で相手を見ても、恐らく“侵略種”ではない…。ただの人間である。

恐る恐る己の体に目を向ければ…外骨格の変色は消え、外傷もほぼ治癒されかけてい
る…。
半身に掛けられている毛布、女の側には荷物があり、すぐ隣には自分の上半身の鎧と
武器…。
治療するにあたっておそらく外したかのように見せて、抵抗の手段を奪い取る、…と
いう理由も…ザンクードは当てはめたが…
そんな姑息な方法を手にする奴ならば…そうだとしても今の臨戦態勢で、想定外の危
険性に対する手段を考慮しないなら“同業者”としてはかなりの素人だと考えられ
た。

“俺の体に何か施した事は明確であり…
河岸が付近だった事から推測するに、濁流に飲まれた後に…嵐が収まってから俺は岸
に流れ着き、この女に運ばれたというのは察する事が出来るが、
…その目的が不明。

だが……現時点ではこいつに、俺が殺される可能性は無いだ…。
殺気が無いのもただ隠しているだけなのかもしれないが…、そうだとしても…危険性
はまず無い。”

──そう判断した彼は…
女の眼前に向けた手刀を退かせ、臨戦態勢を解いて女から離れた位置に座る。
「セラフィナです。あなたは…?」

「……ザンクード」

人間共には二つ名しかあまり知られていないのが幸いだった。
侵略種と無関係でないなら話は別だが…。

「この川はカフールに通っていますね。何があったんですか」

やや神経そうな表情で話かけ、どんなに危険ないざこざに巻きこまれて死にかけてい
たか分からない相手の素性を質問する相手を…
実に向こう見ずで…余程“死に急いでるバカ女”だと彼は思い、敢えて答えたくはな
かった。

触角から“連中”の匂いも気配も感じられ無いので、既に目的地に移動を開始した後
だと彼は察知出来たが…
何らかの目的で多数の兵士を引き連れてこの先のカフールという国に向かって移動し
てる情報から、彼がそれを追って来た所で戦闘になり死にかけたと言ってみれば…

こういう人間は真っ先に興味本意で接触した挙げ句、“連中”のディナーになる眼に
見えていた。

「答えられ無いなら違う質問をしましょう。“ねえさん”って誰です?」

…と、質問責めが…とうとう彼の寝言の話までエスカレートしてくるのに対し…ザン
クードは焦った。
視覚がかすんでいたとは言え…“身内”とこの女を間違えた事についてだったので…
流石に少々怯んだ。

「…聞いてたのか…」

「はい、一応」

その外骨格の顔面には表情など無いが…
彼は困ったように頭を抑え…こればかり参ったと言いたげな素振りを見せると、

「…見ず知らずの貴様には関係無い…。忘れろ。一切だ」

「そう…ですか」

ぴしゃりと言って相手を怯ませる中、ザンクードは改めて腕の状態を診る

「治してくれたのか…」

「はい…」

と…爪から腕の棘まで舐めるように確認している様が…まるで鎌状の腕の手入れをす
るカマキリに見えたのか…
クスりと微笑される。

「・…なんだ?」
「…ゴメンなさい。あなたみたいな方に会ったのは初めてだったもので…」

恐らく…よほどものすごく不快に思ったのか、
ザンクードはこんな事を言う。

「俺は歩く昆虫図鑑じゃない。いい標本が造れそうか?」
「いえっ・・そんなつもりじゃ」

「別にいい…“そういう扱い”は腐るほど慣れてる。」

―たちまち重圧な沈黙を、辺りにぶちまけてしまう・…―

「……」
本心は…相手を探るための挑発のつもりでもあったが…

…お互いとてつもなくやり難い状態になっているのに少々罪悪感を感じ…

先に口を開いたのはザンクードだった。

「…不躾ですまない…。おかげで、“仕事”で死にかけたところを命拾いで済んだ
…恩に着る」

「え…あ、いえ…こちらこそ」

そしてやっと本題に話を進めた。

「ここの地元民なら…頼みたい事がある。もし良ければ…この先のカフールという地
への近道を案内して欲しい。」

今は“奴ら”を追う事が最優先であり…このセラフィナという女が何者であれ、案内
人としての利用価値はあると踏んだザンクードは、その返答を待ちかまえた。

2007/02/12 21:20 | Comments(0) | TrackBack() | ○蒼の皇女に深緑の鵺
蒼の皇女に深緑の鵺 03 /セラフィナ(マリムラ)
PC:セラフィナ ザンクード
NPC:
場所:カフール国境近辺
―――――――――――――――――――――――――――――――――――

「ここの地元民なら…頼みたい事がある。もし良ければ…この先のカフールと
いう地
への近道を案内して欲しい」

 この申し出に、セラフィナは即答できなかった。いろんな思いが頭を駆け巡
る。
 “仕事”で死にかけたところを命拾いで済んだ、というのなら、仕事相手を
追うつもりなのだろう。そして、その仕事相手というのは致死量の毒と鋭い刃
を持つ敵。彼の動きから考えて、1対1ではココまでの深手を負わせること
は、余程の手練でも難しいと思われる。複数、いや、多数と考えるのが適当
か。味方を探そうとしないあたりは味方を信用しているのか、それとも一人で
戦っているのか。どちらにしても戦場がカフールへ移ろうとしているのは確実
のようだった。

「案内をするには、貴方は目立ちすぎます」

 セラフィナが小さく苦笑すると、ザンクードは「問題ない」と自分の体を見
やった。

「傷が癒えれば姿を隠す術は持っている。人目に付く前に傷が癒えれば済む話
だ」

 彼はどのくらい川を流されてきたのだろう。その流されたことで、敵に先ん
じる事が出来ればよいのだが。カフールまで、徒歩では丸一日かかっても辿り
着けないかもしれないのだから。

「川を渡る際に馬を捨てたので、細い道を辿ることは出来ますが歩きになりま
す。よろしいですか?」

 疲れて、いた。本当は横になって一晩休んで、患者の容態を確かめてからカ
フールへ向かうつもりだった。が、そんな余裕はなさそうだった。彼の敵が
“侵略種”であるとすれば、危険なのはカフール国民だ。背負い袋の中から松
明を取り出し、焚き火から火を移した。荷を背負って立ち上がる。

 夜だというのに、ザンクードはセラフィナを止めることなく立ち上がる。や
はり急ぎなのだ、とセラフィナは思った。急ぎの理由は追っ手か、それともカ
フールへ向かった方か。どちらにしてもここでの長居は望んでいないことは明
白だった。

「夜目は利きますか」

 松明の明かりに照らされ、ザンクードの黄色い複眼が不気味に光る。蟲種の
平均など知らないが、人に比べると若干大柄な彼を見上げて聞いた。

「こっちの心配は無用だ。それより案内は大丈夫なんだろうな」

 不遜に答える彼の先を歩き出しながら、セラフィナの心はざわついていた。
嫌な予感というか、危険な匂いが辺りにたちこめているような、そんなざわつ
きだった。


  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 夜間の山道で、その上獣道となると、早く歩くというのはかなり難しい。し
かもセラフィナは護衛のために武道を身につけているものの、サバイバルな特
殊訓練などの経験を積んだことない素人同然だ。そんなときにカイならば……
と思うが、自分は彼ではないし、彼にはなれない。せめて治療の前であった
ら、と疲労の色も隠せない。
 遅々として進まぬ山道歩きに痺れを切らしたのか、ザンクードがセラフィナ
の腕を掴んだ。

「このままでは遅れをとる。本当に近道なんだろうな」

 そして、腕を掴んで初めてセラフィナの手のひらが赤く腫れていることに気
付く。疲労も色濃いセラフィナは、手を隠すように小さく笑みを浮かべた。

「貴方が追っている相手がどこからどういうルートを辿ったのかは分かりませ
ん。でも、この場所からならこちらへ向かった方が近いのは本当です」

 すると、しばらくの沈黙の後にザンクードはセラフィナを小脇に抱え上げ
る。

「え、あの……」
「こっちの方が早い。方向を指示してくれ」

 少しは信頼してくれているのだろうか、いや、きっと急ぎたい為だろう。そ
してそれはセラフィナの予測が大きく外れていなかったことを意味する。

「……わかりました。月の方角にもう少し進めば沢に出るはずです。さっきの
川とは別の支流になりますが、そこからなら川沿いに進めば……」
「口を閉じておくことだな。舌を噛むぞ」

 ザンクードは傷が完治していない身でありながら、セラフィナを抱えて森の
木々を縫うように走り始めた。


  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「まずいな……」

 濁流が収まってきたとはいえ、流木や土砂が両岸を埋める沢が木々の隙間か
ら見えてきた頃、ザンクードは走るのを止め、周囲に気を配り始めた。一旦下
ろされたセラフィナは、そのザンクードの様子を伺う。

「間違いない。“連中”の匂いだ」

 触角が小刻みに震える。風は上流から流れており、風下なためにまだ見つか
ってはいないだろうが……。

 セラフィナには読み取れない表情でザンクードは上から見下ろすと、自分の
武器と鎧を確かめ、セラフィナに告げた。

「隠れていることだな。出て来られると足手まといだ」

 セラフィナが黙って頷くのを見届け、ザンクードは木々の合間を上流に向か
って駆け出した。

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2007/04/04 22:56 | Comments(0) | TrackBack() | ○蒼の皇女に深緑の鵺
蒼の皇女に深緑の鵺 04/ザンクード(根尾太)
PC:セラフィナ ザンクード
NPC:蝗衆
場所:カフール国境近辺
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─「…隠れている事だな、出て来られると足手まといだ」

─それだけ言い残し、補足した風上の方角へ向かう。
木々を駆け抜け両脚だけで大木の駈け上がり、ある程度の高さまで上ると…安定性の
有る太い枝に乗って、ザンクードは意識を感覚神経に収束させる…。

死の淵から生還した彼の体は、一応蟲種としての日常生活に支障は無かった。感覚は
電磁レベルまで達し、人間一人は抱えて走る事も…樹木や壁の上り下りも容易であ
る。
例え擬態能力が使えなくても、この森林という局地において、本能的に身を隠す手段
なら幾らでもあった……─
が…
二丁鎌を握る手には、微弱な麻痺の症状が伝わり…体の動きづらさを感じていた。

感覚神経と意識が回復しているのが幸いであり、回避のみなら可能でだった
が…“先制”だけは絶対的に不可であり…初撃で決定打が撃てない事に少々忌々しか
った。

面倒の対策は腐るほどあるが…
異常事態の連続というものには…ハプニング慣れの無い性分のザンクードにとって全
く苛たたざる終えなかった。

レーダーの如く、補足を開始し………数分経った頃…彼の背後に先制攻撃を仕掛けた
のは向こう側だった。

木にも駈け登らずに自身の凄まじい跳躍力で一斉に襲いかかるソレは三体おり、刀の
形状をした剣で斬りかかり
振り向いたザンクードは二丁鎌で斬撃を受け、
枝が斬り裂かれると火花と共に別の大木へ跳び移って、相手を目測する。

<生きてやがったか刃龍…>
枝の斬り落とされた大木側に居たのは…鋭利な牙を持つ蝗の蟲種が十数体。
首にはスカーフが巻かれ、人間の頭蓋骨に絡みつき食い合う二匹のムカデが描かれ
た…“連中”独自のエンブレムがそこに刻まれていた…



<死に損ないの同族殺しィ!!>
<人間の女とツルみやがって…てめぇは蟲族の“敵”だァアアアアア!!!!>

バネのような両脚で跳び、空中から突撃をしかける蝗の異形。

ザンクードは跳躍し…セラフィナの上空で空中戦を繰り広げた。

刃は火花を散らし数回組み合い、散解して地上へと着地すると、構えるザンクードに
対し、リーダー格以外の連中は色素擬態で姿を消す。

相手が一体だけしかいない事から…相手が擬態能力で隠れ、合図と共に一斉に突撃し
てくる策だと悟り…刃を構えるザンクードは、対峙する相手からは全く視線を逸らさ
ないが…
やはり反射が本調子とは言えない。
速力を計測し、どのタイミングで反応すれば良いかシミュレートして加減をしなけれ
ば、強靭な脚力によって移動能力に長けた相手に追いつかれ、刀剣の一撃を食らって
しまう。

<擬態能力はどうした…刃龍…>
<“必要性”が無い…とでも言っておこうか?>

“…追っ手が小隊クラスという規模からして、元々は俺を纖滅する部隊では無い…”
そう悟り…様子を窺うザンクードは挑発的な言葉を放つが…

<情報ではベニハガ様が殺ったとは聞いた。
お前が会った…神経毒を操る我が同志の幹部だ…。
そこで俺達が思うにお前は何らかの方法で命のみは無事だったが…やはりお前自身の
体にはわずかに、ベニハガ様の神経毒が廻って動きが鈍っているとみた。
違うか?>

既に手の内を読まれ…擬態能力を持つ相手は一人ならまだしも多勢である。音波探知
で視覚してもおまけに強靭な脚力による機動力は向こうが上だ…。
この最悪な状況で…微弱に広がる痺れを知覚しながらも、ザンクード構えたまま一歩
も動けずにいた…。

ところが…

<…まぁ…そう、ピリピリしなくても良い。別に我々はお前が本目標というわけでは
ないからな…。こちらの交渉に応じてくれれば見逃してやる>

相手が持ちかけてきたのは…“不自然”な事に闘争では無かった…。

<交渉?>
<そうだ…我々はただの捕獲部隊で、何もお前を狩る精鋭部隊じゃない。確かにお前
はブラックリストに載ってはいるが、手柄欲しさに同志の命を危険にさらしたくはな
い…>


<…欲するなら、交渉は要らない。“奪え”ば良い話だ…。それがお前らに通じる唯
一“理屈”だった…>

<…待ってくれ。何も条件にお前の身の安全が絡んでるとは言ってないだろう?>

余計にこちら神経を張り詰めらせてくる相手に…
ますます苛立たせる。

<何が欲しい…>

──リーダー格が返答した条件は、ある人物へと矛先を向けた。

<……あの娘をこちらに渡せ。>
<──何故だ…>

<上からの指示でな。確かにお前にあの案内人でルートを聞き出され、我々の妨害を
されては困るというのもあるが…、それとは別の重要性があってね…。アレを渡せば
命は保証しよう。>

無論彼らの軍団にとって…彼女は“物”という価値しか無く、渡せばその臓物と骨は
食用となり、その皮は彼らの“衣”となる事は…ザンクードは明白に悟っていた。
<そう悪い取引じゃない……
お前は生き延び…、俺たちは手柄を得る。
案内人の人間などいくらでも調達出来るだろ…>

と…その時、リーダー格のアキレス腱の腎節を狙い、銀の針が飛んで来た。

リーダー格は高めに跳躍し木へとへばりつくと、向かってきた軌道の先から…一人の
女を確認した。
<奴といた女だ!!拘束しろッ!!!!>

女と聞き、瞬時にザンクードはそこへ視線を振り向くと、案の定そこにセラフィナの
姿が目に映った瞬間彼は走り出した、

「殺す気はありませんが…」


女の相手の時のみ…擬態を解いて飛来する蝗人間共。
セラフィナは投擲の針を宙に蒔いて、大半は空中で腎節部に直撃を受けるが…免れた
者はそれらを外骨格で弾き飛ばし、刀を振り下ろすが…
その直前、彼女が刀を片手の手のひらで受けようとした瞬間、“何かの力”が働き切
っ先が折れ…
慌てた異形は…こんどは押し固められたその手に宿る“何かの力”が腹部の外骨格に
直撃し、吹っ飛び木に叩きつけられる。


<地上での近接戦は避けろッ!!空中戦に持ち込め!!!!>

リーダー格の指示で次々に異形が現れて襲いかかり、セラフィナは針を投げつけ
“力”を収束させて攻撃に対応するが…
溜めの隙を狙われ、
首を掴まれた瞬時に…その身を上空へ持って行かれ…セラフィナが宙に持ち上げられ
た…

────その瞬間

周辺の蝗共に…重低音とともに投擲小鎌が突き刺さり、
墜落する彼らを空中で割って現れたザンクードの姿が彼女の視界に現れ、セラフィナ
を肩に抱えて着地する。
「何しに来た?小娘が…」

セラフィナを下ろして背を向けると、再び相手の連中に眼光を向ける。

「……深手のあなたを…簡単に戦場には出せません。」

セラフィナはそう言った直後に…
ザンクードの背に、無闇に動き切り込んだ挙げ句負った…深い切り傷を見つけ、近づ
こうとしたが…
その時既に、背後から臨戦態勢が解放された蝗共が、擬態能力をで身を隠したまま一
斉に襲いかかる寸前であり───

「余計なお世話だ…」

…その一瞬、ザンクードの二丁鎌のグリップにある引き金が押されると、二丁鎌に繋
がれた鎖が最長の長さまで調節され、───

──「俺の戦場に、“味方”など存在する筈が無い…」

複眼に異様な模様をした偽瞳孔が現れたザンクードは、その鎖を握り一振りする
と……、


───「…もう永遠に…誰一人として」───
襲いくる群の半数が瞬間に斬り刻まれた。

──ザンクードは最長になった鎖を両腕で空中で振り回し、セラフィナの上空を覆う
と警告する。

「だから…一歩として踏み込む事は許さん。」


思わぬ奇襲にたじろぐ蝗共は……二撃目の構えをとり、リーダー格は先程の一撃目で
片腕を失い…焦り狂った。

<お前らの機動力は確かに俺を勝っている…
しかし音波探知なら知覚も出来、第一幾ら計測してみても…この程度なら多少ロスが
あったところで、俺の感覚神経で追えぬ速度では無い。俺の能力と技のメインが擬態
能力と通常範囲での近接戦という判断が…そもそもの間違いだ。>

<何故取引に応じない!!お前は…>

<…無意味だな…。ヘドが出る…>
<……何?>

<欲するなら“奪え”ば良いと言ったはずだ。
さぁ奪いに来い、この外道どもがッ!!>

───<く…ソ…がぁアアアアアッ!!>

リーダー格の合図とともに二撃目に襲いかかる…彼にとって最も“僅かな”軍団…

瞬間に鎖に繋がれて飛び回る二丁鎌は、ザンクードの腕の動きに合わせ…大蛇の頭の
如く動き、木々をすり抜け軍団を一人残らず“喰い千切”る。

─まるでセラフィナの盾になるかのように仁王立ちし、蝗共の血液を全身に浴びたザ
ンクードは何も言わず…鎌と腕に着いた血を振り払い、セラフィナに振り向いた。

すると…彼女が見つけた先程の傷の痛みに今頃気づき…
彼は片膝を着いた。

「ザンクードさん?!」


「叫ぶな…余計に傷に響く。お前が神経質になる程深くは…」

自分が異業の種にも関わらず…駆け寄るセラフィナに………ほんの一瞬…かつての
“師”の顔が浮かび……
ザンクードは不服そうな気分をわざと装った…。
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2007/04/05 23:41 | Comments(0) | TrackBack() | ○蒼の皇女に深緑の鵺
蒼の皇女に深緑の鵺 05/セラフィナ(マリムラ)
件  名 :
差出人 : マリムラ
送信日時 : 2007/04/05 05:45


PC:セラフィナ ザンクード
NPC:
場所:カフール国境近辺
―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 セラフィナは反射的に袖口で顔を覆った。辺りには異臭が立ち込めている。
原因が何であるかは容易に推測できた。辺り一面の「血」だ。いや、血と呼ぶ
には異質の、人の体液とは異なる蟲特有の体液がセラフィナの前後左右を囲む
ように飛び散っているのだ。一度崩れるように膝を着いたザンクードは、少し
頭を振り、再び目前を塞ぐように立ちはだかった。

「……怪我は」

 振り返ったザンクードは、全身に異臭の源を浴び、赤黒い不気味な姿で立っ
ている。

「大丈夫、です」

 自分でも気付かないうちに口で呼吸していた。ザンクードは平気そうだが、
セラフィナにとっては耐え難い……うっかりすると吐き気が込み上げてきそう
な悪臭だったのだ。
 ザンクードは一拍置くと、セラフィナには読み取りづらい相変わらずの表情
で突き放したように一言発した。

「そこを動くな」

 言うが早いか、木々を抜けて川の方へと去っていく。セラフィナは何も出来
ないまま立ち尽くしていた。
 木々から滴る「血」は粘性があるらしく、糸引く影さえ不気味に映る。地面
に溜まったソレはてらてらと黒光り、本で読んだ知識では追いつかないことを
実感させる。

 どのくらい待ったろう。足手まといとして置き去りにされたか、と考え始め
た頃、ザンクードが戻ってきた。まだ水位も高く、流れも早い川へ入って、身
を清めてきたようだった。まだ、水が滴っている。

「来い」

 ザンクードにつまみ上げられるような形で、セラフィナは川縁へと運ばれ
る。来いも何もあったもんじゃない。しかし、セラフィナは気付いた。さっき
の血溜まりより風上に運ばれていることを。

「……ありがとう」
「喋るな、舌を噛むぞ」

 表情こそ見えないが、不器用な気の使い方に、セラフィナはくすりと笑っ
た。

「おかしなヤツだな」
「そうでしょうか」

 しかし、笑ってばかりもいられない。まだ試練の序章に過ぎないのだから。


  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 ザンクードの開いた傷を再び塞ぐ。だが、こちらも疲弊しておりそれ以上の
手当てができないと知ると、急ぎなのだろうに野営を提案したのは彼のほうだ
った。

「案内を間違えられると困るからな」

 言い訳じみた言葉と共に、毛布を投げてよこす。セラフィナはありがたく毛
布に包まった。

「いくつか尋ねたい事があります」
「……知りすぎると死を招くぞ」
「大事なことです」

 セラフィナの言葉に決意を感じ取ったのか、ザンクードは無言で言葉を促し
た。

「先ほどの連中、狙っていたのはあなたではなく私ですね?」
「何故そう思う」
「斥候にしては援軍を呼ぶそぶりもなく、あなたへ向けた追っ手なら戦力が足
りない。何より私を捕らえることを目的とせず、あなたを避けて攻撃しようと
までしていた」

 セラフィナには蟲同士での会話は分からない。しかし、ザンクードの無言は
肯定だろうと受け取れた。

「それに、彼らがカフールを狙っているのならば、私を狙うことは充分にあり
えます」

 ザンクードは触角をピクリと動かしたが、表情を変えずに聞いていた。

「カフールの内政についてはどのくらいご存知ですか」
「興味のないことだ」
「では、掻い摘んで説明しましょう」

 セラフィナは大きく深呼吸すると、ゆっくりと語り始めた。

「カフールでは、一年半ほど前に皇王が死去しました。自然死であれば、一年
の喪が明ける頃には新しい指導者が継承順位に沿って選ばれるはずのところで
すが、今回は違いました。二重にも三重にも重なる暗殺計画が極秘裏に調査さ
れたのです。原因の一つは幼い少年の気を引きたい一身での悪戯でしたが、直
接死に結びついたこともあり、彼は俗世を捨てざるを得ませんでした。しか
も、彼が第一位の継承権を持っていたために混乱が生じます。今まで継承権第
一位の者以外が皇位についたことがなかったからです」

 ザンクードの方を見るでもなく、セラフィナは空に向かって喋り続けた。

「第二位の継承権を持っていた第一皇女は、輿入れの直前に父親を亡くした
為、喪が明けてから隣国シカラグァの王子と結婚しました。本来皇女は降嫁に
より継承位を剥奪されますが、彼らはカフール国内の皇族別邸に居座り、配下
の者と婚儀を行ったのではなく、政治的に対等な立場である王子との婚姻であ
る上に、カフール国内に留まっていることを理由に自らの継承意の正当性を謳
いました」

 小さく、小さく溜息をつく。

「第二皇女は父親を看取ると心労で倒れ、以来静養地にて静養中とされていま
す。しかし、国葬にも出席せず、公務も出来ない有様では、皇位の継承は難し
いのではないかと元老院の間でも問題視されています。その上、誰が風聞した
のか、彼女本人はカフールにいないという噂話がまことしやかに囁かれていま
す」

 ザンクードは黙ったまま、頷きもせずただ話を聞き続けていた。

「カフールの国葬などを仕切ったのは皇王の補佐的立場にある宰相です。そし
て、彼にも末席ではありますが継承権があることから、国内は第一皇女派、第
二皇女派、宰相派と意見が纏まらないままなのです」

 そこで一旦話を止め、大きく深呼吸する。それは溜息を誤魔化すものであっ
た。

「で、狙われる心当たりがあるとは」
「私がその二の姫だからです。私が動けば世情は変わる」
「……ほう、狙われる自覚がありながらも一人旅か。無謀だな」
「……そうですね、人ならまだしも、蟲種にまで狙われていたとは知りません
でした」

 しばらく沈黙が続く。そしてぽつりと言った。

「あなたに、しばらくの間護衛をお願いしたいのです」

 ザンクードは無言のまま表情を変えるということをしなかった。

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2007/04/05 23:43 | Comments(0) | TrackBack() | ○蒼の皇女に深緑の鵺

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