忍者ブログ
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


2024/05/16 13:00 |
蒼の皇女に深緑の鵺 05/セラフィナ(マリムラ)
件  名 :
差出人 : マリムラ
送信日時 : 2007/04/05 05:45


PC:セラフィナ ザンクード
NPC:
場所:カフール国境近辺
―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 セラフィナは反射的に袖口で顔を覆った。辺りには異臭が立ち込めている。
原因が何であるかは容易に推測できた。辺り一面の「血」だ。いや、血と呼ぶ
には異質の、人の体液とは異なる蟲特有の体液がセラフィナの前後左右を囲む
ように飛び散っているのだ。一度崩れるように膝を着いたザンクードは、少し
頭を振り、再び目前を塞ぐように立ちはだかった。

「……怪我は」

 振り返ったザンクードは、全身に異臭の源を浴び、赤黒い不気味な姿で立っ
ている。

「大丈夫、です」

 自分でも気付かないうちに口で呼吸していた。ザンクードは平気そうだが、
セラフィナにとっては耐え難い……うっかりすると吐き気が込み上げてきそう
な悪臭だったのだ。
 ザンクードは一拍置くと、セラフィナには読み取りづらい相変わらずの表情
で突き放したように一言発した。

「そこを動くな」

 言うが早いか、木々を抜けて川の方へと去っていく。セラフィナは何も出来
ないまま立ち尽くしていた。
 木々から滴る「血」は粘性があるらしく、糸引く影さえ不気味に映る。地面
に溜まったソレはてらてらと黒光り、本で読んだ知識では追いつかないことを
実感させる。

 どのくらい待ったろう。足手まといとして置き去りにされたか、と考え始め
た頃、ザンクードが戻ってきた。まだ水位も高く、流れも早い川へ入って、身
を清めてきたようだった。まだ、水が滴っている。

「来い」

 ザンクードにつまみ上げられるような形で、セラフィナは川縁へと運ばれ
る。来いも何もあったもんじゃない。しかし、セラフィナは気付いた。さっき
の血溜まりより風上に運ばれていることを。

「……ありがとう」
「喋るな、舌を噛むぞ」

 表情こそ見えないが、不器用な気の使い方に、セラフィナはくすりと笑っ
た。

「おかしなヤツだな」
「そうでしょうか」

 しかし、笑ってばかりもいられない。まだ試練の序章に過ぎないのだから。


  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 ザンクードの開いた傷を再び塞ぐ。だが、こちらも疲弊しておりそれ以上の
手当てができないと知ると、急ぎなのだろうに野営を提案したのは彼のほうだ
った。

「案内を間違えられると困るからな」

 言い訳じみた言葉と共に、毛布を投げてよこす。セラフィナはありがたく毛
布に包まった。

「いくつか尋ねたい事があります」
「……知りすぎると死を招くぞ」
「大事なことです」

 セラフィナの言葉に決意を感じ取ったのか、ザンクードは無言で言葉を促し
た。

「先ほどの連中、狙っていたのはあなたではなく私ですね?」
「何故そう思う」
「斥候にしては援軍を呼ぶそぶりもなく、あなたへ向けた追っ手なら戦力が足
りない。何より私を捕らえることを目的とせず、あなたを避けて攻撃しようと
までしていた」

 セラフィナには蟲同士での会話は分からない。しかし、ザンクードの無言は
肯定だろうと受け取れた。

「それに、彼らがカフールを狙っているのならば、私を狙うことは充分にあり
えます」

 ザンクードは触角をピクリと動かしたが、表情を変えずに聞いていた。

「カフールの内政についてはどのくらいご存知ですか」
「興味のないことだ」
「では、掻い摘んで説明しましょう」

 セラフィナは大きく深呼吸すると、ゆっくりと語り始めた。

「カフールでは、一年半ほど前に皇王が死去しました。自然死であれば、一年
の喪が明ける頃には新しい指導者が継承順位に沿って選ばれるはずのところで
すが、今回は違いました。二重にも三重にも重なる暗殺計画が極秘裏に調査さ
れたのです。原因の一つは幼い少年の気を引きたい一身での悪戯でしたが、直
接死に結びついたこともあり、彼は俗世を捨てざるを得ませんでした。しか
も、彼が第一位の継承権を持っていたために混乱が生じます。今まで継承権第
一位の者以外が皇位についたことがなかったからです」

 ザンクードの方を見るでもなく、セラフィナは空に向かって喋り続けた。

「第二位の継承権を持っていた第一皇女は、輿入れの直前に父親を亡くした
為、喪が明けてから隣国シカラグァの王子と結婚しました。本来皇女は降嫁に
より継承位を剥奪されますが、彼らはカフール国内の皇族別邸に居座り、配下
の者と婚儀を行ったのではなく、政治的に対等な立場である王子との婚姻であ
る上に、カフール国内に留まっていることを理由に自らの継承意の正当性を謳
いました」

 小さく、小さく溜息をつく。

「第二皇女は父親を看取ると心労で倒れ、以来静養地にて静養中とされていま
す。しかし、国葬にも出席せず、公務も出来ない有様では、皇位の継承は難し
いのではないかと元老院の間でも問題視されています。その上、誰が風聞した
のか、彼女本人はカフールにいないという噂話がまことしやかに囁かれていま
す」

 ザンクードは黙ったまま、頷きもせずただ話を聞き続けていた。

「カフールの国葬などを仕切ったのは皇王の補佐的立場にある宰相です。そし
て、彼にも末席ではありますが継承権があることから、国内は第一皇女派、第
二皇女派、宰相派と意見が纏まらないままなのです」

 そこで一旦話を止め、大きく深呼吸する。それは溜息を誤魔化すものであっ
た。

「で、狙われる心当たりがあるとは」
「私がその二の姫だからです。私が動けば世情は変わる」
「……ほう、狙われる自覚がありながらも一人旅か。無謀だな」
「……そうですね、人ならまだしも、蟲種にまで狙われていたとは知りません
でした」

 しばらく沈黙が続く。そしてぽつりと言った。

「あなたに、しばらくの間護衛をお願いしたいのです」

 ザンクードは無言のまま表情を変えるということをしなかった。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――
PR

2007/04/05 23:43 | Comments(0) | TrackBack() | ○蒼の皇女に深緑の鵺

トラックバック

トラックバックURL:

コメント

コメントを投稿する






Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字 (絵文字)



<<蒼の皇女に深緑の鵺 04/ザンクード(根尾太) | HOME | 異界巡礼-6 「棄景へ」/フレア(熊猫)>>
忍者ブログ[PR]