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2024/05/05 12:36 |
異界巡礼-6 「棄景へ」/フレア(熊猫)
キャスト:マレフィセント・フレア
NPC:リノツェロス・ごろつき
場所:クーロン 宿→造船所
―――――――――――――――

クーロンに着いてから一週間経ったが、
依然として情報はなかなか集まらない。

もっとも、リノの話ではそれ以外の情報はかなり入るらしい。
それでも内容はとりとめのない物ばかりだ。
フレアと分担すれば様々な観点から情報収集ができるのかもしれないが、
初日のことがあるのであまり頻繁に外出するのは危険だった。
かといってマレフィセントに留守番が勤まるかといえば疑問である。

そういうわけで、もっぱら外に出るのはリノだった。
二人は早朝にアーケードを散歩するくらいで、
それ以外はほとんど部屋を出ていない。これが一週間である。

マレフィセントはストレスのせいか枕を3つほど引き裂いてしまい、
そのたびに部屋の中を真っ白にしてフレアを困らせた。

「明日で決めよう」

リノが軟らかく、しかし反論を許さない強さでそう言ったのは、
皆が夕飯のテーブルについた時だった。

「明日、一日探して駄目なら発とう」
「わかった」

フレアはすぐに頷いた。

ここ一週間ずっと情報を求めて動き回っていたリノに、
子守だけしていた自分が異論を唱える道理もない。
そして、ストレスを感じているのはマレフィセントだけでないのだ。

宿代のこともある。リノは一切口にしないが、おそらく初日に言った通り
全額払う気でいるのだろう。
せめて義理を通して自分の分だけでも清算したいのだが、
これ以上宿泊期間が延びればそれすらも危うい。

フレアとて無一文ではない。イスカーナでの報酬がまだ残っている。
もっとも、それも今後どのくらい保つのかわからないが。

「じゃあ明日は私たちも行く。装備を整えないといけないし」
「そうだな」

・・・★・・・

夕飯の後、マレフィセントと手を繋いで廊下を歩く。
フレアはからかうように笑いながら、少女の顔を見た。

「明日は早いぞ。ちゃんと起きられるか?」

問い掛けられたことはわかったのだろう。きょとんとして、
マレフィセントが見上げてくる。
笑顔をかえして頭を撫でてやると、少女は満足そうに目を閉じた。

そんな様子をみながらポケットから出した鍵を差し込みかけて――
フレアはぎょっとして動きを止めた。

ドアと床の隙間に、折り畳んだ紙が挟まっている。

思わず左右を確認するが、無論誰もいない。
鍵を出そうとした手で、紙を抜き取る。
白い上質の紙。それが無造作に四つに折り畳んである。
意を決して広げた瞬間、フレアは短く悲鳴をあげた。

がたん、と背後で音がした。見ると悲鳴に驚いたマレフィセントが
よろけて壁にぶつかっている。あわてて紙を持ったまま抱き起こしてやり、
肩を抱き寄せながら隣のリノの部屋をノックする。

「リノ!」

騎士はすぐに出てきた。部屋に戻った直後だったのだろう、
こちらの狼狽した様子に困惑している。だが間髪入れず、フレアは彼の前に
マレフィセントを押し出した。

「急用が…できたんだ。すまないがこの子を預かっていてくれないか」

口早にそう言って、彼の答えを待たずに自分達の部屋を開ける。
開くと同時に飛び込んで、小さなクローゼットの中から剣をひっ掴む。

「何事だ?」

背後からリノが声をかけてきた。振り向くと、彼は戸口に両手をかけて
体で出口をふさぐような格好をしている。
納得のいく答えを聞かない限りは、通してくれなさそうだった。

彼の元に駆け寄り――何も説明する材料がないことに気が付く。
言いあぐねていると、リノは握った剣に目を落とした。

「こんな夜半に剣がいる急用とは、一体どんな急用かね?」

彼も落ち着いてきたのだろう。冷静な口調で、こちらの目を見て問い掛けてくる。
軽い逡巡ののち、フレアは思い切ってくしゃくしゃに潰れた紙をリノの眼前に広げた。



真っ赤な手形。


紙にはそれひとつが捺してあるだけだった。まるで血の様に赤いインクが、
痩せた指の形をくっきりと残し、正直に手相や指紋を写し取っている。

指の本数は、悪い冗談のような――6本。

一瞬だけ、柔和な瞳が驚きに染まる。
その隙をついて開いた空間に身体をねじ込み、フレアはリノの脇を擦り抜けて全力で走りだした。

「すぐに戻る!」

言い置いた声が、廊下に響いた。



 外に出ると、少し行った先の家の壁に同じ紙が張ってあった。
走っていき、乱暴にそれを引き剥がす。

(舐めた真似を!)

クーロンの夜は長い。まだ宵の口だと言うのに、街並は騒がしかった。
心臓が鳴る音が耳の奥で聞こえる。
引き剥がした紙の裏側を見ると、流れるような字でただ一言、『チェル造船所へ』とだけあった。
握り潰して、走りだす。

クーロンは内陸の都だが、ムーラン、新旧エディウス帝国を沿うように流れる河川での

交易によって発達した歴史がある。そのためクーロン各地には造船所がいくつか存在するが、
魔術列車の開通と共に交易手段もまた変わり、稼動しているところはもうほとんどない。

示されたその造船所も、今はもはや使われていないはずだった。

雑踏を走り抜ける。このあたりはいつもマレフィセントと歩いていた範囲だ。
造船所の場所も知っている。行った事はないが。

当然だが、雑踏の中は走りにくい。不規則な速度で前を歩くカップルやいきなり横切る

酔っ払いの一団に翻弄されつつも、ただ走る。が、とうとう角を曲がったところで
誰かとぶつかってしまった。

「ごめんなさ――」

弾かれた身体をどうにか保って、相手の顔を確認する前に謝罪を述べようとする。
が、ふと違和感を感じて言葉を止めた。
見上げれば、そこにいたのは初日にフレアとマレフィセントを襲ったあの男達だった。

思わず喉がひきつる。ただひたすら彼らが自分の顔を忘れていることを願いながら、
驚きの表情で見上げることしかできない。

「! お前…」

駄目だった。

みるみる顔色を変えてゆく男の脇を駆け抜ける。背後からは怒号が聞こえた。
追いかけられている事を自覚しつつ、ただ走る。構ってなどいられない、もっと
恐ろしい脅威が行き先にはいるのだ。

笑顔をくれたリタも、出会う喜びを教えてくれたヴィルフリードも、そして
いつも傍にいてくれたディアンも今はもういない。
新しい仲間だって見つかった。守りたいものもできた。
もう絶対、誰も傷つけさせない。


造船所まで、あと少し。


――――――――――――――――
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2007/04/06 23:35 | Comments(0) | TrackBack() | ○異界巡礼

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