キャスト:マレフィセント・フレア
NPC:リノツェロス・ごろつき
場所:造船所
―――――――――――――――
「…いかん、とりあえず追いかけよう。着なさい、マレ」
マレフィセントに自分のマントをかぶせて、機敏な動作で宿を出る。
とにかく、フレアによからぬ事が起きているようだ。六本の指…真実なら生ま
れつきの奇形か、あるいは人体形成の魔術か技術か、後者であれば禁忌の領域
である。とても少女一人でどうにかなる者にも思えない。
マレフィセントの手を引き、数歩駆け出したところでふととまる。
後ろに向き直り、ついてこれなかったマレフィセントを抱きかかえて走り出
す。事態がうまくのみこめていなかったマレフィセントは、思わず爽快さにこ
ろころと笑った。
少女の笑い声と、男の疾走が夜の町並みへ向かっていく。
********************
造船所は広く、暗い。
フレアは必死に走り続ける。だが、しつこく後ろから男達が追いかけてくる。
仕方なく、方向を変えて、造船所わきの港のほうへ向かい、道脇の茂みに隠れ
た。男達の声が響き、しばらく足音が絶えずともじっと待つフレア。やがて、
ざわめきが遠ざかったことに安堵して、仇敵がそこにいるかのように造船所を
睨み、走り出す。
整列した区画とコンテナの間を縫いながら、と、前の角からブーツの音が響
く。とっさに剣を抜き、臨戦態勢へと入る。向こうの足音も角のところまで来
て…ぴたりと止まった。
小さな衣擦れの音。フレアの直感が剣を抜いた音だと気がつく。そのまま、数
秒場が凍り付いて…
「はっ!」
「むっ!」
甲高い金音を立てて、二つの剣がぶつかりあう。最近聞きなれた声に双方が驚
いて、目を合わせる。
「フレア、か。驚かせないでくれ、もう人生が半分しかないというのに、これ
以上縮んでは困る」
「す、すまないリノ…どうしてここだって…」
剣をしまうリノ。動作が半端でないほどに手馴れている、よほど剣を身近にし
て生きた者しかできない風格だ。
「造船所脇に寝ていた酔っ払いが、可愛い女の子が男に追いかけられていたと
言っていた」
「…そうか…ってマレは!?」
そういえば、いつも一緒だった悪魔の姿が見えないことに気がつくフレア。
「空から君を探してもらっている。とにかく一度説明…」
と、ふいにリノが言葉を切った。
フレアも同時に空を見あげた。今、何かがぶつかったような音がしたのだ。
「…あれは」
夜の造船所の真上に浮かぶ、青い光。それはマレフィセントの声の光だという
ことを知っていた二人は、互いに目を合わせて、同時に走り出した。
********************
マレフィセントにできることといえば、とにかく空を飛び続けることだった。
チェル造船所は空から見ても予想以上に広大だった。かつてはクーロンすべて
の交易を担う船を扱う場所だ。飛んで見ていても、その敷地の広さに困り果て
る。翼をはためかせて、とにかく母親の姿を探す。この闇夜だ、黒い髪は見え
ずらいだろう。白い肌に、そう、あの赤い瞳を-…
「!」
空中で、唐突に翼が消えた。
見えない壁に当たって、その影響で翼の魔力が掻き消えてしまったのだと知っ
た直後、翼をなくした少女が地面へ落ちていく。真下は冷たい石畳だ、直撃す
ればかなりの傷を負うだろう。
ぶつかる、と小さな体を強張らせて瞳を閉じる。と、予想よりもはるかに柔ら
かい衝撃が彼女を受け止める。
「……?」
おそるおそる、そっと目を開けてみる。すぐ近くで赤い瞳と出会い、我知らず
ほっとする。“彼”が落ちてきた自分を受け止めてくれたから、冷たい石畳に
ぶつからずに済んだのだと知る。
「ごめんね、君を撃落す気はなかったんだ。怪我はないかい?」
心配しているのか、相手は覗き込むような瞳をこちらに向けた。
どこか、今の母親の前の母親に似ているような気がした。笑い方と、その、底
知れぬ瞳の中が。口を大きく三日月に裂いた哂いかたをする赤い瞳の人。
「君を知ってるよ、マレフィセント…いや、δμκιλθξ。
どうやら、君のおかげで彼女は一段と魅力的になったみたいだね。とても感激
しているよ」
自分の名前の言葉だけが、茫とほの青く光った。
大きな瞳をより丸くして、マレフィセントは相手の赤い瞳を見た。言葉が通じ
る、ということと、その言葉を喋れるということに。
彼は面白そうにこちらを見て、マレフィセントを降ろす。優しげに体についた
埃を払う仕草をすると、その指の形がありありと見える。驚きのあまりに無言
で見つめる少女に、彼は器用に六本目の指を曲げて見せた。
「追いかける気はなかったんだけれどね、散歩していたら追いついてしまった
みたいだね?」
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NPC:リノツェロス・ごろつき
場所:造船所
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「…いかん、とりあえず追いかけよう。着なさい、マレ」
マレフィセントに自分のマントをかぶせて、機敏な動作で宿を出る。
とにかく、フレアによからぬ事が起きているようだ。六本の指…真実なら生ま
れつきの奇形か、あるいは人体形成の魔術か技術か、後者であれば禁忌の領域
である。とても少女一人でどうにかなる者にも思えない。
マレフィセントの手を引き、数歩駆け出したところでふととまる。
後ろに向き直り、ついてこれなかったマレフィセントを抱きかかえて走り出
す。事態がうまくのみこめていなかったマレフィセントは、思わず爽快さにこ
ろころと笑った。
少女の笑い声と、男の疾走が夜の町並みへ向かっていく。
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造船所は広く、暗い。
フレアは必死に走り続ける。だが、しつこく後ろから男達が追いかけてくる。
仕方なく、方向を変えて、造船所わきの港のほうへ向かい、道脇の茂みに隠れ
た。男達の声が響き、しばらく足音が絶えずともじっと待つフレア。やがて、
ざわめきが遠ざかったことに安堵して、仇敵がそこにいるかのように造船所を
睨み、走り出す。
整列した区画とコンテナの間を縫いながら、と、前の角からブーツの音が響
く。とっさに剣を抜き、臨戦態勢へと入る。向こうの足音も角のところまで来
て…ぴたりと止まった。
小さな衣擦れの音。フレアの直感が剣を抜いた音だと気がつく。そのまま、数
秒場が凍り付いて…
「はっ!」
「むっ!」
甲高い金音を立てて、二つの剣がぶつかりあう。最近聞きなれた声に双方が驚
いて、目を合わせる。
「フレア、か。驚かせないでくれ、もう人生が半分しかないというのに、これ
以上縮んでは困る」
「す、すまないリノ…どうしてここだって…」
剣をしまうリノ。動作が半端でないほどに手馴れている、よほど剣を身近にし
て生きた者しかできない風格だ。
「造船所脇に寝ていた酔っ払いが、可愛い女の子が男に追いかけられていたと
言っていた」
「…そうか…ってマレは!?」
そういえば、いつも一緒だった悪魔の姿が見えないことに気がつくフレア。
「空から君を探してもらっている。とにかく一度説明…」
と、ふいにリノが言葉を切った。
フレアも同時に空を見あげた。今、何かがぶつかったような音がしたのだ。
「…あれは」
夜の造船所の真上に浮かぶ、青い光。それはマレフィセントの声の光だという
ことを知っていた二人は、互いに目を合わせて、同時に走り出した。
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マレフィセントにできることといえば、とにかく空を飛び続けることだった。
チェル造船所は空から見ても予想以上に広大だった。かつてはクーロンすべて
の交易を担う船を扱う場所だ。飛んで見ていても、その敷地の広さに困り果て
る。翼をはためかせて、とにかく母親の姿を探す。この闇夜だ、黒い髪は見え
ずらいだろう。白い肌に、そう、あの赤い瞳を-…
「!」
空中で、唐突に翼が消えた。
見えない壁に当たって、その影響で翼の魔力が掻き消えてしまったのだと知っ
た直後、翼をなくした少女が地面へ落ちていく。真下は冷たい石畳だ、直撃す
ればかなりの傷を負うだろう。
ぶつかる、と小さな体を強張らせて瞳を閉じる。と、予想よりもはるかに柔ら
かい衝撃が彼女を受け止める。
「……?」
おそるおそる、そっと目を開けてみる。すぐ近くで赤い瞳と出会い、我知らず
ほっとする。“彼”が落ちてきた自分を受け止めてくれたから、冷たい石畳に
ぶつからずに済んだのだと知る。
「ごめんね、君を撃落す気はなかったんだ。怪我はないかい?」
心配しているのか、相手は覗き込むような瞳をこちらに向けた。
どこか、今の母親の前の母親に似ているような気がした。笑い方と、その、底
知れぬ瞳の中が。口を大きく三日月に裂いた哂いかたをする赤い瞳の人。
「君を知ってるよ、マレフィセント…いや、δμκιλθξ。
どうやら、君のおかげで彼女は一段と魅力的になったみたいだね。とても感激
しているよ」
自分の名前の言葉だけが、茫とほの青く光った。
大きな瞳をより丸くして、マレフィセントは相手の赤い瞳を見た。言葉が通じ
る、ということと、その言葉を喋れるということに。
彼は面白そうにこちらを見て、マレフィセントを降ろす。優しげに体についた
埃を払う仕草をすると、その指の形がありありと見える。驚きのあまりに無言
で見つめる少女に、彼は器用に六本目の指を曲げて見せた。
「追いかける気はなかったんだけれどね、散歩していたら追いついてしまった
みたいだね?」
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