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2024/04/30 05:16 |
泡沫の命題-1/ドミノ(菫巽)
PC:ドミノ(仮面)
性別:女
場所:コールベル
NPC:クローバー(四つ葉)、賊
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
ドミノ-1 【仮面の占(まじな)い師】



 風に流れる長い銀色の神が月光に照らされて輝く。
 今は漆黒の瞳。
 顔の片方だけを仮面で隠した女が、身軽に宙を舞う。
「逃がさないよ」
 鈴の音のような声が告げた。
 暗闇の中の走る男の首筋に突き刺さる、それは一枚のカード。
「塔(タワー)。今日は厄日だったね貴方」
 絶命した男の首筋からカードを引き抜くと、女はその場を後にした。




『スパイラル』と呼ばれるチームがある。
 ギルドのランクSからCまでのメンバーで構成されたチームだ。
 おかしな事に皆、本名や二つ名ではなく呼び名(あだ名)で呼び合ってい
る。
 その中の一人に、ランクAの仮面と呼ばれる女がいた。
「なんだ、ドミノか」
 ギルドで出会った黒髪の青年が銀色の髪の18歳くらいの少女に話しかける。
「お久しぶりね。四つ葉」
「ああ、クローバーでいいよ。君を見習って俺も自分の呼び名である『四つ
葉』をもじって名乗る事にしたんだ」
「じゃクローバー。
 最近仕事の方はどう?」
「上々。うちのリーダーの螺旋なんか凄いよ。ケタ違うもん」
「螺旋はね」
「あとは傘男がランクBに上がったって」
「ゲ。なによ永遠のCランクでいればいいのに」
 露骨に嫌そうな顔をした少女―――――ドミノの顔に夜付けていたあの仮面
はない。
 付けるのは夜だけだ。
 端から見れば清楚可憐な美少女。
 だが、彼女は『仮面の占(まじな)い師』という二つ名で呼ばれる女であ
る。
 今は常緑の色をしているドミノの双眸が、四つ葉もといクローバーを見て半
眼になった。
「あ、お怒りモード?
 なんでそんな傘男の事嫌いなのさ。確かに晴れの日でもコート着て傘差して
るけど」
「存在が」
 言い切ってドミノはギルドの入り口へと向かう。
「もう行くの?」
「私が用があったのは無造作紳士よ。いないなら他を当たるわ。
 じゃあね」
「はいはい」
 青空が広がる。
 雲の断層。そのパノラマを見上げる彼女の瞳の色はもう紺碧色だ。
 彼女の瞳は感情によって変化する。
 それを特におかしいとは思わないのが『スパイラル』のメンバーで。
 だからドミノはそれなりに『スパイラル』という場所が気に入っている。
 街の大通りを歩いて、一つの大きな邸宅の扉の前に辿り着く。
 見張りの男達がドミノを見て。
「何の用だ」
 ときつい声で訊いてきたが、彼女は表情一つ変えずにえよく響く声で告げ
る。
「依頼主(クライアント)に言ってくれる? 『スパイラル』のドミノが来た
って」
「…ドミノって…仮面……」
「『仮面の占(まじな)い師』!?」
「判ったなら迅速行動する事ね」
「判りました!」
 一人の見張りが慌てた足取りで邸宅の中へと入っていく。
(少し…寒いかしら)
 黒い裾の長い上着を着ているとはいえ下は短いスカートで、上着の中はキャ
ミソール一枚だけだ。
「お待たせいたしました。お館様がお待ちです。こちらへどうぞ」
 見張りとは別の男に案内されるままに邸宅の中に足を踏み入れ、少しの暖を
とる。
 通されたのは広い書斎だった。
 椅子に腰掛けているのは初老の男性だ。
「お初お目に掛かります。貴方が依頼人のフォックス様ですね?」
「相違ない」
「私はギルドより依頼を受けて参りました。
 『スパイラル』のドミノ(仮面)と申します」
「君の噂は聞いておるよ。『仮面の占(まじな)い師』。
 GR、Sの『鳥籠の螺旋』に以前依頼をした事があってな。
 君の事は彼から聴いたよ」
「それは手間が省けるというもの。
 では早速依頼内容に入って構いませんね?」
「ああ、依頼は聴いておるか?」
「最近頻繁に出没する賊をどうにかして欲しいとの事でしたね」
「ああ、奴は必ず夜に、それも深夜に現れる。
 これがこの館の見取り図だ」
「今までその賊が現れた場所を教えて下さい。
 大体の出現ポイントを弾き出します」




 今夜は満月だ。
 顔の片方を仮面で隠し、弾き出した賊の出現ポイントで待つ。
(……物音)
 依頼人の言葉が蘇る。

『その賊はどうやら魔法の使い手らしくてな』

「でも、私の敵じゃない」
 ドミノが隠れている部屋の扉が開く。
 室内に足を踏み入れ、棚などを物色し始めた男に殊更ゆっくりと隠れていた
陰から姿を現す。
 男が驚きの声を上げた瞬間にドミノの右手が一閃していた。
「…ぐ!」
 男が床に片膝を着き、右手を押さえる。
 男の足と右手にはカード。
「おあいにく様。部屋を汚しても良いと言われてるの」
「………!? 仮面(ドミノ)!?」
「お利口さんね。でも、もっと利口なら良かったわ」
 男が素早く突き刺さっていた二枚のカードを引き抜き、立ち上がって早口で
呪文を唱える。
 一瞬、室内を閃光が満たし窓硝子の割れる音がした。
「あかりし夜に瞬いて、契約の元我の前へ集え」
 詠唱しながら男を追って窓から外へと飛び出す。
 隣の家の屋根に飛び移った所で、男からの魔法攻撃が来るのは予想済みだ。
 一枚のカードを宙に投げてドミノは告げる。
「おいで――――『魔術師(マジシャン)』!」
 瞬間、男の攻撃すらもかき消してその場にローブを纏った女が現れる。
 手には杖。
 これは以前、ドミノが召喚術で呼び出してしまった異世界の人間がくれた
『タロットカード』と呼ばれるものだ。それを魔法で絶対に破れない代物に強
化した。
 その人間は一時期だけ『スパイラル』のメンバーで、ランクはCだったけれ
ど。
 生意気な少年だった。
 ドミノのお気に入りだった。
 月光と呼ばれていた。
 帰らなくちゃ。
 そう彼が言ったから、私は召還術で彼を元いた場所へと送り帰した。
 その別れ間際に彼が餞別としてくれたのがこのカードだった。
 男の姿も自分が呼び出した『魔術師(マジシャン)』の姿もないが、あの傷
ではそう速くは逃げられないだろう。
 それに『魔術師(マジシャン)』は優秀だ。
 しとめ損ねることはない。
 これでもう一仕事終わりだと息を吐き、屋根から軽々と地面に降り立った
時。
 目の前に一人の男が居ることに気が付いた。




 それが、彼との出会いになる。

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2007/02/12 21:12 | Comments(0) | TrackBack() | 泡沫の命題
泡沫の命題-2/エスト(周防松)
PC : エスト・ドミノ(仮面)
場所 : コールベル

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

月の綺麗な夜だから、遠回りして帰ろう……なんてロマンチックなことを考えていた
わけではない。

エストがそこにいたのは、『たまたま』である。



彼――エストがコールベルに着いたのは、ずいぶん前のこと。

芸術の都と名高いそこを訪れたのは、観光目的などではない。
人探し、である。
エストは、10年前に生き別れになった妹を探して旅をしている。
別に、探し出してどうこうしよう、というつもりはない。
生きているのか、それとも死んでいるのか……ただそれだけが知りたいのだ。
幸せに暮らしているのなら、それに越した事はない。
もし、妹が生きていて、幸せに暮らしているのなら、「俺はお前の兄だ」などとで
しゃばるつもりはなかった。
手がかりのないまま旅立って、はや四年。
妹と同じ特徴の少女がいると聞けば、片っ端から会ってみた。
少しでも名が知られるようになれば、妹がいつか気付いてくれるかもしれないと思っ
て、ギルドのランクを頑張って上げてみたりもした。
……しかし、いまだに妹に繋がる情報はない。
エストは最近、自分のやっていることに意味があるのだろうか、と時折思うようにも
なっていた。
あるいは、もう妹は――死んでいるのではないか、と。


ともあれ。

コールベルに着き、さてこれから……というまさにその瞬間、彼は見てしまったの
だ。
何やら道端でうずくまっている老人と、そのそばで途方にくれる幼い子供。
率直に言ってしまえば、エストには一切関係のない話である。
だから、関わらずにいることも可能ではあったのだ。

(別に俺の知りあいじゃないし)
(でも苦しそうだし)
(そのうち誰かが声をかけるさ)
(誰も見向きもしてないみたいだけど)
(俺は人探しをしてるんだぞ)
(だけど……)

思考を巡らしながら、エストはうろうろうろうろと彼らの前を何度も何度も往復した
挙句、とうとう声をかけてしまったのである。
――結果。
腹痛で動けないという老人をどうにか家まで運んでやると、老人は古美術商を営んで
いて、これでは明日からお店を休まなきゃいけないと困り果てた顔をするので、エス
トはこれまたさんざん迷った挙句、店番を引き受けてしまった……のだった。
人がいいのか、あるいはただ単に断れない性格なだけなのか。
従業員のような状態を、エストはもう何日も続けていた。


そんなエストが少女に遭遇したのは、老人に頼まれた届け物を済ませた帰りのこと
だった。
老人の営む古美術品店に戻るには、この通りを通る必要があった。

エストは、突然現れた少女を見据えた。
銀色の長い髪。
黒い上着を身につけ、顔の半分を仮面で覆い隠している。

「誰だ」

厳しい声音でそう尋ね、じり…っと片足を後ろにずらす。
命を狙われるような覚えはないが、警戒をしておくに越した事はない。
あいにく、今は得物である弓矢を持っていないのだ。
素手だと全く戦えないというわけではないが、体術は弓矢に比べて得意ではないので
ある。
最悪、なりふり構わず逃げ出さなくてはいけないだろうか、などということを、エス
トは頭の隅でちらりと思った。
「警戒しないで頂戴。別に危害を加えるつもりはないから」
そう言い、目の前の少女は飛び降りた際に乱れた銀色の長い髪を手ぐしで整える。
「そう言われてもな。だったらなんで目の前に飛び降りてくる?」
エストの顔立ちは、あまり優しい印象のものではない。どちらかといえば強面であ
る。
おまけに性格の不器用さもあって、エストはしばしば初対面で怖い人と誤解されてし
まうことが多かった。
悲しいことに、泣かれてしまったこともある。
しかし、少女のエストを見る黒い瞳は、珍しいことにいたって冷静なものだった。

「仕事中だったのよ」
仕事、という言葉にエストはぴくりと反応する。

(……ギルドハンターか)

しばしの沈黙が生じる。
冷えた夜風が、少女の黒い上着のすそを小さく揺らした。


2007/02/12 21:12 | Comments(0) | TrackBack() | 泡沫の命題

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