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2024/04/30 06:37 |
1.イートン旅立つ/イートン(千鳥)
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PC:イートン
NPC:メリーディア
場所:フレデリアのアレイド家邸宅
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――ごめんなさいっ、ごめんなさい、イートン!
 
 そう言って、涙を流すメリーディアの服はいつもの上等なドレスでは無かった。色 褪せたその服でさえ、彼女の美しさを遜色させることは無かった。私たちは愛し合っ ていたわけではない。唇さえ触れたことは無い。それは、自分達の将来が全て決められ ていたからだ。

――私、好きな人が出来たの。貴族ではないけれど・・・

 私だって、貴族なんて言えるもんか。
兄も、家の者も誰も私の事など認めてはいない。しかし言葉は出なかった。

――幸せになるわ、必ず。さようならイートン。

 さようなら、メリーディア・・・

 ・・・・それから2年が過ぎた・・・・・
 
 ごそっ。
 アレイド邸の閲覧室で何かが動いた。それが大きく波うつ。膨大な図書の中で動く。 それは、まるで本のお化けのようだ。
「もう、朝か」
 イートンは包まっていた毛布を勢い良く蹴飛ばした。小さな埃を舞い上がらせ毛布 が広がる。それは彼が小さく口ずさんだ言葉と共に奇麗に折りたたまれた。
 小さな格子窓から降る薄暗い光は、それでも太陽が半分以上昇っていることを教え てくれる。
「・・・」
 光に反射して存在をあらわにする塵を不機嫌そうに見上げて、イートンは扉を開け た。片手には形の無い蝋燭の皿、片手には古代英雄の物語。
 広い屋敷には多くの使用人がいたが彼はその誰一人にも会うことは無かった。廊下 の角でふと立ち止まる。その前を若いお手伝い達が通り抜けていく。そうやって、イ ートンはこの屋敷でけして人に会わなかった。

 イートンは軽装に着替えると屋敷を出た。母親宛に置手紙を置いておく。イートン は2年前から何度も小旅行を繰り返していた。それは英雄の物語を書く為である。自 分を英雄に仕立てるつもりは無い。誰か、自分ではない偉大な存在を探して旅に出 た。実際にそんな人物などいないことは、とうに分かってしまったが。
(誰かの、昔話を聞くのもいいな)
 人生の辛さ、儚さを知る人物の・・・。クーロンとフレデリアを行き来しながらイ ート
ンはそんなことを思っていた。そう、今日最初に会った人物について書いてみよう。
 それがどんなに残酷な殺人鬼であろうと、どんなに愚かな小心者であろうと。
モノ書き特有の突然の閃きにイートンは満足げに頷いた。クーロンへの道のりは真っ 直ぐに続く。当然この道を通る奴にろくな人間なんて居やしない。

 追い風がイートンの緑かかった金髪を揺らす。誰かに呼ばれるように、彼は振り向 いた。
 そしてイートンはある人物に出会う。
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2007/02/17 22:36 | Comments(0) | TrackBack() | ○Under The Moon
2.ニンジンと私/イートン(千鳥)
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人物:八重・イートン
場所:クーロン
NPC:宿屋の娘・客の男2人組
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 ―――『踊る牡鹿亭』
 女将の家庭料理が人気のこの宿は、クーロンでもかなり安全な部類に入る場所であ る。一階の食堂は昼間にも関わらず人々で賑わっていた。
「貴様!イカサマしやがったなッ」
「なんだと、やる気か!!」
 今も一組の男達が争うだけで、店の中は穏やかだった。 

 そんな店の端で、イートンはスープ皿の中身を退屈そうにつついていた。今が旬の トロール芋がごろごろ入ったポトフ。その中のオレンジ色の固体だけが器用に山積み になっていた。
 ガシャン!
 飛んできた食器がイートンの後ろで砕ける。向かいの席は今だ空席だった。
(おそいなぁ・・・八重さん)
 イートンと八重が出会ったのはつい3日前である。クーロンに続く一本道でイート ンが彼を見つけた。お互い旅の連れを探していた2人は、すぐに意気投合した。  カラン、カラン。
 扉が開き、八重が入っていた。黄土色のスーツを着たごく普通の中年男。一見そう 見える彼がこれからのイートンの相棒であり、イートンの小説の主人公になる。
「遅いですよ~」
「すまない、時間がかかってな」
 正面の席に腰を下ろし八重が言った。彼はこの町の占い師に会っていたのだ。勿 論、イートンなどは存在すら知らない裏の世界の人物である。一日に一人しか「視」 ない為、話をつけるのに3日かかった。
「今日中に発つ」
「で?」
「あっちの方向に向かう」
 八重が突然壁の向こうを指す。
「あっち?南ですか?どちらかと言えば東南・・・」
 ハッキリしない八重にイートンは不満げだ。
「仕様がないだろう?本人がそう言ったんだから、こう指をさして」
 ・・・そこに貴方の、そしてお連れの方の探し人がおりましょう・・・
 ちらりとイートンを見た。彼は黄緑かかった金髪を苛立たしげに弄っている。
彼は旅の目的を『物語を書くこと』と自分に話していた。
 しかし、本当は?
(まぁ、私には関係ない、か)
 そこで八重は皿に視線を移した。
「君はニンジンが嫌いなのか?」
「あ!・・・ただ、食わず嫌いなだけです」
 強がりだろう。ニンジンの欠片を口に放り込んだイートンは直ぐに顔を歪ませた。
「では、出ようか」

「やめて下さいってば!」
 男達の喧嘩はエスカレートしていた。たまらず店の娘が止めに入る。
「うるさい」
「きゃっ」
 弾き飛ばされた娘をイートンが支える。
「大丈夫ですか?」
 しかし、次に弾き飛ばされたのはその男であった。八重が隣を通り過ぎた瞬間であ る。
「!?」
 突然襲う腹部の痛みに男は目を白黒させた。もう一人が動き出すことはなかった。
恐らく、目にもとまらぬ八重の一撃に気づいたのだろう。
「世話になった。宿賃だ」
 八重が振り向いて娘に銭を渡した。その顔は意外なほど優しげだった。

「いい天気ですね」
「あぁ」
 宿の外は良い天気だった。まだ月は見えなかったが今日は望月である。もうすぐ月 が満ちる・・・。
「その前に」
 八重がイートンに言った。
「はい?」
「ニンジンを買おう」
「はぁ!?」
 イートンの上ずった声が後ろから聞こえた

2007/02/17 22:37 | Comments(0) | TrackBack() | ○Under The Moon
3.出会いと変身/八重(果南)
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PC 八重 イートン  
場所 クーロンへ向かう道・クーロン東南
NPC なし
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「ちょっとー、重いですよ、八重さーん」
 サンタクロースのように、大きな袋を背中に担いだイートンが、ふうふう言いながら八重の後ろをついてくる。時刻は夕方。陽が、山の端にかかって名残惜しそうに別れの挨拶を送ってくる。・・・袋の中身は全て、クーロン近隣の村で購入したにんじんだ。この量じゃ余裕で一か月分はあるな・・・と、密かにイートンは思っていた。しかし、そのにんじんを何に使うのかは未だ知らされていない。しかも、購入した八重自身は手ぶらで目の前を歩いており、にんじんは全てイートンが背負う袋の中だ。
「ちょっと、なんで、僕がにんじんを全て持たなくてはならないんですかー!
八重さんも、自分で買ったものなんですから少しは持ってくれたっていいと思うんですけどー!」
イートンが文句を言うのも当然で、ごろごろとした約一か月分のにんじんは結構な重さだ。貴族出身で、もともとあまり体力のないイートンは、早くもへばりはじめていた。にんじんの袋をずるずる引きずり、額も汗ばんでいる。髪がはらりと眼鏡にかかる。
「仕方ないだろう。私が持っていても意味がないのだ」
そう言って、イートンの方に首を向けて振り返った八重が、相変わらずの冷めたような鳶色の眼を向ける。
「それを持っていても、私は本能的に変身前、手放してしまう。胃の中に入ったにんじんもそうだ。変身前には嘔吐し、それを吐き出してしまう。・・・そういえば昼間食べたポトフにも入っていたな。・・・変身の時間を知るいい目安になる」
「ちょっと、何の話です?それ?」
その言葉に、イートンが、わけがわからないという顔をした。
「変身が何とか、にんじんを吐くとか。一体何の話をしているんです?」
「<ウサギ>の話だよ」
八重がにやりと笑う。
「イートン、死にたくなければそれを絶対に手放さないことだな。そうしなければ、私は一番初めに君のことを喰らってしまう。・・・ああみえて<ウサギ>は素早いからな」
「<ウサギ>?」
その言い方は、普通に「兎」という言い方と微妙にニュアンスが異なるものだった。一言一言を強調している感じだ。
「何です?その<ウサギ>っていうのは・・・?」
「君がこの先も私と行動を共にしたいというのなら」
八重の黒い前髪が夕方の風にはらりと揺れた。
「嫌でも分かることだ」

 八重がイートンと出会ったのはつい三日前のことだった。
-私は旅の作家なのですが、貴方のお話を書かせてはもらえないでしょうか-クーロンへ向かう道で、ふいに彼にそう呼び止められたとき、正直、八重は彼をうざったいと感じた。特異体質であるため、八重は人との関わりあいを極力持たぬよう努めていたのだ。なにせ、満月の夜に誰かが傍にいた場合、その人間を殺してしまう可能性が高い。うかつに人を自分の傍に近寄らせるわけにはいかないのだ。
 しかし、さすが作家。彼は口がうまかった。いくら八重が近寄らせまいとしても一歩も引く様子がない。どうやら八重は彼に気に入られてしまったようだ。彼の粘り強さに、とうとう八重の根も果てた。
(全く・・・、俺はどうなっても知らないからな)
 そんな八重の気が変わったのは、彼の発したある一言からだった。
「<ヒエログリフ>・・・?確か、<ルナシー>の対になってるって言われている人物ですよね?」
その言葉を聞いたとき、思わず八重は彼の胸倉をがばっと掴んだ。
「何故知っている、それを!」
「何故って・・・、作家たるもの、地方の伝説を調べるのは当たり前じゃないですか。特に僕が書こうとしているのは英雄の一代記ですし・・・。伝説にヒントを捜し求めて何がいけないんです?」
 その言葉に、八重はあわててイートンの服を思いきり掴んでいた手を放した。
(なるほど、こいつはつまり職業柄、伝説に詳しいのか・・・)
八重は思った。<ヒエログリフ>も<ルナシー>も、存在自体が曖昧で、もはや伝説の中にしかその存在を確認できない。つまり、伝説をたどっていくことが<ヒエログリフ>の行方を掴む鍵となるのだ。
(案外こいつは使えるかもしれないな・・・)
しかも、彼も自分と同じく探し人がいるという。これは少し親近感を憶えずにはいられなかった。
そういうわけで、利害関係も含めて、八重は彼、イートンとともに旅をすることになった。

(うっ・・・・!!)
突然八重に激しい嘔吐が襲ってきた。
(いよいよ・・・か・・・)
これはまさしくにんじんを吐き出そうとする嘔吐・・・<ウサギ>化の前兆である。辺りが宵闇に染まってきた。いよいよ、変身のときも近い。
「イー・・トン・・・、よく聞くんだ・・・」
「なっ・・・!八重さん・・・!!」
駆け寄ろうとしたイートンを、八重は手で静止した。
「<ウサギ>が暴れ、人間を襲おうとした場合・・・、にんじんを・・口にほおりこんで欲しい・・・。そうすれば・・・、<ウサギ>は無力になる・・・」
言ったとたん、かはぁっと八重は嘔吐した。嘔吐物の中には、ごろごろとにんじんの塊が入っている。
「くっ・・・、いよいよ・・・か・・・っ・・」
「どうしたんですか!八重さん!!」
イートンがあわてて近寄ろうとする。
「寄るな・・・、イー・・トン・・・」
それが、人語としての八重の最後のセリフとなった。
「ぐがあああああああああっ!!!」
猛獣のような奇声を発し、八重は身体を掻き毟った。眼は真っ赤に充血し、かっと空を見上げる。・・・空には、月が昇っていた。大きな、満月が。
「!!」
イートンはその光景から眼がそらせなかった。
ビリビリっと八重の服が裂け、八重の身体から、ムキムキとした筋肉が盛り上がってくる。口が大きく横に裂け、牙が生え、口内が真っ赤に爛れる。耳が長く伸び、白い体毛が生える。瞳が血のような鬼灯色に染まる。
「ウ・・サギ・・・」
・・・確かに、「ソレ」はウサギとしての特徴を十分に備えていた。耳が長く、色が白くて、眼の色が赤い。見た人間はとりあえず「ウサギ」と呼ぶであろう。しかし、ウサギはウサギでも、ソレは<化け物ウサギ>だった。第一、可愛らしさの欠片もない。
「八・・重・・・さん・・・?」
おびえた眼を、イートンは<ウサギ>に向けた。
「そんな・・・、嘘ですよね・・・、八重さん・・」

2007/02/17 22:38 | Comments(0) | TrackBack() | ○Under The Moon
4.月に沈む/イートン(千鳥)
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PC  八重 イートン  
場所  クーロンへ向かう道・クーロン東南
NPC 旅人
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『彼の意識は満月の中に沈んだ  彼は鋭い爪を私に走らせた
 その目は赤く熟れている    大きな影に覆われ私は見つめる
 月の下に飢えし者       ルナシーを』   
                 イートンの手記より

 ザシュッ!
 空気を切る音と共に朱の飛沫が上がった。
 イートンはその力に耐え切れず後方に飛ばされた。
「う・…」
 押さえる左腕からは早まる鼓動と共にドクドクと血が流れていく。血と恐怖が充満し、目の前にいる生き物を余計に興奮させていた。
(これが・・兎?)
 混乱した頭を必死で回転させる。不明瞭だった八重の言動が少しずつ見えてきた。
(どうしてこれが兎なんだ!!)
 しかし、次にイートンを支配したのは激しい憤りだった。
(確かに耳は長いし、目は赤い。しかしこんな筋肉ムキムキの可愛くない物を『ウサギ』に分類するなんて!!私は絶対認めないッ)
 もしかしたら「ウ・サギー」とか「ウサッギー」という別の生き物ではないだろうか?美人と小動物を愛するイートンはかなり考えを脱線させていた。
(第一・・・アレは)
 胸のリボンで止血をすると、イートンはそろりと立ち上がる。その視線は真っ直ぐにアレの口の中へと注がれていた。まるで暗い檻のような口。未発達の二本の門歯に対し、大きな牙の脇からは涎が絶えず流れている。
 二度目の攻撃をよけてイートンは叫んだ。
「肉食じゃないかッ!!」

 クルッ。 
「・・・?」
 イートンの叫びと共に兎は方向を変えた。あれほど自分に向けていた食欲をまるで異臭によって削がされたようなような顔をした。それがやけに人間臭くてイートンを嫌な気分にさせたが。 
「あ。ニンジン」
 彼の後ろには先ほど投げ捨てた袋からニンジンがこぼれ出ている。八重がニンジンを口に放り込めと言ったのは覚えている。しかし、それ以上にこの兎はニンジンに嫌悪感を抱いているようだ。
(ルナシーはニンジンが苦手なのか?)
 八重がルナシーなのは、あんなシーンを目の前で見たのだ、疑うまでも無かった。しかし、既に伝説上の生き物と化した彼等の生態、名前すら、知る者は少ない。
「ぎゃあああ!!」
 直ぐそばで聞こえた絶叫にイートンは思考を中断させた。兎が別の『獲物』を見つけたのだ。思い切りニンジンを投げつけた。まるで後ろにも目があるように兎がよける。
「大丈夫ですか!?」
「アァ・・ああ・・・」
 腕を持っていかれた男は瞑り唸った。しかしイートンには回復魔法をかけてやることも出来ない。むしろそれだけで済んだ事が幸運だろう。旅人には常に死の危険が付き纏う。イートンの場合それが直ぐ傍にいた旅の連れであったのだが。
(このまま、夜が明ければよいのに・・・)
 しかしまだ夜は始まったばかりだ。それにこのままでは兎は彼等に興味を失い、何処かへ行ってしまう。兎の食料になる村はこの辺りに十分散在しているのだから。」
(伝説では・・・古書ではどうなっている?)
 一夜で村を全滅させる怪物、ルナシー。それを倒すのは英雄であり、救うのは無垢な乙女であった。狼男と同一視される彼等だがその種は多様であったと言う。
イートンは英雄でもなければ、乙女でもなかった。
 このニンジンの山の傍にいれば兎は襲ってこないだろう。しかし、
(これをどうやって兎に放り込めって言うんですか!八重さん!?)
 睨み合いは続き、兎が再びその場を離れた。その時イートンは覚悟を決めた。
「走って!!」
「ひぃ!」
 意識を取り戻していた男の背中に幾つかニンジンを背負わせ、森を指した。
「・・・グルゥ」
 兎がそれを追おうと後ろ足に力を込める。跳躍する直前にイートンが短刀を投げた。それは鍛えられた筋肉に見事に跳ね返される。
「お前の相手は僕だ」
 ニンジンの山から離れたイートンに兎が歓喜の唸りと共に飛び上がる。動かない彼は兎の格好の的だった。彼を殺す為、否喰らう為に向けられた牙が裂けたような口からしっかりと見て取れた。そしてイートンは言葉を紡ぐ
「“火を灯せ”」
 ニンジンの袋に入れた火乱石が火薬に火をつけた。
 ドゥン!
 小規模の爆発と共にニンジンが粉々に飛び散った。爆風と共にイートンは意識を失った・・・・。

2007/02/17 22:39 | Comments(0) | TrackBack() | ○Under The Moon
5.ウサちゃんの正体/八重(果南)
 
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PC  八重 イートン  
場所  クーロンへ向かう道・クーロン東南
NPC なし 
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にんじん爆弾のかけらは、見事ウサギの口を直撃した。

 ゴクっ

思わずウサギは喉を鳴らし、それを飲み込む。とたんに、ウサギの顔が苦痛に歪んだ。
「ガルルルルルゥッ!!!!」
身体を掻き毟り、真っ赤な目をかっと見開き、断末魔のような唸り声を発しながら、ウサギはにんじんを吐き出そうともがく。
 しかし、もう遅い。にんじんは、すぐにその威力を発揮し始めた。ウサギの身体は、徐々に縮んでいく・・・。小さく、可愛らしく・・・。


「キュウ・・・キュウ・・・」
何かの生き物の鳴き声でイートンは目覚めた。木の幹に打ち付けた頭がずきずき痛む。目覚めたばかりで、ぼんやりとしているイートンの視界に赤い瞳の生き物が写った。
「ん・・・」
「・・・キュウ?」
「かわいいいいいっ!!」
 思わず、がばっとイートンは起き上がると、その生き物の身体を抱き上げた。ふわふわで真っ白な毛。くりくりした大きな瞳。
「可愛いなぁ・・・」
うっとりと、イートンはその生き物を見つめた。その可愛さで、頭の痛みなどもはや星の彼方である。それは、小さなウサギだった。おどおどした瞳を向けて、イートンを見つめている。
「キュウ・・・」
「ああっ、可愛いっ!!」
小動物を愛する彼は、このウサギの可愛らしさのとりこになってしまった。
(なんて可愛いんだ・・・。そうですよね、ウサギっていうのはこういう可愛いのをいうんですよ、あんな悪魔ウサギなど問題外、問題外・・・)
「ん!?」
イートンは思わずまじまじとそのウサギを見つめた。
(あれ・・・、このウサギ、そういえばあの悪魔ウサギに、ちょっと似てるような・・・)
 白い毛、赤い瞳。大きさこそこのウサギは小さいけれど、もう少し身体が大きくて、ムキムキならあのウサギに似ていなくもないような・・・。そんな考えがイートンの心をよぎった。
「まさか・・・」
イートンはウサギを見つめた。
「まさか・・・ですよね・・・?」
「キュウっ」
「ああ、可愛いっ!!」
しかし、その考えは見事にイートンの頭からふっとんだ。
「そうですよねー、いくら同じウサギでも、あの悪魔ウサギとこのウサちゃんが一緒の生き物なわけがないですよねー、ね、そうですよね、ウサちゃん?」
ね、といってイートンはウサギの顔を覗き込む。ウサギも、それに答えるようにキュウキュウと鳴く。というか、イートンの手から逃れようともがいているようだが、ウサギにメロメロのイートンは気づかない。
 ふいに、辺りがうっすら明るくなったような予感がして、イートンは東の空を見た。
「あ・・・」
予感は的中した。東の空の端がうっすらと明るくなり始めている。イートンはそれを半ば放心状態で見つめた。
「もうすぐ・・・夜明けですね・・・。結構、長く気を失っていたんですね・・・、私は・・・」
あの、ウサギとの死闘が脳裏をよぎる。肉体的も精神的にも、戦いの疲れがどっと押し寄せてくるのをイートンは感じていた。
「これで・・・八重さんも元に戻りますね・・・」
はっとイートンは思い出した。
(そういえば、ウサギは?八重さんは!?)
そう思ったその時、
「あっ!」
イートンの隙をついてウサギが手から逃げ出した。ウサギはだっとかけていくと、目の前の茂みをくぐり、どんどんかけていく。
「あ!待って、ウサちゃん!」
思わずイートンはウサギを追いかけた。ウサギはどんどんかけていくと、八重の荷物が入っている小型のトランクの前で立ち止まった。
「あ、あれ、八重さんの・・・」
イートンの言葉が終わらないうちに、

 にょにょにょにょにょ・・・・

 ウサギの身体がどんどん大きくなり、白い皮膚に色がつき、髪の毛が生え、人間の姿を成してくる。そして、出来上がったその姿は・・・。
「やっ・・・やややっ・・・・八重さんっ!!!」
「・・・よう」
八重は半ば諦めたような瞳をイートンに向けた。
「可愛いウサちゃんがこんなオヤジでがっかりだろう?」
「あ・・・あ・・・」
とりあえず、イートンが発することが出来たのはこの言葉だけであった。
「八重さん・・・服!服っ!!」
「ああ・・・そうだったな・・・」
 変身が解けた八重は、・・・もちろん全裸である。しかし当人は全裸ということにいっこうに無頓着な風で、のろのろと服を着替えはじめた。

2007/02/17 22:40 | Comments(0) | TrackBack() | ○Under The Moon

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