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2024/05/17 00:13 |
6.月と魔族とウサギ鍋/ニーツ(架月)
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PC  ニーツ 八重 イートン  
場所  クーロンへ向かう道・クーロン東南
NPC ニンジン背負った男
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 まどろみとも呼べぬ浅い眠りから、ニーツはふと、目を覚ました。
 黒々とした森の、木々の間から、蒼い清浄な光が差し込んでいる。
 今宵は満月。「魔」の力が最大限に強まる刻。
「なんだ…」
 少年とも、少女とも付かない声が、その唇からもれる。ニーツは、思わず疼く左眼を押さえた。
 其処は赤く、冴え冴えと輝いている。強い魔力を感じたとき、そうなる事をニーツは知っていた。
 何か、この付近を乱す、強い魔力を感じる。
「この近くに俺の他に魔族がいるのか?」
 呟いて起き上がると、短いさらさらの髪がはらりと眼にかかった。
 魔族の中でも、珍しいとされる中性体、又は無性体と呼ばれる個体であるニーツは、髪を伸ばす事を厭っていた。理由は、以前伸ばしていたときに女に見られて面倒だった、と言うだけであったが。同様の理由で言葉遣い、立ち居振舞いなども少年のものだ。
「た…助けて…」
 ニーツの座っている木の下方から、か細い声が上がる。億劫そうに見下ろすと、其処には片手を失い、にんじんを幾つも背負っている男の姿。
 それが、目の前で足をもつらせて倒れた。一瞬、放っておこうかと思ったニーツだったが、思い直して木から飛び降りる。
「どうした?」
 声を掛けると、男は助かった、とでも言うように顔を輝かせたが、ニーツの姿を見た
 途端、ヒイッと喉の置くから叫び声をあげた。冷ややかに男を見下ろしながら、それも当然だろうな、とニーツは心の中で呟く。
 銀の髪に、赤と蒼の瞳という、異彩な色を持っている上に、久しく人間と交わっていないニーツの耳は、擬態が掛かってなく、先が尖っている。おおよそ人間ではありえない姿だ。
「ば…化け…」
「落ち着け。愚か者」
 半眼で告げると、ニーツは、未だ血が噴き出している男の腕に手を伸ばした。
 何かに噛み付かれ、引きちぎられたような切り口。ニーツがかざした手に魔力の光を
 宿すと、血がぴたりと止まる。
「あ…――?」
 男が、何か訊きたげに見上げて来たが、ニーツは無視した。単に、こうすれば少しはおとなしくなるかと思った上での行動であり、他意はない。流石に、腕の復元まではできないが。

――ドオン――

 突然、遠くの方から爆発音が響いた。直後、この辺りを乱していた強い魔力が、風に吹き消されるように、忽然と消え失せる。
「ひい…っ」
 一旦は落ち着いた男が、音のした方を見て、怯えた声を出した。どうやら、方向で何かがあったらしい。
「あちらで何かあったのか?」
「ウ…ウサギの化け物が…」
 静かに問い掛けると、男からかろうじて答が返ってきた。その”答”に、ニーツは思わず冷笑を浮かべる。
「ウサギ鍋でもやっていて、化けて出てこられたのか?」
「違う…!本当に、化け物が…!!」
「まあ、いいや」
 要領を得ない男の言葉に飽きたニーツは、笑いを引っ込めて男の額をトンッと突いた。
 瞬間、男の身体が崩れ落ちる。
 男の意識と、自分に会ったという記憶を奪い、
「確かめれば。判る」
 そう呟いて、ニーツは跳んだ。




”それ”を見つけたのは結局明け方だった。
 最初に聞こえたのは、人間の声。
「ああ、可愛い!!」
 眼鏡の、血を流してる男がその腕に抱いている物は、成る程、確かに「ウサギ」だった。だが、化け物というにははるかに小さく、可愛らしい。
(あれでは、鍋にしても、物足りないな…)
 冗談なのか本気なのか分からないことを考えながら、ニーツは彼らのすぐ上の枝へ移動する。此処へ来る間に、何があってもいいように耳を人間の物に擬態しておいた。

 近づくと、ウサギから魔力の残り香を感じることが出来る。
(やはり、あれが化け物ウサギなのか?)
 首をひねったとき、目の端に、明るい光が飛び込んできた。太陽だ。
 月が、追われるように沈む。魔の刻が、終わりを告げる。
 夜が明けた瞬間、ウサギが走り出した。それを追う眼鏡の男を追って、ニーツも彼らの頭上を移動する。
 そして、そこで目にした物は、ニーツの目を瞠らせるのに十分な物だった。
「やっ…やややっ…八重さんっ!!!」
「…よう」
 先程のウサギは、人間の男へと姿を変えていた。人間二人はその後、いくつかの会話を交わし、ウサギ男は着替え始める。
 それをじっと見ながら、ニーツは古い記憶を辿った。昔。誰かから聞いた言葉。
 月の呪いを、受けし人間。
「…ルナシー、か…」
 この小さな呟きが耳に入ったのか。
 人間二人が、同時に頭上を振り仰いだ。
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2007/02/17 22:41 | Comments(0) | TrackBack() | ○Under The Moon
7.左手に受難/イートン(千鳥)
 
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PC  ニーツ 八重 イートン  
場所  クーロン東南・迷いの森(仮)
NPC なし
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 「―――!」
 驚きはお互いに大きかった。
八重とイートンの目は頭上の人物の姿を的確に捉え、ニーツは思わず枝から足を踏み外した。
「君は・・・?」
 高い木の上からきれいに着地したニーツをイートンが不思議そうに見つめた。折角体勢を整えた彼だったが、その身体は直ぐに八重の腕によって地面から浮く。
「ルナシーについて知っているのか!?」
「さぁ」
 真摯の表情の八重にニーツは冷ややかな表情をむける。
「なら何故ここに!」
「俺は片腕の無い男に“化け物”が出たって聞いただけさ」
 はっとしたように口を噤んだ八重は力無く手を離した。
「お前だって人間かどうか分かりはしないがな」
 銀色の髪に色の異なる瞳。その冷めた視線は人間というより、まるで獣のようだ。
「そうかな。とりあえず、形は人間だろう?」
 くすくすと笑ったニーツは意外にあっさり口を開いた。
「俺が知っているのは僅かな事だ。でも,お前達に利益をもたらす事は出来るだろう」
 それは酔狂だった。
人を喰らう、たかがそれだけのことに心を砕いている彼らが面白かったのだ。
「ヒエログリフ以外にもルナシーを抑えることの出来るものがある」
「ニンジンですか?」
「・・・なんだそれは?」
 イートンの答えにニーツが眉を寄せる。
「俺が聞いたのは道具だ。そういう道具があると聞いた」
「道具?それは一体・・・」
 それがやはりニンジンだったら。そう思うせいか八重の表情は浮かなかった。
「まぁまぁ。信じる価値はありますよ。良かったですね、八重さん」
 ぽんと八重の肩を叩く、そしてイートンはずっと言いたかった言葉を続けた。
「ところで、この格好どうにかしたいんですけど・・・」

 ニンジン色に染まったシャツをつまんでがため息をついた。
ニンジンの臭いが鼻につく。着替えたくてたまらなかったのだ。
「あぁ、森の中に泉があったな・・」
「ホントですか!良ければ案内してくれません?」
 思い出したように呟いたニーツの言葉にイートンが飛びつく。
「イートン!」
 八重が声をあげた。まだニーツは信用できない。彼の持つ『色』は鮮やか過ぎる。ニーツを危険だと思うのは本能なのだ。そんな八重に対し、イートンは自信を持て返答した。
「大丈夫ですよ。こんなに可愛いんですし♪」
「「・・・・・・」」
 この能天気な答えに八重は脱力し、ニーツは思わず身を引いた。

 背が高く直立に構えた木々が生い茂る森の、道とも言えぬ獣道を通りながら三人は奥へと入って行った。慣れない道に遅れる二人を気にすること無く、ニーツはずんずん進んだ。自分の残した痕跡を辿って行けば必ず泉まで戻れる。そう踏んで歩いていた彼の足がふいに、止まる。
(・・・おかしい。空間がねじれている?)
 最初はルナシーの影響を受けたのだと思っていた。しかし、少しずつ辿って行く跡がずれて行く気がするのだ。進めば進むほど。
(もうここは・・・先程の森ではないかもしれないな) 
 そう結論付けたニーツの耳に後方から思いがけない声が聴こえた。
「あ。ありましたよ。こっちに泉が」
「――――!?」
 慌てて振り返る。イートンが嬉々として横道に逸れた。
「違う、それは!」
 ニーツが珍しく切羽詰った声をあげる。しかし、それは既に遅かった。
 ――パシャン。
「大丈夫か!?」
 左腕を庇っているイートンに八重が駆け寄った。彼の視線は血で染まった袖の下に注がれている。そこにはウサギが、八重がつけた傷があるのだ。
「大丈夫です、そっちじゃないですから」
 ずっと気にしてたでしょう?八重を見上げて笑みを浮かべるイートンだが、
「あと、今水の中に何か落とさなかったか?」
 次の言葉には苦々しげに呟いた。さすがウサギ・・・・
「その手の甲、見せてみろ」
 八重の後ろから覗いていたニーツがイートンの左手を掴んだ。そこには引っ掻いたような赤い筋が形を成している。
「何かの文字みたいですね」
 僕には読めませんけど・・・。尋ねるイートンにニーツは答えなかった。

 ズズズ・・・。
 静かだった水面に波が立つ。三人は顔をあげた。
金色の髪が大きく広がっている。それが大きく盛り上がり一人の女になった。女神のような美しい、造りモノめいた顔がギギギと音をたててこちらを見る。その口から漏れ出す声も、また偽りのものだった・・・・・。

2007/02/17 22:42 | Comments(0) | TrackBack() | ○Under The Moon
8.エセ学校の怪談/八重(果南)

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PC 八重 ニーツ イートン  
場所 迷いの森もといエルフの森
NPC なし 
―――――――――――――――――――
 それは、金色にまばゆく光る乙女の像だった。髪も金なら体も金。その表情は、ツタンカーメンの仮面のごとく、無表情に凍り付いていた。その唇が上下にパクパクと動いて腰のほうから音声が発せられる。
「貴方が落としたのは、この赤い本ですか。それとも青い本ですか。それとも黄色い本ですか」
 その乙女の手には三冊の本が握られていた。外見はどれも同じ。ただ、それぞれ背表紙の色が赤、青、黄色である。
「あーっ!!」
 その本を見てイートンが声を上げた。
「あれ、僕の日記じゃないですか!!」
 乙女が持っている本のうち、背表紙の赤い本はまさしくイートンの日記だった。
「じゃあ、あの時落としたのはこの日記だったというわけだ」
 八重の言葉に急いでイートンは鞄の中を探る。鞄が開いていたことにまず絶望を感じたイートンだったが、やはり日記がないことを確認してさらに絶望的になった。
 あの日記はただの日記ではない。今まで物語を書くためにイートンがメモした全てがあの日記に詰まっているのだ。
「お願いです、その本を返してください!!」
 イートンは懇願する。あの本に詰まっている情報はイートンにとって命の次に大切なものなのだ。乙女は無表情に同じ質問を繰り返す。
「貴方が落としたのは、この赤い本ですか。それとも青い本ですか。それとも・・・」
「ええ、その赤い・・・むがっ!!!」
 赤い本・・・、と言いかけたイートンの口をニーツが塞いだ。
「この愚か者が、答えてはダメだ」
「何故です!あの本はまさしく私の・・・」
「いいか、よく聞け、愚か者」
「イートンです!!」
「・・・ふん、ではイートン、よく聞け。これはエルフが作ったトラップだ。俺たちはどうやら知らず知らずのうちにエルフのテリトリーに迷い込んでしまったらしい」
「エルフの森・・・」
「お前たちは感じないのか、この森が魔力で満ち溢れていることに」
 その言葉にイートンは周囲を見渡した。しかし、魔力がたいして高くもないイートンにはこの森が他の森と別段変わったところがないように見えた。不安げな表情で、イートンは八重に尋ねる。
「・・・どう思います?八重さんは感じるんですか、この森の魔力を」
「さあ・・・。私にはわからんな。私は、ルナシーであること以外は、普通の人間と能力的にはたいして変わらないからな」
「へえ、意外だな。<ウサギ>の時は魔力で満ち溢れていた君が、人間のときは魔力を全く持たないとは」
<ウサギ>という言葉に八重はぴくっと反応する。
「おや、気に障ったかな?これは失礼。しかし人間とは不思議な生き物だな。生き物を殺すときに「ワザワザ」罪悪感を感じるなんて」
 そういってニーツはせせら笑う。そこに二人は彼の、人間と異なる点を見た。そしてある程度の種族の憶測もついた。
――コイツは、魔族だ。
「とにかく、何故僕は自分の本を取り返してはいけないんです?そのわけを話して下さい」
イートンが言う。今はとりあえず自分の日記を取り戻すことが先決だ。
「何も、取り返してはいけないとは言っていない」
 必死な表情のイートンにニーツは言う。
「ただ、アイツの質問に答えるのが危険なだけだ」
「どういうことです?」
「アイツは、その持ち主が落としたものとそっくり同じもので、赤、青、黄色の物を出す。そして、もしその持ち主が赤と答えた場合」
「赤と答えた場合?」
「口から出す炎で焼き尽くされる」
「なっ・・・!じゃあ、青と答えたら?」
「水の中に沈められる」
「じゃあ、黄色は?」
「黄色・・・。黄色は覚えてないな・・・。もしかしたら黄色は何もなかったかもしれない・・・」
「解りました、黄色ですね!」
 本取り返したさに早合点したイートンは、次の瞬間、乙女に向かって叫んでいた。
「私の本は、黄色い本です!」
 次の瞬間、イートンの周りの土が緩んだ。
「わっ・・・!!わわっ!!」
 なんと、イートンを中心にアリ地獄のような流砂が出来上がった。イートンの体はあっという間にその流砂にのまれていく。
「イートン!!」
「八重さ・・!!」
 そのときニーツがぽんと手を叩いて、思い出したように言った。
「ああ、思い出した。黄色と答えたら土に飲み込まれるんだった」
「早く言え!!」
「まあそう焦るな。これは俺の責任でもあるからな、少しは助けてやる」
 言うとニーツは両手を前に突き出し、なにやら念じだした。
「空気よ、固まれ。縛!」
 すると、今まで土に飲み込まれていたイートンの体がぴたっと止まった。八重がほっと息をつく。
「よかった・・・、イートン・・・」
 手を差し出そうとした八重をニーツが止めた。
「悪いが、コイツの周りの空気ごと固めてしまったからな。引っ張ろうとしてもムダだぞ」
「じゃあ、一体どうすればいいというんだ!?」
「カンタンだ、アイツを壊せばいい」
 そう言ってニーツは顎で乙女のほうをしゃくった。
「アイツを壊せばこの魔法は消える。俺が壊してもいいが、生憎、俺がこの姿勢を崩した瞬間俺の魔法が切れてしまうからな。お前が壊すしかない」
 ニーツがそう言うと、八重はすっと乙女の傍に近づいた。
「私を壊すですって。オホホ、馬鹿げているわ」
 八重が乙女の目の前に立ったとき、乙女の腰からこう、声が漏れた。
「私の体は純金よ。魔力もなく、何の武器も持たない貴方に壊せるわけがない」
「・・・純金か。ミスリルでなくて幸いだった」
 呟くと、八重は拳を構えた。
「あまり、この力は使いたくはないのだけれどな」
 使えば、自分がルナシーであることを思い知らされるから。月に呪われしルナシーの唯一の利点。
「<ルナ>」
 そう呟くと八重は純金の乙女に思いっきり拳を叩き込んだ。
 瞬間、紫色の閃光とともに乙女の像はバラバラに吹き飛んだ。
「・・・!!」
 驚きのあまり言葉もないイートン。ニーツはひゅうと口笛を吹いた。
「へえ、これが<ルナ>の力か」


2007/02/17 22:42 | Comments(0) | TrackBack() | ○Under The Moon
9.受難は続く/ニーツ(架月)
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PC  ニーツ 八重 イートン  
場所  エルフの森
NPC フェアリー

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―ドスン―

「痛たたた…」
「大丈夫か?イートン」
 乙女の魔法が解け、イートンが落ちないように支えていたニーツの魔法も解けて、イートンは派手にしりもちをついた。その後、誰も助け起こそうとしないので、仕方なしに自力で立ち上がる。
「何だったんですか~?今の」
「何処かの馬鹿の早とちりによって引き起こされた現象」
「いや、あの、そうではなくてですねえ…」
 ニーツの物言いに、思わず脱力するイートン。そんなイートンを冷ややかに見つめながら、ニーツが口を開いた。
「今のは、まあ、先程も言った通り、罠だろうな。イートン、特に君は気をつけたほうがいい」
 そう言って、ちらりとイートンの手の甲を見る。其処には、先程できた赤い筋がまだ残っていた。
「くれぐれも、勝手に動かないように…」
「あ~~~!!」
 ニーツの言葉を遮って、イートンが大声をあげた。ニーツと八重は、思わず彼の指差
 ピョコピョコと長い耳を揺らしながら駆けていく小動物。ふっと振り返ったその口には、見覚えのある赤い日記…
「ウ…ウサギか??」
 思わず八重は一歩下がる。だが、イートンには可愛い小動物にしか見えなかったし、その口に加えている物しか目に入っていなかった。
「僕の日記!!待って、ウサちゃん!!」
「あ、おい!!」
 ニーツの静止の声も聞かず、脱兎のごとく―まさに言葉通りだが―駆けるウサギを追って、イートンは走り出した。
「…言ってるそばから…」
「イートン、お前…」
 後に残った二人は、思わず頭を抱える。そして、ちらりと目を合わせると、イートンを追うべく駆け出した。


「捕まえた!」
 しばらく行った所で、ようやく八重がイートンに追いつき、その首根っこを掴む。
「八重さん!!」
「全く、世話をかけるな。
 ………………ウサギは?」
「見失っちゃいました」
「そうか」
 なんとなくホッとしたように、八重が呟く。遅れて追いついたニーツが、その反応を見て、口の端を吊り上げた。
「嫌いなのか?ウサギ。<ウサギ>のおかげで先程のような力が出せたのだろう?」
「…うるさい」
 振り返った八重は、ニーツを睨み付ける。人のことを嘲笑うニーツが気に入らなかったのだ。だがそこで、ニーツの瞳が全く笑っていないことに気づいた。心の底からは笑っていない。ひょっとしたら、先程からそうだったのかもしれない。
 そんな八重から視線をはずして、ニーツは笑いを引っ込めた。
「さて、更に奥に迷い込んでしまったが…どうする?」
「どうするって…」
『どうするって…』
「……!?」
 言い淀むイートンの言葉が、そのまま森から響いてきて、三人は思わず上を見上げた。耳に微かに、女の笑い声が聞こえてくる。
 …何か、いる。
『どうするの?ねえ…クスクス』
『人間が入り込んでくるなんてねえ…嫌だわ、魔族までいる…』
『どうしましょうか?クスクス…』
「…フェアリーか…」
 小さな少女のような囁き声に眉をしかめながら、ニーツが呟いた。
「フェアリー?」
「知らないか?イートン」
「確か、森に住む下級妖精族で、迷い込んだ人々を苛めるのが好きとか何とか…って、ええ!?」
「完全に、ターゲットにされたな」
 億劫そうに呟いたニーツに、厳しい顔の八重が近づく。
「そんな事より、今聞こえた魔族というのは、お前のことか?」
 その言葉に、ニーツとイートン、二人の視線が八重に集まった。
「そんな事よりって…八重さん、そんな事言ってる場合じゃ…」
「イートン、これは重要なことだよ。お前は、魔族か?」
 睨み付ける八重に、ニーツは面倒くさそうな瞳を向ける。けれどすぐに、小さくため息をついた。
「君とイートンが魔族じゃ無いというなら、俺しかないんじゃないか?」
 そう言って意外にもあっさりと、擬態を解いた。尖った耳が顕わになる。
「魔…魔族?滅多に出会うことは無いといわれる、あの魔族??」
 イートンが何故か興味津々でニーツに話し掛ける中、淡々と八重は問い掛けた。
「どうして私たちに近づいた?私たちを襲うためか?」
 その言葉に、ニーツが不愉快そうに目を細めて、八重に呼びかける。
「……ウサギ男」
「八重、だ」
「では八重。どうも誤解しているようだが、俺たちは其処まで人を襲うことを好まない。人と子を成す者までいるくらいだからな。
 …まあ、中には人を殺すことを生きがいとしているような馬鹿者もいるがな。低級になればなるほどその傾向は強いらしい」
「ふむふむ」
 気が付けば、イートンがその話に聞き入っていた。なにせ、あまり知られていない魔族の生態を知ることができる絶好のチャンスだ。
「少なくとも、俺は意味も無く人を殺すのは好かないな。君たちに近づいたのは、単なる好奇心だよ、八重。
 でも……」
『クスクス…ほうら、出て行きなさい!!』
 ニーツが、突然視線を森に向ける。
 その時、森が動いた。
 すっかり無視されていたフェアリー達が動いたのだ。三人の周りにあった木という木が一斉に蠢き、その枝を鞭のようにしならせて、襲い掛かってくる。
 同時に、空気も動いた。三人の周りを、強烈な風が嵐となって吹き荒れる。
「うわ…!」
「く…」
 咄嗟に顔をかばったイートンを抱えて、八重は地面に伏せる。木切れや色々な物が、その上を飛び交った。
 暫くして、起こったときと同様に、風が唐突に収まる。恐る恐る顔を上げた二人は、周りの惨状を見て、目を瞠った。
 木という木が倒れ、その下に、透明な羽を持った手のひら大の大きさの少女達が下敷きになっている。風は、八重たちに襲ってくるもの全てをなぎ払っていた。
 その場に立っていたのは、ニーツ一人だけ。
(あの風は、こいつが起こしたものだったのか…?まだ少年なのに、何という魔力…)
 ぞくりと、背筋に冷たいものが流れるのを、八重は感じた。
 そんな八重を、冷たさを内包させた瞳で見下ろし、ニーツは呟く。
「必要と思った事には、躊躇う事は無い。勿論、罪悪感なんて物は無いな」
「こ…殺してしまったのですか?」
「あのフェアリー達の事か?いや、まだ生きてる。これくらいで死ぬ程、彼女達もやわじゃないさ。
 …ところでイートン」
「はい…?」
「君の日記。どうやら、取り返せそうだ」
「え…?」
 何とか立ち上がって、イートンはニーツの視線の先を見た。八重もつられてそちらへ目を向ける。
 先程のウサギが、其処にいた。
 そして、響いてくる声。
―よくも…―
 頭の中に直接響くような声だった。遠く、近く、定まらない。
 それでも、その声の主は何者なのか見当がついているらしく、ニーツは腕を組んだ。
「森の主が来る…」

2007/02/17 22:45 | Comments(0) | TrackBack() | ○Under The Moon
10.そして手と手を取って/イートン(千鳥)
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PC  八重 イートン ニーツ  
場所  エルフの森
NPC フェアリー・森の主
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 ズズズ。地面が割れ、そこに生える全ての木々の根が一つに絡まる。それは精巧なレース編みのように複雑な模様を作り、立体を描いた。
「な・・・?」
 八重とニーツがその様子を見つめる中、ウサギをやっと生け捕りにしたイートンが横で歓喜の声を上げた。しかし、すぐにその顔が青ざめる。
「あぁ!!そんなッ!」
「どうした?」
 八重が覗き込むとその本は白紙になっていた。水の中に落ちたのだ、インクが滲んでいるなら理解できるがその空白は文字だけが逃げていったかのようである。 
―――取引をしよう―――
 いつのまにか人の形をとったソレが言った。
「ほぉ」
―――そうしたら、お前の本をそっくりそのまま返してやろう―――
「別に返してもらう必要はない。たいした価値も無いし」
「ちょっと!ニーツ君ッ。ありますって!返してもらわないと」
 慌てて反論したイートンにニーツは半眼で振り返った。取引がどんなものだか分かっているのか?
―――鬼ごっこをしよう。―――
 森の主と思われるソレの提案は酷く幼稚なものだった。しかし、幼稚なものこそ、その中には残酷な本性が潜んだいる。
―――この森から捕まることなく逃げれたら、お前たちを自由にしてやる―――
「中身も返してくれますよねッ?」
 念をこめて聞いたイートンにソレが頷いた。
―――但し、お前たちが捕まったときは・…―――
 ニーツは八重と目配せをする。イートンは気がついていなかったが、この森には幾つもの屍が転がっていたのだ。
「イートン!散るぞッ」
 八重の叫び声とともに大きく地面が揺れた。

「わっ!?」
 反射的にわき道へ転がったイートンは立ち上がりざま左手を引っ張られた。ニーツだ。そのまま走るよう強要され、イートンは思わず悲鳴を上げる。
「ちょっ、ひっ、左腕ッ!!怪我してるんですからッ」
 腕がもぎ取られる激痛に構わず、ニーツは腕を引っ張った。同時に黄色い淡い光がイートンの腕に巻きつき、損傷部が見事に復元される。
「回復魔法…使えるんですね」
 意外そうにイートンが言ったがニーツは答えなかった。今必要なのは森からでることであり、無駄口をたたくひまなど無いのだ。
「ニーツ・・君ッ。あのっ」
 フェアリーたちの笑い声が頭上から降ってきては、殺意ある悪戯を起こす。それを僅かに縫うように二人は走った。
「なんだ」
 途切れがちなイートンの問いかけに、息を切れすらなくニーツが答える。
「手を離したほうが速く走れるんですけど」
「!?馬鹿かっ」
 愚か者の次は馬鹿か~…などと寂しく思っているイートンだったが、ニーツはそのまま罵倒を浴びせた。
「狙いは君だと言っただろう!?森を出るまでに如何に獲物を嬲り殺すかが退屈な森の精の遊びだ。俺がその目印を隠してるから君は急激に伸びた枝に心臓を一突きされずに済んでいるのだぞ」
「ひ…一突き」
「取引までするとはな!」
 さらなる一言を続けるが、ニーツも焦っていた。握ったイートンの手からは絡みつくような虚脱感が伝わってくる。おそらく甲にかけられた呪いだろう。イートンにも影響しているはずだ。このまま走るのは自殺行為かもしれない。
 ずるッ。
 汗ばんだ手が思わず二人を離す。慌てて掴むより速くイートンの右手が伸びた。
「――――!」
―――やった!捕まえたよ―――
 わらわらと、何処にそんなに隠れていたのか精霊たちが顔を出す。
「なるほど、いい度胸だな」
 ニッコリと笑みを浮かべるニーツにイートンは背筋が凍った。今、一番恐ろしいのは周りにいる精霊たちではなく、目の前の自分より小さな少年だった。
「えっ。あの、別に僕のせいじゃ無いんですけどね・・・」  
 なんでこう自分の連れが一番危険なんだろう…。皮肉な旅をしている自分に顔を引きつらせながら、自分の右手の所在を確かめる。それはニーツの喉元をしっかりと捕らえていた。力が入り皮膚に自分の指がめり込むのをある意味他人事のようにイートンは思った。
(うわぁ、苦しそうッ)
――殺しちゃいなよ、じゃないと殺されるよ?―――
 どちらへの囁きなのか、観衆は無責任に囃し立てる。
「先ほど言ったな?イートン…」
「は、はい?」
 上ずった声で答える。 
「『俺は意味も無く人殺しをしない』って」

 ちょうどその頃。八重も八方塞に陥っていた。
「イートンにはあいつがついてるから大丈夫だろうが…」
 通常の100倍ほどの大きさの蜘蛛を手刀でなぎ倒し、汗をぬぐった。
先ほどから襲い方がえげつない。蜘蛛とか、ミミズとか、なんやらと。イートンでなくても美意識に反するものばかりだ。
――ねぇ、お前には嫌いなものは無いの?――
 襲い掛かってくる敵は、世間話でもするように無邪気に尋ねてくる。
「嫌いなもの・・か」
 つまりこれも嫌がらせだったと知り、八重は苦笑した。彼らの精神年齢は酷く幼いようだ。強い視線をひしひしと感じ取り、八重はあごに手をやった。『ウサギ』と答えても面白くなかろう。
「そうだな…」
 ここは賭けに出るしかない。森の主が自分と彼ら、どちらについて行ったか知らないが、自分だといいなと八重は思う。それだけ、相手の力が必要だ。
「俺が恐いものは、暗闇の『満月』だ」
 途端に辺りが暗くなる。木々に囲まれ光を封鎖された空間。そこに八重はあの忌まわしき月を探した・・・・。

2007/02/17 22:45 | Comments(0) | TrackBack() | ○Under The Moon

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