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2025/03/10 06:15 |
11.愛しいヒト/八重(果南)

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PC 八重 ニーツ (イートン) 
場所 エルフの森・幻影世界
NPC フェアリー オベロン 幻影エンジ
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 しかし、見上げた八重の目は、あの忌々しい天体、月の存在を見つけることは出来なかった。もとより、フェアリーたちの魔力程度では月を作ることなど到底出来ない。
-ふふふ、馬鹿だね、お前は-
フェアリーたちの幼い声のざわめきが大きくなった。
-自分から嫌いなモノをばらすなんてさ、これでどうだ-
 そして、目の前に月が現れた。・・・が。
てれ~ん、という効果音がふさわしいぐらいに、それは間抜けな格好をしていた。丸い大きな黄色い物体についた短い手と足。真ん中には大きな顔がついている。
「どうだ!満月だぞぉ!怖いだろ~」
そう言って自称「満月」は短い手をぱたぱたさせた。
「・・・ふぅ」
フェアリーは幼稚だと思ってはいたが、これほどまでとは八重も思ってもみなかった。このような満月に八重は当然、変身はおろか、心を乱すこともない。
八重は、苦々しい顔でとんっと「満月」の顔に手を当てた。
「・・・<ルナ>」
「ぎゃあああああっ!!!」
「満月」の悲鳴が森中にこだました。


しばらく、八重は森の中で何の障害にも出会わなかった。不気味なくらいに。かわりに辺りにうっすらと霧が立ち込めてきた。
(これは新たな罠なのかな?まあ、物理攻撃が通じる敵なら、どんなヤツであろうと勝つ自信はあるが)
心なしか、八重は森の出口に向かっている気がしなかった。むしろ、どんどん何者かによって奥に誘い込まれている気がする。しかし、全てが狂っているこの森の中を、八重はただあてずっぽうに進んでいくことしか出来なかった。
(こんな時、あの魔族なら、魔力の流れを読んで道を見つけ出すんだろうな)
ニーツの存在を思い出し、八重は自分が魔力を全く持たないことを恨んだ。ニーツについていったイートンは無事に森を出られるかもしれない。なんといっても彼は強い。しかし、自分は?
(くそっ、せめて魔力のカケラでも持っていれば、勘で道を選ぶこともできるだろうに)
そうしている間にも、霧はどんどん深くなってくる。もう、八重は一寸先も見えないほどの霧に周りを取り込まれていた。
「ん?」
八重は心なしか、周りを取り囲む霧がうっすらとピンク色をしていることに気づいた。
(やはり、この霧は罠なのか?)
そう思ったその時、
<・・・え・・八重>
その声にふっと八重は振り返った。なつかしいあの人の響きを確実に捉えたからである。
八重が振り返ったその瞬間、
「八重っ、まーたアンタは森に行ってたのぉ?」
驚きのあまり八重の目が点になった。
「エ・・ンジ・・・」
驚きと、感動で声がかすれる。そこには、エンジがいた。オレンジ色の髪の毛。意思の強い大きな瞳。彼がかつて誰よりも愛した女だ。
いつのまにかあたりも、かつて八重とエンジが暮らした家の周りの風景そのままになっていた。赤い屋根の小さな小屋。小さな井戸。周りを取り囲む林。八重は何もかもを忘れ、懐かしさで泣きそうになった。これは明らかに自分をここにとどめるための罠だとわかりきっていても。
「ん、どした~、八重?」
涙ぐむ八重の顔をエンジが覗き込む。
「アンタ、また森で怪我したんでしょ。アンタね~、男はそんなにカンタンに泣かないのっ、ほ~ら、いい子だから」
エンジは八重の黒い髪をくしゃくしゃっと撫でる。・・・あの頃と同じだ。八重は思った。あの頃、自分が十四歳の頃、エンジと二人で小さな家に暮らしていた幸せな頃と。なにもかも。
「八重~っ、それよりアタシお腹すいた~、早く飯作ってよぉ~」
エンジは八重の背中を押し、小屋に入ろうとする。八重はその瞬間、これが罠だということを忘れ、にっこり微笑んだ。
「はいはい、今すぐ作るから待ってろ、エンジ」


トントントン・・・。
小屋の台所で野菜を刻む。そのリズムが体に心地よい。思わず鼻歌を口ずさむ。今日はエンジの好きなビーフシチューを作るつもりだ。
「八重ちゃーんっ」
料理中だというのにエンジが背中に抱きついてくる。
「わぁお、おいしそー、ねっ、味見っ、味見させて、あ~んっ」
「・・・ダメだよエンジ、まだ出来てないだろ」
「い~じゃんっ、あ~んっ」
「ちょっ、エンジ・・・っ」
「あ~んっ」
仕方がないので、エンジの口に作りかけの料理を一口食べさせてやる。
「ん~、おいし~、八重ちゃんの料理はサイコーねっ」
「・・・いい加減子ども扱いするなよ」
「何ませたこといってんだか、まだガキのくせに、アンタはまだまだお子様ですよ~だっ」
そういうエンジを見ながら、八重は自然に笑みがこぼれて止まらなかった。
(・・・こういう幸せが永遠に続けばいい)
そう考えて八重はすぐに思い直した。
(何考えてるんだ俺は、まるで俺が前は幸せじゃなかったみたいじゃないか)
今では八重はほとんど幻影に染まりつつあった。以前の記憶が徐々に薄れてゆく。事実、八重の記憶はもうほとんど消えかかっていた。
そのとき、ぬっと、壁から手が一本飛び出した。続いて足が一本。とがった耳と、左右色が違う瞳が壁から現れる。
「・・・誰だお前は!!」
「ふん、見事に洗脳されてるな、八重」
ニーツはそう言ってふんと鼻を鳴らした。
「何で俺のこと・・・!!」
「ああ知ってる、だって俺たちは今日、森で出会った。思い出せよ、八重」
ニーツはちらっとエンジの姿を見た。
「ふん、お前もいい加減こいつを惑わすことはやめてもらおうか、オベロン」
「何、この人!?ちょっと、八重ちゃん、知ってるの!?」
「違う、お前は幻影だ」
言うと、ニーツはいきなりエンジを殴った。
「・・・っ、エンジ!!」
しかし、八重は目をこすった。一瞬エンジの姿がゆらりと揺れた気がしたのだ。
「エン・・・ジ・・・?」
「思いだぜ八重、幻影の中ではいつまでも生きられない。・・・お前も解っているだろう?」
言いながらニーツはちらちらと何かを気にしているようだった。視線がおぼつかない。
それは残してきたイートンだということを八重はあとから知る。
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2007/02/17 22:46 | Comments(0) | TrackBack() | ○Under The Moon
12.振り返らない過去/ニーツ(架月)
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PC  イートン ニーツ (八重)  
場所  エルフの森・幻影世界
NPC フェアリー・(オベロン・ティターニア)・幻影達
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 意味もなく人殺しをしない。ということは、逆を言えば意味があれば人殺しをする、という事で…
 ついでに言うと、先程『躊躇いはしない』とはっきりと言っていたし。
 結論を言うと、このままでいくと確実に――殺される。
「あ…あの、ニーツ…君、これはですね…。あの…」
-バチン-
 慌てて手を離したイートンの顔のすぐ横で、火花、いや、雷撃が弾けた。ヒッっと思わずイートンは声を詰まらせる。
(おおお…怒ってる~!?)
 イートンは心の中で叫び声をあげた。見るからに、ニーツは怒っている。それを更に煽る様に、クスクスと耳障りなフェアリー達の笑い声が響く。
-殺しちゃいなさい…さあ、早く…-
「うるさい…」
 低い声でニーツが呟くと、一気にニーツの魔力が膨れ上がった。あちこちで雷撃が起き、フェアリーの声が聞こえた周辺の木々が、一気に炭と化した。下手したら森一つ消し去るほどの魔力の具現に、流石にフェアリー達も言葉をなくす。
(き…切れてる…!!完全に)
「俺が今、一番気に入らないのは、お前達だ…。その笑い、不快だ」
 フェアリーたちに向かって言い放つニーツの瞳に、暗い光が一瞬閃いた。だが無論、イートンに、そのようなことに気付く余裕などない。
 今や、この空間はニーツが支配していた。此処にいるすべての者の命をニーツ一人が握っているような状態だ。
 だが…
―オベロン様~ティターニア様~!!―
 フェアリーの一人が、恐怖に耐えかねて、森の主達の名を呼ぶ。その瞬間、辺りにピンク色の霧が突然発生した。
 イートンはキョトンとし、ニーツはハッと我に返ったが、遅かった。
 二人は成す術もなく、術中に捕らわれていた。

 何かから逃げるように、ニーツは一人、走っていた。息が切れ、汗がにじみ、長い髪があちこちに張り付いて鬱陶しい。
「あ…っ」
 何かに躓いた様に、ニーツは転んだ。
 小さな自分の手が見える。本当に小さく、無力な。
―クスクス…ほら、あれだよ…―
―男でも女でもないの…?気持ち悪いなぁ―
―それにあの目の色…変なの~―
「嫌だ…私は…」
 囁かれる言葉に、ニーツは耳をふさいで蹲る。しかし、手と髪の毛の壁を通してさえ、彼らの嘲笑が消えることは無い。頭の中に直接届く響くように、耳の奥へと入り込んでくる。ニーツが耐えかねて、叫びだしそうになった瞬間、フッと、ニーツの頭に、そっと誰かの手が添えられた。その途端、ニーツを苛んでいた『声』がぴたりと止む。顔をあげると、男の影が、そこにあった。逆光で顔は見えないが、優しげな気配が伝わってくる。
「また、苛められたのか?」
 若い、男の声が降って来る。男の手は、優しくニーツの髪を梳いた。
 暖かい手。
(いつも、私を安心させてくれる手…)
(でも、俺は、知らない手…記憶にない…)
 急速に、”今”のニーツの意識が浮かび上がる。そして。
「誰だ?お前…」
 身体も、元のニーツの姿へと変化する。冷ややかな瞳で男の影を見据え、トンッっと指で突く。
「消えろ」
-ピキン-
 男の影に、亀裂が入った。それはどんどん広がっていき、最後には、跡形もなく影は消え失せる。
「…悪いが、昔のことは憶えてない。惑わされる事もない」
 それでも一瞬、ニーツの胸に、チクリと痛みが走ったが、ニーツは無視して立ち上がった。
 長かった髪と同時に、切り離した過去から、目を背ける。辺りを見回すと、不思議な空間だった。グニャグニャとした、定まらない空間。
 幻影を操るオベロンと、記憶を操るティタ-ニアの、多重幻影空間である。憶えてないこととはいえ、記憶を覗き見られたことに、ニーツは不快感を覚えた。
「この空間…さっさと壊して外に出るか…」
 そう、呟いて、その為の魔力を練り上げようとしたとき、ニーツはある物を見つけて、その作業を中断した。空間に浮かぶ、いくつかの球体。その中の二つに、見知った顔が閉じこめられていた。
 フッと、ニーツは溜め息をつく。
「…そういえば、こいつらも居たな…」
 八重とイ-トン。どうやら、散らばった筈の三人は、オベロン達によって此処に集められたようだ。向こうにとって、一気にいたぶれて都合がいいわけだが、こちらにとっても、何かと都合がいい。
 二人は今、さぞかし良い夢を見ているのだろう。良い夢を見ながら、生気を吸い取られ、やがて緩慢に死に向かう-はっきり言って、悪趣味だ。
(過去に捕らわれていたって、何もできやしないのに…)
 心の中で独りごち、一度目を閉じる。
 そして一瞬迷った後、どちらかというと近い方にいた、イ-トンが閉じこめられている檻へと、足を向けた。

2007/02/17 22:46 | Comments(0) | TrackBack() | ○Under The Moon
13.夢から覚めて/イートン(千鳥)
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PC  八重 イートン ニーツ  
場所  エルフの森・幻影世界
NPC オベロン・ティターニア
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 あの日の事を日記に書くことは無かった
 しかし、その後に続くのは悪夢であった・・・。
 
 瞼を開ければ、そこは不思議な空間だった。
 母親の子宮のように、水に満たされ遮断された世界。ここから出なければ、自分は傷つけられることも無いだろう。外部の悪意に触れることも・・・。
「さっさと目を覚ませ。八重!」
 ニーツの声が耳に届き、イートンの頭はクリアになった。見るとニーツが八重が包まれた膜に手を触れている。彼の夢に干渉しているのだろう。
「ダメだなぁ」
 クスリ。持っていた短刀の刃を容赦なく膜に立てる。ズブリ。内側からは意外なほどに柔らかい。そして、イートンはその手に掴んでいたモノを引き上げる。
その手は、短刀を持っていたのとは、反対の手であった。

「何なのこの子!?」
 殴られ赤くなった頬を押えてエンジが叫んだ。
「ふん、まだそんな猿芝居を続けるつもりか?」
 再び手を上げたニーツにエンジが八重の名を呼んだ。
 パシッ。 
 思わず手を掴むと少年とまともに目が合った。冷たさを宿した赤と青の不思議な色の瞳がふと緩む。
「なんて顔をしてるんだ?」
「え・・・」
 自分は、エンジが殴られて・・・彼女を守らなくてはいけなくて・・・。
「今にも泣きそうだ」
「騙されないでッ!こんな子殺しちゃってよ」
(誰が・・・誰を殺す?)

 死ぬのは・・・死んだのは、誰だ?

「分かったよ、エンジ・・・」
 幸せな“今”を守るためなら、自分は何も厭わない。八重はニーツを掴んだまま左手に力をこめた。そして、
「え・・?」
 後方にいたエンジが強く地面に叩き付けられた。
「な・・・や、八重ちゃん?」
 その口から赤い血が滴り落ちる。こんな光景を二度と自分は見たくなかったのに。しかし、守れる“今”は存在しないのだ。それはもう“過去”のことだから

「やっと目が覚めたか、馬鹿者が」
 八重の手に<ルナ>の力が宿った瞬間に彼の覚醒は察知できた。ニーツが鼻を鳴らした。
「その顔は不快だ。さっさと正体を現せ」
 もう彼女の顔に惑わされたりしない。八重はエンジを見下ろした。

「駄目じゃないですか、八重さん。女性にそんな乱暴な」
「「イートン!?」」
 二人が振り向くと、そこにはイートンが立っていた。
 彼の膜に触れた途端、強い拒絶にあったニーツは仕方がなく八重のほうから取り掛かったのだ。ニッコリと笑みを浮かべてイートンは立っていた。
 しかし、そんなイートンの様子は彼の言葉とは180度ズレていた・・・。
「オベロンさん、いいかげんにしないと細君の命は無いですよ」
 短刀はピッタリと女の首に当てられていた。気を失っているらしい美女はこの森の王妃、ティターニアであろう。
「自力で悪夢から脱け出すとはな・・・」
 エンジの姿をとったまま、オベロンが口を開いた。
「僕はね、夢で起きたことを全て書き記すことにしてるんです」
 クーロンで会った夢解き師が言った言葉を繰り返す。 
「悪夢も全て、ネタになりますから」

2007/02/17 22:48 | Comments(0) | TrackBack() | ○Under The Moon
14.「大人をからかうんじゃない!!」/八重(果南)
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PC 八重・イートン・ニーツ 場所 エルフの森
NPC フェアリー オベロン ティターニア
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 王妃を人質に取られると、王は意外なほどあっさりと降参した。今は幻影は消え、三人の目の前にいるのはしょぼんとした王、王妃と部下のフェアリーたちだ。王も王妃もフェアリーであるため体は十センチくらいしかなく、背中に生えている透明な羽もどことなくしおれているように見える。
「私たちの負けだ・・・。約束どおり、君の本の文字は返そう」
 オベロンが人差し指をくいっと動かすと、森の奥からふわふわと文字が飛んできた。
「木の中に隠していた」
 言うと、オベロンはくいっくいっと指を動かした。すると、ずばばばばばっという鳩の羽ばたきに似た音とともに文字がイートンの持つ本の中に飛び込んだ。
「わっ、わっ!!」
 イートンが驚いている間に文字はすべて本の中に入り終えた。そーっとイートンは本の中を除いてみる。そこには以前と同じ、イートンの流れるような筆跡と同じ形で文字が以前と同じように並んでいた。イートンはほーっとため息をついた。
「よかった・・・、何もかも前と同じです・・・」
「・・・。よかったな、イートン」
 八重がその様子を見てうれしそうに微笑む。その様子を、何故かティターニアが食い入るように見つめていることも知らずに。
「乱暴をはたらいたことは謝る。しかし、私たちは人間を、もうこの森に入らせたくはない。・・・人間は、災いを呼ぶ」
「それは、一体どういうことです?」
 イートンが興味深そうに聞く。片手に日記帳、片手にペンを持って。
 オベロンは語る。
「・・・千年前、私たちの森は今よりもっと大きく、もっと豊かだった。そして、そのころはまだ、私たちは人間とうまく付き合っていた。ある日、この森のそばにあった国の人間の兵士たちがこの森に逃げ込んできた。兵士たちは、自分たちをこの森にかくまってくれるよう私に頼んだ。私は、そのころ、その人間たちと互いを助けあうという協定を結んでいたので快くその兵士たちをかくまった」
 そこまで話すと、オベロンは顔を顰めた。まるで、忌々しい記憶を思い起こそうとしているようだった。
「数日後、森に兵士たちの敵の国が攻め込んできた。・・・その国の人間どもなど私たちの敵ではなかった。しかし・・・」
「しかし、何です?一体何が攻めてきたというんです?」
 顔を顰め、なかなか口を開こうとしないオベロンにイートンは尋ねた。オベロンは吐き捨てるように呟いた。
「・・・ヒエログリフだ。奴等が、そいつらと一緒にこの森に攻め込んできた」
「・・・!!ヒエログリフだと!!」
 おもわず八重はがばっとオベロンの首をつかんだ。
「お前、ヒエログリフが何か知っているのか!!」
「ヒエログリフは・・・<太陽の力>・・を操る人間・・だ・・・。私は、それしか・・・知らない・・・っ・・・」
 オベロンの苦しげな様子に、はっとして八重は手を放した。手を放されたオベロンはかわいらしくケホケホと咳をしている。
「・・・すまなかった。私はヒエログリフのこととなると、つい、興奮してしまってな・・・」
「<太陽の力>?それって何です?」
 イートンが尋ねる。博識なイートンでも、<太陽の力>という言葉を聞くのは初めてだった。
「<太陽の力>・・・、奴等は<ヒエロ>と呼んでいたが・・・、それは、森を焼き尽くしフェアリーを殺す炎の力だ。奴等はその力で森を焼き、数え切れないほどのフェアリーたちを殺した。人間は全滅した。森も焼かれた。フェアリー達も大勢死んだ。・・・それ以来、私達は人間と関わることをやめた。森に人間を入れることをやめた。人間は、災いを呼ぶ」
 すべてを語り終えると、オベロンは冷たい視線を三人に向けた。
「私の話はここまでだ。即刻この森から立ち去り、二度と足を踏み入れないでもらいたい」
「妾が、森の外まで送って差し上げましょう」
 ティターニアがそういって一歩進み出た。そうして、三人はティターニアの案内で森の外へと向かった。そして二十分後、
「ここがこの森の出口です」
 そういってティターニアが向こうを指差した。うっそうとした森の中を歩き続け、ようやく三人はこの森の出口へとたどり着いたのだ。ティターニアの指差す方角には開けた空間が広がっている。
「やったー、やっとこの森から出られましたね!」
 イートンがうれしそうに言う。
「僕の日記も無事かえってきましたし、一件落着です!」
「・・・お前はのん気だな、イートン」
 はしゃぐイートンにニーツが冷ややかな目を向ける。しかし、ニーツも内心はほっとしていた。この森にいる間中、いつ攻撃されてもいいように気を張り詰めていたのだ。それにこの森の陰気な空気はニーツもあまり好かない。
 そうして三人は心も軽く、森の外に一歩踏み出した・・・。そのとき、
「この森を出る前に、・・・八重といいましたね。貴方に一ついいたいことがあります」
 思いがけず呼び止められて、八重は振り向いた。
「妾もつい先ほど思い出したばかりなのですが、・・・千年前の戦いのとき、あのヒエログリフどもに混じって、妾は貴方の姿を見ました」
 八重の表情が変わった。
「それは本当か!!」
「ちょっと待ってください!・・・千年前といいましたね。そんな昔に八重さんが生きてるわけないじゃないですか!」
 イートンがつっこむ。しかし、ティターニアは真摯な表情で言う。
「いいえ、妾は見ました。あれは確かに貴方です。人違いでも見間違いでもありませぬ。ただし、とても幼い姿でしたが」
「ふ・・ざけるな・・・」
 八重は頭を抱えて座り込んだ。自分の存在というもののあやふやさが、今の言葉ではっきりとのしかかってきた。・・・自分はもしかしたら、それをはっきりさせたいためにヒエログリフを探しているのかもしれない。
「・・・じゃあ、私は一体何だというんだ。どうして生まれたんだ。何故ここにいるんだ。答えてくれ!ティターニア!!」
「その質問に妾は答えることが出来ません。しかし、・・・告白しますが、妾はそれに気づいたとき、初め、貴方をどんな手を使っても殺そうとしました。
 そのために案内役をかってでたのです。しかし・・・」
 そこでティターニアはふっとした笑みを八重に向けた。
「私は貴方を殺すのをやめました。それは貴方が、あの時と違って<生きた瞳>をしていたからです。・・・あの時、ヒエログリフどもも貴方も、生気のない死んだ瞳をしていました。妾はそれがとても恐ろしかった。・・・しかし、今の貴方は違います。今の貴方の瞳はとても輝いていました。今の貴方はあのころの貴方とは違います。ですから、妾はもう貴方の過去の過ちは咎めません」

 森を出た後、しばらく三人は無言だった。それぞれがそれぞれの思いにふけっているのだろう。最初に口火を切ったのはニーツだった。
「・・・しかし、結構いい女だったよな、エンジ」
 ふっと八重はニーツの顔を見た。ニーツの顔がイタズラっぽくにやにやと笑っている。
「あの女がお前の育ての親か?・・・八重ちゃん?」
「っ、お前っ・・・!!」
 その小ばかにしたような言い方に八重の顔が赤くなる。
「ふふっ、そういえばかわいらしい呼び方されてましたね。八重ちゃん?」
「そうだな、八重ちゃん」
 そういってイートンとニーツは顔を見合わせて笑う。
「お前ら・・・、それ以上言ったら怒るぞ・・・」
「わかりましたよ~、もう言いませんってば」
「わかったよ」
 二人は八重の百メートル先に行くと、くるっと振り返ってユニゾンで叫んだ。
「八重ちゃ~んっ!!」
「・・・っ!!<ルナ>ぁぁっ!!!」
「キャーvv八重ちゃんが怒ったーっ」
 逃げる二人とそれを追いかける八重、その図はまるでサザエさんのようであった・・・。

2007/02/17 22:49 | Comments(0) | TrackBack() | ○Under The Moon
15.図書館の謎/ニーツ(架月)
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PC  八重 イートン ニーツ
場所  エルフの森付近
NPC なし
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 色々な事があった日だった。
 八重は変身するし、森には迷い込むしと、大忙しである。
 ようやく落ち着けたのは、夜になってからだった。

 野営の準備も終わり、イートンは一人、日記をつけていた。
「ふうん。熱心な事だな」
 突然、上から声がかかって、イートンは上を見上げた。見上げて驚きのあまり、ポカンとする。
「ニ…ニニニニニ…ニーツ君!?」
「なんて顔してるんだ」
 そう言って、ニーツはイートンを見下ろす。
 イートンは、てっきり木の上にニーツがいると考えていたのだが…
「そ…そんな事言ったって、何で浮いてるんですか!?」
「ああ、そんなことに驚いていたのか」
 こともなげに言って、ニーツは降りてきた。
 そう、イートンの言った通り、まさにニーツは宙に浮いて、イートンの日記を覗き込んでいたのだ。流石にこれには誰でも驚くだろう。
 …普通の人間なら。
「…そんなことも出来たんですか…ああ、驚いた。…って、まさか、日記読んでないでしょうね!?」
「そんなもの、読むか阿呆」
 不機嫌そうにニーツがイートンを見る。そうですか、とホッとすると同時に、愚か者、馬鹿、阿呆と称号が増えたことに、ちょっとイートンは複雑な気分になる。しかもご丁寧に、「あほ」ではなく、「あほう」と呼んでくれた。
「八重は?」
「え?ああ、八重さんなら、薪を拾いに…何処行ってたんですか?」
 あの森を出た後、ニーツのことでちょっとだけ揉めた。この後も、ニーツを引く連れて行くか否かの問題だ。
 色々と助けてもらったとはいえ、魔族は魔族。
『今回は助けてもらったが…、やはり一緒にいることは出来ないな』
 そういった八重を引き止めたのは、なぜかイートンだった。
『ええ?何でですか!?良いじゃないですか。だってこんなに可愛いんですし!』
『…おい…触るな!』
 ニーツの頭をぽんぽんと叩きながら言うイートンを、抗議をしながら睨みつけるニーツ。
 なんとなく、馴染んでしまったようだ。
『お前は?ニーツ。私たちと一緒にくる気は?』
『…俺は、君に興味があるから。ねえ、八重ちゃん?』
 にっこりと笑って先程と同じからかいを口に乗せるニーツ。
『それはやめろと言っているだろうが!』
『え~、つまらないですよ。可愛いじゃないですか、八重ちゃんって』
『イートン!』
『それに、俺は色々と情報提供できると思うけど?』
 顔を赤くして怒鳴る八重に、口の端を吊り上げたまま、ニーツが言う。
『…本当なのか?』
『勿論』
 笑ったままのニーツに、八重は小さく息をついて、答えた。
『分かった。連れて行こう』
『やった~!八重さん、ありがとう!』
 その時何故か喜んだのはイートン。恐らく、情報収集が出来るとか何とかという理由で喜んでいるのだろう。
 とにかく、こうしてこの後も同行することが決まったニーツであったが、その後何を思ったか二人の前から姿を消していた。
 そして再び現れたのが…今、である。
「ちょっと、な」
 イートンの問いかけに、ニーツは曖昧な答えを返した。その腕に抱えているものを見咎めて、イートンは興味を引かれる。
「それ、本ですよね?」
「ん?ああ、…読むか?」
「読むかって…うわあ!」
 ニーツが、持っていた二冊の本のうち、薄い方―とはいえ、普通の本の2倍は厚さがあったが―をイートンに投げて寄越した。慌ててそれを受け止める。
「危ないじゃないですか!もっと丁寧に扱ってください!
 …それにしても、古い本ですね」
「千年前の戦争の記録が載っている本だ。そっちはまだ新しい方」
「せ…千年前ですか…」
 予想もしていなかったニーツの言葉に、イートンは恐る恐る本を開く。開いた瞬間、目を輝かせた。まさにそれは、知識の宝庫。だが、ある物を見つけて、イートンは顔を曇らせる。
「…ニーツ君。これって、図書館の持ち出し禁止本なのでは?ほら、『禁帯出』の印が…」
「あの司書のけちじじい、この二冊しか貸してくれなかった。他にも、借りたい本はあったのにな」
「他にもって、それも、持ち出し禁止のですか?」
「そうだ」
 普通はこの二冊も貸してくれないだろう。そう、イートンは心の中で突っ込む。一体、何処で借りて来たというのか。
(魔界とかの、魔族専用図書館だったりして…)
 有り得そうで、笑えない…
 そんなことをイ-トンが考えているうちに、ニーツが腰を下ろして、残った方の本を開いていた。
 ちらりと覗き込むと、イ-トンには意味不明な言葉が並んでいる。どうやら、古の言葉らしい。
「ニーツ君って、若いのにそんな物読めるんですか」
 思わず口をついて出てきた言葉に、一瞬、ニーツは意味ありげな視線を彼に向けた。おやっと思う間もなく、本に視線を戻してしまったが。
 もう何を言っても答えてくれそうになかったので、イ-トンも借りた本に、目を通し始めた。

「これか…」
「何か、解ったのか?」
 ニーツが呟いた言葉を、ちょうど薪集めから帰ってきた八重が聞き咎める。イ-トンも、本から顔を上げて、ニーツを見た。
「これだ」
 本を二人に見せて、ニーツが示した先には、古の地図が載っていた。その中の一点を、ニーツは指さす。
「これが、エルフの森だ。此処から西…」
 つつっと、ニーツは指を動かす。
「此処だ。これが、エルフの森に逃げ込んだ人間の国に戦争を吹っ掛けた国-ヴェルンだ」
「ヴェルン?」
「そう。今はもう、滅びて、無くなっているけどな。けれど、何か、痕跡くらいは残っているかもしれない。
 …どうする?八重。行ってみるか?」
「ううむ…」
 八重は、腕を組んで本を睨む。
「しかし、クーロンでの予言は南東に…」
「行きましょうよ。八重さん」
 八重の言葉をまたしても遮ったのは、イ-トンだった。
「ひょっとしてクーロンでの予言は、八重さんにヒントをくれる人、精霊達の事だったかもしれないじゃないですか。それに、少しくらい回り道をしても良いんじゃないですか?」
「ううむ。確かに、そうだが…」
「どうするんだ?」
 ニーツが八重を見上げながら、再び問い掛ける。八重は腕を組んだまま本を見、ニーツを見、イ-トンを見て…小さく息をつく。
「そうだな。行ってみるか」
 それで駄目なら駄目で良い。
 次の目的地は-西。

2007/02/17 22:49 | Comments(0) | TrackBack() | ○Under The Moon

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