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2025/03/10 11:36 |
16.メイルーンの悪童/イートン(千鳥)
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PC  八重 イートン ニーツ
場所  エルフの森付近
NPC なし
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 揺れる炎だけが色彩を持っていた漆黒の夜が、少しずつ色を取り戻し始めた。薪の火も勢いを失い、炭の隙間からプスプスと情けない音を立てるばかりである。
 そんな様子を、八重はあえて手を加えるまでも無いとボンヤリと眺めていた。
 サラサラと砂の落ちる音が聞こえる。
 イートンが持ってきた紫の砂時計である。一度傾けると2時間ほどの時を刻むらしく火の番の交代にちょうど良い目安になる。肉体的にも、精神的にも一番参っていたのがイートンであり――精霊が施した刻印のダメージである――最初に火の番をさせると早々に休ませた。今も無防備な寝顔をさらしている。
 チラリ。
 次にニーツに視線を向ける。相変わらず木の上で眠りをとる彼はコチラから見ても隙が無い。おそらく話しかければ答えが返ってくるだろう浅い眠りである。
(何にせよ、誰も死ななくて良かった・・・)
 当たり前のことを八重は今更痛感する。イートンは頭が良く、気転もきくがウサギを抑える程の力はない。そして何より自分を殺すことなど考えてもいないだろう。
 その点ではニーツは安心だ。彼なら危険が迫れば容赦なく自分を殺すだろう。気に食わない少年だが、一緒にいる価値はある・・・と八重は無理やり思い込む。
(きっと相性が悪いんだな・・・)
 低木の間から朝日が顔を出すと、八重の瞼はゆっくりと閉じていった。

「起きろ」
「ふぇ?」
 スパーンと手の平で頭を叩かれてイートンは間抜けな声を出した。見上げるとニーツが眉を寄せ見下ろしている。言われる前にイートンは自分でいうことにした。
「どうせ・・・間抜けですよ」
「何も言ってないぞ」
 朝日にきらきらとニーツの髪が光った。炎にも良く映える髪だったなと、昨晩のことを思い出しながらニッコリと笑みを浮かべる。
「おはよう、ニーツ君」
「・・・間抜けな顔だな」
「あっ!ほらやっぱり言ったじゃないですか!!」
「なんのことだ?」
 騒がしい声に八重が目を開ける。
「あ、おはよう御座います。八重さん」
「火の番が寝ていては意味が無いな」
 目覚めから不快な笑みを向けられて、
(やっぱり相性が悪いんだ)
 八重はそう確信した。

「ヴェルンから一番近い町はメイルーンですね。中規模の町です」
 古い地図と現在の地図を照らしながらイートンが言った。
「遺跡探検の準備をするには事足ります。あの辺りに遺跡なんてあったかな?・・・ニー
ツ君、この本いつまで借りれるんですか?」
「3日だ」
「うわぁ、シビアですね」
 イートンでさえ1冊読むのに4日はかかりそうな厚さだ。
「随分とその辺りに詳しいようだな」
 イートンの口調に八重が尋ねた。
「えぇ、メイルーンって僕の故郷なんです」
「故郷?君はフレデリアに家があると言ってなかったか?」
「僕と母が・・・父に引き取られる前はそこに住んでたんです」
 一瞬言葉を切り、イートンは言った。それは12歳の時だった。本妻が亡くなると同時にイートン母子は父親の屋敷に入った。以前から顔を合わせていた父だが自分にとっては赤の他人に等しい。同時に兄も・・・・。
「あ、これでも僕って貴族なんですよー。見えないかもしれませんが」
 ニーツに向かって説明すると彼は意外にもあっさり頷いた。
「あぁ、充分見えるぞ」
 誉め言葉には思えなかったが。

「ただ、あそこは柄が悪いんですよね」
 古い本の手触りを楽しみながらイートンは言った。なにしろ街道がクーロンに繋がっているのだ。父が何故あの町を訪れたのか、未だにもって謎なくらいに。
「自衛の町はどこもそんなもんだろう」
 八重が心得てるとばかりに頷く。
「町が二つの勢力に分かれてるんですよ。巻き込まれないようにしないと」
(あの頃は流血茶飯事だったなー)
 パタンと本を閉じるとイートンは立ち上がった。
「さぁ、行きましょうか、ヴェルンの眠れる町へ」
 柔らかな笑みは無邪気で上品に。昔の自分を知る人は腰を抜かしてしまうかもしれないな・・・。そう思いながら“メイルーンの悪童”と呼ばれた青年は旅の支度を始めた。

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2007/02/17 22:50 | Comments(0) | TrackBack() | ○Under The Moon
17.「懐かしむべき故郷にて」/八重(果南)
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PC 八重・イートン・ニーツ 
場所 メイルーン・メイルーンへ向かう道
NPC <唄う山猫亭>主人・レオン=ウィグル
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「ほら、できたぞ」
 そっとイートンが目を開けると、精霊の刻印の痕はきれいに消えていた。ニーツが額に滲んだ汗をぬぐう。
「・・・アイツら、魔力が弱いくせに、・・・きっと五人がかりだろうな、けっこう強い呪い、かけやがった。おかげで少し・・・、疲れたぞ」
「あ、ありがとうございますっ、ニーツ君」
 イートンは屈託のない笑みでニーツに笑いかけた。ニーツはその顔を冷たい視線で一蹴する。
「全く・・・。宿に着いたらすぐに寝るからな、俺は」
 そう言ってニーツは座っていた切り株からすっくと立ち上がった。どうやらニーツはメイルーンについてすぐ休むつもりでいるようだ。そんなニーツをイートンはニヤニヤして見つめる。
「あらあ、ニーツ君、まだ若いのにもうへばっちゃったんですかぁ?」
「煩い・・・、あのエルフの森でけっこう魔力を使ったからだ。そうでなければ、エルフの刻印ごときに疲れたりしない。・・・メイルーンにいい宿はあるんだろうな、イートン」
「ええ、<唄う山猫亭>なんかいいですよ。警備もしっかりしてますし」
 そう言ってニーツに笑いかけるイートンの様子はどことなくうきうきとしていた。
「そんなに故郷に帰るのがうれしいか?イートン」
 八重が優しく話しかける。
「ええ、たしかにあそこは物騒な街かもしれません。でも、僕にとっては僕が育った大切な街ですから。実は僕、父方に引き取られる前はメイルーンの少年ギャング団の副リーダーだったんですよ。信じられます?」
 二人は同時に首を振った。イートンはくすっと笑って言う。
「だから、昔の仲間が今の僕を見たらきっとすごくびっくりしますよ。・・・
 アエルはどうしてるかな。レオンとリルも。街の警備隊にとっつかまってなきゃいいけど」
 故郷のことを話すイートンの横顔はどことなく優しかった。
 悲しいことや辛いことがなかったわけではないだろう。しかも、少年ギャングの副リーダーだ。当時、彼の心は酷くすさんでいたに違いない。
 しかし、それでもそこは彼の故郷。彼の故郷を懐かしむ気持ちに偽りはないだろう。
 そんな彼を八重は少しうらやましく思った。彼に、故郷は存在しない。それどころか自分がいつ生まれたのか、誰の子供なのか、それすらも解らない。
-俺にも懐かしむべき故郷があればいいのにな・・・-
 しかし、それは自分一人の秘密として心の中にしまっておくことにした。

 メイルーンの街は、概観はそれほど悪くなかった。黄色いタイルが敷き詰められたきれいな道の傍にはきれいな建物が建っている。しかし、一歩その路地裏に入り込むと路地裏はみごとに荒廃していた。散らばったゴミ。下品な落書き。それらが散漫している。
「表通りのほうが確かに治安はいいんですけど、べらぼうに高い宿泊料をふっかけられるんです」
 路地裏を縫うように歩きながらイートンが言う。
「だから、少し部屋が汚いのを我慢してくれれば<唄う山猫亭>が一番ですよ。あ、もうすぐで着きますから」
 イートンの言葉どおり、ほどなく一軒の宿屋らしき建物が見えてきた。
「これでやっと休めるってワケだ」
 ニーツが、彼にしてはほっとしたような物言いで言う。
「ええ、ここで一泊したら明日はヴェルンへ向かいましょう」
 そして、彼らは木戸をくぐって宿屋<唄う山猫亭>へと入った。
「いらっしゃい、お泊りで?」
 入ったとたん、カウンターにいた宿屋の主人が八重に話しかける。
「ああ、一泊させてもらう。いくらだ?」
「へい、お一人様一泊2000マナです」
「2000マナか、まあまあの値段だな」
 そうして八重が手続きをしている間、ニーツとイートンは一通り宿屋の中を見回した。宿屋の一階は酒場を兼ねているらしく、今でも大勢の客が昼間だというのに飲んでいる。
「ふん、見るからに下品で、柄の悪そうな人間だ」
「ちょっとニーツ君、はっきり言いすぎですって・・・」
 そのとき、背後でボンっという爆発音が聞こえ、思わず二人は八重のほうを振り返った。
 そこには、目が点になっている八重と、宿屋の主人がいた。八重の手は、今まさに宿賃を払おうとしたと推測されるであろう形のまま固まっている。
「ちょっと・・・、八重さん・・?」
「俺もわからん・・・、金を払おうとしたら、目の前で金が消えて・・・」
「・・・フェアリーどものせいだな」
 ニーツが苦々しく言う。
「お前たちが幻想に捕らわれている間、お前たちのカバンをあさっているフェアりーどもを見た。そのときに金に何か細工されたんだろう。これもあいつらのイタズラの延長だな、たぶん」
「じゃ、ちょっと待ってください!僕のお金も・・・!」

ボンッ

 イートンが財布を開けたとたん、爆発音とともに金が消え、紙ふぶきが舞い上がった。とたんに、
「うっ・・・がーーーはははははは!!!!」
 この光景を見物していた店の客がいっせいに爆笑の渦に包み込まれた。
「ヒーッヒッヒッ、なんだこいつら、金もないのに泊まる気してたのかよ!!
 ひゃーっはっはっはっ!!」
「見たか?今の?ボンって、ハーッハッハッハッ!!」
「ひゃはははは、フェアりーどもにまんまと騙されてやんの!!」
「はーっはっはっはっ!!!ああ、腹痛てぇ・・・」
 思わずイートンと八重は真っ赤になり、ニーツは嗚呼・・・とでもいいたげに首を横に振った。

 逃げるように路地裏に戻った三人は、仕方なしに、路地に置いてあるドラム缶の上に腰を下ろした。
「しかし困ったな・・・、全くの一文無しだ・・・」
 八重が肩を落とし、大きなため息をつく。
「全く、あいつら、フェアリーに騙されたことがないからあんな大口叩けるんですよ!」
 イートンが口を尖らせて反論する。
「僕なんてあの森で死にそうになったんですからね!それに、ニーツ君、どうして君はお金を持っていないんです?君が少しでもお金を持っていればこんな・・・」
「俺は魔族だ。食いたければ盗むし、普段は宿なんかに泊まらない。だから金なんか必要ない」
「盗む!?君はまっとうに働くってことを知らないんですか!!」
「おい、まっとうに働く魔族が一体どこの世界にいるんだ・・・」
 イートンとニーツが口論しているのを耳の端で聞いていた八重は、ふと、暗がりに何か蠢く者を見つけ立ち上がった。
「おい、イートン、血だ・・・」
「血・・・って、八重さんいきなり何を・・・。っ・・・!!レオン!!」
 イートンはいきなりその者に駆け寄った。その方向に首を傾けたニーツは、暗闇に血だらけの人間を捉えた。
「っ・・・。イー・・トンなの・・か・・・?」
「レオン!どうした!何があった!!」
「お願いだ・・・、助けてくれ・・・、アエル達・・が・・・」
 その言葉を最後に、レオンの首はがくんと力なく下がった。

2007/02/17 22:50 | Comments(0) | TrackBack() | ○Under The Moon
18.ほの暗い倉庫の奥で~禁句リスト~/ニーツ(架月)
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PC  八重 イートン ニーツ
場所  メイルーン
NPC レオン、リウ、アエル、ユサ、男達
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 血まみれで倒れたレオンを、イートンは抱きかかえた。
 ざっと見た所、ほとんどが殴られた事での出血だった。数人に私刑にされたような跡がある。
「一体何が…ニーツ君!!」
 懇願の表情でにニーツを振り返ると、ニーツはやれやれとため息を付く。
「俺は、君たちの便利屋じゃないんだぞ」
「其処を何とか…!」
 頼み込むイートンに、小さく肩をすくめることで答え、ニーツはその手に魔力の光を宿し、呟いた。
「イートン、貸し一つだ」

「うわぁぁぁぁ!!」
 露地の奥の方から悲鳴が聞こえて-また静かになった。
「あの奥だ!イートン」
 怪我を癒されたがレオンが、三人を先導して走る。
「この奥って…確か…」
 記憶を辿るようにイートンが呟いたとき、前方の空間が広がった。狭い路地から、広い場所に出たらしい。
「倉庫…か?」
 八重が、その場所を見回して呟いた。彼の言うとおり、その場所は倉庫が立ち並んでいる。
「あ!あそこ!リウが…!」
 はっと気付いたように、レオンが倉庫の一つの前に倒れている人影を指差した。そのまま駆け寄る彼に、三人も従う。
 近寄ってみると、レオンほどひどい怪我ではなかった。
「リウ…!」
「レオン…それに、イートン…?か?」
「アエルは?どこに居る?」
「中に…」
 イートンの問いに、リウは倉庫を指差す。
「中か…!レオン、リウを見てて!!」
「おい!イートン!!」
 聞くなり駆け出したイートンを追って、八重も駆け出す。ニーツもやれやれと肩をすくめてから、二人の後を追った。
 倉庫の中は、天井の窓から光が入り込んできて、それなりに明るさがあった。色んなものが、雑多に置いてある。
-ドサ-
「うわ!」
 小さく悲鳴が聞こえて、イートンたちはそちらへ急いだ。そして…
「アエル!!」
「へえ。お客さんだ」
 倉庫の奥の広い空間。倒れている人影の、更に奥の木箱に座っている人影たち。
 イートンには、彼らに見覚えがあった。
「ユサ!!」
「へえ。誰かと思ったら、イートンじゃないか?」
 タバコを口にくわえた、彼らの中心に居る男がイートンの名を呼ぶ。
 昔、少年ギャングのリーダーだった男。イートンやアエル達は、色々とあって彼に反旗を翻したのだが、未だにトップの座に居るようだ。
「よう。久々だな。帰ってたのか。クックック。変わったな。イートン」
「ユサは変わっていないようだね」
「知り合いか?イートン」
「ええ。昔の仲間です」
 ふうん、と八重はユサを見る。見るからに、悪そうな男だ。
「イートンは、すっかりお坊ちゃんになっちまったんだな。
 ……そ~んな可愛い娘まで連れて」
「…可愛い娘?」
 笑うユサに、周りの男たちもせせら笑った。
 その男たちの視線を、そのままイートンと八重も追う。
「…………ほう」
 一同の注目を集めたニーツは、限りなく低い声でそう言った。その声で、イートンと八重は、周りの温度が10度は下がったような錯覚を覚える。
 それに気付いていない男たちは、なおも続けた。
「そうだ、イートン。俺たちにその娘、貸してくれないか?せっかくの再会なんだしさ」
「ああ、ユサ、やめてください!」
 思わず情けない声を出したイートンの言葉を、ユサ達はニーツの身を守るための懇願だと勘違いし、失笑を浮かべる。
 実際は、ユサ達の身を案じた故に出た言葉だったのだが。
「はは。何ビビってるんだよ!イートン!!」
「愚か者どもが…!」
「やややや…やめて下さい!!ニーツ君!!」
 呟いて、前に出たニーツを、思わずイートンが後ろから抱きとめる。
「待ってください!一応、僕の知り合いなんですから!!」
「……イートン…」
「はい?」
「放せ!」
 イートンの鳩尾に、ニーツの肘鉄が見事に決まる。その衝撃でイートンの腕ははずれ、彼は腹を抱えて蹲った。
「ニー…ツ君…今のは…流石に…」
 涙目になりながら訴えるイートンに、気が済んだのか、ニーツは近くの木箱に座って、足と腕を組む。どうやらもう、手出しする気は失せたらしい。だが、
「ククク…尻に敷かれてるのかよ。情けねえな。イートン…」
 -ドオン-
 からかいの声を上げた男の横の木箱が、バラバラに吹き飛び、男を蒼白にさせた。
「…煩い」
 ニーツの呟きに、イートンはこっそりと、ニーツへの禁句リストにユサの言葉を書き加える。
 しかし、確かに黙って立っていれば、ニーツは女の子にも見える。イートンたちは、
 言葉づかいとかそういうものから無意識に男の子だと判断したのだが。
「それで、一体何でこんなことをしたんだ?」
 騒ぎを横目に、すっかり忘れ去られていた、床に倒れていた男、アエルを診ていた八重が、突然立ち上がった。一段落したと思ったのだろう。
「外の二人といい、何故このようなひどいことをした?」
 ゆっくりと、諭すように八重が問い掛ける。
「そ…そうだ、ユサ!どうしてアエル達を…!」
「ああ、そいつら?」
 唇の端を吊り上げて、ユサがイートンを見つめる。その目には、かなりの威圧感があった。
 けれど、イートンは顔色を変えずにその視線を受け止める。
 フウっと、ユサは煙草を吸い、吐いた。
「別に。ただ、ちょっとした儲け話があったんで、乗らないかといったら断られたから、身の程を思い知らせてやっただけだよ。イートンも昔よくやっただろう?」
 ニヤリと笑って、ユサはイートンに問い掛けた。イートンは、何も答えない。
 その代わり、八重が口を開いた。
「儲け話?」
「そう、俺たちのために、ちょーと冒険して貰おうと思ったんだけどな。なんならあんたでも良いぜ?」
「…こいつらに、何をさせようとしていたんだ?」
 八重の問いかけに、ユサはクククと笑う。
「なに、簡単なことさ。ある賞金首を俺たちのために狩って来てくれれば良いだけの話」
「賞金首…?」
「そう。賞金は50万マナだ。親切に一割やるって言ってるのに、やってくれないんだから、そいつらが悪いだろう?」
「それで?お前らは何もせずに賞金だけ手に入れようとしていたのか?」
 人にやらせて、報酬だけいただく。なんとなく、やり方が汚い。しかも、断れば私刑だ。八重は、こいつらを好きになれそうもなかった。イートンも、眉をしかめている。
「どうだ?イートン。お前が行ってくれないか?俺たちのために」
「…何なんだ?その賞金首は…」
 ここでこの男たちを吹き飛ばしても良いが、八重はなんとなく好奇心に負けて問い掛けてみた。ユサが、面白げに目を細めて、八重を見る。
「…この街の更に西にな、最近住み着いてるやつが居るんだよ。そいつだ」
「住み着いているもの?」
 此処から更に西だと、丁度ヴェルンのあった辺りになるのではないか?と思いながら、八重が目でその先を促す。
 その反応に、ますます面白げに笑って、ユサは言った。
「そう。住み着いているやつ。それは…魔族だよ」
 その言葉に、ピクンと、ニーツが片眉を跳ね上げた。

2007/02/17 22:51 | Comments(0) | TrackBack() | ○Under The Moon
19.鎮火。その代償/イートン(千鳥)
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PC  八重 イートン ニーツ
場所  メイルーン
NPC アエル、ユサ、男達 謎の男(シニワン)
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 “魔族”。その言葉に八重とイートンが壁の端へと視線を向けた。
 そこには木箱に腰掛けたニーツが居た。二人の視線を受けてニーツが木箱から飛び降りる。トン、と軽い着地音が僅かな静寂に終止符を打つ。
「1割は少ないな・・・」
「へぇ、やるってのか。このお嬢さん」
 ユサの回りでニヤニヤと笑みを浮かべる男たち。後ろではイートンが何物かに祈るように手を握り合わせていたが、ニーツは完全に無視した。
「困るのはお前たちであろう?」
「へぇ?どういうことだ」
 ユサの問いに答えたのは八重だ。
「これはお前たちがギルドから受けた依頼だろう?おそらく前金ももらっている。契約破棄は痛いぞ」
 一度手に入れた金をユサたちが返すわけが無い。つまりユサたちは何としてもこの依頼を遂行させたいのだ。
「他のハンターに首をとられるかもな」
「ちっ、さすが頭のよい連れをお持ちだな。イートン坊ちゃんよ」
「4割だ。それなら考えてやってもいいぞ」
 ニーツは自分の力を安く売る気などさらさら無い。
「そりゃあムリだ。3割でどうだ」
「・・・・」
「いいだろう、受けようニーツ」
(どうせその人物に会うことになる)
 不服そうなニーツの肩に八重が手を乗せ、囁いた。
 さり気に腹部のガードを忘れなかったが。
「3割。“契約成立”だな」
 念を込めて繰り返すニーツにユサは頷いた。
「あぁ、いいだろう“約束”だ」
 その瞬間ユサの首筋に赤い文字が浮かぶ。無意識にユサはそこに手をやった。
「では僕らは失礼しますよ。さぁ、アエル」
 さっさとここから出たい。それは3人の共通の願いだった。
 負傷したアエルにイートンが肩を貸す。
「待て」
 ユサの言葉に男たちが動いた。
「保険が欲しいな。お前たちが仲間を見捨てず、任務を遂行するっていう、な」
「ユサ!いい加減にしてください」
「その娘を置いていけ。俺たちが可愛がってやるよ」
「それは・・・」
 イートンは今度こそ覚悟を決めた。今ニーツの怒りはモラモラ山の噴火より激しいに違いない。今に強風が吹き荒れて、雷が落ちる。
「それは冗談じゃない」
 しかし、ニーツの声は意外に冷静だった。それどころか笑みすら浮かべている。
「俺が居なければ出来る仕事も終わらんぞ。一番足手まといなのを」
「え・・・ニーツ君」
「イートンを置いていく」
「あぁ、やっぱりッ!!」
 確かに自分が一番役立たずだが、公言されると何だか悲しい。
「貸し一つだろう?イートン」
 心底楽しそうな顔でニーツは微笑んだ。
 ここでの鬱憤を全てイートンに押し付ける気だ。 
「せいぜい可愛がってもらえ」
 人はこれを“八つ当たり”と言う。 

 ピチョン。
 どこかで水滴の落ちる音がした。
「あぁ、懐かしいですねぇ・・・」
「だろう?イートン」
 冷たい床に硬い格子。昔よく気に入らない人間を閉じ込めた場所だ、ユサと一緒に。横にはアエルが横たわっている。怪我人には不衛生な場所だった。
「どうだ?今からでも遅くない。俺たちの仲間に戻らないか。戻ってきた奴らを殺しちまえよ、イートン。そうすりゃ金は全て俺たちのものだぜ」
「死んでも嫌です」
「ヘッ、相変わらず澄ました顔しやがって。俺たちとは付き合えないってか」
 ユサは牢獄に向かって唾を吐いた。それを五月蝿そうにイートンは見ていた。
「お前の母親は昔から金持ちに取り入るのが上手い娼婦だったからな。市長だって・・・」
「ユサ」
 鉄の棒の間から伸びた手がユサの襟を瞬時に捕らえた。紫紺の瞳が冷ややかに目の前の男を見下す。
「これ以上母の侮辱は許さない」 
 それは昔の、ユサが見知ったイートンの目だった。
「シ、シニワン!」
 ゴッ。
「グッ!」
 肩に走った一点の鋭い痛みにイートンはうめいた。
 吐き気を感じて思わず口を抑える。視界に広がる緑の長い髪が映った。
「これが君が言っていたイートンか?」
「あぁ、だいぶヤワになっちまったがな」
 いつの間にかユサの隣には棍を構えた一人の男が立っていた。
シニワン・・・?イートンの記憶には無い名前であった。
「暫く頭を冷やしな、坊ちゃんよ」 

2007/02/17 22:52 | Comments(0) | TrackBack() | ○Under The Moon
20.<アイボリー・グレイ>/八重(果南)
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PC 八重・ニーツ・(イートン)  
場所 メイルーンの西 ヴェルン湖
NPC ベル=リアン
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場所はメイルーンの西・・・・。

「魔族ベル=リアン、か・・・」
 ユサからもらった手配書の写しを見ながら八重が呟く。どこまでもヒースが咲き誇る、そのほかには何もない道。そこを八重とニーツは二人並んで歩いていた。目指すは西。ヴェルンのあった方向だ。そこに今二人が狙う賞金首が潜んでいる。
「ふぅん、ここ一ヶ月のうちに放火、殺人、強盗、か。たいしたやつだ」
「バカな魔族の一人だな。何も考えずに暴れるバカは嫌いだ」
「ほう、では私のことも嫌いか?」
 その質問にニーツは八重のほうを見た。
「私は<ウサギ>だからな。私こそお前の言う<何も考えず暴れるバカ>、だ」
「・・・お前、何が言いたい」
 すっとニーツは八重を見つめる。そんなニーツに八重はふっと笑って言った。
「別に深い意味はないさ。ただ、お前が私をどう思っているか気になっただけだ」
「そんなことをお前が気にする必要はない。俺はお前という人間が面白いからついてきているだけだ。特に仲間意識もない」
「ふうん、そうかね・・・」
 それきり二人の会話はぷっつりと途切れた。互いに黙々と歩くだけで、会話を交わそうともしない。こうして並んで歩いている今、二人の関係があらためて浮き彫りになった。二人をつなぐものは結局イートンだったのだ。イートンがいない今、互いに己が道を歩くタイプである二人の接点は皆無に等しい。
 しかし、魔族のニーツはどうとして、人間である八重にとって、どこまでも長い道のりを、ただ会話もなく黙々と歩くことは苦痛だった。雰囲気がどうにも気まずく、落ち着かないのだ。
(全く・・・、イートンは今頃どうしているだろうな・・・)
 空を見上げ、八重は思わずふうとため息をついた。今頃、彼はどんな気持ちで二人の帰りを待っていることだろう。
(アイツがいないと、どうも雰囲気が落ち着かんな)
 おもむろに八重はタバコを取り出すとトントン、と箱をたたいてタバコを一本取り出した。ボシュっとオイルライターで火をつける。
「・・・何だ、そのニオイは」
 ふいにニーツがタバコに興味を示しだした。
「あまり嗅がないニオイだ」
「これかね?これは私の愛用している<アイボリー・グレイ>という煙草だ。・・・この煙草は輸入物だから、あまり嗅がないニオイで当然だな」
「<アイボリー・グレイ>か・・・」
 しばらく何か考え込むような仕草をした後、ニーツは言った。
「俺も吸う」
「は?」
 思わず八重はタバコを落としそうになった。
「俺も吸う。俺にもくれ」
「・・・いくら魔族でも、さすがに子供に煙草をすすめる気にはならないな」
「子供?」
 今度はニーツが顔をしかめた。
「俺は子供じゃない。人間なんかよりずっと年上だ」
 唖然としている表情の八重に、ニーツはなおも言う。
「まあ、人間のお前が勘違いするのも無理ないと思うが、俺の歳は少なくとも三桁はある。お前はせいぜい四十かそこらだろう?お前なんかより、俺はずっと年上だ」
しかし、なおも不審そうな表情が消えない八重にニーツは言う。
「いいか、魔族だって子供のときは弱い。歳をとるたびに魔力が強くなっていくんだ。俺の魔力が、子供のものだと思うか?」
 八重は首を振った。
「解っただろう?解ったら早くそれをくれ」
「解ったよ・・・」
 半信半疑で、八重はニーツにタバコを差し出した。渋々火をつけてやる。
「これを・・・、どうするんだ?」
「煙をこう、肺まで吸い込むんだ」
 そう言って、八重は煙を吸い込んでみせる。ニーツも真似をして煙を吸い込む。
「・・・うっ、ゲホゲホっ!!ゴホっ!!」
「お、おい、大丈夫か、ニーツ?」
「う・・・煩い・・・、ゴホっ!!」
 八重はあらためて、ニーツに<アイボリー・グレイ>がキツめのタバコだということを忠告しておかなかったことを後悔した。むせるニーツはとても苦しそうだ。しかし、八重が助けようとすると、意地を張って傍に近寄らせまいとする。
「ふ・・・、クククっ・・・」
 ふいに八重は笑い出した。年上だと言い張り、口では意地張っててもタバコに弱いニーツのことがとても可笑しくなったのだ。
「わ、笑うなッ・・・ケホっ!!」
「ふふっ、やっぱりお前は子供だよ、ニーツ。・・・ふふっ、はははっ」
「笑うなと言って・・・ゲホゲホっ!!」
「ああ、君にはやはりタバコはまだ早かったな。悪かった、悪かった」
「だから!子ども扱いするな!!ゲホっ!!」
 むせるニーツの背中を、しばらく八重はうれしそうにとんとんとさすり続けていた。

 荒地の中の道を西に歩きつづけて二時間半。たどり着いた場所は、大きな湖だった。
「丁度よかった。ここで一休みするか。たぶんヴェルンまではまだしばらくはかかるだろうしな」
 湖の傍に気持ちよさそうな木陰を見つけ、八重が提案すると、ニーツも
「そうだな」
 と、あっさりと承諾してくれた。
 ふと、二人は湖の岸辺に座る一人の少年を見つけた。その少年は麦藁帽子をかぶり、釣りをしている様子だ。
「やあ、釣れているかね?」
 興味を持って八重は少年に話しかけた。
「君はこの近くに住んでいるのかな?だったら、ここからヴェルンまでどのくらいかかるか教えてもらいたいのだが」
「ここがヴェルンだよ」
 八重の方を見ようともせずに少年が答える。
「昔はヴェルンだったんだけど、今は湖になってるんだ。今はここは<ヴェルン湖>っていう」
「そんな・・・、それは本当かね?」
 思わず少年の肩を掴んで振り向かせた八重は息を呑んだ。
「お前・・・」
「あれ、ひょっとしてオジサンたち僕のこと探してたの?」
 見つめる少年の瞳は獣のような金色をしていた。少年は歌うように言う。
「僕が魔族ベル=リアンだからかな?」

2007/02/17 22:53 | Comments(0) | TrackBack() | ○Under The Moon

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