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2024/04/30 03:20 |
第一話 接触/フィミル(セツ)
PC:フィミル ヴォル
場所:森の中


その日の夜は少し憂鬱で、幾重にも吐き出されたため息は、ただでさえやせ細っていた月をすっかり隠してしまっていた
そんな夜に共鳴してか、少女の足取りは重い

「うう、寒です・・・・」

見ると、その髪も衣装もぐっしょりと濡れている
先程まで降っていた雨のせいか
今でも思い出したように、木の葉たちが冷たい涙を滴らせる
特に寒い季節と言うわけではないのだが、何分ここは深い森の中、さらに夜ときては彼女が情けない弱音を吐くのも頷ける
すっかり冷たくなった指を擦り合わせて、息を吐きかける
お酒でもあれば温まる事が出来るのに、そんな事を思いながらため息をついたその時━━━━

ぞくっ

「・・・・・!」

不意に、ざらりとした感触
激しい嫌悪感
わずかながらに残っている天使としての感覚が、危険信号を発しているのだ

 アクマヨ

気がつくと走り出してしまっていた
考えるより先に、いい加減染み付いた恐怖が足を動かしていた
激しく脈打つ鼓動
震える指先
度重なる襲撃が、彼女を疲れさせていた
一瞬、死の誘惑が彼女の頬を撫でる

「嫌よ・・・・・私は、死なないわ」

その声は震えてしまっていたが
無理やり作った不敵な笑みは、引きつってはいなかった
そうだ、こんなところでは、死んでも死にきれない
後方に気配を感じる
いつも通り、一つだけ

(・・・・どうしようか)

いつも通り逃げつづけるか、倒すか
なぜか相手はどんどん強くなっている
前回も振り切れなかった
重ねて、今は雫たちに体温を奪われていて、いつまで体力が持つか分からない

決断はできた
下唇を噛み締めながら、剣を抜きつつ振り返る

「私は、死ぬわけにはいかないのよ、悪魔さん・・・・」

「悪魔さん」はガーゴイルのような翼を持つ、真っ黒な悪魔だった
目だけが不吉に紅く輝き、翼に触れる枝を無理やりへし折りながら森を滑空している
まだ距離がある

「・・・・閃光の霧よ」

手加減はしていられない
自分が使える攻撃魔術の中でも最高クラスの物を使った
白いモヤが前方に広がる
霧ではない、正体は石英の粉だ
そして、その一粒一粒が周囲のマナを電気エネルギーに変換して蓄えている
さらに自らの魔力を目一杯注ぎ込む
威力は「霧」の体積に反比例するため、小さく絞り込んだ
フットボールほどの球体が出来上がる
ここまで圧縮すれば威力が高すぎる程だが、問題ない
威力を抑えて発動時間を長くすることも出来るのだが、そのつもりはない

「さぁ、来なさい・・・・・」

果たして、相手は鋭い爪を立てて、単純に突っ込んで来る
と、その時

「大丈夫か!?」
「!!」

見るとなんだかラフな格好の銀髪のお兄さんがこちらに走ってきていた
助けてくれるらしく、ナックルのような物を装着しようとしている
ありがたいが、今はまずい

「目を閉じて!」
「え?」
「いいから!」

お兄さんが目を固く閉じるのを確認して
閃光
瞬間的に「霧」が莫大なエネルギーを放出
その光は夜を切り裂いて厚く広がる雲を照らした

ジュッ

微かに、そんな音が聞こえた気がした
悪魔の巨体は少し横に避けたフィミルを通り越して、バキバキと音を立てながら茂みに突っ込んで行った
終わった
悪魔の頭部は一瞬で蒸発した、はずだ
死体を確認する気にはならないが、確かに霧が奴の頭部を包み込んだ瞬間を見た
しゃがみ込む
一気に魔力を使いすぎたせいで、膝が大爆笑中だった
自分は戦い慣れていない
改めてそう思う
先程の魔術、あんなに範囲を小さくして、もし外していれば反撃できずにやられていただろう
慎重になるべきだった

「もういいのか!?」
「え?あっ、もう結構です」

お兄さんは目を開き、こちらに走ってきた
そしてなにやら口を開きかけ━━━━跳んだ

「え?」

そして私を飛び越えて・・・・

ドンッ

振り返ると何か黒いものが巨木に叩き付けられていた
それは━━━━先程の悪魔だった、ただし首はない
今のはお兄さんの蹴りが決まったらしい

「なっ、まだ生きて、」
「らしいね」

どうしよう、私はまともに戦える状態じゃない
と、その時お兄さんと目が合った

「立てる?」
「・・・・大丈夫です」

立ち上がって、地面に突き刺していた剣を抜き、構える
魔術はしばらく使えない
剣術には自身がない
悪魔が体制を立て直したようだ

「助けて、くれるんですか?」
「そのつもりで来たんだけど」
「・・・感謝します」
「それは生き延びた後でしてね」
「はい・・・」

この人を連れてきてくれた神様に感謝しつつ、震える剣を低く構えなおした
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2007/02/17 00:38 | Comments(0) | TrackBack() | ○造られし者達
第二話「跳躍」/ヴォル(暁十夜)
PC:ヴォルペ・アルジェント フィルミエル
場所:マキーナ周辺森
NPC:下級悪魔

――――――――――――――――――――

 暗い闇が支配する時間、月すらも分厚く不気味な雲にかくれ、真に闇が世界
を覆う。
 動物達も寝静まり、フクロウの鳴き声すら聞こえない暗い森の中、銀色の光
が点滅している。
 乱立する木々の間を二つの影が疾走する。一方は縫うように木の間を飛び、
もう一方の影は地面を走る。
 宙を飛ぶ影が急旋回し。地面を走る影に襲いかかる。
 瞬間、銀色の光が強烈に輝く。闇の中に爆発が起こり、木々がなぎ倒され
る。赤い炎が雄々しく立つ銀色の人影を照らす。狐を模した仮面が印象的だ。
 仮面の男が空を見上げる。覆っていた分厚い雲が晴れ、丸い月が姿を現し
た。仮面に隠れ、表情はうかがえないが、仮面の奥からは深い憂いが感じられ
た。それは、人としての存在を超えてしまった者独特の哀愁があった。
 仮面の男は後ろを振り返ることなく、薄暗い森の中に消えていった。
 パチパチと燃える木々の中には、人間とは似て非なる生物の亡骸が転がって
いた……。

    ◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 女神の微笑む口のように細く尖った月を、薄雲が覆う。森は先程までの雨で
冷たい雫を木々にたたえている。
 獣たちも寝静まった時間。通る存在がいないはずの獣道を一人、銀髪の青年
が歩いている。
 常人には寒いはずの気温だが、青年ははき古したボロボロのジーンズに左袖
が千切れてない長袖の白い麻のシャツという格好をしている。
「もうすぐマキーナなか。ちょっと時間がかかっちゃったねブレッザ」
 子供の様な表情の青年は誰かに喋りかけるように言った。青年の近くには人
影はない。
『そうね、少し急いだ方がいいかもしれないわね。そろそろ敵も私達の目的に
気付く頃かもしれないし』
 青年の頭の中で女性の声が響く。青年は静かに頷く。
 青年の名はヴォルペ・アルジェント、稀有な名前で偽名だ。いろいろなこと
があって名乗っている。
 彼の頭の中に響いた声の主、ブレッザ・プリマヴェリーレもその内の一つ
だ。 彼女は世界でも有数の大妖、九尾の狐だ。それがある組織によってヴォ
ルペと融合させられてしまった。
「それじゃあさ」
『ダメよ』
「まだ何もいってないじゃん」
 子供みたいに唇を尖らせてヴォルペは不満を口にする。
『あまり目立つ行動はやめなさいといつも言ってるでしょ。まったく、いつま
でたっても子供なんだから』
 ブレッザにお小言を言われ、ヴォルペは多少スネてみせる。
 ヴォルペはブレッザと融合したことによって様々な力を手に入れた。それこ
そ常人では考えられない力だ。
「けちぃ」
 一瞬、ムスっとした表情をしたヴォルペだったが、すぐに厳しい表情に変わ
った。
「ブレッザ……これは」
 風に乗ってきたのは今まで感じたこと無い純粋な悪意の気配、嗅いだことの
ない強烈なほどの邪な臭い。
『……これは、悪魔ね。臭いからして下級ね問題ないわ』
「でもさ」
 悪魔の臭いの中に別な生き物の匂いを感じる。人、女性の匂いだ。
『面倒に巻き込まれるのは避けたいけれど、止めたって行くんでしょ、どう
せ』
 ブレッザの言葉に頷いて、ヴォルペは駆け出した。獣よりも、風よりも早
く。

    ◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「……閃光の霧よ」
 風を切る音と一緒に聞こえてきたのは少女の声だった。近い。
「大丈夫か!?」
 少女の姿を確認してヴォルペは叫ぶ、少女の前にはドス黒い色をした異形の
怪物が見える。
「目を閉じて!」
「え?」
「いいから!」
 少女に言われるがまま、ヴォルペは目を閉じた。次の瞬間、ビリビリとした
感覚と何かが焼ける音が聞こえた。
 下級悪魔のだろう、派手な足音を立てて少女の脇を通り抜けていった。
 少女に動きは無い。息遣いも確かに聞こえるし、血の臭いもしない。やられ
たという事はないだろう。
『彼女、戦い慣れてないわね』
 不意にブレッザが言った。その証拠に下級悪魔の立ち上がる音をヴォルペの
耳は捉えていた。
「もういいかな?」
「え? あっ、もう結構です」
 少女の言葉を聞き終える前にヴォルペは少しの助走をして跳んだ。しゃが
め、と言おうと思ったが少女の現状を見て無理だと判断して止めた。
 少女の上を跳び越えて、下級悪魔の肩口に蹴りを入れる。本当なら頭部を狙
うのだが、頭が無いのだからしょうがない。
「なっ、まだ生きて」
「らしいね」
 そう言って軽やかに着地したヴォルペが少女に屈託のない笑顔を向ける。
「立てる?」
「……大丈夫です」
 地面に突き刺していた剣を支えに少女は立ち上がった。一目で極度に疲労し
ているのがわかる。
『無謀ね、あの程度の実力で悪魔に立ち向かうなんて』
 ブレッザの辛辣な言葉に苦笑するヴォルペに少女が尋ねた。
「助けてくれるんですか?」
「そのつもりで来たんだけど」
「感謝します……」
「それは生き延びた後でしてね」
 笑みを浮かべてそう言ったヴォルペに少女は力なく返事をした。
「じゃあ、休んでて」
 震える体で剣を構える少女にヴォルペは微笑んだ。
「え……?」
 拳を軽く振り、ヴォルペはワンステップで下級悪魔までの間合いを一気に詰
める。力強く拳を握り締め、下級悪魔の腹部に拳を叩き込む。
 対格差は明確である。しかし、ヴォルペの拳を受けた下級悪魔の足は地面か
ら浮いていた。
「はっ!!」
 連続してヴォルペは心臓――人ならば――がある位置を殴りつける。
 木に叩きつけられた下級悪魔は何事も無かったかのように立ち上がった。ヴ
ォルペに拳を打ち付けられたところが大きく陥没している。
「ねぇ、あいつどうやったら倒せるの?」
 苦笑してヴォルペは言った。
『生命活動はもう停止してるわ。放って置けば勝手に死ぬわよ?』
「……そういう事は早く言ってよ」
 ため息をついてヴォルペは走り出した。少女に向かって。
「ちょっとごめんね」
「え? ちょ、ちょっと」
 困惑する少女の体を抱きかかえてヴォルペは、そのまま走り出した。
「このまま街まで行くよ」
 ヴォルペの行ったとおり、遠くに街の明かりが見える。ただ少女の記憶が確
かならこの先は……。
「舌噛むといけないからちゃんと口閉じててね」
「待って、この先は崖……いやぁあああああああ」
 森の中に響き渡った少女の声は、マキーナの街にまで届いていた。

2007/02/17 00:39 | Comments(0) | TrackBack() | ○造られし者達
第三話「月下」/シオン(ケン)
PC:シオン クロース オプナ
場所:マキーナ周辺森
NPC:屍使い
--------------------------------------------------------------------------------
風をまとった光牙(鞘に入れた状態)の一撃を受け、大きく吹き飛ぶ男、大の大人の
男を吹き飛ばしたのは驚く事に華奢な体付きをした少年だった。

自分の身長をゆうに越える聖柄の太刀をまるで棍の様に構えるとまだ残っている男達
を一瞥する、月光を受け白銀に輝く髪を夜風になびかせ、月明かりに照らされて幻想
的な美しさを漂わせる横顔は絶世の美女を思わせる、それでいて僅かに幼さを残して
いた。

先ほどまで出ていた月が再び厚い雲に覆われ始めた頃、白髪の少年は最後の男の鳩尾
に突きを入れて昏倒させていた。

パチパチ

白髪の少年が先ほど昏倒させた男を調べようとした時だった、オレンジ色の散切りの
髪をした長身の20代前半の青年が拍手をしながら白髪の少年に近寄ってきた。いつ
もなら微笑みをたたえて挨拶をする白髪の少年だが場合が場合で不意に現れたオレン
ジ頭の青年に僅かばかりの警戒心を宿した眼で見つめる。
その様子を見て、オレンジ頭の青年は不適な笑みになり口を開く。

「いいね~、その表情、その眼」

オレンジ頭の青年はにやにやと笑いながら近づいてくる。

「貴方はどなたですか?」

オレンジ頭の青年の言動に白髪の少年は少し眉をひそめつつ問う

「へ~、そんな声をしてるんだ、モロ僕の好みだよ」

質問の答えになっていない返答、オレンジ頭の青年は白髪の少年の顎に手を添え、妖
しい光を放つ紺色の瞳でまじまじと見つめてくる。

「お、おやめなさい」

その瞳に魅入ってしまっていた事に気付き、顔を赤らめながらも慌てて跳びのく白髪
の少年、それを愉快そうに眺めていたオレンジ頭の青年はにやにやと笑いながら右手
に刀、左手に剣を何所からともなく取り出した。

「残念だけどそろそろ本題に入ろうか、シオン・エレハイン」

「!…なぜ私の名前を?」

シオン・エレハインと呼ばれた白髪の少年は一瞬驚いたがすぐに冷静に物事を解釈し
た。

「…やはりさっきの人達は貴方が差し向けてきたのですね?」

シオンの問いにオレンジ頭の青年は満足そうに笑う。それが意味するものは―――肯
定―――

「いいね~頭が言い人って言うのも好きだよ…でもね」

言った途端、シオンの足首を何者かが掴み、そのまま逆さ釣りの状態で持ち上げられ
る。

「ぁ…何!?」

「僕が差し向けたのは人じゃないんだよね

シオンの青紫色の瞳に映った者は先ほど確かに昏倒したはずの男であった。普通の人
間ならまだまだ気を失っている一撃だったはずだ。

「言い忘れたけど僕の名前は『屍使い』…君を襲っていたのは僕が操っていた死体君
達だよ」

オレンジ頭の青年、屍使いが勝ち誇って言う、そして再びシオンに近づこうとして足
を止めた。

「へ~君…やっぱりスゴイよ」

刹那、シオンを掴んでいた死体がシオンを中心い発生したつむじ風にズタズタに切り
裂かれる、それはその周辺にあった他の死体も巻きこみ、風が止んだときには死体達
は一つ残らず消し飛ばされていた。

「あの状態で詠唱を完成するなんて、並大抵のレベルじゃない…ますます欲しくなっ
た」

屍使いの言葉が終るよりも早く、風をまとわせた光牙を手に構え、突っ込んでくるシ
オン、それを跳躍でかわす屍使い、上に跳ぶことを読んでいたかのように、振り帰り
際の突きは正確に屍使いの鳩尾を捕らえていただろう、しかし屍使いの背中から炎の
翼が生え、空を切る事にとどまった。シオンはすぐさま風の翼を広げ、屍使いを追撃
する。

「はっはっは、まさか僕が炎の魔法を使えるとは思わなかっただろ?」

屍使いの言葉を無視し、繰り出されるシオンの突きを屍使いは器用に左右の刀剣でさ
ばく、屍使いが火の玉を飛ばしてきたらシオンは風の盾で防ぐ、風と火は基本的には
火のほうが強いが防御、支援にに関しては風の方が勝る、激しい空中戦が続くさな
か、シオンに好機が訪れる。突きと見せかけて繰り出した光牙をなぎに変更した際、
屍使いの右腕を強く打ちつけ、怯んだ所を風をまとった突きを胸元に御見舞いしたの
だ。たまらずむせ返る屍使いに光牙を突き付ける。

「もう勝負はつきました。お引きなさい、そして二度と私の前に姿を現さないでくだ
さい」

強い口調で言い放つシオンを屍使いは見つめると、ニィっと口元を吊り上げて笑う。

「へ、さすがにつよいね、こりゃ本気でいかなきゃやばいか」

その言葉を聞きシオンは改めて構えなおす、が屍使いは相変わらず下品に笑いつづけ

「まあ、まてって、ビッグバン・メテオ…炎系の最上級魔法だ、それを避ける事がで
きれば、君の言う通りもう二度と君の前には姿を現さないよ」

言って屍使いは大容量の詠唱を始める。しかしシオンは少し考えていたが受けること
にした、避ける事に関しては風使いの右に出る者はいない、それが魔法や銃と言った
飛び道具ならなおさらだった。

「わかりました、受けましょう」

屍使いはニヤ~っと妖しく笑う、その間にも詠唱はどんどんと終って行く。

「(さすがにウィンドシールドでは防ぎきれませんね…)」

シオンはいつ放たれても良いように身構える、その数秒後、詠唱は完成した。

「じゃあ避けてみな!」

そう言った屍使いはいきなり後ろを振り返ると明後日の方向にビックバン・メテオを
放出した、そのエネルギーは凄まじく、火、水、風、土の中で威力で言えば最強と言
うのもうなづけるほどだった、もちろんウィンドシールドなんてもんで受けてたら風
の盾ごと消滅するだろう…しかしそれを屍使いはあらぬ方向に放出したのだ、しか
し、シオンはその意味がすぐにわかった、避けさせないためにしたのだ、ビックバ
ン・メテオの進行方向には二人の旅人がいた、一人は紅の長髪に桜色のローブを羽織
った20代くらいの女性だ、もう一人は対照的に白っぽい頭髪に10代くらいの少女だ。
あの距離、あのタイミングではビッグバン・メテオを防ぐ事はもちろん、かわす事も
不可能だろう。

「死体操作と同様に、僕のやり方は人から嫌われるんだ、君は放っておけるかな?」

最上級魔法を放ったため、荒い息遣いだが屍使いははっきりと聞こえる声で言った。
もっともシオンにはもう聞こえていなかったかもしれないが。

「ふふ、やっぱり行ったか、そうで無くちゃね」

フフフと不適に笑い屍使いは高みの見物を決めこんだ。

迫り来るビックバン・メテオにやっと気付いたのか、二人が走り始める、やはりだ、
今からでは間に合わないだろう、シオンは目を瞑り、精神を集中し、身体の中にいる
『あいつ』に問いかけた。『千年大蛇』サイボーグであるシオンが作られる際、人間
の細胞と一緒にかかけ合わせたもう一つの細胞の正体だ、この細胞のおかげでシオン
は尋常ならぬ身体能力を身につけることが可能だった、しかし制限時間は5分だ、それ
を過ぎると……シオンは無意識に右腕の傷を包帯越しにさする。

再び開いたシオンの瞳は銀色に輝き、肩ちょっとまであった白髪はプラチナブロンド
の長髪に変わりその身体は金色の淡い燐光に包まれていた。

加速したシオンは金色の残像を引きながら信じられないスピードでビックバン・メテ
オの前に回りこむとそれを両の手で押さえる。そのかいもあって二人は無事に範囲外
までかけぬけた。
それを確認し、シオンはさらに力をこめる、もはや身体は限界に近かったが、力を振
り絞り、ビックバン・メテオを消滅させた、その際の大爆発に巻きこまれ吹き飛ばさ
れたシオンは元の姿に戻っていた。
泥の地面を滑走し、大木に激突してやっと止まった。両腕は焼け爛れ、背中にも激痛
が走る朦朧とする意識の中、先ほどの二人が駆け寄ってくるのが見えた。

「こっちに来てはいけません、早くお逃げなさい」

と、言おうとしたが叶わず、シオンは意識を失ってしまった。


「す、すごい…なんて綺麗なんだ…オマケにこれほどの力があるとはな~…フフフ、
楽しくなってきた、また逢えるのを楽しみにしてるよ、大丈夫、君なら生き残れるっ
て…」

そう言い残すと屍使いはオレンジ色の火の玉になり何所かに消えて行った。
後には何の痕跡も残さずに…

2007/02/17 00:40 | Comments(0) | TrackBack() | ○造られし者達
第四話「曙光」/オプナ・クロース(葉月瞬)
PT:クロース、オプナ、シオン
場所:マキーナ付近の森~マキーナの街
NPC:魔術学院の方
-------------------------------------------------------------

 それは、白き戯れだった。
 其処だけ何処か、色が抜け落ちているようだった。
 月下の舞踏。
 そんな印象を、オプナはその光景を目の当たりにした時、不謹慎にも抱いて
しまったのだった。

  ◇〇◇

 其の少年は、怪我をしていた。
 オプナ達が罪の意識を少しでも軽くする為に少年に近付いた時、既に少年は
意識を手放した後だった。そして、オプナ達の背後で男の呟きが聞えたと思い
きや、炎が燃え上がる音とほぼ同時に鎮火した時の何とも抜けたような音が聞
えて来た。オプナが咄嗟に振り向いた時には、男は火の粉を一欠けら残し消失
した後だった――。

「……あいつ……、何者だったの……? 少なくとも、只者じゃない事だけは
確かだけれど……。……この、坊やもね」

 オプナが再び見下ろした其の少年の腕は、焼け爛れ酷くボロボロになってい
た。特に痛々しく映えているのが、右腕の燃え縮れた包帯から見え隠れしてい
る、火傷とは明らかに違う黒く走る傷跡だった。たった今付いた訳ではない、
惨憺たる傷跡。其の傷跡に、オプナは只ならぬ力の波動を感じていた。

「……クロース、一寸退いていて。治癒するから」

 自分と同じ銀髪の少年にしがみ付く様に覗き込んでいたクロースが、オプナ
の声に反応して振り仰ぐ。オプナは彼女に向かって一つ頷くと、手で制するよ
うに下がらせる。そして、口の中で小さく何事か呟くと、若葉色をした前袷
(あわせ)の奇妙な服を着た少年の両腕に掌を翳した。

「【治癒(ヒール)】」

 掌が燐光に包まれ、見る間に傷口が癒えていく。
 だが、思った以上に火傷の進行度は深く、広範囲に広がっていた。

「くっ、駄目だわ。私の治癒魔法じゃ追い付かない。せいぜい、応急手当が関
の山か……。早く、病院に連れて行かないと……」

 夜明けが近い事を示すかのように、稜線が徐々に茜色に染め上げられてい
く。
 オプナは其の朝焼けを目に焼き付けながら、街の方角を確認していた。懐か
しき避暑の街、マキーナはもう直ぐ其処だ。

「もう! 仕様が無いわね。感知されるから余り魔法は使いたくはなかったの
だけれど……仕方ない。飛ぶわよ、クロース。【我が内なる魔力よ、この身を
包み給へ……飛翔(フライ)】!!」

 この飛翔の魔法は、精霊力と反発する魔力の性質を利用して移動する魔法
だ。精霊達は魔力を嫌う性質がある。それを利用して、移動する魔法なのだ。
術者自身の身体を魔力で包み込む事によって大地や大気を形成している精霊達
と反発して、移動の原動力を得るのだ。当初この性質が発見された時は、画期
的だと持て囃された。しかし今は、どのような低級魔術師でも扱える一般的な
魔法だ。
 真っ白き少年を胸に抱き、クロースの手を引いたオプナの身体が魔力による
燐光に包まれた。それと同時に、風に乗るように身体がゆっくりと上昇してい
くと、マキーナの街の方角へと飛び去っていった。

 曙光に煙るその飛行影を、森の中で唯一人視認する者が居た。

「クククッ。遂に見つけたぞ。クロース。そして、オプナ!」

 真っ黒きローブに身を包んだ男が呟くように吐いた其の言葉は、外気と同じ
ように何処か寒々としていた。そして、少し皺の寄ったその口元に微笑を浮か
べ、飛び去った人影を何時までも飽きずに見送っていた――。

  ◇○◇

 オプナの中でマキーナの街のイメージは、炭坑の街というよりも寧ろ避暑地
としてのイメージが強い。元々魔法鉱石が発見されるよりも以前のマキーナ
は、避暑地として栄えていた街だったからだ。高原という事もあって、夏の盛
りの時期にも冷気が溜り外界との一寸した寒暖差が発生する。そういう事もあ
ってか夏場、特に盛りの時期には日に数十人は避暑に訪れる。それも、貴族連
中が優先的ではあるが。
 オプナはソフィニアの貴族の家庭に出生した。当然の事ながら、避暑地マキ
ーナへも何度か連れて来てもらった事があるのだ。幼少時で記憶はあやふやだ
が、「来た」という事実は頭脳に刻み込まれていた。だから、彼女にとってマ

ーナは第二の故郷とも言うべき街だった。
 オプナは昔を懐かしむように数度街の上空を旋回すると、街の中央部に位置
する時計塔広場に悠々と着地した。
 着地と同時に、口元も緩むオプナ。
 昔と余り変わらないな、オプナはそう思った。
 昔と余り変わらない。そう、魔法鉱石が発見され、鉱山人足達が駐屯するよ
うになっても長閑(のどか)で緩やかな空気そのものまでが変わった訳ではなか
った。人も土地も高山植物も、緩やかに、そして静かに時を刻んでいた。
 昔と変わらない。だが、昔と変わった所が一点だけあった。

「……雪……?」

 オプナの差し出した掌に、緩やかに舞い落ちる何かがあった。其れは白く、
脆く、儚げで、そして冷たかった。其れは、たった今天より生まれた粉雪だっ
た。
 そもそもオプナが避暑に来ていた幼きあの日には、雪など降る素振りも見せ
ていなかった。雪と呼ばれる氷の結晶体など、生まれてこの間見た事も、触れ
た事も無かったのだ。それは隣にいて首を四方へ伸ばし好奇心を満たそうとし
ているクロースも同じらしく、何処か寒そうに身動ぎしている。

「寒い? クロース」
「……冷たい」
「……そうね。この寒さじゃ、この子も体力を削られるばかりだし……。早く
病院を見つけなきゃ……」

 和装の薄着を身に付けただけの少年に、身を切るようなこの寒さはさぞ堪え
るだろう。それで無くとも、気絶する程の火傷を負っていて体力が削られてい
くのだ。彼の体力が限界を超えるのも、時間の問題か。そう、思考を巡らせな
がら少年に視線を這わせるオプナ。彼女の大方の予想通り、彼は薄着で寒さに
打ち震えているように見える。そして、両腕に負った見事なまでの火傷――。

「!?」

 火傷を見詰めたまま、信じられない物を見たと言うように、オプナは凍りつ
いた。同時に思考も。
 其の火傷は、徐々に回復しつつあった。それも、常人には有り得ないほどの
速度を持って。つまり自然治癒力が常人よりも高いと言うことなのだが、それ
にしてもこの回復の速さは尋常ではなかった。既に皮下組織は再構成を果たし
つつあるようなのだ。そして、表皮も少しずつではあるが再構成されつつあ
る。

(こっ、これはっ!? ……きょっ、興味深い素体ね……。既に病院に連れて
行く必要は無い、と言うことか……。観察のしがいは十分にありそうだけど)

 それにしたって宿屋は取って置くべきねと、オプナは宿を探すべく周囲を見
回した。隣では、クロースが少しでも暖をとるべく両手を口を覆うように揃え
て息を吹き掛けている。微笑ましいその光景にオプナは幽かに微笑を浮かべる
と、クロースの為にも、という言葉も付け加えた。

  ◇○◇

 程なくしてオプナは、“三匹の蛙”という名の宿屋兼酒場を見つけた。広場
に面した商業地帯にそれはあった。時計台の向かい側に、閑静な佇まいを見せ
ていた。
 その宿屋は“一流”とまではいかないまでも、そこそこ評判の良い中規模な
宿屋だった。一階には酒場もあり、食事を楽しみながら酒を嗜めるという。夜
にもなれば鉱山労働者が屯し、一寸した賑わいを見せる。町の人々にとっては
憩いの場所、そんな建築物だった。
 少なく見積もっても築五年は硬いであろう“三匹の蛙”亭の扉を、未だに意
識を取り戻せていない少年を背負ったままのオプナが如何にも難儀な素振りで
押し開く。途端に中から、外の市場から響く喧騒とは裏腹な静寂が鼓膜を静か
に叩いた。丁度今は明け方である。当然の事ながら、酒場には一人の客も見当
たらない。扉に「閉店」の文字が刻まれた掛け板が掛かっている通り、酒場は
店を閉ざしている刻限なのだ。しかし、宿屋としては受け付けているようだ。
カウンターには一人の中年男性が鎮座していた。
 オプナとクロースは、徐にカウンターに近付くと主人らしき男に声を掛け、
部屋を二つばかり手配する。

「今日一日泊めて欲しいのだけれど……空いているかしら?」

 にこやかに微笑んで、愛想を振りまく事もやはりオプナは忘れてはいなかっ
た。その笑顔に差して魅了された風でなく、宿屋兼酒場の主人はぶっきら棒に
言った。

「ああ。今日は、二つばかり空いてるよ。一番奥の部屋だ。……悪いが、うち
は前払い制を取っていてね……」

 そう言い終わるか終わらないかの内に、主人は手を掌を差し出した。どうや
ら金を出せと促している様だ。
 オプナはそれを目の当たりにし、一つ頷くと「それは当然よ」と心の中で呟
きながらも一晩泊まれるだけの銅貨を手渡した。取り敢えずは、相場通りの値
段だ。主人はその銅貨の枚数を数えると、一つ頷いて見せる。今渡した金額は
取り敢えずの値段だ。後は部屋にチップでも数枚置いて宿を発てば十分に満足
して貰える事だろう。

 軋む階段に足を掛け、オプナとクロースと背負われたままの少年は階上に消
えて行った――。

2007/02/17 00:41 | Comments(0) | TrackBack() | ○造られし者達
第五話「ケロヨンの悲劇」/フィミル(セツ)
PC:フィミル ヴォル
場所:街道~三匹の蛙亭
NPC:お客さん モンスター



森を抜けて、街道に出る頃には夜は明けて、悪魔の気配は完全に消えていた
風の通らない森よりも思いのほか寒く、自分の腕を抱いて露出した部分をさする
「砌[みぎり]よ・・・・」
魔力も大分回復して来たようで、難なく置いてきぼりにした荷物を呼び出すことが出来た
遠くにある物を転移させるのは至難の技だが、このレザーザックにはあらかじめ魔方陣が刺繍されていた。そうすることにより呼び出しは初級魔法にまで成り下がる
「へぇ、便利なものだね」
「ええ、特に私なんて忘れ物が多くて、この魔術にはお世話になりっぱなしなんですよ」
「ははは・・・・・は、はっくしょん」
思わず笑うと、お兄さんは「いや、失礼」と顔をしかめた
「防寒具の類はお持ちですか?」
「うん、一応」
と、そこで冷たい風が吹いてきたので、自分も急いでザックを漁る。そろそろ寒くなると思って、前の街で買ったものがあるはずだった
足元まで隠す真っ黒なマントだ。結ぶ紐の先にフワフワしたファーのボールが付いていて、それが子供っぽいと思うのだが、そう思うのは自分だけだと知っていた
羽織って、しっかり前を合わせると結構暖かい
お兄さんも上着を着込んでいる
「砌よ」
今度は悲哀の翼を呼び出した。そう言えば何でこんな名を付けたのだろう?よく思い出せない
まぁいいか、と思ってマントの上から背負う
「物騒だね、何でそんな物背負ってるの?」
ごもっともだ、しかもこれは刃渡り1m強もある長物で、柄も合わせると自分の目線程もある。見た目より遥かに軽いので扱いには困らないが、やはり異様なのだろう
「えっと・・・・一応護身用なんです」
「へ、へぇ~」
納得してくれたのか怪しいところだが、しょうがない。実際この剣は自分にとっての十字架なのだ。我が身の罪深きを忘れないための・・・・
と、急にお兄さんが立ち止まった
「?」
こちらを見て笑む
「雪だ」
見上げた顔に冷たい感触、雪だ
パラパラと、灰色の雲から零れ落ちるように
マントの中から腕を伸ばす、冷たい
雪は好きな物の一つだった。地面に寝転んで、ずっと雪が舞い落ちるのを見ていたいと思ったが、取り敢えず諦めた
「急ごう」
「はい」
既に自己紹介など終えていたので、目的地が同じだと言う事もわかっている
まだ積もる気配さえない雪は風に戯れて、触れた物を次第に凍てつかせるのだった


助けてもらったお礼に、とお兄さんを連れ込んだのは「三匹の蛙亭」と言う宿屋兼食堂兼酒場のようなところだった
どう見ても年下の自分におごらせる事をお兄さんは頑なに拒んだが、実は自分は大金持ちの娘で親のお金だから、と嘘まで付いてやっと承諾した
実は訳あって私にはかなりの貯金があるので、旅費には困らない
街についた時にはもう夕方近くだったので、「三匹の蛙亭」はそれなりの賑わいを見せていた。先にそこで宿を取り(お兄さんの分も取ってしまおうとしたが、気づかれた)久しぶりの温かい食事にありつくことになった
「で、そのお嬢様が何で旅なんかしてるの?」
「かわいい娘には旅をさせろ、ということで」
「ふ~ん、そうなんだ、大変だね。あれ、でも何で魔法が使えるの?」
「えっと・・・・・護身用、です」
「へ~、もうそんな時代なんだ」
・・・・実はこのお兄さん、少し単純というか、人を信じやすいところがあるようだ
「それでですね・・・・・」
「うん?」
お兄さんは嬉々と食事をしていたが、その手を止めてこちらを見る
「あの、えっと・・・私に護衛として雇われてはもらえないでしょうか?」
「いいよ」
その即答ぶりに少し呆気にとられながら、それでもなんとか言葉を続ける
「それで報酬なんですが・・・・・」
「ふぇ?ん・・・・んぐ、ごめん、えっと報酬か・・・・相場はどのくらいなの?」
「私もそれが聞きたかったのですが・・・・」
「う~ん・・・・・あっ、そう言えばこれからの行き先は決めてないって言ったよね」
「はい、特には」
「じゃあ僕についてこない?それならお金もいらないし」
戸惑う。契約関係ならともかく、好意に甘えてこの人を巻き込みたくはなかった。恩を仇で返すようなものだ
「あの、実は私は狙われているんです。ご迷惑をかけるわけには・・・・・」
「え?そなの。でも気にしないで、僕も狙われてるから」
「え?」
「それに今から迷惑掛けるみたいだし?」
お兄さんの視線の先をみると、窓から怪物(大きな鳥のような)が硝子を蹴破って入ってくる所だった
「三匹の蛙亭」はパニックになり、お兄さんは荷物を漁っている。どうやらお兄さんのお客さんのようだ。いいかげんダルい体に鞭打って、とりあえずテーブルの影に身を隠した

2007/02/17 00:41 | Comments(0) | TrackBack() | ○造られし者達

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