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2024/05/17 07:44 |
第6話「強襲」/ヴォル(暁十夜より改名生物)
PC:ヴォル フィミル シオン クロース オプナ 
場所:マキーナ「三匹の蛙亭」
NPC:ブレッザ・プリマヴェリーレ 鳥怪人素晴しき屍使いツクヨミ ロリコン
魔術師バーキン 

――――――――――――――――――――

 世の中にはごく普通の暮らしをしていても、非常識な災難に見舞われること
もある。
 三匹の蛙亭の主人は何も出来ずにただ突っ立っていた。怪鳥――というよ
り、鳥の姿をした怪人だが――がいきなり窓を突き破って侵入してきたのだ、
それは仕方の無いことだろう。
「これはやっぱり人災なのかなぁ」
『そうね……、だから人助けなんてするものじゃないのよ』
 頭の中で聞こえるブレッザのため息に苦笑しながら、ヴォルペはグローブの
感触を確め、鳥怪人を見据える。
『レン、わかっているとは思うけど』
「わかってるって、変身はしないって。よし、いくぞ鳥怪人!! ……って、
あれ?」
 勢い良く人差し指を怪鳥に突きつけたまではよかったが、相手からの反応が
全くない。それどころか怪鳥の目からはいっさいの生気が見受けられない。
「ブレッザ、何か変だよ。あいつ、まるで死んでるみたいだ」
『あいつ、前に倒したのがアンデットとして蘇生されたみたいね。あんまりわ
からないけど、体は腐りかけてるみたいだし、それに……』
「ぎょGRUuアアアアア」
 気味の悪い叫び声を上げた鳥怪人は翼をばたつかせて必死にヴォルペに飛び
かかろうとするが、羽毛を撒き散らすだけだった。
『脳ミソまで腐ってバカになってるわね』
「あの……、どうしましょう?」
 テーブルの影からフィミルが尋ねてきた。グロテスクな外見に似合わずコメ
ディアンな鳥怪人にどうしていいか迷っているようだ。
「え、えーと、とりあえず隠れてて」
 苦笑ながらそう言ったヴォルペはとりあえず目の前の鳥怪人の処遇を考え
る。
 鳥怪人は翼をばたつかせどうにか飛ぼうと頑張っている、途中疲れたのか肩
を上下させて休んでいる。案外中に人でも入っているんじゃなかろうか……。
「……なんかさ、見てて可愛そうになってきた」
「GuaaああぁUuuu」
 ついに飛んで襲い掛かるのを諦めたのか、鳥怪人は近くにあった備え付けの
テーブルを床から引き剥がしヴォルペに向かって投げつけた。
「よっ、とっと」
 ヴォルペは軽く体をひねってテーブルをかわす。後からなにやらオッサンの
怒鳴り声が聞こえて気がするが、気にせずヴォルペは鳥怪人との間合いを詰め
ようとしたとき。
「伏せて」
「!?」
 不意の声に従うようにヴォルペはその場に伏せると、頭の上を熱の塊が通り
過ぎ、鳥怪人を包み込む。
「GYううあああぁあ」
 熱風を浴び悶絶する鳥怪人。ヴォルペは立ち上がり後を振り返り、一人の青
年を見据えた。熱風を放った張本人だ。近くに桜色のローブを羽織った――恐
らく魔術師の類だろう――女性がいた。
 おそらく彼女が警告をしてくれたのだろう。後でお礼を言わないと。
「ちっちっち、ダメだよおねぇさん。教えちゃさ。おかげで愉しいオモチャが
一つ減ったじゃないか」
 青年はオレンジ色の髪をかき上げながら言った。気のせいだろうかその態度
はひじょーにムカツク。が、それ以前に気になることがある。
「こいつは、あなたがけしかけたんですか!」
 黒コゲになった鳥怪人を指差してヴォルペは叫んだ。
「そうだよ。ここに来る途中に手に入れたんだ。おもしろいオモチャだろ? 
まあ、ホントはキミじゃなくて上の部屋で寝ている彼に使おうと思ったんだけ
どね」
 薄い笑みを浮かべた顔で魔術師の女性を見る。知り合いなのだろうか。
「貴方、あの時の!」
「ふふ、シオンは元気かい?」
 顔に浮かぶ笑みがさらに深く、不気味にしてオレンジ頭は言った。改造人間
としてのヴォルペの感性がかなりヤバイ奴だと警告を発する。
「シオン?」
女性は一瞬不思議そうな顔をする。がそれもすぐに納得のいった表情に変わっ
た。上の階から青年が降りてきたからだ。
「シオンは私のことですよ」
 白髪、と言っても年を経て色が抜けたという感じではない、雪のようなまっ
さらで綺麗な白だ。白髪の青年、シオンの後ろには妹だろうか、似た感じのす
る少女が隠れるようにたたずんでいた。
「逢いたかったよ、シオン。ふふ、キレイなお友達が増えたようだね。ますま
す気に入ったよ」
 魔術師の女性と少女を舐めるような視線をはわすオレンジ頭。その視線から
隠れるように少女はシオンの背後に隠れてしまう。
 なんというか、あの視線で見られると隠れたく気持ちもわかる。
「ねぇブレッザ、普通に僕達現状からおいていかれてない?」
『いいのよ、危ない奴には近づかないにこした事は無いわ。とりあえず逃げる
べきよ』
「そう……だけど」
 普通なら逃げるべき状況だ、狂人の相手をしているヒマなどヴォルペには無
い。だが困っている人を黙って見過ごせない……。
『考えてみなさい。今は貴方一人じゃないのよ? これ以上面倒を増やすつも
り?』
 そうだ、今はフィミルの護衛を受けている立場だ。ヴォルペも彼女も何者か
に追われている、これ以上敵を増やすのは得策ではない。
「フィミル」
 小声で呼びかけると、彼女もそのつもりだったらしくすでに荷物をまとめて
抱えている。
「あの人達には悪いけど、今のうちに」
「わかりました」
 オレンジ頭をシオン達がひきつけて――もともとオレンジ頭の狙いは彼等の
ようだが――いる間にヴォルペとフィミルは静かに出入り口に向かう。
「あがっ!?」
 ヴォルペがドアノブに手をかけようとした時、勢いよく、というか良すぎる
ぐらいドアが開いた。
 扉の向こうからぬそっと入ってきたのは、黒いローブに身を包んだいかにも
といった感じの魔術師だった。
「ふははは、見つけたぞオプナ! 今日こそクロースを渡してもらうぞ!」
 おもわぬ珍客に一瞬その場が凍りつく。その沈黙を破ったのはフィミルだっ
た。
「だ、大丈夫ですか?」
「う、うん。ちょっと痛いけど」
 不覚にもヴォルペは黒い魔術師が開けたドアに顔面からぶつかってしまって
いた。鼻血が出て少々かっこわるい。
「ぬ? なんだお主は? まあ、いい。さぁオプナ、クロースをこちらに渡
せ」
 しりもちをついているヴォルペを一瞥し尊大な態度で黒い魔術師は、オプナ
――桜色のローブを羽織った女性――を指差す。フードを目深にかぶっている
ため顔はよくわからないが、なんとなく喋り方と雰囲気があっていない。
「……誰この変態魔術師?」
 いぶかしげな表情でオレンジ頭は黒い魔術師を見据えた。
「変態とは心外な! 我輩は誇り高き魔術師、バーキン・ファルミーである
ぞ」
 たしかにオレンジ頭に変態呼ばわりされるのは心外だろうが、街中で真っ黒
なフードを目深にかぶっているのもどうかと思う。
「主こそ、体中から屍臭が漂っておるぞ。お主こそ変態ではないか!」
「ふっ、屍臭は僕の証みたいな物だからね。でも変態に変態なんて言われたく
ないね」
 会話の趣旨が微妙にズレているが、なにやら余計に現状がややこしくなった
のには間違いないらしい。
「ならば名を名乗れい! それが礼儀であろう」
 胸をそらし、びしっとオレンジ頭を指差してバーキンはいきりたった。意外
と礼儀正しいようではある。
「ふふ、僕の名前かい? 僕は素晴しき屍使いツクヨミさ。まあ、今は苗字だ
け。ファーストネームは気に入った相手にしか明かさないからね、ふふふふ」
 オレンジ頭、ツクヨミはシオンとその後ろのクロースに向かって不気味な笑
みを飛ばす。
「むぅ、キサマ、キサマもクロースを狙っておるのか!」
「おじさんもかい? 残念だったねあの子も、というかおじさんを除いたここ
にいる子は皆僕の物さ」
 恍惚とした表情で両手を広げるツクヨミ。改めて周りを見渡してみるとヴォ
ルペ達以外誰もいない。当然といえば当然だが。
「それって私もですか!?」
 間の抜けた声で自分を指差すフィミルに、ツクヨミはねちっこい視線を向け
て頷いた。
「ヴォ、ヴォルさ~ん」
「いや、僕に振られても……」
 困ったように苦笑するヴォルペ。フィミルだけではなく、ツクヨミはヴォル
ペも自分の物だと言い張ったのだからヴォルペも被害者である。というかここ
に入ってから時々感じたあの粘着質な視線はツクヨミのだったのか。
「させん! 断じてさせんぞ! そこの頑固一徹傑女オプナはいいとして、ク
ロースだけは断じて渡さんぞ!」
「ちょっと、頑固一徹潔女ってなによ」
「ふふふ、嫌だと言えばどうするんだい? ロリコン変態魔術師さん?」
「ふわっはっはっは。それは決まっておろう。こうするまでよ」
 ロリコン魔術師、もといバーキンはオプナの文句など聞こえない様子で、杖
を取り出し呪文を唱え始める。
「ふふふふふ、いいねぇ、そういうの嫌いじゃないよ」
『呆けてる場合じゃないわよ。今のうちに早く逃げるのよ』
 変態二人のやりとりに呆気にとられていたヴォルペにブレッザが叫ぶ。
「フィミル、今のうちに」
「は、はい」
 逃げる意図をオプナ達に目で告げると、軽く頷いて返してきた。好機ととっ
たのは向こうも同じようだった。
「死の淵よりいでし業火の化身よ……」
「氷艶を司りし狂える女王よ……」
変態二人は呪文の詠唱に入ったようだ。しかし詠唱反応を見る限りかなり大掛
かりな術ようだ……、しかも炎と氷という反属性である。
「今だ、逃げるよ」
「クロース、シオン君逃げるわよ!」
 それぞれ別方向の扉から外に飛び出す。変態二人はそれに気付いたが詠唱を
途中でやめるわけにもいかず、術を解き放った。
「ビックバン・メテオ!」
「トルネイド・ブリザード!」

    ◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 反属性の魔法がぶつかりあった時の反応は三通りある。一つはどちらか一方
の力が強く、片方が打ち消されてしまう場合。二つ目は両者の力が拮抗し、双
方ともに打ち消される場合。そして最後は……。
 日もすっかり昇り、マキーナの商業地帯にもそれなりに人の姿が目立つよう
になっていた。出勤する人の波に紛れて不幸のオーラを撒き散らす男が一人。
「ああ、店が……私の人生と魂と経験をこめた店が……」
 口ひげを生やした男、三匹の蛙亭の店長ががっくりと膝をつき新地になった
自分の城を眺めていた。
 ツクヨミとバーキンの魔法は互いの反属性に反応し相乗効果で通常以上の威
力を発揮した。その結果三匹の蛙亭は見る影も無く柱一本残さずに消滅してい
た。
「店長、そんなに気を落とさないで。俺がついてますから」
「そうよ店長さん私達だって協力するから」
 店員や常連客の暖かい励ましを受けて一番の被害者であった店長はなんとか
立ち直れそうであった。
「なんというか。よかった、のかな?」
 苦笑してヴォルペはその場を離れた。
『まあ、隣の建物に被害がなかったのは奇跡ね』
「これからどうしましょうか……」
 フィミルがザックを抱えてながら尋ねてきた。とりあえず変態二人の生死を
気にかけて時間が経ってから戻ってきたのだが、店があの状況では確認できな
い。この問題はひとまず棚上げだ。
「そうだなぁ……、とりあえずお腹も減ったし、朝ご飯食べようか」
「そう、ですね」
 中途半端に終わってしまった食事のせいでやたらとお腹が減ってしまってい
る。二人はとりあえず近場の飲食店に立ち寄る事で落ち着いた。
 店に入ると適当なテーブル席に座ってメニューを開く。胃に入ればなんでも
一緒とヴォルペは最初に目に飛び込んできた文字を口にだした。
「「とりあえずモーニングセット」」
 不意にハモった声にヴォルペは驚いて後の席を振り返った。それは三匹の蛙
亭にいたオプナ達であった。
「あ、どうも」
「ど、どうも」
 今朝の朝食は少し重い話に……なりえそうもなかった。
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2007/02/17 00:42 | Comments(0) | TrackBack() | ○造られし者達
第7話「ツクヨミ」/ヴォル(生物)
PC:ヴォル フィミル シオン クロース オプナ 
場所:マキーナ「ファーストフード店、三匹の蛙亭跡」
NPC:ブレッザ・プリマヴェリーレ 屍使いツクヨミ 魔術師バーキン 店長
(ゴリ男)不幸な店員

―――――――――――――――――――――――――――――

とりあえず同じ席につく一行、とわ言うものの、なかなか気まずい雰囲気を漂
わせている。

「あ、さっきはありがとうね、危うく丸焦げになるところだったよ」

最初に沈黙を破ったのはヴォルぺだった。
彼はツクヨミに焼かれそうになったところをオプナの一声で助けられた時の事
を言っているようだ。オプナもそれに気付いたようだが少々バツが悪そうに答
える。

「そんな、礼を言われるような事じゃないわよ、こっちこそ巻きこんでしまっ
てごめんなさいね」

「あの、あなた方はなんであの二人組に追われているのですか?」

フィミルのいきなり核心を突く質問、あの二人組とは間違いなくあの変態二人
の事だろう、だがどこをどう見ても組んでいる様には見えない。

「ん~まあ、なんて言うのかしら…あ、私の名前はオプナ、オプナ・ハートフ
ォート、でこっちがクロース」

オプナとシオンの間にちょこんと座っていたクロースがぎこちなく会釈する。

「えっと、私はフィミルといいます」

「僕はヴォルペ・アルジェント」

つられてと言うか、その場のノリでヴォルぺも自己紹介をした。

『コレ以上かかわる気?』

ブレッザは本当に心配している様だ、が、少々呆れている様にも聞こえる。

「ん~…仲間は多い方が心強いと思うけど」

『まだ信用できると決まったわけじゃないでしょ』

「大丈夫だと思うけど」

「話しを続けても良いかしら?」

急に黙ったヴォルペとフィミルにコホンと咳を一回ついたオプナが続ける。

「まあ、あいつの名前は自分から言ってたから知ってるわよね、バーキン・フ
ァルミー。クロースを付け狙っている変態魔術師よ。何故付け狙っているのか
は今は言えないけどね」

「お待たせしました、モーニングセットです」

と、そこに5人分のセットを器用に運んできた店員が営業スマイルを浮かべ
る。



「あの、ところでそちらの方は?」

フィミルの目がさっきから黙って何かを考え事をしているシオンに向けられ
る。

「…?」

全員の視線が向けられている事に気付いたシオンは初めて自分が自己紹介して
ない事に気付く。

「あ、すみません、私は…シオン、シオン・エレハインと申します」

「何か考え事?」

微笑するシオンにオプナが問う。

「ええ、ちょっと、それよりすみません、もとはと言うと私の責任でもあるの
です、あのオレンジ頭の…屍使いツクヨミは私を追ってきたのです」

「その事なんだけど、あのオレンジ頭、一体何者?死体を操ってたみたいだけ
ど…」

ヴォルぺがモーニングセットのパンをかじりながら聞く、なかなか美味しいパ
ンだと思う。

「名前、といっても通り名のほうですね、屍使いの名のとうり彼は死者を自由
に操ることができるのです、恐らく先程の鳥人の骸は彼に操られていたのでし
ょう」

「なんてことを、死者を侮辱するなんて」

フィミルが悲痛な表情で呟く、それにシオンも苦い顔で頷く。

「屍使いはコレクションを…こう言う言い方は宜しくないですけど、気に入っ
た身体を集めている様です。私が彼に狙われているのは何者かに依頼されたか
らの様なのですけど、どうやら彼に気に入られた様です……そして…申し上げ
にくいのですけど…彼はあなた方も狙ってくるかもしれません、いえ、もう狙
っているかも…」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ 同時刻―三匹の蛙亭跡 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「まったくなんだよ、あのオヤジ、もう最っ低」

服についた埃や煤をパンパンと払い、悪態をついて立ちあがる屍使いことツク
ヨミ、すぐ近くには見事に跡形も無く消し飛んだ三匹の蛙邸とその店主+店員
数人と常連客がたたづんでいる、いや店主が呆然と立ち尽くしているのを慰め
ている様にも見える。
と、店員の一人がツクヨミに気付いたらしく怒気も露わに近づいてくる。

「お前!ちゃんと責任とってくれるんだろうな!」

面倒くさそうに立ちあがるツクヨミの襟首を掴み怒鳴る。
正面から怒鳴り散らされてやはりツクヨミは面倒くさそうに顔をしかめる。

「うるさいなぁ、君、僕の興味外だから向こう行ってくれない?」

ツクヨミの態度にあからさまに腹が立ったのか店員の男性は握りこぶしを作り
ツクヨミの顔に叩きこもうとした。

「興味外って言っただろ?」

店員は一瞬何が起こったのかよくわからなかったようだが自分の腹を突き抜け
た剣とツクヨミの冷たい笑みを浮かべた顔を見比べ血を吐いて倒れ込む。

「汚いなぁ、服が汚れちゃったじゃないか」

店員から剣を引き抜き、その店員の服で血を拭う。

「きゃあああぁぁぁ!!」

誰かが悲鳴を上げるのと同時にその場にいた全員が絶叫を上げ逃げ出す。一人
たたずむ店長を残して。

「ん~、いいね、その絶望で満ちた瞳、オーラ」

「あんた誰だ?」

店長は無気力にツクヨミを見返す。

「力が、欲しくないかい?君の生き甲斐を奪った奴らを殺すための、力」

ツクヨミの吸いこまれるような冷たい瞳を眺めていた店長の目が徐々に悲しみ
から憎しみに変わっていく。

「そう、それでいいんだ、憎しみや悲しみ、そう、不の感情で満ちた生物は死
ぬと強~い兵士になるんだ」

鈍い音と共に店長の喉に剣が突き刺さる。

「さあ、宴の始まりだ、存分に暴れるといい」

ツクヨミが人差し指を店長の額に当てる、その瞬間、すでに死んだはずの店長
の体が大きく脈動した。
皮を突き破り異常に強靭な筋肉が盛り上がってくる。
本の数秒で店長の死体はまるで巨大な猿のような全身が毛に被われた化物へと
変貌した。
しかし、それにはまったく生気を感じられない。

「GYAAああああ」

雄叫びを上げ怪物はその濁った瞳でツクヨミを見つめる。

「そうだな、とりあえず彼等を見つけてもらおうかな、ああ、戦闘になっても
あまりぐしゃぐしゃにしちゃいけないよ、まあシオンは少々骨が折れようが目
玉が抉れようが内臓が出ようが…やめた、いくら再生能力が高くても美しさが
売りだもんね彼は、まあつまり全員顔は傷つけちゃいけないよ、それじゃいっ
てらっしゃい、ゴリ男君」

「がRURURUUUUU」

唸って怪物ゴリ男はその姿からは想像もつかないほど素早く飛び去った。

「そう…みんな僕の物さ…みんな…」

ツクヨミの脳裏にシオンと新たに彼の標的になったオプナ、クロース、ヴォル
ぺ、フィミルの顔が浮かぶ。
そして彼はうっとりとした表情を浮かべ人差し指を唇に当てる。


2007/02/17 00:46 | Comments(0) | TrackBack() | ○造られし者達
第八話「猛獣」/オプナ・クロース(葉月瞬)
PC:ヴォルペ、シオン、オプナ、クロース
NPC:フィミル、ゴリ男、ブレッザ・プリマヴェリーレ、屍使いツクヨミ
場所:マキーナのファーストフード店
***********************************

☆あらすじ☆

 夜深き森の中、フィミルは悪魔達の追尾を受けていた。
 執拗に攻撃を仕掛けてくる悪魔達から逃れる術はなく、フィミルは仕方なく
自身の内に眠る天使の力を解放する。しかし、善戦空しくフィミルは力尽きて
倒れてしまう。命を取られそうになったその時、正義感に燃えるヴォルペが現
れる。
 ヴォルペはその内に潜む九尾狐ブレッザ・プリマヴェリーレの力を解放し、
悪魔達を撃退する。その力を目の当たりにしたフィミルは、自身の護衛をヴォ
ルペに頼む。当然の如く引き受けてしまったヴォルペは、傷ついた少女ととも
に一路マキーナの町へと降って行った。
 同じ頃、マキーナ付近の森で追尾されている人物がいた。
 銀髪の人造人間(ホムンクルス)、シオンである。
 追っ手は錬金術師の組織から送られた、屍使い・ツクヨミだった。
 何とかツクヨミを撃退したシオンだったが、ツクヨミが最後に放った炎の魔
法の直撃を受け、瀕死の重傷を負ってしまう。偶然通りがかった、オプナとク
ロースを庇ったためだ。
 オプナは回復魔法で回復しようとするが、間に合わないと見て取るや、一路
付近の町マキーナへと飛んで行くのであった。

 マキーナの宿屋「三匹の蛙」亭に宿を取るオプナ、クロース、シオン。
 そこに、ヴォルペ、フィミルまでがやって来た。
 二人が食事をしようと席に着くと、そこへツクヨミとクロースとオプナを追
って来た魔術師バーキンが襲撃してきた。
 二人の鉢合わせの魔法で壊滅した「三匹の蛙」亭から何とか抜け出た五人
は、朝食を取ろうと立ち寄ったファーストフード店で鉢合わせることになっ
た。

 一方、ツクヨミはコレクションを増やすため「三匹の蛙」亭の主人を魔獣化
してしまうのだった――。

***********************************

 五人が親しくなりつつある最中、突如店の大通りに面している扉が破砕され
た。
 続いて、爆音が轟く。
 その爆音の中に獣特有の唸る様な怒声が聞こえて来たことは、云うまでもな
い。

「何だ!?」

 最初に席を蹴立てて反応したのは、ヴォルペだった。彼の反応速度は、五人
の中において最速なのだ。何しろ九尾狐であるブレッザが体の一部を形成して
いるのだ。常人ではないその体運動は常軌を逸していた。体が反応する前に、
ブレッザの警告がヴォルペの脳内に反響したのは言うまでも無いが。
 次に反応したのは、意外にもフィミルであった。彼女は悪魔との追尾行で感
覚が研ぎ澄まされていた。危機管理能力が極端に高くなっているのだ。当然、
隣に座っていたヴォルペに注意を促されての反応だが。

「獣……いや、人が化身したもの……ですね」

 急激に反応を示した二人に反して、シオンはゆっくりと静かに振り向くと冷
静に分析した。彼の洞察力は、人智を超えていた。人ではない、人造人間(ホム
ンクルス)特有の知性を醸し出していた。
 シオンに対して、同じ人造人間(ホムンクルス)であるクロースの方は無反応
である。感情が乏しい、というよりは感情が欠落している感がある。騒ぎに全
く意を介さず、静かにカウンターに向かってジュースを啜っている。
 オプナは暫く様子を見るつもりでいたが、状況はそう巧く事を運んではくれ
なかった。
 獣人が雄叫びを一声上げると、五人のいるカウンターに向かって突進して来
たのだ。
 完全に獣と化した身ごなしで。
 だが、彼は完全に獣と化していたわけではなかった。
 突進の最中、獣の唸り声の間に僅かに混ざった人としての言語を、オプナは
聞き逃さなかった。

『……よぐも……よぐも、わだじの店をおぉぉぉぉっ!』

 一度目の突進でカウンターは粉砕したが、咄嗟の機転で五人とも飛び退って
いた。
 ヴォルペはフィミルを、シオンはクロースを庇って。そしてオプナは――。


「そういうのを、逆恨みって言うのよ! あの時あの店を壊したのは、私達じ
ゃないでしょっ!!」

 ゴリラのような男――ゴリ男の特攻を間一髪の所で交わすと、オプナは猛然
と叫んでいた。
 猛獣が激突したカウンター付近は、もうもうと埃を舞い立たせている。視界
を遮るかのように。その塵埃(じんあい)から何とか這い出したオプナの額に、
人差し指が突き立てられた。見るとその先端には、魔法の光が浩々と点ってい
る。

「お嬢さん。君はねぇ、逃げちゃいけないんだ。ボクの前から逃げちゃいけな
い。何故なら、これからボクのコレクションになってもらわなきゃいけないか
らねぇ」

 屍使い・ツクヨミが狂気じみた笑みを迸らせると、呪文を唱えだした。

(……儀式魔法!?)

 それが、完成間近の儀式魔法だということを、オプナは瞬時に理解した。そ
してその儀式魔法が、どのような種類のものであるかも。
 オプナは強気に妖艶な笑みを零すと、人差し指から額を逸らし代わりに自分
の左手を押し付けた。彼女の左手には、幾何学的に重ねられた魔法円が描かれ
ていた。

「悪いわね。私の左手は、特別製なの」

 そう言うが早いか、婉然と魔法円に描かれている呪文を解き放つオプナ。僅
かに相手の呪文よりも早い。

「【呪詛返し(カウンターマジック)】!」

  *◆*◆*

 ツクヨミが解き放とうとしていた呪文は、“ネクロマンシー”だった。死霊
や邪霊を呼び寄せ、生気を失った肉体――死体に憑依させ、操る魔法だ。オプ
ナに邪霊を憑依させ、同時に殺す事によって操り人形に仕立て上げようとした
のだ。それが、ツクヨミの常套手段だった。今までは。
 だが、オプナの放った“カウンターマジック”は、相手の放った魔法をそっ
くりそのまま跳ね返す魔法だった。長い詠唱時間を短縮するために、呪文を魔
法円の構成要素の一部に組み込む事によって、咄嗟の機転に用立てたのだ。呪
文を描き込み直す必要があるので、一日に一度しか仕えない手ではあるが、オ
プナにとってそれは必殺の技であった。魔法研究の成果とも言える。
 兎も角、逆にカウンターマジックによってツクヨミの身体に邪霊が憑依して
しまったのだった。これには、流石のツクヨミも読んでおらず面食らった。邪
霊が憑依すると人間の身体はどうなるか。ネクロマンサーでもあるツクヨミは
熟知していた。そしてそれは、オプナも同様だった。
 ツクヨミの身体は極度の拒絶反応を示す。正邪の霊が互いに相殺作用を引き
起こしているのだ。つまり、二匹の蛇の様に互いに喰らい尽くそうと戦ってい
るのだ。その様を見て取るや、ツクヨミが邪霊に完全に喰らわれる前にオプナ
は行動を起こしていた。
 ツクヨミの心臓の辺りには、一本のナイフが突き立っていた。
 それは、呪術用に使うナイフであった。オプナの、ナイフだ。懐から取り出
されたそのナイフの刀身は、赤く塗り込められていた。否、赤く見えるそれ
は、時と共に黒ずんでいく。それは、血液だった。ツクヨミの血液が滴ってい
るのだ。
 未だ、新鮮な肢体に深々と突き刺さったナイフは、ツクヨミの血に染まって
いた。

「コレクションには、貴方自身がおなりなさい」

 オプナは口許を不敵に歪ませると、そのままゆっくりとナイフを引き抜いて
いった。

  *◆*◆*

 邪霊に取り付かれ、止めを刺されて生命活動を手放したツクヨミは、オプナ
の操り人形――否、操り死体と化した。
 それと同時に、ゴリ男の活動も停止した。
 命令を下していた存在が、消失――生ける屍へと変貌したからだ。だから、
命令が反故になったのだ。そして、アンデッドに思考能力などありはしない。
だからこそ、活動を停止したのだ。
 その場の変化に逸早く気付いたヴォルペは、素早く行動に転じていた。


2007/02/17 00:47 | Comments(0) | TrackBack() | ○造られし者達
第九話「狂気」/ヴォル(生物)
PC:ヴォルペ シオン オプナ クロース・
NPC:フィミル、ゴリ男、ブレッザ・プリマヴェリーレ、屍使いツクヨミ
場所:マキーナのファーストフード店

―――――――――――――――――――――――――――――――――

「危ない!」
 ツクヨミに背を向けたままのオプナを突き飛ばし、ヴォルペはツクヨミの顔
めがけて拳を突き上げる。
「おっとっと」
 ヴォルペの拳を軽くバックステップでかわしたツクヨミは不適な笑みを浮か
べていた。その右手には鈍く輝くナイフが握られている。
「なーんだ、バレバレだったのか。つまんない」
 くすくすと笑い。唇の端の血を拭うツクヨミの姿をヴォルペ以外は呆然と眺
めていた。オプナのナイフは確かにツクヨミの心臓を貫いていた。呪詛返しを
受け、生ける屍と化したツクヨミが笑っている。
「そんな、どうして」
「驚いた? 僕だって驚かされたんだからそのお返しだよ。痛かったんだから
ね。ふふ、さあ、これからが本番だよ」
「ギャウゥウウGUルアアアアアアアアアア」
 動きを止めていたゴリ男が叫び声と共に再び暴れ始める。ヴォルペは倒れた
ままのオプナの手を掴んで引っ張り上げる。
「くるよ!」
 ヴォルペの声にゴリ男が反応して飛び掛ってきた。ゴリ男の丸太の様な腕が
ふりかぶられる、この位置からだと避けられない。
「しまった! シオンさん、パス」
「きゃあ」
 ヴォルペはオプナをシオンに向かって投げると腕を交差させてゴリ男の攻撃
を防御する。ハンマー、などという生易しい例えでは到底あらわせない衝撃が
ヴォルペを襲う。
 ヴォルペの体は軽々と吹き飛ばされ、ガラスを突き破ってさらに向かいの建
物の中に突っ込んでいった。
「アルジェントさん!」
 シオンはオプナを抱えて、ヴォルペの名前を叫ぶ。だがもはや絶望的としか
言い様がないかもしれない。
「大丈夫だよ。彼はあの程度じゃ壊れないからさ。ほらほら、ぼけっとしてる
と挽肉になっちゃうよ」
 至極楽しそうにツクヨミはゴリ男をけしかけてくる。人の神経を逆撫でする
その言葉にその場にいた誰もがこのオレンジ頭に嫌悪感を抱かずにはいられな
かった。
「クロースさん私から離れないでくださいよ」
 オプナを降ろし、クロースの前に立ったシオンは鞘に収めたままの剣を構え
呪文を唱え始める。これ以上店を壊すのは忍びないが、手加減をして止められ
るとも思えない。
「風よ、悪しき呪縛に囚われし者に剣の裁きを!」
 太刀に纏わせた風をゴリ男に向かって解き放つ。風の斬撃が周囲の物を弾き
飛ばしながらゴリ男を襲う。
「Gyuアアアッ!」
 ゴリ男は風の刃に真っ向から突っ込んでくる。毛深い皮膚を切り裂き、骨ま
で達するが。ゴリ男は止まらない。
「閃光の糸よ!」
 シオンの後から呪文を唱えたフィミルの手から光の糸がゴリ男を絡め取る。
「くっ、私が動きを止めている間に」
「わかりました」
 構えを取り直し、シオンはツクヨミを睨みつける。シオンのその顔を見て、
ツクヨミは不敵に笑みを浮かべるだけだった。
「へぇ、凄いねぇ。ふふ、手駒が減っちゃった。さて、どうしようかな」
 ツクヨミは笑みを浮かべたまま周囲を見渡して、逃げ遅れたウェイトレスを
見つけると狂気の笑みを更に濃くした。獲物を見つけた悪魔のように。

      ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 どれぐらい意識を失っていたのか。気付いた時には腕の感覚はほとんど無か
った。ゴリ男の一撃で相当なダメージを受けたようだ。
「うっ」
『無茶しないの。直るにはまだしばらくかかるわよ』
 体を起こそうとするヴォルペをブレッザは軽く戒める。いくら骨格が魔力強
化材質に入れ替えられているとはいえ、変身してブレッザの力を引き出してこ
そ本当の力を発揮する。変身してない生身の状態は普通の人間とほとんど変わ
らない。
「でも、このままじゃ」
 ブレッザの忠告も聞かず、ヴォルペは体を起こし立ち上がった。脇腹に激痛
が走る。どうやら肋骨が折れたかヒビが入ったのだろう。後二時間もすれば直
るだろうが、そんな悠長に待っている場合ではない。
「ブレッザ、行くよ」
『無茶よ! その体で変身するなんて』
「それでも、助けなきゃ。くっ、このまま……、放ってはおけない。だってあ
いつは」
 ヴォルペは目を閉じ、変身のために集中を始める。普段ならすぐにでも可能
だが、怪我の痛みとブレッザの協力が得られないままだと上手くいかない。
「ブレッザ、頼むよ……」
 はにかむような笑顔を浮べるヴォルペの頭の中に、ブレッザのため息が聞こ
えた。呆れたような同意ではあったが、ヴォルペには非常に心強い。
「いくよ……」
 ブレッザの協力を得て、確実に体の中に力が満ちていく。腕と脇腹の傷が癒
え、腰にベルトが、右腕に九つの角を持つガントレットが現れる。
「変身!!」
 ガントレットとベルトから溢れた銀色の光がヴォルペの体を包み込む。光の
中でヴォルペの体が変質していく。銀色の体毛に覆われ、骨格が変化する。体
毛がスーツに変わり、流線型の鎧と仮面が装着される。
「うぉおおおおおおおおおお!」
 未だに残る痛みと満ちてくる力を吐き出すようにヴォルペは吠えた。

      ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 なんのだろうか、ほんの数分前まではいつもと変わらない朝だったはずだ。
少し変わった団体客がいただけで、いつもと同じはずだった。
 それなのに、なぜ目の前には光の糸に捕らわれた怪物がいるのだろう? な
ぜオレンジ髪の青年はこちらを見て笑っているのだろう……。あの顔を見てい
ると体中から血の気が引いて行く。
「逃げて!」
 オプナが叫ぶが、ウェイトレはまったく動かない。
「ふふふ、逃がさないよ。ほら、キミもコレクションに加えてあげるから」
 ツクヨミはウェイトレスに手を差し出す。それは死への誘いだ。
「うぉおおおおおおおおおおお!!!!!!」
 叫び声が響いた、力強く、雄々しい声が。その数瞬後、ツクヨミが飛んだ。
正確に言えば仮面の男、ヴォルペに殴り飛ばされたのだ。
「さあ、立って。走るんだ!」
 ヴォルペの声に、ウェイトレスは数回頷くと立って店の外へ走り出した。
「ふ、ふふふ。凄い、凄いじゃないか。おい、いつまでそんなちゃちな魔法に
引っかかってるんだよ」
 ツクヨミは唇の血を拭うと、ゴリ男を一括した。
「グゥルウウウUUUU」
 すでに人の言葉すら忘れてしまったのか、ゴリ男はモンスターのそれと同じ
ような唸り声を上げて光の糸を引き千切る。
「これ以上好きにはさせない!」
 ツクヨミに向かって叫ぶヴォルペ。変身してしまったからには組織の連中に
かぎつけられるのも時間の問題だ。
『わかってると思うけど、時間ないわよ』
「わかってるさ!」
 ヴォルペは拳を軽く払い、ゴリ男との間合いを詰める。
「ハッ!」
 ゴリ男の大振りな攻撃をかわし、素早く拳を打ち込む。怯んだところをすか
さず振り下ろされた腕を掴んで投げ飛ばす。
「こいつらはボクに任せて貴方達は逃げてください」
「貴方は?」
 ヴォルペの言葉に狐に摘まれた表情でシオンは問い返す。仮面をつけた男が
突然現れてこんなことを言い出せば当然だが。
「ボクはあいつを倒すために来ました。心配しないで」
 仮面の下で笑ってみせるが、シオン達にはわからない。見えたところで半獣
の笑顔など気味悪がられるだけだろうが。
「ですが」
「ふふ、いいじゃないか。錬金術で改造された者同士しかわからないこともあ
るんだよ」
 ツクヨミは楽しそうに、邪悪な笑みを浮かべる。彼が組織の追手だと今まで
気付かなかったのは心のどこかに油断があったのと、ツクヨミの体に強烈に染
み付いていた死臭のせいだ。
「ガァAAAAAAA!!!!」
『一気に決めなさい』
 起き上がったゴリ男を確認して頭の中でブレッザの檄が飛ぶ。
「ハァアア」
 右腕のガントレットに力を集中させる。力が集まるにつれ九つの角の一つが
強く銀色に光り始める。
「ギャグRUUUUUアアアアア」
 追い詰められた獣のように、ゴリ男が吠え猛りながら突っ込んでくる。
「タァアアア!」
 力を貯めた拳を突き出すようにゴリ男に放つ。ゴリ男の腹に拳が当たると、
角に蓄えられた力が一気に開放され、鋭い光の槍となってゴリ男を貫いた。
「ガッ!? ……ウウ、アァア」
 ゴリ男はがっくりと膝を折って力無く唸り。そのまま灰になって消えてしま
った。
「はははは、ホントに凄いねキミは。とても未調整とは思えないよ。やっぱり
君達は僕のコレクションにふさわしいよ」
 愉しくてしょうがないという感じでツクヨミは笑った。
「黙れ、ボク達は誰の物でもない!」
 ヴォルペは再びガントレットに力を集める。組織に捕まるつもりはない。無
論ツクヨミのコレクションなどに加わる気は毛ほども無い。ここで倒してしま
うだけだ。
「僕を倒すつもり? ははは、無理無理。僕はちゃんと調整も受けたし、なに
より君よりもずっと強いからね」
 ツクヨミの言葉を無視して、ヴォルペは拳を構える。力は十二分、ヴォルペ
は全力で床を蹴った。一気にツクヨミとの距離が縮まり、射程内に入る。
「無駄だって」
 打ち出されたヴォルペの拳を軽くかわしてツクヨミはヴォルペの脇腹に膝蹴
りを入れる。
「ッ!」
 バックステップでツクヨミから距離を取る。膝蹴りを受けた脇腹はゴリ男よ
りも重い一撃だった。
「だーからいったのにさ。じゃあ、コレクションに加わってもらうよ……く
っ!」
 呪文を唱え始めたツクヨミが急に頭を押さえ苦しみ始める。
「う、くう、はあはあ……。運がよかったね。今日はこれまでだ。じゃあね、
君達は必ずコレクションに加わってもらうよ」
 狂気の色を湛えた瞳でヴォルペ達を見渡して、ツクヨミは消えた。
「待て! うっ」
 それなりの怪我を休息に治し、さらに必殺技を使ってヴォルペの体も限界だ
った、これ変身状態でいるのは命に関わる。
『解くわよ……』
 ブレッザが静かに言ったが、気を失ったヴォルペからの返事は無かった。

      ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「どういうつもりだ?」
 薄暗い部屋の中で重苦しい言葉が響いた。幾つかの蝋燭の炎が部屋の中にど
うにか光を侵入させようと揺らめいているが、その声で闇はさらに重くなる。
「どうもこうも。僕はアンタ達に協力はするけどさ、僕の趣味にアンタが口出
ししてほしくないな」
 ツクヨミはいつもと変わらない口調で声の主に言い返した。常人ならば押し
潰されそうな闇の中でツクヨミの瞳だけが輝きを失わず一箇所を睨みつけてい
た。
「アレは特別だ。お前の自由にしていい物ではない」
「はっ、特別ね。だったら首に鎖でもつけとけばよかったんだよ。う、があぁ
ああああああ!」
 肩をすくめて軽口を叩いたツクヨミを激しい頭痛が襲った。闇が支配した部
屋の中でツクヨミの悲鳴が響く。
「お前が望んだ力を与えたのは誰だ? 確かに自由意志は与えた。だが、それ
を勘違いしてもらっては困る」
 声が言い終わるとツクヨミの頭から痛みが消えた。まだ痛みの余韻が残る頭
を抱えてツクヨミは立ち上がって闇を睨みつける。
「今回はこれで許してやる。次に勝手な行動をすれば……、わかっているな」
「はぁ……はぁ……。わかったよ」
 それだけ言ってツクヨミは踵を返し、重苦しい真っ黒な扉を押し開けて外に
出た。部屋の中と違い通路には等間隔に松明が置かれ、オレンジ色の光が石造
りの通路を照らし出していた。淀んだ空気は変わらないが部屋の中よりは幾分
マシな雰囲気にツクヨミは封じ込めていた怒りを露にし始めた。
 憤りをくすぶらせるツクヨミに不運にも声をかける男がいた。白一色で統一
された服装を見ると研究員だろうか。
「ひひひ、とんだ災難だったね。でもま、じごうじときゅ」
 男の顔半分が吹き飛ぶ。ツクヨミのかざした手には異形の剣が握られてい
た。
「黙れよ。僕は虫の居所が悪いんだ。このまま消されたくなかったら消えろ」
「ひゃひゃひゃ。そうかい。じゃあ、消えるよ。次はしくじるなよォ。俺が消
える前にあんたが消えることになるぜ」
 そういい残し、顔が半分のまま白衣の男は去っていった。
「ちっ、……まあ、いいさ次は上手くやる。ふふふ、どうせ彼等はあの街から
当分動かないだろうしね。は、はははははは、はーはっはっはっはっは」


2007/02/17 00:47 | Comments(0) | TrackBack() | ○造られし者達
第十話「空家」 /シオン(ケン)
PC:ヴォルペ シオン オプナ クロース
NPC:フィミル、ブレッザ・プリマヴェリーレ
場所:マキーナ・謎の空家
―――――――――――――――――――――――――――――――――

倒れたまま動かないヴォルペにシオンがそっと手を触れる。もちろん、脈はある。た
だ心拍数が以上にまで高く、呼吸も荒かった。

「大丈夫なの?」

ヴォルペの身体を診ていたシオンに、クロースを連れて歩いてきたオプナが問う。ク
ロースも心配そうな顔で見ている。

「解りません…」

そう言いつつもシオンは何枚かの薬草を取り出すと、すり潰して塗り薬状にしてい
く。

「あんた、医者なの?」

「一応…ですけどね」

オプナの驚いた口調にシオンは意味深げな笑みを作り、ヴォルペの脇腹に薬を塗って
いく。

「あとは、どこか休める場所に運ばないと」

キョロキョロと辺りを見まわしたシオンは近くにあったいかにも空家と言った古めか
しい館を見つけ、ヴォルペを背負うと玄関まで歩いて行った。後にフィミルが続き、
肩をすくめながらもオプナも続き最後にクロースも後を追った。

「ゴメンください、何方かいらっしゃいませんか?」

返事は…ない。扉に手を掛けるとギィィと音を立てて開いた。鍵はかかっていないよ
うだ、隙間から見た内部は酷くあらされており、埃だらけで蜘蛛の巣まであった。衛
生的には悪環境だが、冷たい外気にさらすよりは随分とましだろう。人が住んでいる
気配はないが誰かの私有地と言う事も考えにくい、シオンは一度頭を垂れると内部へ
と入っていった。
シオンは全員が入ったことを確認すると足元に気をつけリビングまで進んで行く。そ
こに少しボロいがやわらかそうなソファーを発見すると、風を生みだし埃を払う。不
思議な事に、払われた埃は部屋に充満することなく風に誘われる様にして割れた窓ガ
ラスから外へ出ていった。シオンはヴォルペをソファーにそっと寝かせる。

「しかし、ボロいわね、いったい誰が住んでいたのかしらね」
「…いえ、過去形にするにはまだ早いかもしれませんよ」
「え、それって、どういう…」

きょとんとして問いかけるオプナに、シオンは笑顔で人差し指を立ててる。

「今、このあたりの空気を検索してみましたが、地下に微かですけど人の気配がしま
した」
「じゃあ、やっぱり人が住んでいるってこと?」
「さあ、でももしそうなら勝手に上がってしまった事をお詫びしないといけません
ね。あと、できれば一晩泊めてもらえないでしょうかね」

そう言って苦笑すると、シオンは地下へと続く階段へ向って歩き出した。

「待って、私も行くわ」

オプナが呼びとめ、シオンの後を追う。シオンは彼女に一度だけ笑みを向けると先に
階段を降りて行った。

「クロースは待ってなさい」

そう言い残すとオプナも後を追って階段に消えていった。


2007/02/17 00:48 | Comments(0) | TrackBack() | ○造られし者達

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