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2024/04/30 02:59 |
羽衣の剣 1/ヒュー(ほうき拳)
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PC:デコ、ヒュー
NPC:イーネス
場所:コタナ村
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 辺りは雪とそれを被った木々が並んでいる。葉が落ち、茶色い地肌を晒している姿だけが、森であったことの証明だろう。雪はなかなか深いようで、通るものがいない道はすっかり白くなっていた。
 その中に異物がぽつぽつとあった。
 赤い色がぽとぽとと落とし物のように雪を色づけ、その先には毛皮の塊が転がっている。
 毛皮の塊は荒い息をはき出した。森に入った時、気をつけなければならないことはいくつかある。まず、野生動物に会うこと。もう一つは山賊に会うこと。そして、猟師に撃たれることだ。
 毛皮の中身、ヒュー・ウォアルは腹に突き刺さった矢を見ながらそう思った。他に左腕に一本、右足に一本刺さっているが見ることはできない。毒でも塗ってあったのだろう。全身に痺れを感じる。

「やっとしとめた! この人食い熊め!」

 若い女の声がする。怒りの声を上げながらこちらに向かってくる。女の猟師なんて珍しい。青灰色の瞳で虚ろに眺めながめた。警戒は解いていないようで、動けばもっと撃ちこまれそうだ。あと十歩程度の距離に近づいた女が驚きの声をあげる。傷に響いたような気がする。しかし熊か、ひさびさに食べたいな。場違いな方向に意識は進んでから、消えた。


▽ △ ▽ △ ▽ △ ▽ △ ▽


 矢ガモは聞いたことがある。だが、矢人間というも珍しい。アローマンっていうとちょっと格好いいな。文法合ってるかは知らんけど。そんなどうでもいいことを考えながら、居合わせた司祭は治療を終えた。呪文を使うほどでもない、比較的軽い傷だ。若いしほっとけば治るだろう。毒もそう危険なものではない。
 不安げな様子で見ている少女の方が気になる。勝ち気な娘だったが涙目でしおらしくしてるのは違和感を覚える。彼女の本質は泣き顔ではないだろうに。

「デコ司祭……」

 妙に細い声が辺りがもれた。石造りの壁に反響し、不安を煽る。ここも雪に負けないような家ではあるのだが、何分冷たい。日が落ちかけているためだけではないだろう。人の営みがこの家ではなされていないためだ。後が合っても最低限のもので、一月もすれば廃屋のようになってしまうだろう。

「安心しな、イーネス、死んだりはしない」

 チヌタナから少し南に位置する小村コタナに寄った途端コレだ。いくらなんでも唐突すぎる。

「ん、少し寒いな、ちょっと薪を足してきてくれ」

 分かった、とも言わず少女、イーネス・ビヨルンはばたばたと薪を足す。ここは彼女の家のはずなのだが、なんだか家主になったような気分だ。

 薪が熱を帯び燃えていく姿を確認するとイーネスはデコをじっと見た。

「今夜の分も必要だから、少し割ってきてくれ。頼むよ」

 イーネスは頷くと外へだっと出た。きっとなにかしている方が落ち着くだろう。デコは長く、息を吐き出した。

「さてさて、こいつはどこの誰なんだろうねぇ」

 無精髭をいじりながらベッドに寝ている彼を見る。風貌はこの辺りの人間に近いが、潮風の匂いはしない。どちらかと言えば山の人間なのだろう。治療のため外したものを見れば傭兵か冒険者か。野盗という選択肢もあるが、徒党も組まずこんな所に来る野盗はそうそういない。
 そうしているうちに、机の方から妙な圧迫感を感じた。患者が持っていた剣に妙に意識が引っ張れている。ちょうど神託を聞いた時のようだが、暖かみを感じない。硬質な意識が剣にはあるようだった。

 鞘に収まっている剣を眺めていると、いつのまにか患者は目を開いてこちらを見ていた。灰色がかかった短髪を少し掻いた後、ゆるやかに体を起こす。目は少しぼうっと焦点があっていないようだ。

「おはよう、災難だったな」
「ええ」

 ふらふらとした意識を立て直すように彼は口を結ぶ。冷たい印象を受ける顔で、氷像を思わせるものだ。無暗にしゃべられない人間らしく、それきり口をつぐんだ。

「まあ、この時期に来たのを災難だと思ってくれ。流氷のせいで船が出せないわ、冬眠できない熊が出て人が襲われるわで。気が立ってる。ま、冬の旅っていうのはやらない方がいい。下手すりゃ助からなかったんだ。傷はともかくあのままじゃ凍死だったね。村の連中だって山ん中歩きたくはないしな。んで俺が君のことをひっぱてきたわけだ」

 しゃべらない患者の穴埋めをするかのように、口を巡らせる。無精髭が動くのが妙に患者の目に焼き付いた。

「助けた、ということは。あなたが、彼女の父親か?」

 デコは思わず椅子から転げ落ちそうになる。まあ、そういう解釈もないこともないだろう。

「いやいや違う違う。デコ、デコ-バルディッシュつー隣の村の男だ。一応、タナクアの司祭をやっている。しかしまあ、旅だった早々コレだ。まったく先が思いやられる。陸に上がったマグロの加護なんざ、役に立たない。ったく、タナクアって奴は……」

 少々リアクションに戸惑ったように、患者はほんの少し首を傾けた。

「タナクア? 知らないな。小神か? それともイムヌスの天使どもか?」
「んっ、ちっこい方だ」

 どうでもよさげな返し言葉にさらに戸惑った様子である。

「バルデッシュ司祭。オレも神官だが、その答え方は良くない。祟る」
「意味が変わる訳じゃないさ。そして、事実だって変わらない。で、君の名前は」

 肩をすくめて対応する司祭に、むっとしながらも患者は口を開いた。

「ヒュー、ヒュー・ウォアル。剣の神に仕えている」

 小さな窓に強い風が打ちつけられた。地吹雪がゴウゴウと吹き、窓を覆う。

「こりゃ、酷いな」

 いくつか薪を持ってイーネスが入って来るときにはとうとう上からも雪が降り始めたようだ。

「あ、あんた、起きたのか」
「ああ」

 寒さで顔を真っ赤にしながら、イーネスは薪を暖炉近くに並べる。
 本当なら固めた藁や糞などが欲しいところだが、なかなか買うとなると高く付く。鯨が捕れなかった年はどうも寒くてたまらない。そんな日常のことで気を紛らわせながら、イーネスは小さな声で謝罪した。

「ごめん。悪かったよ、アタシが焦ったばっかりにさ」
「いいや。こっちが油断してたせいだ。あのまま、君の獲物に会っていたら死んでいたかもしれないし」

 ヒューは少し気恥ずかしそうに答えた。攻められると思っていたイーネスは気が抜けたようだ。人を殺しかけたのだ。狩りの動物でもない、人間を。その圧力がすっぽ抜けたためか、床によろよろとへたり込んだ。

 デコがそちらに寄って行く。ヒューはなにも言えず、ベッドから退こうかどうかと思考を回した。
 その時、ゴウッという音と共に、木で出来た窓がビキビキと揺れた。冬が襲って来た。ヒューはそう呟くと、雪避けの呪い文字小さく手のひらに書いた。


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2010/02/04 00:32 | Comments(0) | TrackBack() | ○羽衣の剣
羽衣の剣 2/デコ(さるぞう)

PC:  デコ、ヒュー
NPC: イーネス
場所:  コタナ村

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「良かったな、少し休め。」
デコは、座り込んだ娘の肩に毛布と言うには少しくたびれた布を掛け、ポンポンと叩く。


イーネスの持ってきた薪を暖炉にくべ直すと、デコの鋭い瞳に炎が揺らぐ。
そしてヒューに視線を送り
「坊主ももうちょっと横になっておくんだな、少しでも体力を回復させたほうがいい。」

と横になる事を促した。



幾度と無く叩き付けるような風が窓と言わず建物全体を揺らす。
薪のパチパチ爆ぜる音だけが空間を支配し始め、無音と違う静寂が辺りを占める。

そして、その静寂に全員が身を委ねていた時、異変は起こった・・・

「グゥ~」

デコとイーネスの視線が音の方に向く

「そういえば、食って無い、二日ほど」
と、自分の腹に視線を送ると、無表情のまま呟いた。

イーネスもホッとして落ち着いたのだろう、フッと笑みを浮かべ立ち上がると
「パンとスープくらいしか残って無いけどね」
とキッチンの方へ歩を向けた。


ドアを開けキッチンに向おうとする彼女に向い
「すまない、恩に着る」
とヒューは軽く頭を下げ短く感謝の祈りらしき言葉を呟いた。


デコはそんなやり取りを目をやると軽く唇の端を上げる。
そして、娘が部屋を出たのを見計らって自分の外套に目を送りどっこいせと立ち上がった。

「これ以上外が荒れる前に宿に戻る、一晩このまま休めば毒も完全に抜けるだろうさ。」

そう言いながらヒューの体を見渡すと
手にした外套を羽織ながら外に出る支度を始める。

「俺が言うのもなんだが、こんな時、外出るの危ない。」
デコの視線に自分の視線を重ねると真面目な声で注意をする。


「なぁに、慣れたもんさ」と髭を撫で余裕のある視線で出口に向おうとした時に
ドカンという破壊音と共にイーネスの悲鳴が耳に入る!

咄嗟に体中を駆け巡る緊張と共に足が勝手にキッチンのある方へと向う。
同じくヒューも立て掛けてある剣に手を伸ばしデコの後へと続くように跳ね起きる。

感じ取った危険に対する男としての本能か、はたまた神に仕える使命感なのか。


ドアを跳ね開けると勝手口が壊され巨大な影が壊された扉の向こうに浮かぶ。

幸いイーネスは飛び退いて難を逃れたが足を捻ったのかその場から立ち上がる事が出来ずに
それでも、ずるずると部屋の奥へと退く。

「大丈夫か?」
イーネスを庇う様に彼女の前に立ちはだかるヒューと
さらにその前に立ち塞がり巨大な影の正体を見極めようとする司祭。

鋭い双眸を目の前の影に向けると後ろから
「熊だな、かなりでかい。」
とヒューの声が聞こえ
同時に熊の怒号が周辺に己が熊である事を告げる。


熊の怒号に冷や汗を浮かべながらも視線は動かさない。
「ちっ、わかってるよ、群れを率いるために先頭を泳ぐんだろ?」
ボソリと呟き左手に聖印、右手に鮪皮をなめした砂袋(スタナー)を持つと
「小僧、イーネスを頼むぞ!」
と振り向かずに叫ぶと転がるようにに家の外へと飛び出した。


1フィート近い体躯の巨大な姿がデコを見下ろす・・・
自分の倍近くの巨体は圧倒的な威圧感を生み出しデコの心臓を握りつぶそうとする。

だが、デコは知っている。

どんな相手であろうと前を泳いだ以上引けない、引いてはいけないと言う事を・・・




そして、まさに今、巨大熊の一撃がデコに振り下ろされようとしていた。




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2010/02/05 00:38 | Comments(0) | TrackBack() | ○羽衣の剣
羽衣の剣 3/ヒュー(ほうき拳)
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PC:デコ、ヒュー
NPC:イーネス
場所:コタナ村
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 ヒューは毒を抜くために、静かに神から借りた力を行使する。一般的な司祭や神官とまた違った体系の奇跡で、事前に借りておく必要があるが、祈りの言葉はほとんどいらない。ただし、彼の神の場合剣を媒介にする必要があった。
 剣で軽く腕を切り、少しだけ血を流した。冷たい感触と痛みが走った後に体がすっと痺れが消え体が軽くなる。音も何もない小さな奇跡の力だ。血から毒素を抜くという単純で効果的なこの奇跡はヒューは少し気に入っている。

「なに、やってるんだ!」

 イーネスが戸惑ったようにヒューを見た。彼女は剣士がおかしくなったとしか思えない。けれどヒューは首を振った。

「落ち着け」
「アンタがしろ!」

 落ち着いてるのに、とばかり首を傾げるヒュー。

「まあいい。行ってくる」
「え、ちょっちょっと!」

 さっと初雪を踏むような音を上げて、剣士は熊へと向かった。
 外へでれば、丁度熊の腕神官へ振り下ろそうとした所だった。砂袋では受けきれないだろう。ヒューは雪を軽く踏み、その間へ跳ぶ。空中で爪を受け、きりきりと吹き飛び雪の上を転がった。薪割りの台に叩きつけられて止まる。背中が痛むが背骨は平気のようだ。まだやれる。剣を熊目掛けて構え直す。

 二人の男に囲まれて、熊は戸惑っているようだった。

 その熊目掛けて、ヒューは走り込んだ。いわゆる突きのための動きだ。熊はそれに勝負するかのように四本足で突っ込んでくる。ヒューは頭部を狙うが、熊は体を沈めることによって回避し、剣士の足へと爪を振るう。ヒューは咄嗟に剣から右手を離して跳び上がり足を折る。そして熊の背中を腕で叩き、台がわりにして跳び越える。

 けれど着地はうまく行かず、受け身はとれなかった。雪のおかげで怪我はないが地面か舗装路でこれはやりたくないな。剣士はぼやいた。口に入った雪をはき出し、熊へ再び向かう。

 そしてじりじりとにらみ会う。だれも声を出さない。獣は剣士の瞳を見ていた。剣士もまた目を反らさない。

 雪がまた降り始めた。それが体を叩くと外套を着なかったのが悔やまれた。国がどこの出身だろうと、雪が体温を奪うのは当たり前だ。今頃になって背中が強く痛み始めた。あざにでもなったのだろう。

 しばらく、風と雪の音だけがした。

 遠くから見れば、熊との間にデコが審判のように立っているような構図だった。ちょっとした決闘のようにも見えるだろう。旅先で知り合った画家ならどういう風に描くだろうか。ヒューはそんな連想でなんとか気を紛らわしていた。
 がちがちと歯がなりそうだ。熊は中々の大きさだが怖いとは思っていない。どちらかと言えば寒さのためだった。南方の気質に慣れすぎたのだろうか。

「死ねや!」

 物騒な女の声と同時に、家から矢が飛び出した。けれど雪風に遊ばれて外れてしまう。
 熊がじっと少女の方へ目を向けた。イーネスは喉をひぃっと鳴らして一歩後ずさる。野生動物に襲ってくださいと言わんばかりの表情だった。

「ちっ!」

 少女の方へ熊が来ないようにデコが牽制の砂袋を振るう。しかし、熊はパンっという音ともに袋をはじき飛ばす。狙い澄ましたような一撃で思わず感嘆の息をヒューは上げた。並の戦士より器用だ。

「ディザームっておい」

 武器落としに手を結んで開いてしながら驚くデコ。それを無視して熊は跳躍した。弱い者から潰していくためか、それとも弓がよほど気に触ったのか。吠えながら飛びかかる。

 ヒューはその横から叩き伏せるような斬撃を放った。跳躍の威力と斬撃の一撃がぶつかりあい、互いの体を伝わった。ヒューは押し負けて雪にまた転び、すぐにその勢いで立ち上がる。
 熊の方は一撃をまともに受けて失速し、跳躍は失敗に終わっていた。赤い血が流れだし、喉の奥を荒げている。余計凶暴さを増したようだ。

「しまった」

 手負いの獣にしてしまった。中途半端に傷ついた獣に暴れられると手が付けれない。ただでさえ大熊なのにこれではどうしようもない。

 砂袋をデコがそっと拾う。警戒しながら、家の方へ指を向けた。ヒューは静かに頷いた。
 怒り狂った熊がまた爪を振り降ろす。ヒューはすっと受け流す。しかし、また一撃、また一撃と爪が振るわれる。そして時折混じる牙がヒューに攻撃のリズムを取らせない。人間と戦い慣れているような熊だ。

 その間デコはゆっくりと少女を家の中へ引っ張り、キッチンの暖炉へと走った。火のついた炭を収めている壺ごと取り出す。火傷しそうな熱さだが、手袋が何秒かは押さえてくれる。

「小僧、退け!」

 剣士は答える前に、祈りの言葉を遂げた。剣にはいくつもの小さな魔力の粒がぽつぽつと湧き上がる。そして牙の攻撃が来た時にタイミングを合わせて、剣を地面へと叩きつける。ばっと魔力の粒が爆ぜて、雪を大量にまき散らした。

 熊が一瞬ひるんでいるうちに、ヒューはすっと退いた。それと同時にデコが火の壺を投げつけた。陶器が割れる歯切れのいい音と共に熊の頭部に炎が降り注いだ。 

 咆哮が木々を揺らし、人間達を震え上がらせる。熊は体毛に写った火を消そうともがきながら、やっと人里から離れていった。

 イーネスが安心したように息を吐いた。慣れたのか腰砕けには成らずには済んでいた。
 けれども、ヒューとデコの表情は険しく冷たいものだった。

「あれはまた来る、な」
「ああ」

 寒風と雪の中に二人の言葉は消えていった。

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2010/02/06 03:35 | Comments(0) | TrackBack() | ○羽衣の剣
羽衣の剣4/デコ(さるぞう)
PC:  デコ、ヒュー
NPC: イーネス
場所:  コタナ村

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「イーネス、あの熊は危険、手、出さないで」
熊の危機が一時とは言え過ぎ去った暖炉の前で
ヒューは少し興奮気味な彼女に向って諭すような口調。
彼の分かり辛い表情と対照的なのはイーネス。

「あんたに何が分かるってのさ、あいつは・・・あの獣はっ!」
思い出したくなかった物を、無理やり思い出させられたような苦渋に満ちた表情。
チラリとヒューに視線を流したあと顔を下に向けぎゅっと奥歯を噛み締める。


バチッっと生木の爆ぜる音が部屋を一瞬支配する中
デコは片目を瞑り、髭を弄る  
その視線はイーネスとヒューをゆっくり辿った。

そして
「ちょっといいか?」
と二人の若者の視線を自らに向けさせゆっくりとした口調で言葉を紡ぎ出した。


「とりあえず、だ、イーネス、お前の事情も少しは聞いている、逸る気持ちは分かるが・・・
お前の手に負える相手じゃない。」
再び薪が爆ぜる。
イーネスは憮然とした表情で反論しようとして留まる。
大人の男の視線に少女と呼ばれる年齢の娘が太刀打ちできるはずも無く押し黙る



「小僧」
そう言って今度は視線をヒューに移す。
小僧と呼ばれた事が少し癇に障ったのか、ピクリと片眉が動くが言葉は無い。

「”あいつ”はもう一度来る、陽が落ち切ってから暗闇に乗じて・・・」
視線を暗闇が支配し始めた吹雪く窓の外に向けた。



ガタガタと鳴り止まぬ窓枠と隙間風に揺らぐランプの明かりが不安と緊張を高める


「でもどうする?あれだけでかいと厄介、バルディッシュ司祭の”武器”ダメージ通らない。」
ヒューは自分の装備を確認しながら身に付け始める。

「”デコ”で良い”司祭”もいらない・・・・・・俺達聖職者は”神を信じる人々”の為に在るんだ、神その人の為じゃ無い」
ヒューの質問に答えずただ、それを告げる。
デコにとって司祭などと言う肩書きは邪魔なだけだと言う事をヒューは知る由も無いのだが。

「では、デコ、あなたの武器、貧弱すぎる、熊倒せない。」
名前だけを言い換え、真っ直ぐ視線をぶつけてくる辺りは少年の域を超えようと足掻く姿なのだろう。

「ならお前が倒せば良い・・・いや、倒すのだろう、お前の神に掛けて・・・」
ヒューの剣から漂う”神氣”を感じ取りながら皮鎧を纏う姿を見遣り、告げる。

「あなたは戦わないのか?さっきは飛び出した、戦う意志があるなら戦うべき。」
剣に身を捧げた神官からすれば、戦うのが普通なのだ。
そしてそのまま外への警戒を始める。彼にして見ればそれは普段からの習性なのだろう。




「んん、戦わないとは言わない、”闘争”は司ってはいないがね、生き延びるために”泳ぎ続ける”位は
俺の神様も止めやしないだろうさ。
とりあえず、奴がこの近くに来たら起きる」
言った直後、左手に持った聖印を使い印を切り呪を掛ける。
そして呪と共に周囲に神氣が広がる・・・

「今のは?」
神氣に反応してヒューが問いかけた。

「なに、うちの神様みたいなのは策敵範囲が広くてね、”外敵”って奴への反応はピカイチなのさ
なんせ、”俺達”は臆病なんだ。
何はともあれ、外敵が近くに来ればわかる・・・」
目を閉じその場に座り込むと禅を組みそのまま沈黙する。
外の気配を漏らすまいとしているのが傍目にも伝わるのは司祭としての修練の賜物か。




何時の間にか陽はすっかり沈み吹雪は収まる気配すらない・・・
ヒューは沈黙したデコに合わせるかのように自らも沈黙を選ぶ。
そして剣に語る様な素振りを見せ、そして帯剣をした。


ガチャリと扉の開く音と香ばしい香り
イーネスは暖炉前のテーブル座るヒューに焼いたパンとスープを置く。
「暖かいうちに食べて」
「ありがとう」
感謝の態度を表すとヒューは食事を受け取った。



逃げ去る時に見せた巨大熊の表情を思い出しデコは言われぬ不安に襲われながらも
瞑想に集中する。



心なしか追い詰められたようなイーネスの表情は瞑想する司祭には窺う事は出来なかった・・・
  



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2010/02/08 03:01 | Comments(0) | TrackBack() | ○羽衣の剣
羽衣の剣 5/ヒュー(ほうき拳)
PC:  デコ、ヒュー
NPC: イーネス
場所:  コタナ村

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「神そのものと同一であれ、神の具現者であれ」
 パンを食べながらそんなことをヒューはその言葉を思い出した。

 神に仕えるものというものは、民族の中で神の代行をするものだ。ヒューの父は幼い頃、そう語っていた。彼は神官ではなかったが、役割というものについて厳しい人だった。そのことを思い出す。異教には異教の役割があるのだろう。逃げることも役割であるのだ。おかしいことではない。

 とはいえ、不真面目過ぎるような司祭に加護が与えられるのは少しだけ面白くなかった。

 瞑想している神官をじっと見る。乱してはいけない、特有の雰囲気をだしてはいた。
 ヒュー自身には言うこと、人のため、ということは余り考えつかない。部族に残っている神官達は十分、人のために働いているだろう。それが神の体現だから。だが、自分のようなものは毒にも薬にもならない。そもそも道を説く剣などないのだ。

 そう思いながら少年はパンとスープを交互に食べる。律儀にその順番は変えなかった。

「ねぇ、あんたさ、家族っている?」

 意外とのんきに食べているヒューに暗い表情でイーネスは問い掛けた。思い詰めたような顔のままでじっと互いの顔を合わせた。そしてゆるやかに剣士は静かに頷いた。

 少女はそれを見て、しばらくしてから口を開く。唇の色素は薄く、血が少ないようだった。


「あいつが、みんな殺した。二年も前の話だった。良い家族ってわけでもなかったけどさ。仲も悪かったけど嫌いじゃなかった、うん。」


 パチパチと薪の爆ぜる音が鳴る。火の粉が暖炉からほんの少し吹き出した。ヒューはただ目を逸らさずいちいち頷く。


「親父はさ、山へ入るのは許してもくれないし、母ちゃんはさ、いいとこの嫁へいけとしかいわないし、弟達は姉ちゃんうぜーって態度だし、妹はあたしより女らしいこと全部できるから、すごいくやしかった。でもそんなんでもいたんだよ、家族がさ」


 外は雪が打ち付けられて、静かな物音を上げる。彼らは自分達で作り出した音を吸い込んでしまう。降っているのか降っていないのか、分からない。

「あの熊はさ、小さい頃にさ、あたしが助けちゃったの。大怪我してたのをね。それで半端に人里や街道に現れるようになって……」

 冷たい顔の両目を瞬かせる。そうしてからヒューは口を開け、すぐ閉じた。


「だからさ、あたしがケリを付けなきゃならないんだ、お願い。デコ司祭はあんなんだし、あたしだけじゃ無理だ」


 ぱさんという針葉樹から雪が落ちる音が遠くで、聞こえた。
 ヒューは静かに首を振った。

「そ、そうだよね。そうだよね」

 少女は頭を掻きながら、立ち上がる。そして力任せに暖炉へ薪をぶち込んだ。

「なにいってんだ、あたしは……」
「斬ることは、俺の役目。貴方は、この家を守るだけでいい」

 ぎゅっと剣の柄を握り、少年はほほえんだ。


 スープを空になっていてパンは食べきっていた。チーズがひとかけ欲しかったが、もらい物に文句をつける気はないし、故郷よりは随分いいものだ。

「うまかった。なにこの魚」

 そもそも海産物を食べないヒューには、珍しい者らしい。表情を変えてはいないが、目が生き生きとしているのは、気に入った証拠だろうか。

「雑魚のスープだよ、そんな、たいしたものじゃない」

 ふっと笑いながら、イーネスは少年を見た。ヒューは少しだけ首をかしげた。


「おい、来たみたいだぞ」

 つんっとした潮の匂いがしたような気がした。静かな水音が辺りに伝わる。釣り糸がゆれる程度の不安の波があたりを支配した。
 デコが立ち上がり、村の端の方を刺す。

 ヒューは出しっぱなしだった松明に暖炉から火を付ける。
 デコはさっとそれを奪うと、目で剣を刺した。ヒューはすぐに抜刀し、外へ駆けた。不安そうなイーネスの視線は黙殺した。こういう時、剣士にはどうすればいいかわからない。

「あと、三回か」

 小さな奇跡の回数を剣を握りしめ一人呟いた。あとは手札は実力、そして後ろへ付いてくる神官だけだ。

 雪は冷たく打ち付け、剣士と司祭を家へ押し戻そうとする。
 けれど、二人は引くわけにも行かず、ずんずんと新雪を踏みつぶしていった。




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2010/02/08 03:03 | Comments(0) | TrackBack() | ○羽衣の剣

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