PC: デコ、ヒュー
NPC: イーネス
場所: コタナ村
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「神そのものと同一であれ、神の具現者であれ」
パンを食べながらそんなことをヒューはその言葉を思い出した。
神に仕えるものというものは、民族の中で神の代行をするものだ。ヒューの父は幼い頃、そう語っていた。彼は神官ではなかったが、役割というものについて厳しい人だった。そのことを思い出す。異教には異教の役割があるのだろう。逃げることも役割であるのだ。おかしいことではない。
とはいえ、不真面目過ぎるような司祭に加護が与えられるのは少しだけ面白くなかった。
瞑想している神官をじっと見る。乱してはいけない、特有の雰囲気をだしてはいた。
ヒュー自身には言うこと、人のため、ということは余り考えつかない。部族に残っている神官達は十分、人のために働いているだろう。それが神の体現だから。だが、自分のようなものは毒にも薬にもならない。そもそも道を説く剣などないのだ。
そう思いながら少年はパンとスープを交互に食べる。律儀にその順番は変えなかった。
「ねぇ、あんたさ、家族っている?」
意外とのんきに食べているヒューに暗い表情でイーネスは問い掛けた。思い詰めたような顔のままでじっと互いの顔を合わせた。そしてゆるやかに剣士は静かに頷いた。
少女はそれを見て、しばらくしてから口を開く。唇の色素は薄く、血が少ないようだった。
「あいつが、みんな殺した。二年も前の話だった。良い家族ってわけでもなかったけどさ。仲も悪かったけど嫌いじゃなかった、うん。」
パチパチと薪の爆ぜる音が鳴る。火の粉が暖炉からほんの少し吹き出した。ヒューはただ目を逸らさずいちいち頷く。
「親父はさ、山へ入るのは許してもくれないし、母ちゃんはさ、いいとこの嫁へいけとしかいわないし、弟達は姉ちゃんうぜーって態度だし、妹はあたしより女らしいこと全部できるから、すごいくやしかった。でもそんなんでもいたんだよ、家族がさ」
外は雪が打ち付けられて、静かな物音を上げる。彼らは自分達で作り出した音を吸い込んでしまう。降っているのか降っていないのか、分からない。
「あの熊はさ、小さい頃にさ、あたしが助けちゃったの。大怪我してたのをね。それで半端に人里や街道に現れるようになって……」
冷たい顔の両目を瞬かせる。そうしてからヒューは口を開け、すぐ閉じた。
「だからさ、あたしがケリを付けなきゃならないんだ、お願い。デコ司祭はあんなんだし、あたしだけじゃ無理だ」
ぱさんという針葉樹から雪が落ちる音が遠くで、聞こえた。
ヒューは静かに首を振った。
「そ、そうだよね。そうだよね」
少女は頭を掻きながら、立ち上がる。そして力任せに暖炉へ薪をぶち込んだ。
「なにいってんだ、あたしは……」
「斬ることは、俺の役目。貴方は、この家を守るだけでいい」
ぎゅっと剣の柄を握り、少年はほほえんだ。
スープを空になっていてパンは食べきっていた。チーズがひとかけ欲しかったが、もらい物に文句をつける気はないし、故郷よりは随分いいものだ。
「うまかった。なにこの魚」
そもそも海産物を食べないヒューには、珍しい者らしい。表情を変えてはいないが、目が生き生きとしているのは、気に入った証拠だろうか。
「雑魚のスープだよ、そんな、たいしたものじゃない」
ふっと笑いながら、イーネスは少年を見た。ヒューは少しだけ首をかしげた。
「おい、来たみたいだぞ」
つんっとした潮の匂いがしたような気がした。静かな水音が辺りに伝わる。釣り糸がゆれる程度の不安の波があたりを支配した。
デコが立ち上がり、村の端の方を刺す。
ヒューは出しっぱなしだった松明に暖炉から火を付ける。
デコはさっとそれを奪うと、目で剣を刺した。ヒューはすぐに抜刀し、外へ駆けた。不安そうなイーネスの視線は黙殺した。こういう時、剣士にはどうすればいいかわからない。
「あと、三回か」
小さな奇跡の回数を剣を握りしめ一人呟いた。あとは手札は実力、そして後ろへ付いてくる神官だけだ。
雪は冷たく打ち付け、剣士と司祭を家へ押し戻そうとする。
けれど、二人は引くわけにも行かず、ずんずんと新雪を踏みつぶしていった。
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NPC: イーネス
場所: コタナ村
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「神そのものと同一であれ、神の具現者であれ」
パンを食べながらそんなことをヒューはその言葉を思い出した。
神に仕えるものというものは、民族の中で神の代行をするものだ。ヒューの父は幼い頃、そう語っていた。彼は神官ではなかったが、役割というものについて厳しい人だった。そのことを思い出す。異教には異教の役割があるのだろう。逃げることも役割であるのだ。おかしいことではない。
とはいえ、不真面目過ぎるような司祭に加護が与えられるのは少しだけ面白くなかった。
瞑想している神官をじっと見る。乱してはいけない、特有の雰囲気をだしてはいた。
ヒュー自身には言うこと、人のため、ということは余り考えつかない。部族に残っている神官達は十分、人のために働いているだろう。それが神の体現だから。だが、自分のようなものは毒にも薬にもならない。そもそも道を説く剣などないのだ。
そう思いながら少年はパンとスープを交互に食べる。律儀にその順番は変えなかった。
「ねぇ、あんたさ、家族っている?」
意外とのんきに食べているヒューに暗い表情でイーネスは問い掛けた。思い詰めたような顔のままでじっと互いの顔を合わせた。そしてゆるやかに剣士は静かに頷いた。
少女はそれを見て、しばらくしてから口を開く。唇の色素は薄く、血が少ないようだった。
「あいつが、みんな殺した。二年も前の話だった。良い家族ってわけでもなかったけどさ。仲も悪かったけど嫌いじゃなかった、うん。」
パチパチと薪の爆ぜる音が鳴る。火の粉が暖炉からほんの少し吹き出した。ヒューはただ目を逸らさずいちいち頷く。
「親父はさ、山へ入るのは許してもくれないし、母ちゃんはさ、いいとこの嫁へいけとしかいわないし、弟達は姉ちゃんうぜーって態度だし、妹はあたしより女らしいこと全部できるから、すごいくやしかった。でもそんなんでもいたんだよ、家族がさ」
外は雪が打ち付けられて、静かな物音を上げる。彼らは自分達で作り出した音を吸い込んでしまう。降っているのか降っていないのか、分からない。
「あの熊はさ、小さい頃にさ、あたしが助けちゃったの。大怪我してたのをね。それで半端に人里や街道に現れるようになって……」
冷たい顔の両目を瞬かせる。そうしてからヒューは口を開け、すぐ閉じた。
「だからさ、あたしがケリを付けなきゃならないんだ、お願い。デコ司祭はあんなんだし、あたしだけじゃ無理だ」
ぱさんという針葉樹から雪が落ちる音が遠くで、聞こえた。
ヒューは静かに首を振った。
「そ、そうだよね。そうだよね」
少女は頭を掻きながら、立ち上がる。そして力任せに暖炉へ薪をぶち込んだ。
「なにいってんだ、あたしは……」
「斬ることは、俺の役目。貴方は、この家を守るだけでいい」
ぎゅっと剣の柄を握り、少年はほほえんだ。
スープを空になっていてパンは食べきっていた。チーズがひとかけ欲しかったが、もらい物に文句をつける気はないし、故郷よりは随分いいものだ。
「うまかった。なにこの魚」
そもそも海産物を食べないヒューには、珍しい者らしい。表情を変えてはいないが、目が生き生きとしているのは、気に入った証拠だろうか。
「雑魚のスープだよ、そんな、たいしたものじゃない」
ふっと笑いながら、イーネスは少年を見た。ヒューは少しだけ首をかしげた。
「おい、来たみたいだぞ」
つんっとした潮の匂いがしたような気がした。静かな水音が辺りに伝わる。釣り糸がゆれる程度の不安の波があたりを支配した。
デコが立ち上がり、村の端の方を刺す。
ヒューは出しっぱなしだった松明に暖炉から火を付ける。
デコはさっとそれを奪うと、目で剣を刺した。ヒューはすぐに抜刀し、外へ駆けた。不安そうなイーネスの視線は黙殺した。こういう時、剣士にはどうすればいいかわからない。
「あと、三回か」
小さな奇跡の回数を剣を握りしめ一人呟いた。あとは手札は実力、そして後ろへ付いてくる神官だけだ。
雪は冷たく打ち付け、剣士と司祭を家へ押し戻そうとする。
けれど、二人は引くわけにも行かず、ずんずんと新雪を踏みつぶしていった。
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