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2024/04/30 09:02 |
羽衣の剣 9/イートン(千鳥)
PC:  デコ、ヒュー、イートン
NPC: 
場所:  小街フェンリル→ポッケ海(90-203付近の湖)

――――――――――――――――――――――――

「護衛の代わりが見つかったらしいぞ!」

 積荷の搬入出で忙しい、商船『トコフェロール号』に向かって、一人の男が大声を
上げた。
 
「とは言え、風変わりな格好をした二人連れで、一人はまだ若造らしいがな・・・」

 それでも、こんな田舎に腕の立つものなど滅多に寄り付かない。
 陸に不慣れな自分たちよりはマシだろう。
 集まってきてそんな会話を交わす海の男たちの中に、一人毛色の違う男が割り込ん
で問いかけた。

「明日には出発できますかね?」

 厚手のコートを着込んでいても、その身体は他の船員に比べ、明らかに貧弱だ。
 吐いた息で曇った眼鏡を億劫そうに外して、男は紫の瞳を細めた。

「本当は今日にでも出発したい所だが・・・、おい、荷馬車に樽を積んどけ!」
「はいよ、キャプテン」

 一人の男の号令に従って、皆その場から散っていく。
 残ったのはキャプテンと呼ばれた男と、眼鏡の優男の二人だけだ。

「ホントについていくのかい?センセイ」
「もちろんですよ。その為にこんなに寒い所まで船に乗って来たんですから!エルゴ
さんは行かないんです か?」

 エルゴと呼ばれた船長は、『センセイ』の言葉に軽く笑った。

「俺は船を離れるわけには行かないんでね。まぁ、腕の立つのは何人か行かせる」
「噂では、近づくくらいなら危険はないとの話でしたが・・・」
「水の精霊が暴走してるんだっけか?だからこそ、あそこの水が高く売れるわけだ
が」

 ポッケ海の水を一体何に使うのだろう・・・?
 男は不思議に思って、エルゴに何度か尋ねたことがあるが、企業秘密だと言われ結
局知ることは出来てい ない。
 もっとも、彼の目的は、水の価値を知ることなどでは無かった。

「調査隊も入ってないんだ。メイルーンのヴェルン遺跡のように、アンタがふっ飛ば
さないといいけどな」
「なっ、何でそれを!?」

 他人から過去の汚点を持ち出され驚くが、すぐに思い当たり、彼はため息と共に肩
を落とす。
 エルゴが笑ってその肩を叩いた。
 親愛の行為なのだろうが、かなり痛い。

「俺はアンタの本の読者なんだから、知ってて当然だろ?イートン先生」



++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
+++++++

 旅の終わりはあまりにも突然だった。

 ジュデッカ監獄から解放されたイートンを待っていたのは、紙切れ一枚の別れの言
葉。
 
 置いていかれたのだと、理解することが出来ず、必死でルナシーやオッドアイの少
年魔族の情報を集めた が、彼らにたどり着くことは出来なかった。
 何がいけなかったのか。
 非凡な彼らの中で、ただの人間であるイートンが役立たずであることなど最初から
分かっていたはずだ。
 一年以上共に旅をした中で築いた信頼関係は幻だったのだろうか。
  
 行き場の無い感情をぶつけるように執筆した『ルナシー』が、出版社の目に留ま
り、僅かとはいえ人に読まれるようになると、また新たな情報が入るようになった。

 この『堕ちた神々の社』と呼ばれる遺跡も、作中に出てくるナスビの守護していた
ヴェルン遺跡と状況が似ているという事から、イートンの耳に入ってきたのだった。
 最も、この二つの遺跡は距離にして大きく離れているため、同じ文明のものである
可能性はかなり低い。
 ついでに言えば、ヴェルン湖は、発掘済みとはいえ、怪物退治する際に湖ごと消し
飛ばした為、現在では存在しない。

(僕は、今でもあきらめてませんよ。八重さん)

 八重と初めて会ったとき、イートンは彼を主人公にして物語を書くと宣言した。
 『ルナシー』の物語は未だ完結していない。
 八重とヒエログリフの決着を知るまでは終らせることが出来ないからだ。
 彼らは今も『ヒエログリフ』を追っているのだろう。
 つまり、イートンも『ヒエログリフ』を追えば、彼らに再会することが出来るかも
しれない。
 単純な、しかし切実な願いの元、イートンはこの商船に乗り、ポッケ海へと足を踏
み入れることにした。



 分かれた物語が再び一つになることを祈って、今は新たな物語を紡ぎ続けるより他
はないのだ。
   


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2010/06/15 01:05 | Comments(0) | TrackBack() | ○羽衣の剣

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