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2024/04/30 09:02 |
神々の墓標 ~みんな檻の中~ 1/ヘクセ(えんや)
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PC:ヘクセ
NPC:アマリア・マンサーノ
場所:クーロン
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くすんだ建物の壁に挟まれた薄暗い路地裏を、黒っぽいローブに身を包んだ小柄な少女が一人歩いていた。
犯罪都市の異名を持つクーロンでは表通りですら、女性が一人歩くのは危ない。まして路地裏では10歩あるけば、死体か、もうすぐ死体になる者か、ジャンキーかにつまずくとさえ言われている。現に、その路地には腐った人の足を咥えて走るのら犬と、吐瀉物とも汚物ともつかない染み、そして濁った眼を空にさらして現実から遊離しているジャンキー、ヤクの売人、表通りに立てないモグリの娼婦や娼男がたむろしている。
いつ襲われても不思議ではない状況にありながら、少女は一人、まるで朝の公園を散歩するかのように、そうした人々の間を抜け路地奥へと歩いていく。
すれ違う人々も、ちらりと少女を見るだけで、まるでどこにでもいるジャンキーか路傍の石でも見たかのように、関心を示さない。

そうしてやがて少女は一つの扉の前にたどり着いた。
その扉の両脇に立っている屈強な男たちは、少女を無視することなく、扉の前に立つ少女を睨む。

少女は口を開いた。

「ディオニュソスの"紫煙の魔女"にお目通り願いたい。
 私はへクセという。」



   *   *   *
 
 

アマリア・マンサーノはこの町でちょっとした有力者だ。
一つの麻薬組織を預かり、この町の一角を牛耳ってる。
彼女の調合する麻薬はトリップ持ちがいいと評判で、また彼女は未来を見通すかのような卓越した読みの持ち主で、何度となく組織の危機を救ってきた。
それゆえに組織もまた、彼女を尊重し、大きな権限を与えていた。
そんな彼女に接触を求めるものは多い。


しかしアマリアがこの町の"ディオニュソス教団"の導師であることを知る者は、ごく限られている。
魔法関係、それも同じ"デュオニュソス教団"の者だけだ。

"デュオニュソス教団"
麻薬、痛み、強烈な性的刺激、踊り、音楽などにより、恍惚状態に至り、時間の枷を離れ未来を予見する先見者達。
しかしその手法ゆえに悪しき噂の絶えることのない魔術結社だ。
だからこそこの魔術結社は、決して社会の表に出ることなく、その存在を隠してきた。

へクセと名乗る少女が、アマリアの正体を知り訪ねてきたとあれば、会わぬわけにはいかなかった。


へクセが案内された先は、地下にある、大ホールのような開けた空間だった。
あちこちに規則的に燭台が立ち並び、揺れる炎の灯りが、室内の異様さを浮かび上がらせていた。

床には大きな魔方陣が描かれ、その周囲に13組の男女が裸で絡み合っている。
そして魔方陣の中心には、男と抱き合ったままの、赤い巻き毛の妖艶な美女がいた。

その女はへクセを見ると、男の肩越しにほほ笑んだ。

「私が"紫煙の魔女"アマリアだ。」

「カーママルガの儀の最中にお邪魔して申し訳ありません。
 私はへクセと申します。」

「で、私に何の用だ?」

「この町にしばらく滞在するにあたり、この地の導師である貴女に挨拶をと思いまして。」

「殊勝な心がけだ。
 まるでエデュラの魔女のような恰好をしているわりに、礼儀をわきまえているな。
 まぁいい。ここではそんな重苦しいものは脱いでしまえ。
 お前も加わるといい。」

アマリアがへクセを招くように手を伸ばす。

「身に余る光栄。しかし貴女とでは儀式を行えない…で…しょ…う?」

男の身体から離れたアマリアの裸体を見て、へクセは息を呑んだ。

「…両方もってるんだ…」

「便利でな。生やしてみた。
 これで何の問題もない。」

へクセは、確かに、と頷くとローブを脱ぎ捨て、下着も脱ぎ捨て裸になった。
その裸体は両腕が肩まで包帯に隠され、左足も包帯が巻かれている。

「封魔布か」

包帯の正体をアマリアは一目で見抜いた。
へクセは包帯を外しだした。
その下から現れた肌には不可思議な紋様が刻まれていた。
へクセの周囲の魔力が濃くなる。

「…そうか、紋様の魔女とはお前のことか」

「お恥ずかしい。ただの通り名にございます」

そう言ってへクセはアマリアに歩み寄り口づけを交わす。
二人はそのまま絡み合い、やがてへクセはアマリアと一体となった。
へクセとアマリアは間近な距離で視線を絡め、ほほ笑みあった。

「で、何が目的だ?
 よく調べてはいるが、お前はウチに属するものではないだろう?
 エデュラの魔女の系譜に連なる者よ。」

「では、申し上げます。」

へクセは囁くように言葉を紡いだ。

「アナンダ法典はジュデッカの最奥にある、というのは本当?」

思わぬ言葉にアマリアは動揺した。
同時に、アマリアの意識の中に、何かが入り込むのを感じた。咄嗟にアマリアはへクセを突き放す。

「やっぱり本当だったんだ。」

へクセが起き上がりながらにやりと笑う。

「貴様、私の心を読んだか!」

「未来は見通せてても、私のような取るに足らない存在など見えなかったようだね。
 どんなに優れた目を持っていても、見ることを」

へクセはそう笑い、アマリアから素早く離れた。

「それを知って、ここから生きて帰れるとでも?」

アマリアの言葉に周囲の男女がへクセを取り囲む。

「できたらそうしたいなぁと。」

へクセが服を拾いながら笑うと、同時に、天井が崩れだした。
大きな瓦礫が落下し、アマリアとへクセを遮断する。
衝撃と轟音と共に塵が舞いあがり、それが収まるころにはへクセの姿は消え失せていた。
アマリアがへクセのいた辺りに駆け寄ると、床が割れ、その下に水音が聞こえる。
クーロンの地下を網の目のように流れる下水河川へと繋がっているようだ。

「アマリアさま!」

「逃しはせん。」

アマリアは煙管を手に取ると、大きく吸い、そして煙を吐き出した。
それは人型を取り、そして地下の穴の中に吸い込まれていった。



   *   *   *
 

 
地下河川を菌糸で織り上げたボートで下るへクセは盛大にくしゃみをして一人ごちた。

「やっぱ、裸じゃまだ厳しい季節だよね」

いそいそと服を身につける。
その時、へクセの行く手をさえぎるように煙が現れ、人の形をとった。
それは怨霊のように、怒りの表情を露わに、大きく口をあけた。

「あぁ召喚霊か、だが。」

へクセは手を伸ばす。そして煙に無造作に突っ込むと、そのまま引き裂いた。
そしてちぎれた煙を吸い込み、咀嚼する。

「身体を持たぬ魂など殻を剥いた蟹の身と同じだろうに」

へクセは鼻で笑った。


同時刻、アマリアの目の前で香壺の一つが炎を吹いた。

「アマリア様!」

召喚霊が倒されたことを知り、悲鳴を上げる門人達。だが、アマリアはにやりと笑った。

「食ったな。」



   *   *   *
 

 
へクセが自身の異変に気付いたのは、すぐだった。
目がかすみ、頭が朦朧とする。

(しまった!食われるのも織り込み済みか!)

へクセは急いで深呼吸をする。毒呪がへクセの意識を混濁させようとする。
その前にへクセは意識を切り離した。
切り離した意識で自身の身体に語りかけさせる。

("咀嚼"はした。効果は薄れている。毒を出すぞ。)

ローブを探り魔除けの薬草を取りだし、口に含み咀嚼させる。
そしてローブの内側から一つの小瓶を取り出すと、指を噛み切り、その血を瓶の中に垂らす。
中には蛭がいた。
その蛭を取り出し、首筋に貼り付ける。

(これで良し。後は少し眠らなければ。)

へクセはそこまでして、目を閉じた。



   *   *   *
 

 
「追手をかけねばな。腕の立つ殺し屋がいい。」

アマリアは服を着ながら弟子でもある部下に指示をとばす

「しかしアマリア様、あの女はアマリア様の毒で命を落とすのも時間の問題でしょう?」

「エデュラの魔女を侮らないことだ。」

「エデュラの魔女とは?」

「知らないのか?
 エデュラの魔女はドルイドの祖ともなる森の魔女の系譜だ。
 一昔前のイムヌスのあの魔女狩りとかぬかすヒステリックな所業でだいぶその数は減じたが、
 今や廃れたとはいえ、最古の流派の一つだぞ。
 呪いと毒は、連中の得意分野。
 あれで仕留められるほど簡単な女でもあるまい。
 未だ、アレを捕える未来も見えぬしな。
 …クーロンを出られたら、私の影響力も届かぬ。
 どこまでも追いかけて奴を殺せる優秀な猟犬が必要だ。」

アマリアは空を睨みながら呟いた。

「あの経典は誰の目にも触れさせるわけにはいかない。」



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2010/01/30 01:34 | Comments(0) | TrackBack() | ○神々の墓標~みんな檻の中~

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