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2024/04/30 08:42 |
易 し い ギ ル ド 入 門 【1】/エンジュ(千鳥)

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『 易 し い ギ ル ド 入 門 【1】』 
   
            ~ 著 チドリッヒ・マリームラ ~



場所 :酒場
NPC:ユークリッド
PC :エンジュ  シエル
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『沈没船の引上げ作業 力に自慢のある方急募!!』(・・・向いてない。)
『報酬銀貨100枚 クーロンまで荷物の輸送 詳細は後日○○にて』(怪しすぎ・・・。)
『この猫を探しています 銅貨五枚』(子供の依頼かしら。)
『寂しい老人のお相手 元気な女性募集中 』(・・・・・・・・・。)



 * * * * *


 港町のダイニング・バー〝海龍の鱗亭〟の自慢は、マスターが海賊時代に手に入れたという龍の鱗の食器である。
 といっても、荒くれの海の男どもが集まるこの酒場でその食器が使われる事は殆どない。
 壊されるか、盗まれるのがオチだからだ。
 マスターがこの食器を使うのは親しい友人か上客が来た時と決まっていた。
 または、よほどの美人か―――

「ねぇ、この町に冒険者ギルドの支部ってあるのかしら」

 グラスを揺らしながら壁の貼り紙を眺めていた仮面の美女が、隣に座るエルフに話しかけた。
 彼女らの他に、客は無い。
 既に港町の人々は明日の航海や市の準備の為にベッドでいびきをかいている時刻だった。
 彼女らが遅い夕食を摂るハメになったのは「野郎に絡まれるのがイヤなら絶対夜中のほうがいいぜ!」という、もう一人の同行者の忠告からだった。

 彼女たちのテーブルに置かれたアジの酢漬けは、鈍く光る青い皿の上に添えられている。

「ン? シエル、何ていったの?」

 熱々のチーズリゾットと格闘していたエルフは、仮面の美女の夜風のような囁き声を聞き逃して、慌てて顔を上げた。
 彼女はエルフ特有の中性的な顔立ちをしていたが、胸の豊かな膨らみが強烈に性別を主張していた。

「この町に、冒険者ギルドはあるかって、聞いたのよ」

 シエルと呼ばれた女性は、歯切れの悪い口調で再び問う。
 エルフがまじまじとシエルの顔を覗き込むと、途端に仮面の奥の表情が曇る。
 二人は隠れた顔から表情が読み取れる程度に親しい間柄であった。
 しかし、エルフは冒険者ギルドに登録している自分ならまだしも、シエルのギルド支部に向かう用事など思い浮かばなかった。

「あ、もしかして誰かに手紙を送りたいとか?」
 
 エルフは、ギルドが郵政事業も受け付けている事を思い出す。
 しかし、シエルは「違うわ」と短く彼女の考えを否定する。 

「私も、冒険者ギルドに登録しようかと思ってるの」
「フーン。いいんじゃない?」

 エルフは途端に興味を失ったフリをして食事を再開した。
 何故?とは聞かない。
 どうして魔術師ギルドではなく冒険者ギルドなのか、も尋ねない。
 彼女はエルフの割には――実際はハーフ・エルフなのだが――人情に厚い性格だったが、それを目の前の仮面の美女が求めている訳ではないと思っていたからだ。

「フーン、って、エンジュそれだけなの?先輩としてのコメントは?」

 シエルは面白がってエルフ――エンジュの方に身体を向けた。
 現在上から3番目、Bランクに位置するエンジュは、銀色の長い髪を何度かかき上げると、シエルの方を見ず早口で応えた。

「……向いてないとは言わないわよ。頭だって良いし、冷静だし、人を上手く使うしね、パーティ向きってヤツ?でもさぁ、それならさ、何処かの商家とか嫁いで、きりもりしたほうがよっぽど安全だとオモイマス」

 何だか語尾がおかしかった。 

「それが本音?」
「あ、でも、アナタ人前に顔出すの嫌いだもんね、接客業は向いてないかな。じゃあ、夜の支配者、どこかの金持ちをたぶらかして影から操るの」
「エンジュ」 
 
 相手が珍しく困っていることに気がついて、シエルは落ち着いた声で彼女を制した。 

「私はまだ何処かに落ち着くつもりはないの。ましてや、故郷に戻るわけにもね」
「それが本音?」

 シエルは素直に応えた。

「そうよ」
「・・・・・・二人で美人ハンターとして名を轟かせるのもいいかもしれないわね」
「ユークリッド君っていう、信用の置ける情報屋もいることだしね」
「あいつは美人のマネージメントなら喜んでやるわよ」

 エンジュは、そこまで言うと、テーブルに乗っていた全ての料理を一気に平らげた。
 先ほどのチーズリゾットはもちろん、タマネギとサーモンのマリネ、海老のパエリヤ、アサリのワイン蒸し、クラムチャウダー…目を丸くするマスターに、エンジュは気前よくコインを投げた。

「美味しかったわよ。ご馳走様」
「その食費で、ギルドに入りたての時でもやってけたの?」
「小さい頃の私は、胃袋も小さかったのよ」

 呆れるシエルの視線に、エンジュは納得できるような、出来ないような答えを返した。

「あ、あと登録して仕事を探すならもう少し海から離れた場所にしない?
 もう海の幸に飽きちゃったのよね」

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2007/02/12 16:59 | Comments(0) | TrackBack() | ○易しいギルド入門
易 し い ギ ル ド 入 門 【2】/シエル(マリムラ)
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『 易 し い ギ ル ド 入 門 【2】』 
   
              ~ 冒険者ギルドの基礎知識 ~



場所 :街道
NPC:ユークリッド
PC :エンジュ  シエル
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 エンジュの希望とユークリッドの薦めにより都会を目指した一行は、ソフィニア方
面へ向かう為、街道を東へと進んでいた。ユークリッドは若干の荷物を手に持ち、シ
エルは背中にリュックらしきモノを背負い、エンジュは両手に焼き鳥と焼きイカ(途
中の露店で買ったらしい)を持って歩いている。
 何とも奇妙な一行だ。

「とりあえず、何をすればいいのかしらね?」

 そう問いかけるのは、擦れ違う馬車等から胡散臭い視線を投げかけられても気にし
た素振りすら見せない、黒ずくめに白マスクの女・シエル。

 コレでも以前に比べれば随分親しみやすい恰好だ、とユークリッドは思う。
 以前はシルエットで辛うじて女性と分かる程度の独特の民族衣装だった上、この無
表情なマスクが異彩を放っていたのだから面食らったモノだ。今はもっと動きやすい
服装を身に纏い、颯爽と歩いている。……まあ、見慣れたというのもあるのかもしれ
ないが。

「……ユークリッド君、どうかした?」

 シエルの怪訝な声に、ユークリッドは「ああ、とりあえず……」と話を切り出し
た。

「ギルドに登録するなら、ちゃんとしたギルド支部があるところがいいだろうね」
「ちゃんとしていないところもあるの?」
「小さな町では、宿屋や酒場なんかに委託されてたりするからなぁ」

 そういうと、情報屋を本職とするユークリッドは、中性的な甘い笑顔をシエルに向
けた。

「こらこら、シエルに色目を使わない!」

 エンジュは、目下のお気に入りに笑いかける弟を肘で小突いて、シエルに抱きつ
く。シエルはされるがままにしていたが、一言、ぽつりと言った。

「……エンジュ、アナタが説明してくれないからでしょ」
「えー、もう何年も前の話なんて忘れちゃったに決まってるじゃない」

 ケロリと答えるエンジュの回答は、コレが初めてではなかった。それが冒険者ギル
ドでもBランクというのだから、頭を抱えるしかない。

「必要なモノは何かあるのかしら」
「そうだね、身分を証明できるモノがあれば言うことナシ。
 まあ、今回は姉さんの推薦がつくから、無くても大丈夫だろうけど。
 あとは……ギルド支部で必要事項に記入するんだけど、嘘は書いちゃダメだよ?
 バレるとギルドランクを剥奪される上に、下手をすると追っ手が掛かるから」
「まー、物騒ねぇ」
「……姉さん、そのくらいは知っておいてよ……」

 そうやって、ユークリッドのギルド入門講座は続く。

「最初は自分で仕事を選ぶのは難しいかもね。実は受付の人次第なんだけど。
 受付の人が初心者向けの依頼しか見せてくれないことがあるんだよ」
「……ふぅん」
「信用がモノを言うのは何処でも一緒。
 ギルド全体の信用を落とさないためにもココは譲れないよね。で。
 初心者向けの仕事を二つ三つこなしたら、初めてギルドランクがつくってワケ」
「つまり、試用期間があるのね」
「そういうコト」

 シエルは首を傾げた。

「エンジュの推薦とユークリッド君の色目でどうにかならないの?」
「うわぁ、何か酷いこと考えてる?」
「面倒ねぇ、どうにかしなさいよ」
「姉さんまでそんな無茶を……勘弁してよ、俺の仕事が無くなる……」

 ユークリッドの脱力する様子は世の女性の母性なるモノを刺激するのか、次の馬車
は目立つ女性陣に目もくれず、ユークリッドにウットリとした視線を向けているでは
ないか。
 エンジュが呆れて弟に拳骨を落とすと、弟は頭を抱えて座り込んだ。
 勿論焼きイカはもうなく、片手はがら空きだ。

「痛っ、何するんだよ姉さん!」
「手加減したでしょうが」
「俺は悪くない~」

 まあ、いつも通りの光景。
 そんなこんなでじゃれあいながら、一行は街を目指す。

「えーと、何だっけ。ああ、仕事仕事」

 まだ頭を押さえているユークリッド。さっきのがよっぽど痛かったらしい。

「小さな依頼は下請けの酒場や宿屋を当たった方がいいかもしれない。
 小さな町で処理できる分は、その町でしか募集をかけなかったりするからね。
 じゃあ、逆はどうかというと、大きな依頼とか広範囲に仕事を探したかったら、
 ギルド支部に出向いた方がいいと思うよ。絶対数が多いと選択肢が広がるし」

 手を広げながら説明するユークリッドに顔も向けず、シエルは顎に手を当て、思案
顔である。エンジュは露店で買った焼き鳥の串が無くなり、面白くなさそうに串を投
げ捨てた。

「そんな説明後々!
 登録しないことには始まらないんでしょ?」

 思い切り伸びをする。豊かな胸が、重そうに揺れた。

「まずは大きい街で登録する!
 その時に詳しいことは教えてくれるわよ」
「……早く何か食べたいのね?」
「もちろん、それもあるわね」

 得意げに笑うエンジュを見ながら、次の街で馬車を借りるのと、立ち寄る町毎に食
費がかかるのとではどちらが安上がりか、シエルは真剣に考えていた。


2007/02/12 16:59 | Comments(0) | TrackBack() | ○易しいギルド入門
易 し い ギ ル ド 入 門 【3】/エンジュ(千鳥)
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『 易 し い ギ ル ド 入 門 【3】』 
   
            ~ ソフィニア支部 受付 ~



場所 :ソフィニア
PC :エンジュ  シエル
NPC:ユークリッド 受付嬢 シダ
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「もうすぐソフィニアですよ。お客さん」

御者がそう言って間もなくすると、たえず馬車を揺らしていた衝撃が徐々に小さくなっていった。
砂利道から舗装された道路へ、ソフィニアの町並みへと入ったのだ。

「そのままギルド支部まで行ってくれ」

激しい揺れの中でずっと新聞に目を落としていたユ-クリッドは、頭痛がするのかこめかみを押さえながら顔を上げた。
 窓を開け外の景色を眺めると、建物は整然と立ち並び、通りを歩く市民も身なりの整った者が多い。
文化レベルの違いというものだろうか。エンジュは50年程前にソフィニアに来たことがあった。
魔道機関などというものが発明される前だったたが町の様子は当時とあまり変わらない。
とにかく、魔術師とか学者とか研究者とかいう人間が多い町だった。

「何かあったのかしら?」

 高く響く警笛と人々の異変に最初に気がついたのはシエルだった。
三人の耳に「包丁を持った男が・・・」「公園に・・・殺人犯か?」等といった単語が届く。

「どうやら、最近のソフィニアの治安は良くないみたいだね。白昼に連続殺人が起きてるらしいよ」

読み終わった新聞をたたみながら、ユ-クリッドは言った。表情は楽しげだった。

「俺達みたいな連中には逆に仕事が増えて都合が良いんだけどね」
「ぶっそうなのはや~よ」

可愛いシエルに怪我でもされたらたまらない。とばかりにエンジュは隣に座るシエルの肩を抱いた。

「どんな仕事にだって危険は付き物でしょう?」

シエルは抵抗こそしないが冷たい言葉を返す。

「そうそう。何より恐いのは退屈で代わり映えの無い平凡な毎日さ」
「じゃあ、向こうの人達はさぞかし楽しい人生を送ってるんでしょうよ」

建物の後ろから巨体な火柱が立つ。こんな町中で、いっそ清々しい程の殺傷効果のある魔法を誰かが使ったようだ。

「流石、魔術都市ソフィニア。派手な歓迎じゃないか」

三人がソフィニアの公園で起きた騒動を馬車の中から他人事として話している間にも、御者は慣れた動作で馬を操り町の中枢へ彼等を運んで行った。


 * * * * 


「ようこそ、冒険者ギルド ソフィニア支部へ。ご用件をどうぞ」

 前髪をきっちりと横分けにしたオールド・ミス風の受付嬢は、眼鏡を装備し事務的な口調で述べた。

「新規でギルドに登録したいんだが…」

 ユークリッドがそう言うと、受付嬢はその仮面のような顔に僅かだが笑みを浮かべる。
 そうすると、三十路に見えた受付嬢が随分と若いことに気がつく。

「登録希望の方は?」
「私です」
「では、この用紙の必要項目に記入をしてください。文字は…書けますか?」
「えぇ」

 シエルはペンを受け取ると、肩から流れてきた長い髪をかき上げて、神妙な面持ちで記入を始める。
 更に、その様子を見守るユークリッドと、久しぶりに入った冒険者ギルドを物珍しげに眺めるエンジュに受付嬢は別の書類を用意して尋ねた。

「紹介者の方はどちらですか?」
「私。一応ギルドのハンターよ」 
「では、カードの提示をお願いします」

 その言葉に、エンジュは右手を前に出す。
 その指には紅玉の嵌った指輪がきらめいていた。
 “ギルドカード”は名の通り通常はカードの形を取る証明証だが、高レベルのハンターにはランクアップの際、特権としてハンターが望む形に作りかえることが出来た。
 
 一瞬、受付嬢の瞳が驚いたように大きく開かれ、後ろを向いて声をかけた。
 
「悪いんだけど誰か照合用のペンを貸してくれないかしら」
「どうぞ」
 
 事務室に居る男性職員が、受付嬢にペンを渡す。
 狭い受付の窓から見えたその男性職員もまた、眼鏡に七三分けだった。
 そのわずかな違和感に気がついたユークリッドが疑わしげに首をかしげた。

「では照合を行います」
 
 ペンの上に飾られた透明な珠と、エンジュの指輪が同じ色に発光し、紙の上をペンが走った。
 
 ――― エンジュ・ドルチェ・アージェント
          登録番号 XⅡE4863…ランク“B” ――

「間違いはありませんね?」

 確認を行うために、内容を読み上げた受付嬢に「多分ね」答える。
 
「エンジュ……アージェント?」 

 背後で男の声と、分厚い本が落ちる音がした。
 振り返ると、やはり眼鏡に七三分けの若い男が立っていた。
 ユークリッドが「ソフィニアは今この髪型が流行なのか…?」と小さく唸る。
 男もまた、ギルドの職員だった。
 しかも、ピンととがった黒い耳を生やし、ふさふさの長い尻尾が垂れている――獣人だ。

「えーっと、どなた?」

 獣人の知り合いなど、自分には殆どいないハズだった。
 一人、とびきりの有名人を知らないわけでもないが、彼は間違っても自分を前にしてその尻尾を嬉しそうに振ることは無いだろう。

「エンジュ!随分久しぶりだね!大きくなって!」
「??」

 肩に両手を置かれて揺すられても、一向に相手について思い出せない。
 「ひさしぶり?」「大きくなって?」その言葉は、ここ何十年成長の兆しの見えない自分には不用な挨拶なはずだった。しかも相手は獣人だ。人間と同等、またははるかに寿命の短い彼らがエンジュと同じ歳月を生きられるわけが無い。
 
「シダ!なんて破廉恥な事してるんですか!!今週が“インテリ強化週間 お客様にクリーンなイメージを”なの忘れてるんですか!!」
「あー、だからそんな格好」
「支部長から首輪をつけられて鎖で繋がれてもいいの!?」

 納得するユーウリッド。
 更に受付嬢の物騒な言葉な言葉が続く。
 
「あー。それは困る!じゃ、とりあえず、そっちの彼女のカードが出来るまでお茶でもしないかな?」

 獣人のギルド職員は、慌ててエンジュから手を放すとシエルに愛想笑いを向けた。
 シエルはエンジュを伺うように見ている。
 自分しだいという訳か……それから騒ぎに注目していた室内のハンターたちが、それに飽きるぐらいの時間考えて、やっとエンジュは相手を思い出すことが出来た。

「シダ…シダック・リーフネット?」
「良かった。ハーフエルフの記憶力を疑うところだったよ」

 そう言って、大きく尻尾を振る彼は、やっぱりエンジュの知るシダック・リーフネットとは、少し違っていたのだけれど…。
 
 * * * * *

「では、改めまして、シダック・リーフネットです」

 シダと呼ばれた獣人ギルド職員が3人を案内したのは、ギルド支部の一角、休憩室だった。
 そこはカフェを兼ねておりそれぞれの手元には紅茶と菓子が置かれている。

「シダックは私が人間の世界に出て最初に出会ったハーフエルフの友人よ。多分・・・」
「ハーフエルフって、年を取ると尻尾が出るのね」

 エンジュの自信なさげな紹介に、シエルは真面目な顔で言った。

「いやぁ、実はとある遺跡を探検中にトラップの魔法にかかってしまってね。こんな姿になっちゃったんだ。古代の魔法だろう?誰もとき方を知らなくて。まぁ、僕は常々自分がエルフであることが嫌でたまらなかったからこのままだってちっとも構わないのだけれど」

 笑いながら説明するシダの様子は確かに困っているようには見えない。

「ただ、肉を食べるようになったからかな。精霊の声がちっとも聞こえなくなってしまって――つまりは、魔法が使えなくなってしまって。今はこうしてギルドの職員をやっているんだ。そ-いえば、隣の彼は君の息子?」
「な、何言ってるのよ!ンなわけないでしょ!!」

 早口で喋り続ける彼の言葉を聞き流しそうになりながら、エンジュは慌てて否定した。
 隣ではユークリッドが紅茶を喉に詰まらせてむせている。

「この子は、ハルベルト・アージェントの孫よ」

 エンジュはかつてエルフの縛られた生活から自分を解放してくれた叔父の名を久しぶりに声に出していった。

「あぁ、エンジュの初恋の相手の」
「アンタ耳だけでなく身体も炭のように黒くなりたいわけ?」
「照れてるんだね。子供だなぁ」

 ほぇほぇとした表情で、エンジュを子供のように扱う七三分けの獣人、シダ。シエルとユークリッドは改めて、この男がエンジュよりも年を重ねたエルフであることを実感した。

「そうか、ユークリッド君だけ?君はお母さん似なんだね。ハルベルトとは俺も仕事をしたことがある。」
「そうですか」
「腰抜けだけど、剣の腕は滅法たって良い男だったよ」
「そりゃどーも……」

 普段は愛想の良いユークリッドだが、今回はどこか無愛想に応える。
 相手は野郎だったし、他にも気に入らない部分が少し…いや、かなりあった。 

「そろそろ、カードも出来てる頃かな。いい仕事が何件か入ってるから、見て行ったらどうかな。引退したとはいえ先輩だから何かアドアイスが出来ると思うよ」

 眼鏡をくいと持ち上げると、シダは席を立ってこちらを促した。
 エンジュたちとしても、ここでこのお喋りなハーフエルフだか、獣人だか中途半端な男の相手をするつもりはさらさらなかったので同様に立ち上がった。
 
「どんなアドバスをくれるんだかねぇ」

 彼が、かつて仲間内で“ジョーカー引きのシダック”などと呼ばれていたのを知っているのは幸いにもエンジュだけだった。 



2007/02/12 17:00 | Comments(0) | TrackBack() | ○易しいギルド入門
易 し い ギ ル ド 入 門 【4】/シエル(マリムラ)
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『 易 し い ギ ル ド 入 門 【4】』 
   
               ~ 易しい仕事の選び方 ~



場所 :ソフィニア
PC :エンジュ  シエル
NPC:ユークリッド 受付嬢 シダ
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 見せられたギルドカードは、思っていた以上に素っ気ないモノだった。

「……コレ?」

 シエルが問いかけると、シダが人懐っこく笑う。

「そうだよ、正真正銘ホンモノのギルド登録証明書」

 四角い小さな紙には、名前と共に登録番号・ギルドランクが記載されている。

「内容に間違いはないよね」
「一つだけ気になったんだけど……ランク表示、Gなんてあるの?」
「ああ、仮登録ランク、ってこと。正式会員はF以上って考えてくれればイイよ」

 シダがそういいながらギルドの刻印を押し、そして完成品をシエルに差し出す。

「ようこそ新米冒険者さん!」

 掌に隠れるほどのそのカードを、シエルは対して感慨もなく財布にしまった。
 ソレを見たシダが声を上げて笑う。

「あっはっは、そうじゃなくちゃねぇ?
 ギルダーじゃなくちゃんとランカーとして育ってくれよ!」

 当然のように使われた知らない言葉に、シエルは首を傾げた。

「ソレ、どういう意味かしら」

 聞き返されるとは思っていなかったらしく、シダはしばらく絶句した。
 頭の中で数回言葉を反芻してやっと理由に思い当たったらしく、慌てて取り繕うよ
うに用語解説を始める。若干慌てているのは、初心者に対して使わないようにと、注
意されていたのかもしれない。

「ええと、説明……んー、簡単に言うと、
 ギルドランクが低いまま、食べるには困らない程度に小さな仕事専門で受ける人の
事を『ギルダー』って呼んでるんだ。まあ、半数以上はそうかな。
 それに対してランクがどんどん上がって行く人を『ランカー』って呼ぶわけ。
 ランクが上がれば二つ名も名乗れるし、顔が利いたりもする。
 どっちもいないと冒険者ギルドなんて成り立たないんだけど、大口の仕事はどうし
ても『ランカー』限定だったりするから、事務側としてはありがたいんだな。
 まあ、一種の業界用語だよね。僕だけに通じるって可能性も否定はしないけどさ」

 ユークリッドはさっきから受付嬢と、情報屋として仕事絡みの話をしているようだ
し、エンジュはと言えば、退屈して部屋の隅の長椅子に座っていた。これではシダに
からかわれたのかすら分からない。が、まあ、そんなウソをついたところで、彼の得
にはならないだろうと、僅かな時間で考える。

「ありがとう、勉強になるわ」
「いえいえ、どういたしまして」

 さて、コレで冒険者ギルドへの登録は完了したワケだが……。

「それじゃ、予定がなければ仕事見てみようか」

 シダが何かのファイルを取り出した。
 そう厚くはないが、ぱらぱらぱらとめくっていく。

「入り口近くの掲示板にも仕事依頼の張り紙があるよ。
 でも、そこに張り出す前のモノとか、特殊な依頼とかはコッチにあるんだよね」

 ぱらぱらめくっていた手が止まり、開いたページの向きをこちらへ向ける。

「オススメはこの辺。
 エンジュの紹介だから結構使えるんでしょ?」

 薦められるままに資料を覗き込み、絶句する。
 提示された仕事内容は、明らかに初心者向けではなかったのだから……。


  * * * * *


『子供達が消えていく事件の原因究明及び子供達の無事奪還(至急』
『ゴブリン退治。ゴブリン多数との情報あり』
『異世界人「ミウラ」を確保し、元の世界へ返す。詳細は秘密厳守』
『動物に変えられてしまった人を元に戻す。手段は問わない』
『にんぎょうをさがしてください(詳細不明・依頼者と要相談』
『結婚式のどさくさに紛れて依頼人二人を逃亡させる(極秘』
『憑き物を落としてください』
『家の壁に毎日落書きという事件の原因究明及び再犯防止』


 * * * * *


「か、考えさせて……」

 とりあえずエンジュと相談しよう、そうしよう。
 そう心に決めたシエルであった。


2007/02/12 17:00 | Comments(0) | TrackBack() | ○易しいギルド入門
易 し い ギ ル ド 入 門 【5】/エンジュ(千鳥)
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『 易 し い ギ ル ド 入 門 【5】』 
   
            ~ ソフィニア支部 待合室 ~



場所 :ソフィニア
PC :エンジュ  シエル
NPC:ユークリッド 受付嬢 シダ
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 シエルが獣人のギルド職員――背を向けているが嬉しそうに尻尾を振っているのが分かる―――シダに説明を受けている間、エンジュは待ち合い室の長椅子にだらし無く座りながらソフィニア支部の様子を見ていた。
仕事を探しに来る冒険者たちは、見た目からして年季の入ったハンターが多い。ソフィニアは裕福な層が多く、報酬においても高額が望まれるからであろう。また、魔術絡みの厄介な事件も多く、魔術学院が事件の中心だったということもある。

「姉さん、俺ちょっとこれから別行動ね」

 受付嬢と話を終えたユークリッドが、戻ってくるなりそう告げた。
 これは今までの旅でも珍しくない事で、ギルドと契約を結んでいるユークリッドはたまにギルドに依頼された情報を集める為に、短くて一週間、長いと数ヶ月姿を消す。
 実際にどんな仕事をしているのかはエンジュも知らなかったが、今更尋ねる気にもならない。

「もしこの町を離れるときは、彼女に行き先を伝えといてくれ。マチルダだ」

 先ほど話しこんでいた受付嬢、マチルダはユークリッドが振り返ったのに気がつくと、色っぽくウインクを返してきた。

「何、これから毎晩彼女の家にでも泊まるつもり?」

 軽蔑した目でユークリッドを見やると、彼は慌てて首を振った。

「違うよ!俺、最近純愛に目覚めたばっかりなんだぜ?」

 この八方美人の弟と「レーナ」という女性の出会いを聞いたのは数ヶ月前だったが、彼は未だに彼女の事を引きずっているようだった。

「あんまり無茶しないでね」
「じゃあ、シエルさんによろしく」

 ユークリッドは表情を引き締めると、先ほどの少年のような仕草が嘘のように踵を返して去っていった。その後ろ姿を眺めながら、胸が苦しくなるのを感じた。

 自分のことを母のように慕っていた少年が大人になり、そして自分を追い越していく瞬間を見るのは人間の世界に住むエンジュには当たり前のことだったが、それでも、彼らを失う悲しみは何度味わっても慣れはしない。 

 ******

「ねぇ、エンジュ。どれを選んだら良いと思う?」

シダのオススメだという数件の依頼書を手にし、シエルが戻って来きた。エンジュは途方に暮れた表情の彼女から書類を受け取り目を通す。

「なんか・・・差し迫った依頼が多いわね」

 極端とも言えるセレクトに、エンジュはシダに意図を問う。 

「ここにあるのはこれから登録される最新のものだからね。それにエンジュの相方につまらない依頼なんて勧めたりしないよ~」

期待してるよと、微笑みかけるシダにシエルは嫌そうに答える。

「あまり期待しないで頂戴」
「私、手伝ったほうが良い?」

 何気なしに口にした言葉だったが、相手の性格を思い出してはっとした。言い方を間違えたのだ。案の定「一人で平気よ」と素っ気ない返事が返ってくる。彼女は人に助けを求めるのが決して得意ではなかったのだ。

「じゃあさ、エンジュこの仕事受けない??ちょっと厄介でさぁ」

 “異世界人の捜索”という文字が入った書類をひらひらさせてシダが割り込んできた。

「んなの出来るわけないじゃない。AとかSの高ランクの連中にでも頼めば?この町だったら居るでしょ?何人でも」
「いないことはないんだけどー、さっきも公園で見かけたし。でも、ああいう人たちってなかなか支部まで仕事を探しに来てくれなくてねー。この依頼は、難しいといっても見つけてしまえば身柄は魔術学院の研究室に預けて返す方法を・・・っと」

 喋りすぎたことに気がついて、シダは慌てて口をつぐむ。

「あの学院はおかしな騒ぎばっかり起こすのね…」 
「まずはこの仕事を受けてみようかしら…?」
 
 二人がそうしている間にも、シエルは結局一人で決めてしまった。
 それを横から覗き込んで「いいんじゃない?」と賛同する。

「もちろん、私もついてくけどね。なんたってシエルの初仕事なんだから!」

 今度は有無を言わさず決めると、シエルは呆れるような顔で「勝手なんだから」と呟いた。もちろん、口元には笑みを浮かべて。


2007/02/12 17:00 | Comments(0) | TrackBack() | ○易しいギルド入門

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