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『 易 し い ギ ル ド 入 門 【5】』
~ ソフィニア支部 待合室 ~
場所 :ソフィニア
PC :エンジュ シエル
NPC:ユークリッド 受付嬢 シダ
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シエルが獣人のギルド職員――背を向けているが嬉しそうに尻尾を振っているのが分かる―――シダに説明を受けている間、エンジュは待ち合い室の長椅子にだらし無く座りながらソフィニア支部の様子を見ていた。
仕事を探しに来る冒険者たちは、見た目からして年季の入ったハンターが多い。ソフィニアは裕福な層が多く、報酬においても高額が望まれるからであろう。また、魔術絡みの厄介な事件も多く、魔術学院が事件の中心だったということもある。
「姉さん、俺ちょっとこれから別行動ね」
受付嬢と話を終えたユークリッドが、戻ってくるなりそう告げた。
これは今までの旅でも珍しくない事で、ギルドと契約を結んでいるユークリッドはたまにギルドに依頼された情報を集める為に、短くて一週間、長いと数ヶ月姿を消す。
実際にどんな仕事をしているのかはエンジュも知らなかったが、今更尋ねる気にもならない。
「もしこの町を離れるときは、彼女に行き先を伝えといてくれ。マチルダだ」
先ほど話しこんでいた受付嬢、マチルダはユークリッドが振り返ったのに気がつくと、色っぽくウインクを返してきた。
「何、これから毎晩彼女の家にでも泊まるつもり?」
軽蔑した目でユークリッドを見やると、彼は慌てて首を振った。
「違うよ!俺、最近純愛に目覚めたばっかりなんだぜ?」
この八方美人の弟と「レーナ」という女性の出会いを聞いたのは数ヶ月前だったが、彼は未だに彼女の事を引きずっているようだった。
「あんまり無茶しないでね」
「じゃあ、シエルさんによろしく」
ユークリッドは表情を引き締めると、先ほどの少年のような仕草が嘘のように踵を返して去っていった。その後ろ姿を眺めながら、胸が苦しくなるのを感じた。
自分のことを母のように慕っていた少年が大人になり、そして自分を追い越していく瞬間を見るのは人間の世界に住むエンジュには当たり前のことだったが、それでも、彼らを失う悲しみは何度味わっても慣れはしない。
******
「ねぇ、エンジュ。どれを選んだら良いと思う?」
シダのオススメだという数件の依頼書を手にし、シエルが戻って来きた。エンジュは途方に暮れた表情の彼女から書類を受け取り目を通す。
「なんか・・・差し迫った依頼が多いわね」
極端とも言えるセレクトに、エンジュはシダに意図を問う。
「ここにあるのはこれから登録される最新のものだからね。それにエンジュの相方につまらない依頼なんて勧めたりしないよ~」
期待してるよと、微笑みかけるシダにシエルは嫌そうに答える。
「あまり期待しないで頂戴」
「私、手伝ったほうが良い?」
何気なしに口にした言葉だったが、相手の性格を思い出してはっとした。言い方を間違えたのだ。案の定「一人で平気よ」と素っ気ない返事が返ってくる。彼女は人に助けを求めるのが決して得意ではなかったのだ。
「じゃあさ、エンジュこの仕事受けない??ちょっと厄介でさぁ」
“異世界人の捜索”という文字が入った書類をひらひらさせてシダが割り込んできた。
「んなの出来るわけないじゃない。AとかSの高ランクの連中にでも頼めば?この町だったら居るでしょ?何人でも」
「いないことはないんだけどー、さっきも公園で見かけたし。でも、ああいう人たちってなかなか支部まで仕事を探しに来てくれなくてねー。この依頼は、難しいといっても見つけてしまえば身柄は魔術学院の研究室に預けて返す方法を・・・っと」
喋りすぎたことに気がついて、シダは慌てて口をつぐむ。
「あの学院はおかしな騒ぎばっかり起こすのね…」
「まずはこの仕事を受けてみようかしら…?」
二人がそうしている間にも、シエルは結局一人で決めてしまった。
それを横から覗き込んで「いいんじゃない?」と賛同する。
「もちろん、私もついてくけどね。なんたってシエルの初仕事なんだから!」
今度は有無を言わさず決めると、シエルは呆れるような顔で「勝手なんだから」と呟いた。もちろん、口元には笑みを浮かべて。
『 易 し い ギ ル ド 入 門 【5】』
~ ソフィニア支部 待合室 ~
場所 :ソフィニア
PC :エンジュ シエル
NPC:ユークリッド 受付嬢 シダ
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シエルが獣人のギルド職員――背を向けているが嬉しそうに尻尾を振っているのが分かる―――シダに説明を受けている間、エンジュは待ち合い室の長椅子にだらし無く座りながらソフィニア支部の様子を見ていた。
仕事を探しに来る冒険者たちは、見た目からして年季の入ったハンターが多い。ソフィニアは裕福な層が多く、報酬においても高額が望まれるからであろう。また、魔術絡みの厄介な事件も多く、魔術学院が事件の中心だったということもある。
「姉さん、俺ちょっとこれから別行動ね」
受付嬢と話を終えたユークリッドが、戻ってくるなりそう告げた。
これは今までの旅でも珍しくない事で、ギルドと契約を結んでいるユークリッドはたまにギルドに依頼された情報を集める為に、短くて一週間、長いと数ヶ月姿を消す。
実際にどんな仕事をしているのかはエンジュも知らなかったが、今更尋ねる気にもならない。
「もしこの町を離れるときは、彼女に行き先を伝えといてくれ。マチルダだ」
先ほど話しこんでいた受付嬢、マチルダはユークリッドが振り返ったのに気がつくと、色っぽくウインクを返してきた。
「何、これから毎晩彼女の家にでも泊まるつもり?」
軽蔑した目でユークリッドを見やると、彼は慌てて首を振った。
「違うよ!俺、最近純愛に目覚めたばっかりなんだぜ?」
この八方美人の弟と「レーナ」という女性の出会いを聞いたのは数ヶ月前だったが、彼は未だに彼女の事を引きずっているようだった。
「あんまり無茶しないでね」
「じゃあ、シエルさんによろしく」
ユークリッドは表情を引き締めると、先ほどの少年のような仕草が嘘のように踵を返して去っていった。その後ろ姿を眺めながら、胸が苦しくなるのを感じた。
自分のことを母のように慕っていた少年が大人になり、そして自分を追い越していく瞬間を見るのは人間の世界に住むエンジュには当たり前のことだったが、それでも、彼らを失う悲しみは何度味わっても慣れはしない。
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「ねぇ、エンジュ。どれを選んだら良いと思う?」
シダのオススメだという数件の依頼書を手にし、シエルが戻って来きた。エンジュは途方に暮れた表情の彼女から書類を受け取り目を通す。
「なんか・・・差し迫った依頼が多いわね」
極端とも言えるセレクトに、エンジュはシダに意図を問う。
「ここにあるのはこれから登録される最新のものだからね。それにエンジュの相方につまらない依頼なんて勧めたりしないよ~」
期待してるよと、微笑みかけるシダにシエルは嫌そうに答える。
「あまり期待しないで頂戴」
「私、手伝ったほうが良い?」
何気なしに口にした言葉だったが、相手の性格を思い出してはっとした。言い方を間違えたのだ。案の定「一人で平気よ」と素っ気ない返事が返ってくる。彼女は人に助けを求めるのが決して得意ではなかったのだ。
「じゃあさ、エンジュこの仕事受けない??ちょっと厄介でさぁ」
“異世界人の捜索”という文字が入った書類をひらひらさせてシダが割り込んできた。
「んなの出来るわけないじゃない。AとかSの高ランクの連中にでも頼めば?この町だったら居るでしょ?何人でも」
「いないことはないんだけどー、さっきも公園で見かけたし。でも、ああいう人たちってなかなか支部まで仕事を探しに来てくれなくてねー。この依頼は、難しいといっても見つけてしまえば身柄は魔術学院の研究室に預けて返す方法を・・・っと」
喋りすぎたことに気がついて、シダは慌てて口をつぐむ。
「あの学院はおかしな騒ぎばっかり起こすのね…」
「まずはこの仕事を受けてみようかしら…?」
二人がそうしている間にも、シエルは結局一人で決めてしまった。
それを横から覗き込んで「いいんじゃない?」と賛同する。
「もちろん、私もついてくけどね。なんたってシエルの初仕事なんだから!」
今度は有無を言わさず決めると、シエルは呆れるような顔で「勝手なんだから」と呟いた。もちろん、口元には笑みを浮かべて。
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