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『 易 し い ギ ル ド 入 門 【6】』
~ 易しい仕事の初め方 ~
場所 :ソフィニア
PC :エンジュ シエル
NPC:シダ
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依頼書の束を持ってシエルはもう一度シダの元へと戻る。
満面の笑みで応対する獣人に困惑しながらも、一枚の依頼書を指し示す。
「この依頼にするわ」
「じゃあコレで契約成立って事で、依頼は下げておくからね。はい、詳細。
依頼者の方にも連絡入れとくよ。落ち合う場所は『クラウンクロウ』って宿だか
ら。
あと、大丈夫だと思うけど、無理なときには早めに連絡してね。
依頼を他の冒険者に頼むことになるからさ」
シダは一枚の依頼書を別のファイルにしまうと、そこから詳細の書かれた紙を三枚
渡す。他の依頼書は元のファイルにきちんと戻したようだ。
シエルは詳細をめくって首を傾げた。
「書いてなかったけど……期限は?」
「期限がある依頼もあるけどね、この辺は『要相談』ってカンジのやつだから」
そういうと、愛嬌たっぷりにウィンクをするシダ。……獣人の彼がウィンクしたと
ころで、シエルには興味も何もナイのだが。
後ろからエンジュが覆い被さるように抱きついてきて、シダに向かって「しっし
っ」と手を振る。シエルはシエルで大きな胸に押されながら「重っ……」と漏らし
た。
「手続き終わりでしょ。もう連れて行くわよ?」
「ああ、構わないけど……そんなに邪険にしなくてもいいじゃないか」
寂しそうなシダの言葉に返すのは、冷ややかな視線×2。
「シエルに色目使うからよ」
変な誤解をされそうなセリフだが、本人達に恋愛感情はないからだろう、色気が全
く感じられない。ちょっと有名な「肉食エルフ」が本当に女の子に熱を上げているの
なら、そこそこ面白い噂話になるかもしれないが。
(コレだけじゃれてても、全く色気無いからなぁ)
苦笑するシダ。目にした人には彼女たちの関係がすぐに分かるのだ。
噂にも聞かなかったのはそのせいかもしれない。
ギルド支部を後にする彼女たちを、シダは目を細めて見送った。
* * * * *
「それで、結局どれにしたの?」
エンジュが横から詳細の書かれた資料をシエルから取り上げた。
「ええと……依頼者宅の住所と地図でしょ、依頼者の名前と肩書きでしょ、簡単な容
姿でしょ……なにコレ、コレだけ?」
「まあね、おかげで覚えちゃったわ」
エンジュから資料を取り返そうともせずに、シエルはすたすた歩く。置いて行かれ
そうになって、小走りにエンジュが駆け寄った。
連れ立って歩きながら、エンジュは資料に目を走らせる。その資料の冒頭には『結
婚式のどさくさに紛れて依頼人二人を逃亡させる(極秘』と記されていて、黒ずくめ
の相棒との違和感に首を傾げた。
「……で?」
「で……って、依頼者に話聞かなきゃ動けないでしょ」
「じゃなくて、どうしてコレにしたのかなーと思って」
素朴な疑問。
「一番風を使いやすい仕事だと思ったからよ」
明快な答え。
「まあ、シエルの初仕事ですもんね。シエルの直感で決めないと」
「……聞いてないわね?」
* * * * *
まあ、そんなこんなで移動した先は、何故か洋裁店。色とりどりの生地が所狭しと
並べられている。店員に訝しがられながらも生地を物色するシエル。エンジュは、こ
んな所で待ち合わせとは珍しい依頼人もいたもんだと、一人通りを眺めていた。
通りの向こうからは何とも言えない香りが漂い、彼女の胃を刺激する。一方通行か
と思う程の人の流れが、チャーハン祭りだのチャーハン魔王だのと噂している。
「エンジュ、こっちに来てくれないと困るんだけど」
「さーっぱり事情が飲み込めませーん」
と言いながらも素直に移動。シエルがいくつかの布をエンジュに押し当て、その中
でも光沢のある白い布を選び、店員に渡す。
「これ、いくら?」
「ええと、長さはどのくらいでしょうか、お切りできますけれども」
「全部よ」
『えっ?』
最後の言葉は声が重なった。店員とエンジュの声だ。
「何よ、ココには買い物に来たの?」
「エンジュ、シダの話聞いてた……?」
お互いに疑問符が飛び交う。店員はオロオロとロール状の生地を抱きかかえてい
る。
「落ち合うのは冒険者の宿。
連絡はギルドから向こうへ行くらしいけど、すぐには無理。
だから先に準備しておきたいモノがあったのよ……」
呆れるシエルに、エンジュも呆れ顔だ。
「なんだ、時間が空いてるんだったら言ってよ。
ここに来てから町中が香ばしい、美味しそうな匂いしてるのに」
くんくん、と鼻を鳴らすエンジュ。確かに、町中が美味しそうな香りに包まれてい
る。
「わかった、行って食べてもいいわエンジュ。ただし」
「何よ」
「今回の仕事は私の計画に従ってもらうからね」
言葉は聞こえているはずなのに、意識の半分以上は匂いに釣られているエンジュ。
「わかってるわかってる、早めに戻るわ」
生返事で足を通りに向けた。
「私の名前で宿を取るから、用が済んだら宿で会いましょう」
後ろからのシエルの言葉は果たして聞こえていたのだろうか?
エンジュの気もそぞろな足取りを不安に思いながらも、シエルはもう一度声を掛け
た。
「帰ったら採寸よ! あなたの花嫁衣装を作るんだから!」
依頼者が花嫁側でも花婿側でも両方でも何でもいい。
囮が一人いれば、仕事はやりやすくなるはず。そして自分は日中、肌を晒すのは無
理だ。
エンジュの魅惑的な肢体で会場中を魅了するためには、胸の大胆に空いたドレスが
きっと効果的だろう。ベールは長めに、シルエットはシャープに、ブーケはシンプル
に。
そんな計画の一端も、まだ口にしていない。
本当に大丈夫なのだろうか?
『 易 し い ギ ル ド 入 門 【6】』
~ 易しい仕事の初め方 ~
場所 :ソフィニア
PC :エンジュ シエル
NPC:シダ
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依頼書の束を持ってシエルはもう一度シダの元へと戻る。
満面の笑みで応対する獣人に困惑しながらも、一枚の依頼書を指し示す。
「この依頼にするわ」
「じゃあコレで契約成立って事で、依頼は下げておくからね。はい、詳細。
依頼者の方にも連絡入れとくよ。落ち合う場所は『クラウンクロウ』って宿だか
ら。
あと、大丈夫だと思うけど、無理なときには早めに連絡してね。
依頼を他の冒険者に頼むことになるからさ」
シダは一枚の依頼書を別のファイルにしまうと、そこから詳細の書かれた紙を三枚
渡す。他の依頼書は元のファイルにきちんと戻したようだ。
シエルは詳細をめくって首を傾げた。
「書いてなかったけど……期限は?」
「期限がある依頼もあるけどね、この辺は『要相談』ってカンジのやつだから」
そういうと、愛嬌たっぷりにウィンクをするシダ。……獣人の彼がウィンクしたと
ころで、シエルには興味も何もナイのだが。
後ろからエンジュが覆い被さるように抱きついてきて、シダに向かって「しっし
っ」と手を振る。シエルはシエルで大きな胸に押されながら「重っ……」と漏らし
た。
「手続き終わりでしょ。もう連れて行くわよ?」
「ああ、構わないけど……そんなに邪険にしなくてもいいじゃないか」
寂しそうなシダの言葉に返すのは、冷ややかな視線×2。
「シエルに色目使うからよ」
変な誤解をされそうなセリフだが、本人達に恋愛感情はないからだろう、色気が全
く感じられない。ちょっと有名な「肉食エルフ」が本当に女の子に熱を上げているの
なら、そこそこ面白い噂話になるかもしれないが。
(コレだけじゃれてても、全く色気無いからなぁ)
苦笑するシダ。目にした人には彼女たちの関係がすぐに分かるのだ。
噂にも聞かなかったのはそのせいかもしれない。
ギルド支部を後にする彼女たちを、シダは目を細めて見送った。
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「それで、結局どれにしたの?」
エンジュが横から詳細の書かれた資料をシエルから取り上げた。
「ええと……依頼者宅の住所と地図でしょ、依頼者の名前と肩書きでしょ、簡単な容
姿でしょ……なにコレ、コレだけ?」
「まあね、おかげで覚えちゃったわ」
エンジュから資料を取り返そうともせずに、シエルはすたすた歩く。置いて行かれ
そうになって、小走りにエンジュが駆け寄った。
連れ立って歩きながら、エンジュは資料に目を走らせる。その資料の冒頭には『結
婚式のどさくさに紛れて依頼人二人を逃亡させる(極秘』と記されていて、黒ずくめ
の相棒との違和感に首を傾げた。
「……で?」
「で……って、依頼者に話聞かなきゃ動けないでしょ」
「じゃなくて、どうしてコレにしたのかなーと思って」
素朴な疑問。
「一番風を使いやすい仕事だと思ったからよ」
明快な答え。
「まあ、シエルの初仕事ですもんね。シエルの直感で決めないと」
「……聞いてないわね?」
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まあ、そんなこんなで移動した先は、何故か洋裁店。色とりどりの生地が所狭しと
並べられている。店員に訝しがられながらも生地を物色するシエル。エンジュは、こ
んな所で待ち合わせとは珍しい依頼人もいたもんだと、一人通りを眺めていた。
通りの向こうからは何とも言えない香りが漂い、彼女の胃を刺激する。一方通行か
と思う程の人の流れが、チャーハン祭りだのチャーハン魔王だのと噂している。
「エンジュ、こっちに来てくれないと困るんだけど」
「さーっぱり事情が飲み込めませーん」
と言いながらも素直に移動。シエルがいくつかの布をエンジュに押し当て、その中
でも光沢のある白い布を選び、店員に渡す。
「これ、いくら?」
「ええと、長さはどのくらいでしょうか、お切りできますけれども」
「全部よ」
『えっ?』
最後の言葉は声が重なった。店員とエンジュの声だ。
「何よ、ココには買い物に来たの?」
「エンジュ、シダの話聞いてた……?」
お互いに疑問符が飛び交う。店員はオロオロとロール状の生地を抱きかかえてい
る。
「落ち合うのは冒険者の宿。
連絡はギルドから向こうへ行くらしいけど、すぐには無理。
だから先に準備しておきたいモノがあったのよ……」
呆れるシエルに、エンジュも呆れ顔だ。
「なんだ、時間が空いてるんだったら言ってよ。
ここに来てから町中が香ばしい、美味しそうな匂いしてるのに」
くんくん、と鼻を鳴らすエンジュ。確かに、町中が美味しそうな香りに包まれてい
る。
「わかった、行って食べてもいいわエンジュ。ただし」
「何よ」
「今回の仕事は私の計画に従ってもらうからね」
言葉は聞こえているはずなのに、意識の半分以上は匂いに釣られているエンジュ。
「わかってるわかってる、早めに戻るわ」
生返事で足を通りに向けた。
「私の名前で宿を取るから、用が済んだら宿で会いましょう」
後ろからのシエルの言葉は果たして聞こえていたのだろうか?
エンジュの気もそぞろな足取りを不安に思いながらも、シエルはもう一度声を掛け
た。
「帰ったら採寸よ! あなたの花嫁衣装を作るんだから!」
依頼者が花嫁側でも花婿側でも両方でも何でもいい。
囮が一人いれば、仕事はやりやすくなるはず。そして自分は日中、肌を晒すのは無
理だ。
エンジュの魅惑的な肢体で会場中を魅了するためには、胸の大胆に空いたドレスが
きっと効果的だろう。ベールは長めに、シルエットはシャープに、ブーケはシンプル
に。
そんな計画の一端も、まだ口にしていない。
本当に大丈夫なのだろうか?
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