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2024/11/01 08:41 |
易 し い ギ ル ド 入 門 【7】/エンジュ(千鳥)
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『 易 し い ギ ル ド 入 門 【7】』 
   
               ~ 依頼人 ~



場所 :ソフィニア
PC :エンジュ  シエル
NPC:パリス アンジェラ
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「ただいま~!!聞いてよシエル、今公園でチャ-ハン祭が・・・」

エンジュが誘われた香ばしい匂いの先は小さな公園だった。
 人だかりの中心で、チャ-ハン魔王なぞと名乗る男たちが、紅生姜チャ-ハンなるものを作っていた。
 何から何まで怪しいことこの上なかったが、それはそれ、美味しいものは美味しい。と、ちゃっかり祭に紛れ込んだエンジュは日が暮れるまでチャ-ハンをその胃袋にかきこみ続けた。
 祭のフィナーレを見る事なく帰って来たのはお腹がいっぱいになったからではなく、美しい自分の相方と、夕食をとる為であった。

 しかし、開いた扉の奥に立っていたのは仮面の美女ではなく、若い男女だった。
 突然の乱入者に表情を強張らせ、こちらを見ている。

「あら、ゴメンなさいね。部屋を間違えたみたい」

 その男女は、お互いの手を強く絡ませ、その姿には二度と離れるものかという決意が見られた。
 まるで駆け落ちの真っ只中にいる恋人たちのようだった。

(ん・・・駆け落ち?)
「ここであってるわよ。エンジュ。扉を閉めて」

そんな二人の奥から、聞き慣れた声がする。
 立ち上がったシエルは二人の脇を擦り抜け、エンジュを室内に招いた。

「安心してください。彼女は私の友人で腕の良いハンターよ。今回の依頼では彼女も協力してくれます」
「え?」

 お願いしますと頭を下げる二人に、エンジュは途方に暮れながらシエルを見た。

「ねぇ。この人たちって・・・」
「私の依頼主よ。事態は急を要してるみたい。シダ君が連絡したら、向こうがすぐに会いたいって」
「で?依頼の内容は何なの」

ただの駆け落ちならば、自分達で勝手にすれば良い。
 家族や世間体や将来を全て投げ捨てるのだ。
 他人に頼る方が間違ってる。
 おそらく、彼らには、それが出来ない理由があるのだろう。

「全ては僕が不甲斐ないせいなんです」

パリスと名乗った男が口を開いた。
 パリス・ヴァデラッシュ――書類に書かれた依頼人の名前は確かそう記されていた。
 
「僕は学院の調査員をしています。調査に出かけたオフィ砂漠で遭難している所を彼女に助けられたのが出会いでした。僕とアンジェラは恋に落ち、長老にも認められた仲になりました」

 ほっそりとした体格に知的な雰囲気を纏ったパリスはいかにもソフィニア男という様子で、エンジュから見るとどうも頼りなく映る。
 うなだれているから余計そう見えるのかもしれない。
 一方、彼の横にそっと寄り添うアンジェラは、エンジュよりも背の高い美女で、黒く癖のある長い髪を背中まで伸ばし、吊り上った黒い目がじっと観察するように自分たちに向けられている。
 実際はかなり気の強い性格なのが一目でわかった。

「オフィ砂漠の長老と言うと、アンジェラさんは砂漠の民なのかしら・・・?」

 シエルが怪訝そうな顔でたずねた。

「そうです。彼女は砂漠の民"ジグラッド"なのです」

 パリスが渋い顔で頷く。
 エンジュは、何かに気がついたらしいシエルの横顔を眺めながら説明を待った。

「そして、我がヴァデラッシュ家は代々イムヌス教のパトリアルシュ(族長)の議長を務めている家系なのです」
「イムヌスとジグラッドねぇ・・・」
「で、何で駄目なのよ?」

 イムヌス教については、エンジュも何となくは耳にしているが、エルフという外見上、彼らとかかわった事は殆どなかった。
 砂漠の民と、イムヌス教には何か確執でもあるのだろうか。

「もう、日が暮れますね」

 パリスが、窓の外をみてポツリといった。
 
「だから何なのよ?」

 アンジェラが、パリスの腕から離れ、窓際へと足を運んだ。
 その黒い髪が体全体を覆ってゆく。
 顔の横にあったはずの耳が次第に伸びてゆき、頭上でピンと立ち上がった。
 シダの姿とは全く違う、美しく、しなやかな体躯の黒い獣人がゆっくりと振り返った。

「我々、ジグラッドの民はイムヌスに迫害された人狼の一族です」

 初めて耳にしたアンジェラの声は低いが落ち着いたものだった。
 夜空を背負う人狼の姿は美しかったが、確かに聖職につく家族が許すはずもない。

「でも、長老には許可をもらってるんでしょ?さっさと何処か違う場所で二人で暮らせばよいじゃない」
「もちろん。そうしようと思いました。しかし、父は僕らより上手で、僕たちの結婚を反対すると同時に、僕に別の婚約者を作ったのです。婚約者の名は、ベルベット・ローデ。僕と同じく魔術学院に所属する魔女です」

 パリスの口にした「魔女」と言う言葉は、同じ魔法使いが口にすると随分と違和感があった。
 しかし、パリス曰く、ベルベッドは実に魔女と呼ぶにふさわしい性格の持ち主らしい。

「ベルベッドは僕を愛しているわけじゃない。父が約束した研究資金が欲しいだけなのです。そして、僕らが逃げないようにパティーを奪った」
「パティー?」
「魔法生物と呼ばれる私の大事な半身です」

 絶えず姿を変える砂漠で移動する集落の位置を掴むには、その魔法生物が不可欠だという。

「アンジェラが生まれた時から共にいるパティを見捨てて逃げることなんて出来ません。それに、魔法生物の研究をしているあの女が、パティーを実験体として使うとも限らない。ベルベッドは僕が彼女と結婚すれば、無事にパティーは返すと言っているのですが・・・」

 結婚式まで後2週間。

 "パリスとベルベッドの結婚式までにパティーを奪還する。または家族にアンジェラとの結婚を認めさせる"

 それがシエルに与えられた初めての依頼だった。

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2007/02/12 17:01 | Comments(0) | TrackBack() | ○易しいギルド入門

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