****************************************************************
『 易 し い ギ ル ド 入 門 【8】』
~ 打ち合わせは綿密に ~
場所 :ソフィニア
PC :エンジュ シエル
NPC:パリス アンジェラ
****************************************************************
"パリスとベルベッドの結婚式までにパティーを奪還する。
または家族にアンジェラとの結婚を認めさせる"
シエルは頭の中でもう一度繰り返し、一度閉じた目を開けた。
「結婚式まで後2週間。時間がないからパティーの奪還に絞った方がいいわね」
考えながら呟く。
まあ、しっかり聞こえていたようで、パリスとアンジェラはしっかりと頷いた。
一度エンジュに視線を送るも、彼女は傍観を決めてこんでいるようだ。
まあ、冒険者ギルドでの初仕事でもあり、好きにさせようということなのだろう。
不安を押し殺して提案する。
「今思いつくのは三つ。
一つは代わりの結婚相手を用意して、式を引き延ばす方法。
もう一つは婚約者とやらに近づいてパティーの居場所を捜す方法。
そして最後は、素直に結婚すると見せて、パティーを見つけ次第逃げるという方
法」
一本ずつ指を立てながら説明していく。どれも自信があるわけではない。
「一番の問題は、パティーの居場所が全く分からないことなの。
それさえ分かれば何とか逃がしてあげられると思うんだけど、手がかりがなきゃ
ね」
小さく肩を竦めた。
パリスとアンジェラは見つめ合っていたが、やがてこちらに向き直って言った。
「全てお任せします」
「お願いします」
深々と頭を下げる二人。
それまで黙って聞いていたエンジュが、片手をあげた。
「思ったんだけど」
視線がエンジュに集中する。
「平行してやってみたらどう?」
「……そうね」
こうして、作戦会議が始まった。
先ほどあげた選択肢のうち、最後の一つは最終手段としても、先にあげた二つは早
く取りかからないと全く効果が無くなってしまう。ということで、シエルとエンジュ
が別行動を取ろうということになったのだが。
「エンジュなら一目惚れするのに充分な容姿を持っているし、人当たりもいいわ。
私は彼女を代わりの結婚相手として連れて行くべきではないかと思うんだけど」
「いえ……父は異種族全般に偏見があるので、エルフというだけで同じように」
「……そう」
「……ええ」
というワケで、選択肢もなく。やむなく仮面を外す。
男は感嘆の溜め息をもらし、獣人の女は彼を肘で小突き、エンジュはニッコリと笑
った。
「私は日光を浴びると火傷を負う体質なの。
普段の恰好は日光を避けるのは勿論だけど、この異様な容姿を隠すためでもあって
ね。
肌や髪の白さは化粧やカツラで何とかなるとしても、目を染める薬は知らないし。
それでも構わない? ご両親には抵抗が有るんじゃない?」
念を押す顔には自嘲の笑みを浮かべる。
嫌味になってしまわないように気をつけていても……あまり上手くいっていないよ
うだ。
「それは大丈夫だと思います。かえって喜んでくれるでしょう」
「では、夜しか会えないということにしておいて下さい。
理由は、そうですね……本当のことを。
嘘は本当のことに少しだけ混ぜた方が気付きにくいと言いますし」
男が頷く。獣人の女は不安そうに男に擦り寄った。
「では、髪の色、肌の色、出会った場所あたりを決めて……」
後は何を決めておけばいいだろう?
「髪も肌もそのままで結構ですよ。折角の白さが勿体ない……てっ!」
優男の足が、しっかり隣の彼女に踏まれている。
可愛い人だなと笑みが漏れた。この人達は何も知らないから。
夢で、よく後ろ姿を見かける青年がいた。
彼はいつも顔を見せてくれない。しかし、銀の髪はとても印象的で、逢えば必ず分
かると確信があった。すらりと伸びた指に光るリングも覚えている。
その人は一体誰なのか。記憶を無くした時期に逢った人なのかもしれないし、想像
の産物なのかもしれない。正直、そのどちらでもあるような、不思議な存在。
追いかけても追いつけず、けして振り返らない彼……彼以上に自分胸を焦がす相手
はいない。その事実は、夢を見始めてからずっとかわらないのだ。
だから、実はドレスにも抵抗があった。あの人以外の前で、純白のドレスを身に着
けてはいけないんじゃないかと。芝居でも、それは彼を裏切るのではないかと。
やきもちをやく可愛い彼女は、ふくれているように見えた。まあ、獣人を見慣れて
いないせいで、表情が分かり辛くはあるのだが。
だから言う。彼女がこれ以上心を痛めないように。
「お世辞をいちいち真に受けたりしないから大丈夫。
あなたはパティーを見つけ次第、安全に逃げられるよう考えて」
心配そうに見ていた彼女が、表情を引き締める。
そうだ。彼女たちに手助けできるのはパティーを見つけ、逃げるところまで。
そこから先は、彼と彼女が力を合わせて切り開いていく道だから。
「……そうだ!」
男が何かを思いだしたように手を叩いた。
「明日、学院の公開講座があるんです。
私も手伝いに借り出されているので、そこで出会ったことにすれば」
「今まで話題にも上らなかった言い訳にもなる、か……」
少しでも嘘の情報が隠れるように、なるべく本当の情報をいれなくては。
「では、明日学院で“初めて”会いましょう。
なるべく急速に親しくなった風を、周りにも印象付けられるように」
言って、考える。
「それで、その公開講座には婚約者の方もいらっしゃるんですか?」
「ええ、かなりの人間がバイト扱いで手伝いますから。
研究資金を少しでも稼ぎたい彼女には、断る理由もないでしょう」
では、学院内で別行動になるのか。
エンジュは、その魔女とやらに近づけるだろうか?
「私は案内係だったハズなので、接触は簡単に出来ます。
問題は彼女の担当を知らないってことですね」
男が頭をかく。エンジュは何を考えているのか計りかねる笑顔で、こちらを眺めて
いる。
「まあとにかく、腹が減っては何とやら、よ。
夕飯にしましょう! そうすればきっと良い案が浮かぶわよ!!」
……あれは「お腹空いちゃったなー」だったのか。
脱力するシエルを見ながら、エンジュは元気にそう言った。
『 易 し い ギ ル ド 入 門 【8】』
~ 打ち合わせは綿密に ~
場所 :ソフィニア
PC :エンジュ シエル
NPC:パリス アンジェラ
****************************************************************
"パリスとベルベッドの結婚式までにパティーを奪還する。
または家族にアンジェラとの結婚を認めさせる"
シエルは頭の中でもう一度繰り返し、一度閉じた目を開けた。
「結婚式まで後2週間。時間がないからパティーの奪還に絞った方がいいわね」
考えながら呟く。
まあ、しっかり聞こえていたようで、パリスとアンジェラはしっかりと頷いた。
一度エンジュに視線を送るも、彼女は傍観を決めてこんでいるようだ。
まあ、冒険者ギルドでの初仕事でもあり、好きにさせようということなのだろう。
不安を押し殺して提案する。
「今思いつくのは三つ。
一つは代わりの結婚相手を用意して、式を引き延ばす方法。
もう一つは婚約者とやらに近づいてパティーの居場所を捜す方法。
そして最後は、素直に結婚すると見せて、パティーを見つけ次第逃げるという方
法」
一本ずつ指を立てながら説明していく。どれも自信があるわけではない。
「一番の問題は、パティーの居場所が全く分からないことなの。
それさえ分かれば何とか逃がしてあげられると思うんだけど、手がかりがなきゃ
ね」
小さく肩を竦めた。
パリスとアンジェラは見つめ合っていたが、やがてこちらに向き直って言った。
「全てお任せします」
「お願いします」
深々と頭を下げる二人。
それまで黙って聞いていたエンジュが、片手をあげた。
「思ったんだけど」
視線がエンジュに集中する。
「平行してやってみたらどう?」
「……そうね」
こうして、作戦会議が始まった。
先ほどあげた選択肢のうち、最後の一つは最終手段としても、先にあげた二つは早
く取りかからないと全く効果が無くなってしまう。ということで、シエルとエンジュ
が別行動を取ろうということになったのだが。
「エンジュなら一目惚れするのに充分な容姿を持っているし、人当たりもいいわ。
私は彼女を代わりの結婚相手として連れて行くべきではないかと思うんだけど」
「いえ……父は異種族全般に偏見があるので、エルフというだけで同じように」
「……そう」
「……ええ」
というワケで、選択肢もなく。やむなく仮面を外す。
男は感嘆の溜め息をもらし、獣人の女は彼を肘で小突き、エンジュはニッコリと笑
った。
「私は日光を浴びると火傷を負う体質なの。
普段の恰好は日光を避けるのは勿論だけど、この異様な容姿を隠すためでもあって
ね。
肌や髪の白さは化粧やカツラで何とかなるとしても、目を染める薬は知らないし。
それでも構わない? ご両親には抵抗が有るんじゃない?」
念を押す顔には自嘲の笑みを浮かべる。
嫌味になってしまわないように気をつけていても……あまり上手くいっていないよ
うだ。
「それは大丈夫だと思います。かえって喜んでくれるでしょう」
「では、夜しか会えないということにしておいて下さい。
理由は、そうですね……本当のことを。
嘘は本当のことに少しだけ混ぜた方が気付きにくいと言いますし」
男が頷く。獣人の女は不安そうに男に擦り寄った。
「では、髪の色、肌の色、出会った場所あたりを決めて……」
後は何を決めておけばいいだろう?
「髪も肌もそのままで結構ですよ。折角の白さが勿体ない……てっ!」
優男の足が、しっかり隣の彼女に踏まれている。
可愛い人だなと笑みが漏れた。この人達は何も知らないから。
夢で、よく後ろ姿を見かける青年がいた。
彼はいつも顔を見せてくれない。しかし、銀の髪はとても印象的で、逢えば必ず分
かると確信があった。すらりと伸びた指に光るリングも覚えている。
その人は一体誰なのか。記憶を無くした時期に逢った人なのかもしれないし、想像
の産物なのかもしれない。正直、そのどちらでもあるような、不思議な存在。
追いかけても追いつけず、けして振り返らない彼……彼以上に自分胸を焦がす相手
はいない。その事実は、夢を見始めてからずっとかわらないのだ。
だから、実はドレスにも抵抗があった。あの人以外の前で、純白のドレスを身に着
けてはいけないんじゃないかと。芝居でも、それは彼を裏切るのではないかと。
やきもちをやく可愛い彼女は、ふくれているように見えた。まあ、獣人を見慣れて
いないせいで、表情が分かり辛くはあるのだが。
だから言う。彼女がこれ以上心を痛めないように。
「お世辞をいちいち真に受けたりしないから大丈夫。
あなたはパティーを見つけ次第、安全に逃げられるよう考えて」
心配そうに見ていた彼女が、表情を引き締める。
そうだ。彼女たちに手助けできるのはパティーを見つけ、逃げるところまで。
そこから先は、彼と彼女が力を合わせて切り開いていく道だから。
「……そうだ!」
男が何かを思いだしたように手を叩いた。
「明日、学院の公開講座があるんです。
私も手伝いに借り出されているので、そこで出会ったことにすれば」
「今まで話題にも上らなかった言い訳にもなる、か……」
少しでも嘘の情報が隠れるように、なるべく本当の情報をいれなくては。
「では、明日学院で“初めて”会いましょう。
なるべく急速に親しくなった風を、周りにも印象付けられるように」
言って、考える。
「それで、その公開講座には婚約者の方もいらっしゃるんですか?」
「ええ、かなりの人間がバイト扱いで手伝いますから。
研究資金を少しでも稼ぎたい彼女には、断る理由もないでしょう」
では、学院内で別行動になるのか。
エンジュは、その魔女とやらに近づけるだろうか?
「私は案内係だったハズなので、接触は簡単に出来ます。
問題は彼女の担当を知らないってことですね」
男が頭をかく。エンジュは何を考えているのか計りかねる笑顔で、こちらを眺めて
いる。
「まあとにかく、腹が減っては何とやら、よ。
夕飯にしましょう! そうすればきっと良い案が浮かぶわよ!!」
……あれは「お腹空いちゃったなー」だったのか。
脱力するシエルを見ながら、エンジュは元気にそう言った。
PR
トラックバック
トラックバックURL: