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PC:デコ、ヒュー
NPC:イーネス
場所:コタナ村
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ヒューは毒を抜くために、静かに神から借りた力を行使する。一般的な司祭や神官とまた違った体系の奇跡で、事前に借りておく必要があるが、祈りの言葉はほとんどいらない。ただし、彼の神の場合剣を媒介にする必要があった。
剣で軽く腕を切り、少しだけ血を流した。冷たい感触と痛みが走った後に体がすっと痺れが消え体が軽くなる。音も何もない小さな奇跡の力だ。血から毒素を抜くという単純で効果的なこの奇跡はヒューは少し気に入っている。
「なに、やってるんだ!」
イーネスが戸惑ったようにヒューを見た。彼女は剣士がおかしくなったとしか思えない。けれどヒューは首を振った。
「落ち着け」
「アンタがしろ!」
落ち着いてるのに、とばかり首を傾げるヒュー。
「まあいい。行ってくる」
「え、ちょっちょっと!」
さっと初雪を踏むような音を上げて、剣士は熊へと向かった。
外へでれば、丁度熊の腕神官へ振り下ろそうとした所だった。砂袋では受けきれないだろう。ヒューは雪を軽く踏み、その間へ跳ぶ。空中で爪を受け、きりきりと吹き飛び雪の上を転がった。薪割りの台に叩きつけられて止まる。背中が痛むが背骨は平気のようだ。まだやれる。剣を熊目掛けて構え直す。
二人の男に囲まれて、熊は戸惑っているようだった。
その熊目掛けて、ヒューは走り込んだ。いわゆる突きのための動きだ。熊はそれに勝負するかのように四本足で突っ込んでくる。ヒューは頭部を狙うが、熊は体を沈めることによって回避し、剣士の足へと爪を振るう。ヒューは咄嗟に剣から右手を離して跳び上がり足を折る。そして熊の背中を腕で叩き、台がわりにして跳び越える。
けれど着地はうまく行かず、受け身はとれなかった。雪のおかげで怪我はないが地面か舗装路でこれはやりたくないな。剣士はぼやいた。口に入った雪をはき出し、熊へ再び向かう。
そしてじりじりとにらみ会う。だれも声を出さない。獣は剣士の瞳を見ていた。剣士もまた目を反らさない。
雪がまた降り始めた。それが体を叩くと外套を着なかったのが悔やまれた。国がどこの出身だろうと、雪が体温を奪うのは当たり前だ。今頃になって背中が強く痛み始めた。あざにでもなったのだろう。
しばらく、風と雪の音だけがした。
遠くから見れば、熊との間にデコが審判のように立っているような構図だった。ちょっとした決闘のようにも見えるだろう。旅先で知り合った画家ならどういう風に描くだろうか。ヒューはそんな連想でなんとか気を紛らわしていた。
がちがちと歯がなりそうだ。熊は中々の大きさだが怖いとは思っていない。どちらかと言えば寒さのためだった。南方の気質に慣れすぎたのだろうか。
「死ねや!」
物騒な女の声と同時に、家から矢が飛び出した。けれど雪風に遊ばれて外れてしまう。
熊がじっと少女の方へ目を向けた。イーネスは喉をひぃっと鳴らして一歩後ずさる。野生動物に襲ってくださいと言わんばかりの表情だった。
「ちっ!」
少女の方へ熊が来ないようにデコが牽制の砂袋を振るう。しかし、熊はパンっという音ともに袋をはじき飛ばす。狙い澄ましたような一撃で思わず感嘆の息をヒューは上げた。並の戦士より器用だ。
「ディザームっておい」
武器落としに手を結んで開いてしながら驚くデコ。それを無視して熊は跳躍した。弱い者から潰していくためか、それとも弓がよほど気に触ったのか。吠えながら飛びかかる。
ヒューはその横から叩き伏せるような斬撃を放った。跳躍の威力と斬撃の一撃がぶつかりあい、互いの体を伝わった。ヒューは押し負けて雪にまた転び、すぐにその勢いで立ち上がる。
熊の方は一撃をまともに受けて失速し、跳躍は失敗に終わっていた。赤い血が流れだし、喉の奥を荒げている。余計凶暴さを増したようだ。
「しまった」
手負いの獣にしてしまった。中途半端に傷ついた獣に暴れられると手が付けれない。ただでさえ大熊なのにこれではどうしようもない。
砂袋をデコがそっと拾う。警戒しながら、家の方へ指を向けた。ヒューは静かに頷いた。
怒り狂った熊がまた爪を振り降ろす。ヒューはすっと受け流す。しかし、また一撃、また一撃と爪が振るわれる。そして時折混じる牙がヒューに攻撃のリズムを取らせない。人間と戦い慣れているような熊だ。
その間デコはゆっくりと少女を家の中へ引っ張り、キッチンの暖炉へと走った。火のついた炭を収めている壺ごと取り出す。火傷しそうな熱さだが、手袋が何秒かは押さえてくれる。
「小僧、退け!」
剣士は答える前に、祈りの言葉を遂げた。剣にはいくつもの小さな魔力の粒がぽつぽつと湧き上がる。そして牙の攻撃が来た時にタイミングを合わせて、剣を地面へと叩きつける。ばっと魔力の粒が爆ぜて、雪を大量にまき散らした。
熊が一瞬ひるんでいるうちに、ヒューはすっと退いた。それと同時にデコが火の壺を投げつけた。陶器が割れる歯切れのいい音と共に熊の頭部に炎が降り注いだ。
咆哮が木々を揺らし、人間達を震え上がらせる。熊は体毛に写った火を消そうともがきながら、やっと人里から離れていった。
イーネスが安心したように息を吐いた。慣れたのか腰砕けには成らずには済んでいた。
けれども、ヒューとデコの表情は険しく冷たいものだった。
「あれはまた来る、な」
「ああ」
寒風と雪の中に二人の言葉は消えていった。
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PC:デコ、ヒュー
NPC:イーネス
場所:コタナ村
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ヒューは毒を抜くために、静かに神から借りた力を行使する。一般的な司祭や神官とまた違った体系の奇跡で、事前に借りておく必要があるが、祈りの言葉はほとんどいらない。ただし、彼の神の場合剣を媒介にする必要があった。
剣で軽く腕を切り、少しだけ血を流した。冷たい感触と痛みが走った後に体がすっと痺れが消え体が軽くなる。音も何もない小さな奇跡の力だ。血から毒素を抜くという単純で効果的なこの奇跡はヒューは少し気に入っている。
「なに、やってるんだ!」
イーネスが戸惑ったようにヒューを見た。彼女は剣士がおかしくなったとしか思えない。けれどヒューは首を振った。
「落ち着け」
「アンタがしろ!」
落ち着いてるのに、とばかり首を傾げるヒュー。
「まあいい。行ってくる」
「え、ちょっちょっと!」
さっと初雪を踏むような音を上げて、剣士は熊へと向かった。
外へでれば、丁度熊の腕神官へ振り下ろそうとした所だった。砂袋では受けきれないだろう。ヒューは雪を軽く踏み、その間へ跳ぶ。空中で爪を受け、きりきりと吹き飛び雪の上を転がった。薪割りの台に叩きつけられて止まる。背中が痛むが背骨は平気のようだ。まだやれる。剣を熊目掛けて構え直す。
二人の男に囲まれて、熊は戸惑っているようだった。
その熊目掛けて、ヒューは走り込んだ。いわゆる突きのための動きだ。熊はそれに勝負するかのように四本足で突っ込んでくる。ヒューは頭部を狙うが、熊は体を沈めることによって回避し、剣士の足へと爪を振るう。ヒューは咄嗟に剣から右手を離して跳び上がり足を折る。そして熊の背中を腕で叩き、台がわりにして跳び越える。
けれど着地はうまく行かず、受け身はとれなかった。雪のおかげで怪我はないが地面か舗装路でこれはやりたくないな。剣士はぼやいた。口に入った雪をはき出し、熊へ再び向かう。
そしてじりじりとにらみ会う。だれも声を出さない。獣は剣士の瞳を見ていた。剣士もまた目を反らさない。
雪がまた降り始めた。それが体を叩くと外套を着なかったのが悔やまれた。国がどこの出身だろうと、雪が体温を奪うのは当たり前だ。今頃になって背中が強く痛み始めた。あざにでもなったのだろう。
しばらく、風と雪の音だけがした。
遠くから見れば、熊との間にデコが審判のように立っているような構図だった。ちょっとした決闘のようにも見えるだろう。旅先で知り合った画家ならどういう風に描くだろうか。ヒューはそんな連想でなんとか気を紛らわしていた。
がちがちと歯がなりそうだ。熊は中々の大きさだが怖いとは思っていない。どちらかと言えば寒さのためだった。南方の気質に慣れすぎたのだろうか。
「死ねや!」
物騒な女の声と同時に、家から矢が飛び出した。けれど雪風に遊ばれて外れてしまう。
熊がじっと少女の方へ目を向けた。イーネスは喉をひぃっと鳴らして一歩後ずさる。野生動物に襲ってくださいと言わんばかりの表情だった。
「ちっ!」
少女の方へ熊が来ないようにデコが牽制の砂袋を振るう。しかし、熊はパンっという音ともに袋をはじき飛ばす。狙い澄ましたような一撃で思わず感嘆の息をヒューは上げた。並の戦士より器用だ。
「ディザームっておい」
武器落としに手を結んで開いてしながら驚くデコ。それを無視して熊は跳躍した。弱い者から潰していくためか、それとも弓がよほど気に触ったのか。吠えながら飛びかかる。
ヒューはその横から叩き伏せるような斬撃を放った。跳躍の威力と斬撃の一撃がぶつかりあい、互いの体を伝わった。ヒューは押し負けて雪にまた転び、すぐにその勢いで立ち上がる。
熊の方は一撃をまともに受けて失速し、跳躍は失敗に終わっていた。赤い血が流れだし、喉の奥を荒げている。余計凶暴さを増したようだ。
「しまった」
手負いの獣にしてしまった。中途半端に傷ついた獣に暴れられると手が付けれない。ただでさえ大熊なのにこれではどうしようもない。
砂袋をデコがそっと拾う。警戒しながら、家の方へ指を向けた。ヒューは静かに頷いた。
怒り狂った熊がまた爪を振り降ろす。ヒューはすっと受け流す。しかし、また一撃、また一撃と爪が振るわれる。そして時折混じる牙がヒューに攻撃のリズムを取らせない。人間と戦い慣れているような熊だ。
その間デコはゆっくりと少女を家の中へ引っ張り、キッチンの暖炉へと走った。火のついた炭を収めている壺ごと取り出す。火傷しそうな熱さだが、手袋が何秒かは押さえてくれる。
「小僧、退け!」
剣士は答える前に、祈りの言葉を遂げた。剣にはいくつもの小さな魔力の粒がぽつぽつと湧き上がる。そして牙の攻撃が来た時にタイミングを合わせて、剣を地面へと叩きつける。ばっと魔力の粒が爆ぜて、雪を大量にまき散らした。
熊が一瞬ひるんでいるうちに、ヒューはすっと退いた。それと同時にデコが火の壺を投げつけた。陶器が割れる歯切れのいい音と共に熊の頭部に炎が降り注いだ。
咆哮が木々を揺らし、人間達を震え上がらせる。熊は体毛に写った火を消そうともがきながら、やっと人里から離れていった。
イーネスが安心したように息を吐いた。慣れたのか腰砕けには成らずには済んでいた。
けれども、ヒューとデコの表情は険しく冷たいものだった。
「あれはまた来る、な」
「ああ」
寒風と雪の中に二人の言葉は消えていった。
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