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2024/05/16 20:08 |
羽衣の剣 6/デコ(さるぞう)
PC:  デコ、ヒュー
NPC: イーネス(今回は自宅待機?)
場所:  コタナ村

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ミシッミシッミシッと、密度の濃い雪を踏み締める音と松明の爆ぜる音だけが支配する暗闇。
一歩、そしてまた一歩、着実にデコは自らが捉えた気配の主の元へと足を進める。
デコの捉えた気配は殺意でも、敵意でもなく、それら全てを含んだ狂気とも言える物だった。

この秋に地震で崩れた冬篭り用の巣穴。
そのせいであっさりと越冬を拒まれた哀れな獣・・・
どんな事情があれ、彼は自然の掟に従いこのまま滅びるしかない。

歩み寄る自然の力と死の恐怖。


そして彼は世界に見捨てられた・・・




「チッ、たまらんな、神も仏も無いって奴だ」
視界を遮る雪を睨みつけ、舌打ちしながら苛立っていた。
これから屠らねばならない熊の事、そして熊が奪った命の事を、それを救えない自分の事を。

そして彼は思う、この力だけが支配するこの地で最も力を持つはずの神の無慈悲さ、
そして、無慈悲ゆえの優しさを・・・


「デコは神が嫌いなのか?」
独り言に反応したヒューはポツリと問い掛ける。
若者のそれは純粋な疑問。

「嫌い・・・とは違うな、まっ色々あるんだ、色々な」
面倒臭そうに答えながら弄ろうとした髭は分厚い手袋に邪魔された。



弄り損ねた右手。
さまよった視線はヒューに注ぐ
真っ直ぐなヒューの存在を感じながら思い出す。



(成すべき事を・・・人が成す事、神が成す事、神は人ならず、人は神ならず・・・)



昔タナクアから響いた言葉を…




降りしきる雪を踏み締め、隣にヒューを並べ歩み、そして口を再び開いた。
「タナクアは・・・俺の信じる神はな、俺に色々な事を教えた、ガキの頃からな
そして俺はその声に従ってきた・・・それは正しくもあり、間違いでもあった」

隣を歩くヒューに首を向けることも無く
吹雪く雪道を真っ直ぐ目的に向って歩く

「小僧もいつか判る、司祭にとって、神とは従う者じゃなく、共に歩む存在
そして・・・」
デコはそこで独白を止めた
周囲に自らの存在を隠そうともしない獣の匂いが漂う。


「居る、風上っ」
獣臭のする方角に向けてヒューは剣を構え睨みを効かす。

松明を高く掲げ巨大な獣を映し出そうとデコは2歩、3歩と足を進める。
右手に松明、左手には聖印
そして朗々と聖なる言葉を詠みあげる。

一方ヒューはデコを守るように、そしてその先に存在する巨大な獣を威嚇するように飾り気の無い剣を高く両手で掲げ
まるで、その剣そのものが神であるかのようにその切っ先に祈りを籠める。


二つの神氣が頂点まで高まると同時に一つの巨大な影が現れた・・・

170センチに満たないデコの二倍近い体格。
直立すればデコでは頭部への攻撃は、ほぼ不可能。
圧倒的な威圧感がデコの身体を竦ませる。


グオォォォォォォォと、地鳴りのように熊は吼える。


「参る!」
ギュムと、靴が雪を噛む音と共にヒューの剣が踊る。
敵の視線がヒューに集まる。
フッという抜息と共に横に薙いだ剣を足元から二の腕に向けて軌道修正し克ち上げる


「いつになったら、俺は神の揺り篭から二本の足で立てるようになるのかね」
余計な一言と共に溜息を一つ。
ヒューが剣を舞わせてる後ろで朗々とデコは呪を紡ぐ。
一つ一つの神聖な言葉、声、動作は舞いとなり、呪を形取る。



ヒューとデコ、二つの舞いが、巨大な獣を中心に紡がれる、
そして二人は無言のまま、乱れそうな呼吸を必死で整える。


二合、三合と熊へと叩きつけられる剣。


後方で延々と紡がれるは、”神漁の呪”と呼ばれる山吹鮪漁の時に捧げられる神への舞い。




(願わくば哀れなる獣に鎮魂と安らぎを)
謳い、舞い、願いながらデコはヒューへの祝福の舞いを続けていった。



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2010/02/08 21:36 | Comments(0) | TrackBack() | ○羽衣の剣
羽衣の剣 7/ヒュー(ほうき拳)
PC:  デコ、ヒュー
NPC: イーネス
場所:  コタナ村

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 ヒューは動きの早さに焦っていた。熊のではない。自分の動きだ。あの不思議な舞の効果なのだろうが、戸惑う。体のリズムが変化するとここまで違うものなのか。長時間戦った時になる、上気した感覚にそれは似ていた。


 奇妙な加護だ、と場違いな思いを巡らせながら、ヒューは熊の豪腕を刃で受け流した。


 掠れるような肉を裂く音と吠え猛る声が目の前で響くが、ヒューは目を逸らさず見つめた。威嚇に負けた獣は戦う資格がなくなるのだから。

 体格に似合わないなめらかな動きで膝を折り曲げ、肩口に剣を構え、思い切り雪を蹴った。そうして体当たりするように剣を叩きつける。


 熊は腕を振り下ろし、突撃を防ごうとするがくぐり抜けられてしまった。


 ヒューは剣が当たる直前、祈念を剣に集約した。祈りによって重量が上がった剣は通常の倍近い衝撃で、大熊の足を叩く。

 めりりっという嫌な音と共に熊の骨が曲がり、剣が食い込んだ。足から緩やかに崩れる。ヒューは食い込んだ剣を引き抜くと一端離れる。血溝にわずかに溜まった赤が散り、刃は衝撃ですっかり潰れていた。

 血で雪が静かに汚れた。熊は咆哮を響かせるが、血が足りないためかすぐに弱々しくなった。それでも、三本足で何とか体を立て直す。


 それを眺めながらヒューは剣が軽くなるのを感じた。加護が失われたのだろう。ヒューはデコのように恒久的な加護や呪いを使うことはできない。だが、なくても構わないだろう。剣があれば神はそこにいるのだから。


 熊は怒りに任せて、前足で雪を叩き、近寄ってくる。以前ほどの早さはない。勝負や生死はあっさりと決まるものだ、と老人にきいたことがある。その通りなのだろう。

 ヒューはそれを受け止めるように剣を突き出し、少しだけ踏み出した。簡単な突きが熊の突撃によって倍増されて、肩口へと深々と突き刺さった。そして体当たりを受け止める。勢いは意外なほど弱々しく、ほんの少しヒューの足を雪に埋めただけだった。
 そうして熊は動かなくなった。息はしているが、もうこと切れる寸前だろう。


「終わった、か。」


 熊に悲しげな視線をデコは向けていた。ヒューはそれに答えず剣を手放し、熊の体を倒す。


「終わってた」


 足への一撃で出血死は決まっていた。ヒューはそう思い返すとデコをすねたように睨んだ。


「援護があるなら、いってくれ。びっくりした」


 デコは少しきょとんとした後、少しだけ笑って「ん、すまん」とだけ答えた。


「終わったのね」


 イーネスが家から出てくる。表情はボウッとしたもので、感情はあまり読めなかった。


「ああ」


 どちらともなく、それに頷く。

 それに答えることもない、イーネスは熊へと近づいた。するとほんの少しだけ、熊が動いた。ヒューはすぐさま短剣を抜こうと腰に手を当てるが、デコはそれを引き留める。

 熊はふんふんとイーネスに甘えるように鼻を当てた。


「もう、そんなこと、遅すぎるよ」


 少女はそう言って首を振ると、ゆっくりと、痛みがないように、剣を抜いてやった。血が穏やかに抜けていき、大熊はようやく眠りについた。




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2010/02/18 00:53 | Comments(0) | TrackBack() | ○羽衣の剣
羽衣の剣 8/デコ(さるぞう)
PC:  デコ、ヒュー
NPC: 商人風の男
場所:  コタナ村→フェンリル→ポッケ海(90-203付近の湖)

――――――――――――――――――――――――


「何でついて来る?」
片眉をピクリと動かしてヒューに視線を送る。
「いけないか?俺はデコが心配になった、だからついて行く」
真面目な表情、からかっている様子は無い。

「心配って、あのなぁ、これでも俺は旅には慣れてる、小僧こそ大丈夫なのか?」
新雪降り積もった街道を一歩一歩踏み締めながら並ぶヒューに話しかける。
もっとも冬の時化て船も出せない田舎道を歩いて旅をするなど
慣れでどうこう言えたりしないのだが。

「俺の生まれは、”北風の向こう”と呼ばれてる、大丈夫」
デコにとってはかすかに聞いたことのある蛮族の地。
お互いに昨日まで語らなかったことを少しづつ語り、知る。

なんだかんだ言いながらも、一人で旅をする危険はデコもヒューも良く知っているのだ。


それは人生も然り、一人では何も出来ない。
出会い、別れ、そして新たに出会う。
それは生きとし生ける者達全ての幸であり業なのだから。


「やっと峠越えか、あとはこの森を抜ければフェンリルだ。」
コナタ村を出て所々に備えられた冬旅用の無人宿を使い二週間
港のある小街フェンリルに到着し、ようやく乗合馬車が使えるようになる。

町並みは少々寂しいが、コタナ村やチヌタナに比べるべくも無く活気があり
足元の雪もかなり少なく歩きやすい。

「さぁて、運命の女神様は俺たちをどこに誘ってくれるんだろうな・・・」
町を見渡しそんな事を呟く。
「坊主、行きたい場所はあるか?」
言いながら荷物を担ぎ直すと横に並ぶヒューに聞く。

「んー、修行だから何処でも。」
素っ気無く返した後、デコと同じように町の様子をゆっくり見渡す若者の姿に
あいかわらず普段は緊張感の無い子だなとデコは苦笑しながら「わかった」と返した。




そして周りに漂う久しぶりの暖かな香りに「まずはメシにするか・・・」
ヒューの肩をポンと叩き、香りの漂う一軒を指を指すと、二人は歩き出した。





+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++





――――堕ちた神々の社――――

ポポル北西にあるポッケ海と呼ばれる巨大な湖に沈む遺跡。
湖の周りは常に霧で覆われ、湖の透明度は高く
数十メートル底に沈む遺跡がはっきりと視認することが出来る。

この遺跡を調査しようとした探検隊も存在し調査を行ったところ
この湖を司る水の精霊達は精霊力が歪んでおり、凶暴化とまでは行かないが
まるで酒精の影響を受けているようだったと語る。

そのため遺跡まで潜る事が出来ず、遺跡は現在も謎に包まれている・・・



+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++



「あんたら冒険者だろ?」
ヒューが手に持った肉に齧り付こうとしたところ、商人風の男に声を掛けられる。

「ギルド登録はしてるが、冒険が本職ではないんだ、他を当たった方が良い。」
食事を邪魔されてちょっと目付きの悪くなったデコが答えると男は多少たじろいだ表情になるが
それでも何かあるのか話を続けようとする。

「ちょっとまって、食事終わったら話聞く。」
ヒューもとりあえずお腹を満たしたいのか男を落ち着かせようと話を向ける。
話を聞いてくれそうな空気をヒューが醸し出した為
男は食事が終わるのを大人しく待つことにしたようだ。




「と、言うわけなんだが、頼めるかい?」
食事を終わったデコとヒューに事情を話し手元の水をグッと空けて一息を吐く男。

「つまり、逃げちまった護衛冒険者の代わりに、ポッケ海までの護衛しろってかい?
そんなもん、ギルド通じて違約金ぶんどって、他の護衛雇えば済む話じゃないか」
追い返すような仕草で手を降るデコ。

「他を雇ってる時間が惜しいんだ
ポッケの水を汲んで戻ってこの船に乗せる荷の護衛だ、悪い話じゃないと思うがね?」


冒険者を探す手間が省けたのが幸いと思ったのか、デコの言葉に一歩も引かない男。



「わーったよ、”相棒”が良いって言うなら引き受けよう」


デコは話を突然振られキョトンとした表情のヒューを見た。



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2010/02/20 22:47 | Comments(0) | TrackBack() | ○羽衣の剣
羽衣の剣 9/イートン(千鳥)
PC:  デコ、ヒュー、イートン
NPC: 
場所:  小街フェンリル→ポッケ海(90-203付近の湖)

――――――――――――――――――――――――

「護衛の代わりが見つかったらしいぞ!」

 積荷の搬入出で忙しい、商船『トコフェロール号』に向かって、一人の男が大声を
上げた。
 
「とは言え、風変わりな格好をした二人連れで、一人はまだ若造らしいがな・・・」

 それでも、こんな田舎に腕の立つものなど滅多に寄り付かない。
 陸に不慣れな自分たちよりはマシだろう。
 集まってきてそんな会話を交わす海の男たちの中に、一人毛色の違う男が割り込ん
で問いかけた。

「明日には出発できますかね?」

 厚手のコートを着込んでいても、その身体は他の船員に比べ、明らかに貧弱だ。
 吐いた息で曇った眼鏡を億劫そうに外して、男は紫の瞳を細めた。

「本当は今日にでも出発したい所だが・・・、おい、荷馬車に樽を積んどけ!」
「はいよ、キャプテン」

 一人の男の号令に従って、皆その場から散っていく。
 残ったのはキャプテンと呼ばれた男と、眼鏡の優男の二人だけだ。

「ホントについていくのかい?センセイ」
「もちろんですよ。その為にこんなに寒い所まで船に乗って来たんですから!エルゴ
さんは行かないんです か?」

 エルゴと呼ばれた船長は、『センセイ』の言葉に軽く笑った。

「俺は船を離れるわけには行かないんでね。まぁ、腕の立つのは何人か行かせる」
「噂では、近づくくらいなら危険はないとの話でしたが・・・」
「水の精霊が暴走してるんだっけか?だからこそ、あそこの水が高く売れるわけだ
が」

 ポッケ海の水を一体何に使うのだろう・・・?
 男は不思議に思って、エルゴに何度か尋ねたことがあるが、企業秘密だと言われ結
局知ることは出来てい ない。
 もっとも、彼の目的は、水の価値を知ることなどでは無かった。

「調査隊も入ってないんだ。メイルーンのヴェルン遺跡のように、アンタがふっ飛ば
さないといいけどな」
「なっ、何でそれを!?」

 他人から過去の汚点を持ち出され驚くが、すぐに思い当たり、彼はため息と共に肩
を落とす。
 エルゴが笑ってその肩を叩いた。
 親愛の行為なのだろうが、かなり痛い。

「俺はアンタの本の読者なんだから、知ってて当然だろ?イートン先生」



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+++++++

 旅の終わりはあまりにも突然だった。

 ジュデッカ監獄から解放されたイートンを待っていたのは、紙切れ一枚の別れの言
葉。
 
 置いていかれたのだと、理解することが出来ず、必死でルナシーやオッドアイの少
年魔族の情報を集めた が、彼らにたどり着くことは出来なかった。
 何がいけなかったのか。
 非凡な彼らの中で、ただの人間であるイートンが役立たずであることなど最初から
分かっていたはずだ。
 一年以上共に旅をした中で築いた信頼関係は幻だったのだろうか。
  
 行き場の無い感情をぶつけるように執筆した『ルナシー』が、出版社の目に留ま
り、僅かとはいえ人に読まれるようになると、また新たな情報が入るようになった。

 この『堕ちた神々の社』と呼ばれる遺跡も、作中に出てくるナスビの守護していた
ヴェルン遺跡と状況が似ているという事から、イートンの耳に入ってきたのだった。
 最も、この二つの遺跡は距離にして大きく離れているため、同じ文明のものである
可能性はかなり低い。
 ついでに言えば、ヴェルン湖は、発掘済みとはいえ、怪物退治する際に湖ごと消し
飛ばした為、現在では存在しない。

(僕は、今でもあきらめてませんよ。八重さん)

 八重と初めて会ったとき、イートンは彼を主人公にして物語を書くと宣言した。
 『ルナシー』の物語は未だ完結していない。
 八重とヒエログリフの決着を知るまでは終らせることが出来ないからだ。
 彼らは今も『ヒエログリフ』を追っているのだろう。
 つまり、イートンも『ヒエログリフ』を追えば、彼らに再会することが出来るかも
しれない。
 単純な、しかし切実な願いの元、イートンはこの商船に乗り、ポッケ海へと足を踏
み入れることにした。



 分かれた物語が再び一つになることを祈って、今は新たな物語を紡ぎ続けるより他
はないのだ。
   


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2010/06/15 01:05 | Comments(0) | TrackBack() | ○羽衣の剣

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