PC: デコ、ヒュー
NPC: イーネス
場所: コタナ村
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ヒューは動きの早さに焦っていた。熊のではない。自分の動きだ。あの不思議な舞の効果なのだろうが、戸惑う。体のリズムが変化するとここまで違うものなのか。長時間戦った時になる、上気した感覚にそれは似ていた。
奇妙な加護だ、と場違いな思いを巡らせながら、ヒューは熊の豪腕を刃で受け流した。
掠れるような肉を裂く音と吠え猛る声が目の前で響くが、ヒューは目を逸らさず見つめた。威嚇に負けた獣は戦う資格がなくなるのだから。
体格に似合わないなめらかな動きで膝を折り曲げ、肩口に剣を構え、思い切り雪を蹴った。そうして体当たりするように剣を叩きつける。
熊は腕を振り下ろし、突撃を防ごうとするがくぐり抜けられてしまった。
ヒューは剣が当たる直前、祈念を剣に集約した。祈りによって重量が上がった剣は通常の倍近い衝撃で、大熊の足を叩く。
めりりっという嫌な音と共に熊の骨が曲がり、剣が食い込んだ。足から緩やかに崩れる。ヒューは食い込んだ剣を引き抜くと一端離れる。血溝にわずかに溜まった赤が散り、刃は衝撃ですっかり潰れていた。
血で雪が静かに汚れた。熊は咆哮を響かせるが、血が足りないためかすぐに弱々しくなった。それでも、三本足で何とか体を立て直す。
それを眺めながらヒューは剣が軽くなるのを感じた。加護が失われたのだろう。ヒューはデコのように恒久的な加護や呪いを使うことはできない。だが、なくても構わないだろう。剣があれば神はそこにいるのだから。
熊は怒りに任せて、前足で雪を叩き、近寄ってくる。以前ほどの早さはない。勝負や生死はあっさりと決まるものだ、と老人にきいたことがある。その通りなのだろう。
ヒューはそれを受け止めるように剣を突き出し、少しだけ踏み出した。簡単な突きが熊の突撃によって倍増されて、肩口へと深々と突き刺さった。そして体当たりを受け止める。勢いは意外なほど弱々しく、ほんの少しヒューの足を雪に埋めただけだった。
そうして熊は動かなくなった。息はしているが、もうこと切れる寸前だろう。
「終わった、か。」
熊に悲しげな視線をデコは向けていた。ヒューはそれに答えず剣を手放し、熊の体を倒す。
「終わってた」
足への一撃で出血死は決まっていた。ヒューはそう思い返すとデコをすねたように睨んだ。
「援護があるなら、いってくれ。びっくりした」
デコは少しきょとんとした後、少しだけ笑って「ん、すまん」とだけ答えた。
「終わったのね」
イーネスが家から出てくる。表情はボウッとしたもので、感情はあまり読めなかった。
「ああ」
どちらともなく、それに頷く。
それに答えることもない、イーネスは熊へと近づいた。するとほんの少しだけ、熊が動いた。ヒューはすぐさま短剣を抜こうと腰に手を当てるが、デコはそれを引き留める。
熊はふんふんとイーネスに甘えるように鼻を当てた。
「もう、そんなこと、遅すぎるよ」
少女はそう言って首を振ると、ゆっくりと、痛みがないように、剣を抜いてやった。血が穏やかに抜けていき、大熊はようやく眠りについた。
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NPC: イーネス
場所: コタナ村
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ヒューは動きの早さに焦っていた。熊のではない。自分の動きだ。あの不思議な舞の効果なのだろうが、戸惑う。体のリズムが変化するとここまで違うものなのか。長時間戦った時になる、上気した感覚にそれは似ていた。
奇妙な加護だ、と場違いな思いを巡らせながら、ヒューは熊の豪腕を刃で受け流した。
掠れるような肉を裂く音と吠え猛る声が目の前で響くが、ヒューは目を逸らさず見つめた。威嚇に負けた獣は戦う資格がなくなるのだから。
体格に似合わないなめらかな動きで膝を折り曲げ、肩口に剣を構え、思い切り雪を蹴った。そうして体当たりするように剣を叩きつける。
熊は腕を振り下ろし、突撃を防ごうとするがくぐり抜けられてしまった。
ヒューは剣が当たる直前、祈念を剣に集約した。祈りによって重量が上がった剣は通常の倍近い衝撃で、大熊の足を叩く。
めりりっという嫌な音と共に熊の骨が曲がり、剣が食い込んだ。足から緩やかに崩れる。ヒューは食い込んだ剣を引き抜くと一端離れる。血溝にわずかに溜まった赤が散り、刃は衝撃ですっかり潰れていた。
血で雪が静かに汚れた。熊は咆哮を響かせるが、血が足りないためかすぐに弱々しくなった。それでも、三本足で何とか体を立て直す。
それを眺めながらヒューは剣が軽くなるのを感じた。加護が失われたのだろう。ヒューはデコのように恒久的な加護や呪いを使うことはできない。だが、なくても構わないだろう。剣があれば神はそこにいるのだから。
熊は怒りに任せて、前足で雪を叩き、近寄ってくる。以前ほどの早さはない。勝負や生死はあっさりと決まるものだ、と老人にきいたことがある。その通りなのだろう。
ヒューはそれを受け止めるように剣を突き出し、少しだけ踏み出した。簡単な突きが熊の突撃によって倍増されて、肩口へと深々と突き刺さった。そして体当たりを受け止める。勢いは意外なほど弱々しく、ほんの少しヒューの足を雪に埋めただけだった。
そうして熊は動かなくなった。息はしているが、もうこと切れる寸前だろう。
「終わった、か。」
熊に悲しげな視線をデコは向けていた。ヒューはそれに答えず剣を手放し、熊の体を倒す。
「終わってた」
足への一撃で出血死は決まっていた。ヒューはそう思い返すとデコをすねたように睨んだ。
「援護があるなら、いってくれ。びっくりした」
デコは少しきょとんとした後、少しだけ笑って「ん、すまん」とだけ答えた。
「終わったのね」
イーネスが家から出てくる。表情はボウッとしたもので、感情はあまり読めなかった。
「ああ」
どちらともなく、それに頷く。
それに答えることもない、イーネスは熊へと近づいた。するとほんの少しだけ、熊が動いた。ヒューはすぐさま短剣を抜こうと腰に手を当てるが、デコはそれを引き留める。
熊はふんふんとイーネスに甘えるように鼻を当てた。
「もう、そんなこと、遅すぎるよ」
少女はそう言って首を振ると、ゆっくりと、痛みがないように、剣を抜いてやった。血が穏やかに抜けていき、大熊はようやく眠りについた。
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