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2024/05/16 19:51 |
第一話 接触/フィミル(セツ)
PC:フィミル ヴォル
場所:森の中


その日の夜は少し憂鬱で、幾重にも吐き出されたため息は、ただでさえやせ細っていた月をすっかり隠してしまっていた
そんな夜に共鳴してか、少女の足取りは重い

「うう、寒です・・・・」

見ると、その髪も衣装もぐっしょりと濡れている
先程まで降っていた雨のせいか
今でも思い出したように、木の葉たちが冷たい涙を滴らせる
特に寒い季節と言うわけではないのだが、何分ここは深い森の中、さらに夜ときては彼女が情けない弱音を吐くのも頷ける
すっかり冷たくなった指を擦り合わせて、息を吐きかける
お酒でもあれば温まる事が出来るのに、そんな事を思いながらため息をついたその時━━━━

ぞくっ

「・・・・・!」

不意に、ざらりとした感触
激しい嫌悪感
わずかながらに残っている天使としての感覚が、危険信号を発しているのだ

 アクマヨ

気がつくと走り出してしまっていた
考えるより先に、いい加減染み付いた恐怖が足を動かしていた
激しく脈打つ鼓動
震える指先
度重なる襲撃が、彼女を疲れさせていた
一瞬、死の誘惑が彼女の頬を撫でる

「嫌よ・・・・・私は、死なないわ」

その声は震えてしまっていたが
無理やり作った不敵な笑みは、引きつってはいなかった
そうだ、こんなところでは、死んでも死にきれない
後方に気配を感じる
いつも通り、一つだけ

(・・・・どうしようか)

いつも通り逃げつづけるか、倒すか
なぜか相手はどんどん強くなっている
前回も振り切れなかった
重ねて、今は雫たちに体温を奪われていて、いつまで体力が持つか分からない

決断はできた
下唇を噛み締めながら、剣を抜きつつ振り返る

「私は、死ぬわけにはいかないのよ、悪魔さん・・・・」

「悪魔さん」はガーゴイルのような翼を持つ、真っ黒な悪魔だった
目だけが不吉に紅く輝き、翼に触れる枝を無理やりへし折りながら森を滑空している
まだ距離がある

「・・・・閃光の霧よ」

手加減はしていられない
自分が使える攻撃魔術の中でも最高クラスの物を使った
白いモヤが前方に広がる
霧ではない、正体は石英の粉だ
そして、その一粒一粒が周囲のマナを電気エネルギーに変換して蓄えている
さらに自らの魔力を目一杯注ぎ込む
威力は「霧」の体積に反比例するため、小さく絞り込んだ
フットボールほどの球体が出来上がる
ここまで圧縮すれば威力が高すぎる程だが、問題ない
威力を抑えて発動時間を長くすることも出来るのだが、そのつもりはない

「さぁ、来なさい・・・・・」

果たして、相手は鋭い爪を立てて、単純に突っ込んで来る
と、その時

「大丈夫か!?」
「!!」

見るとなんだかラフな格好の銀髪のお兄さんがこちらに走ってきていた
助けてくれるらしく、ナックルのような物を装着しようとしている
ありがたいが、今はまずい

「目を閉じて!」
「え?」
「いいから!」

お兄さんが目を固く閉じるのを確認して
閃光
瞬間的に「霧」が莫大なエネルギーを放出
その光は夜を切り裂いて厚く広がる雲を照らした

ジュッ

微かに、そんな音が聞こえた気がした
悪魔の巨体は少し横に避けたフィミルを通り越して、バキバキと音を立てながら茂みに突っ込んで行った
終わった
悪魔の頭部は一瞬で蒸発した、はずだ
死体を確認する気にはならないが、確かに霧が奴の頭部を包み込んだ瞬間を見た
しゃがみ込む
一気に魔力を使いすぎたせいで、膝が大爆笑中だった
自分は戦い慣れていない
改めてそう思う
先程の魔術、あんなに範囲を小さくして、もし外していれば反撃できずにやられていただろう
慎重になるべきだった

「もういいのか!?」
「え?あっ、もう結構です」

お兄さんは目を開き、こちらに走ってきた
そしてなにやら口を開きかけ━━━━跳んだ

「え?」

そして私を飛び越えて・・・・

ドンッ

振り返ると何か黒いものが巨木に叩き付けられていた
それは━━━━先程の悪魔だった、ただし首はない
今のはお兄さんの蹴りが決まったらしい

「なっ、まだ生きて、」
「らしいね」

どうしよう、私はまともに戦える状態じゃない
と、その時お兄さんと目が合った

「立てる?」
「・・・・大丈夫です」

立ち上がって、地面に突き刺していた剣を抜き、構える
魔術はしばらく使えない
剣術には自身がない
悪魔が体制を立て直したようだ

「助けて、くれるんですか?」
「そのつもりで来たんだけど」
「・・・感謝します」
「それは生き延びた後でしてね」
「はい・・・」

この人を連れてきてくれた神様に感謝しつつ、震える剣を低く構えなおした
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2007/02/17 00:38 | Comments(0) | TrackBack() | ○造られし者達

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