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2024/05/17 06:46 |
第二話「跳躍」/ヴォル(暁十夜)
PC:ヴォルペ・アルジェント フィルミエル
場所:マキーナ周辺森
NPC:下級悪魔

――――――――――――――――――――

 暗い闇が支配する時間、月すらも分厚く不気味な雲にかくれ、真に闇が世界
を覆う。
 動物達も寝静まり、フクロウの鳴き声すら聞こえない暗い森の中、銀色の光
が点滅している。
 乱立する木々の間を二つの影が疾走する。一方は縫うように木の間を飛び、
もう一方の影は地面を走る。
 宙を飛ぶ影が急旋回し。地面を走る影に襲いかかる。
 瞬間、銀色の光が強烈に輝く。闇の中に爆発が起こり、木々がなぎ倒され
る。赤い炎が雄々しく立つ銀色の人影を照らす。狐を模した仮面が印象的だ。
 仮面の男が空を見上げる。覆っていた分厚い雲が晴れ、丸い月が姿を現し
た。仮面に隠れ、表情はうかがえないが、仮面の奥からは深い憂いが感じられ
た。それは、人としての存在を超えてしまった者独特の哀愁があった。
 仮面の男は後ろを振り返ることなく、薄暗い森の中に消えていった。
 パチパチと燃える木々の中には、人間とは似て非なる生物の亡骸が転がって
いた……。

    ◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 女神の微笑む口のように細く尖った月を、薄雲が覆う。森は先程までの雨で
冷たい雫を木々にたたえている。
 獣たちも寝静まった時間。通る存在がいないはずの獣道を一人、銀髪の青年
が歩いている。
 常人には寒いはずの気温だが、青年ははき古したボロボロのジーンズに左袖
が千切れてない長袖の白い麻のシャツという格好をしている。
「もうすぐマキーナなか。ちょっと時間がかかっちゃったねブレッザ」
 子供の様な表情の青年は誰かに喋りかけるように言った。青年の近くには人
影はない。
『そうね、少し急いだ方がいいかもしれないわね。そろそろ敵も私達の目的に
気付く頃かもしれないし』
 青年の頭の中で女性の声が響く。青年は静かに頷く。
 青年の名はヴォルペ・アルジェント、稀有な名前で偽名だ。いろいろなこと
があって名乗っている。
 彼の頭の中に響いた声の主、ブレッザ・プリマヴェリーレもその内の一つ
だ。 彼女は世界でも有数の大妖、九尾の狐だ。それがある組織によってヴォ
ルペと融合させられてしまった。
「それじゃあさ」
『ダメよ』
「まだ何もいってないじゃん」
 子供みたいに唇を尖らせてヴォルペは不満を口にする。
『あまり目立つ行動はやめなさいといつも言ってるでしょ。まったく、いつま
でたっても子供なんだから』
 ブレッザにお小言を言われ、ヴォルペは多少スネてみせる。
 ヴォルペはブレッザと融合したことによって様々な力を手に入れた。それこ
そ常人では考えられない力だ。
「けちぃ」
 一瞬、ムスっとした表情をしたヴォルペだったが、すぐに厳しい表情に変わ
った。
「ブレッザ……これは」
 風に乗ってきたのは今まで感じたこと無い純粋な悪意の気配、嗅いだことの
ない強烈なほどの邪な臭い。
『……これは、悪魔ね。臭いからして下級ね問題ないわ』
「でもさ」
 悪魔の臭いの中に別な生き物の匂いを感じる。人、女性の匂いだ。
『面倒に巻き込まれるのは避けたいけれど、止めたって行くんでしょ、どう
せ』
 ブレッザの言葉に頷いて、ヴォルペは駆け出した。獣よりも、風よりも早
く。

    ◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「……閃光の霧よ」
 風を切る音と一緒に聞こえてきたのは少女の声だった。近い。
「大丈夫か!?」
 少女の姿を確認してヴォルペは叫ぶ、少女の前にはドス黒い色をした異形の
怪物が見える。
「目を閉じて!」
「え?」
「いいから!」
 少女に言われるがまま、ヴォルペは目を閉じた。次の瞬間、ビリビリとした
感覚と何かが焼ける音が聞こえた。
 下級悪魔のだろう、派手な足音を立てて少女の脇を通り抜けていった。
 少女に動きは無い。息遣いも確かに聞こえるし、血の臭いもしない。やられ
たという事はないだろう。
『彼女、戦い慣れてないわね』
 不意にブレッザが言った。その証拠に下級悪魔の立ち上がる音をヴォルペの
耳は捉えていた。
「もういいかな?」
「え? あっ、もう結構です」
 少女の言葉を聞き終える前にヴォルペは少しの助走をして跳んだ。しゃが
め、と言おうと思ったが少女の現状を見て無理だと判断して止めた。
 少女の上を跳び越えて、下級悪魔の肩口に蹴りを入れる。本当なら頭部を狙
うのだが、頭が無いのだからしょうがない。
「なっ、まだ生きて」
「らしいね」
 そう言って軽やかに着地したヴォルペが少女に屈託のない笑顔を向ける。
「立てる?」
「……大丈夫です」
 地面に突き刺していた剣を支えに少女は立ち上がった。一目で極度に疲労し
ているのがわかる。
『無謀ね、あの程度の実力で悪魔に立ち向かうなんて』
 ブレッザの辛辣な言葉に苦笑するヴォルペに少女が尋ねた。
「助けてくれるんですか?」
「そのつもりで来たんだけど」
「感謝します……」
「それは生き延びた後でしてね」
 笑みを浮かべてそう言ったヴォルペに少女は力なく返事をした。
「じゃあ、休んでて」
 震える体で剣を構える少女にヴォルペは微笑んだ。
「え……?」
 拳を軽く振り、ヴォルペはワンステップで下級悪魔までの間合いを一気に詰
める。力強く拳を握り締め、下級悪魔の腹部に拳を叩き込む。
 対格差は明確である。しかし、ヴォルペの拳を受けた下級悪魔の足は地面か
ら浮いていた。
「はっ!!」
 連続してヴォルペは心臓――人ならば――がある位置を殴りつける。
 木に叩きつけられた下級悪魔は何事も無かったかのように立ち上がった。ヴ
ォルペに拳を打ち付けられたところが大きく陥没している。
「ねぇ、あいつどうやったら倒せるの?」
 苦笑してヴォルペは言った。
『生命活動はもう停止してるわ。放って置けば勝手に死ぬわよ?』
「……そういう事は早く言ってよ」
 ため息をついてヴォルペは走り出した。少女に向かって。
「ちょっとごめんね」
「え? ちょ、ちょっと」
 困惑する少女の体を抱きかかえてヴォルペは、そのまま走り出した。
「このまま街まで行くよ」
 ヴォルペの行ったとおり、遠くに街の明かりが見える。ただ少女の記憶が確
かならこの先は……。
「舌噛むといけないからちゃんと口閉じててね」
「待って、この先は崖……いやぁあああああああ」
 森の中に響き渡った少女の声は、マキーナの街にまで届いていた。
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2007/02/17 00:39 | Comments(0) | TrackBack() | ○造られし者達

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