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PC 八重 イートン ニーツ
場所 エルフの森付近
NPC なし
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揺れる炎だけが色彩を持っていた漆黒の夜が、少しずつ色を取り戻し始めた。薪の火も勢いを失い、炭の隙間からプスプスと情けない音を立てるばかりである。
そんな様子を、八重はあえて手を加えるまでも無いとボンヤリと眺めていた。
サラサラと砂の落ちる音が聞こえる。
イートンが持ってきた紫の砂時計である。一度傾けると2時間ほどの時を刻むらしく火の番の交代にちょうど良い目安になる。肉体的にも、精神的にも一番参っていたのがイートンであり――精霊が施した刻印のダメージである――最初に火の番をさせると早々に休ませた。今も無防備な寝顔をさらしている。
チラリ。
次にニーツに視線を向ける。相変わらず木の上で眠りをとる彼はコチラから見ても隙が無い。おそらく話しかければ答えが返ってくるだろう浅い眠りである。
(何にせよ、誰も死ななくて良かった・・・)
当たり前のことを八重は今更痛感する。イートンは頭が良く、気転もきくがウサギを抑える程の力はない。そして何より自分を殺すことなど考えてもいないだろう。
その点ではニーツは安心だ。彼なら危険が迫れば容赦なく自分を殺すだろう。気に食わない少年だが、一緒にいる価値はある・・・と八重は無理やり思い込む。
(きっと相性が悪いんだな・・・)
低木の間から朝日が顔を出すと、八重の瞼はゆっくりと閉じていった。
「起きろ」
「ふぇ?」
スパーンと手の平で頭を叩かれてイートンは間抜けな声を出した。見上げるとニーツが眉を寄せ見下ろしている。言われる前にイートンは自分でいうことにした。
「どうせ・・・間抜けですよ」
「何も言ってないぞ」
朝日にきらきらとニーツの髪が光った。炎にも良く映える髪だったなと、昨晩のことを思い出しながらニッコリと笑みを浮かべる。
「おはよう、ニーツ君」
「・・・間抜けな顔だな」
「あっ!ほらやっぱり言ったじゃないですか!!」
「なんのことだ?」
騒がしい声に八重が目を開ける。
「あ、おはよう御座います。八重さん」
「火の番が寝ていては意味が無いな」
目覚めから不快な笑みを向けられて、
(やっぱり相性が悪いんだ)
八重はそう確信した。
「ヴェルンから一番近い町はメイルーンですね。中規模の町です」
古い地図と現在の地図を照らしながらイートンが言った。
「遺跡探検の準備をするには事足ります。あの辺りに遺跡なんてあったかな?・・・ニー
ツ君、この本いつまで借りれるんですか?」
「3日だ」
「うわぁ、シビアですね」
イートンでさえ1冊読むのに4日はかかりそうな厚さだ。
「随分とその辺りに詳しいようだな」
イートンの口調に八重が尋ねた。
「えぇ、メイルーンって僕の故郷なんです」
「故郷?君はフレデリアに家があると言ってなかったか?」
「僕と母が・・・父に引き取られる前はそこに住んでたんです」
一瞬言葉を切り、イートンは言った。それは12歳の時だった。本妻が亡くなると同時にイートン母子は父親の屋敷に入った。以前から顔を合わせていた父だが自分にとっては赤の他人に等しい。同時に兄も・・・・。
「あ、これでも僕って貴族なんですよー。見えないかもしれませんが」
ニーツに向かって説明すると彼は意外にもあっさり頷いた。
「あぁ、充分見えるぞ」
誉め言葉には思えなかったが。
「ただ、あそこは柄が悪いんですよね」
古い本の手触りを楽しみながらイートンは言った。なにしろ街道がクーロンに繋がっているのだ。父が何故あの町を訪れたのか、未だにもって謎なくらいに。
「自衛の町はどこもそんなもんだろう」
八重が心得てるとばかりに頷く。
「町が二つの勢力に分かれてるんですよ。巻き込まれないようにしないと」
(あの頃は流血茶飯事だったなー)
パタンと本を閉じるとイートンは立ち上がった。
「さぁ、行きましょうか、ヴェルンの眠れる町へ」
柔らかな笑みは無邪気で上品に。昔の自分を知る人は腰を抜かしてしまうかもしれないな・・・。そう思いながら“メイルーンの悪童”と呼ばれた青年は旅の支度を始めた。
PC 八重 イートン ニーツ
場所 エルフの森付近
NPC なし
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揺れる炎だけが色彩を持っていた漆黒の夜が、少しずつ色を取り戻し始めた。薪の火も勢いを失い、炭の隙間からプスプスと情けない音を立てるばかりである。
そんな様子を、八重はあえて手を加えるまでも無いとボンヤリと眺めていた。
サラサラと砂の落ちる音が聞こえる。
イートンが持ってきた紫の砂時計である。一度傾けると2時間ほどの時を刻むらしく火の番の交代にちょうど良い目安になる。肉体的にも、精神的にも一番参っていたのがイートンであり――精霊が施した刻印のダメージである――最初に火の番をさせると早々に休ませた。今も無防備な寝顔をさらしている。
チラリ。
次にニーツに視線を向ける。相変わらず木の上で眠りをとる彼はコチラから見ても隙が無い。おそらく話しかければ答えが返ってくるだろう浅い眠りである。
(何にせよ、誰も死ななくて良かった・・・)
当たり前のことを八重は今更痛感する。イートンは頭が良く、気転もきくがウサギを抑える程の力はない。そして何より自分を殺すことなど考えてもいないだろう。
その点ではニーツは安心だ。彼なら危険が迫れば容赦なく自分を殺すだろう。気に食わない少年だが、一緒にいる価値はある・・・と八重は無理やり思い込む。
(きっと相性が悪いんだな・・・)
低木の間から朝日が顔を出すと、八重の瞼はゆっくりと閉じていった。
「起きろ」
「ふぇ?」
スパーンと手の平で頭を叩かれてイートンは間抜けな声を出した。見上げるとニーツが眉を寄せ見下ろしている。言われる前にイートンは自分でいうことにした。
「どうせ・・・間抜けですよ」
「何も言ってないぞ」
朝日にきらきらとニーツの髪が光った。炎にも良く映える髪だったなと、昨晩のことを思い出しながらニッコリと笑みを浮かべる。
「おはよう、ニーツ君」
「・・・間抜けな顔だな」
「あっ!ほらやっぱり言ったじゃないですか!!」
「なんのことだ?」
騒がしい声に八重が目を開ける。
「あ、おはよう御座います。八重さん」
「火の番が寝ていては意味が無いな」
目覚めから不快な笑みを向けられて、
(やっぱり相性が悪いんだ)
八重はそう確信した。
「ヴェルンから一番近い町はメイルーンですね。中規模の町です」
古い地図と現在の地図を照らしながらイートンが言った。
「遺跡探検の準備をするには事足ります。あの辺りに遺跡なんてあったかな?・・・ニー
ツ君、この本いつまで借りれるんですか?」
「3日だ」
「うわぁ、シビアですね」
イートンでさえ1冊読むのに4日はかかりそうな厚さだ。
「随分とその辺りに詳しいようだな」
イートンの口調に八重が尋ねた。
「えぇ、メイルーンって僕の故郷なんです」
「故郷?君はフレデリアに家があると言ってなかったか?」
「僕と母が・・・父に引き取られる前はそこに住んでたんです」
一瞬言葉を切り、イートンは言った。それは12歳の時だった。本妻が亡くなると同時にイートン母子は父親の屋敷に入った。以前から顔を合わせていた父だが自分にとっては赤の他人に等しい。同時に兄も・・・・。
「あ、これでも僕って貴族なんですよー。見えないかもしれませんが」
ニーツに向かって説明すると彼は意外にもあっさり頷いた。
「あぁ、充分見えるぞ」
誉め言葉には思えなかったが。
「ただ、あそこは柄が悪いんですよね」
古い本の手触りを楽しみながらイートンは言った。なにしろ街道がクーロンに繋がっているのだ。父が何故あの町を訪れたのか、未だにもって謎なくらいに。
「自衛の町はどこもそんなもんだろう」
八重が心得てるとばかりに頷く。
「町が二つの勢力に分かれてるんですよ。巻き込まれないようにしないと」
(あの頃は流血茶飯事だったなー)
パタンと本を閉じるとイートンは立ち上がった。
「さぁ、行きましょうか、ヴェルンの眠れる町へ」
柔らかな笑みは無邪気で上品に。昔の自分を知る人は腰を抜かしてしまうかもしれないな・・・。そう思いながら“メイルーンの悪童”と呼ばれた青年は旅の支度を始めた。
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