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PC 八重 イートン ニーツ
場所 エルフの森付近
NPC なし
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色々な事があった日だった。
八重は変身するし、森には迷い込むしと、大忙しである。
ようやく落ち着けたのは、夜になってからだった。
野営の準備も終わり、イートンは一人、日記をつけていた。
「ふうん。熱心な事だな」
突然、上から声がかかって、イートンは上を見上げた。見上げて驚きのあまり、ポカンとする。
「ニ…ニニニニニ…ニーツ君!?」
「なんて顔してるんだ」
そう言って、ニーツはイートンを見下ろす。
イートンは、てっきり木の上にニーツがいると考えていたのだが…
「そ…そんな事言ったって、何で浮いてるんですか!?」
「ああ、そんなことに驚いていたのか」
こともなげに言って、ニーツは降りてきた。
そう、イートンの言った通り、まさにニーツは宙に浮いて、イートンの日記を覗き込んでいたのだ。流石にこれには誰でも驚くだろう。
…普通の人間なら。
「…そんなことも出来たんですか…ああ、驚いた。…って、まさか、日記読んでないでしょうね!?」
「そんなもの、読むか阿呆」
不機嫌そうにニーツがイートンを見る。そうですか、とホッとすると同時に、愚か者、馬鹿、阿呆と称号が増えたことに、ちょっとイートンは複雑な気分になる。しかもご丁寧に、「あほ」ではなく、「あほう」と呼んでくれた。
「八重は?」
「え?ああ、八重さんなら、薪を拾いに…何処行ってたんですか?」
あの森を出た後、ニーツのことでちょっとだけ揉めた。この後も、ニーツを引く連れて行くか否かの問題だ。
色々と助けてもらったとはいえ、魔族は魔族。
『今回は助けてもらったが…、やはり一緒にいることは出来ないな』
そういった八重を引き止めたのは、なぜかイートンだった。
『ええ?何でですか!?良いじゃないですか。だってこんなに可愛いんですし!』
『…おい…触るな!』
ニーツの頭をぽんぽんと叩きながら言うイートンを、抗議をしながら睨みつけるニーツ。
なんとなく、馴染んでしまったようだ。
『お前は?ニーツ。私たちと一緒にくる気は?』
『…俺は、君に興味があるから。ねえ、八重ちゃん?』
にっこりと笑って先程と同じからかいを口に乗せるニーツ。
『それはやめろと言っているだろうが!』
『え~、つまらないですよ。可愛いじゃないですか、八重ちゃんって』
『イートン!』
『それに、俺は色々と情報提供できると思うけど?』
顔を赤くして怒鳴る八重に、口の端を吊り上げたまま、ニーツが言う。
『…本当なのか?』
『勿論』
笑ったままのニーツに、八重は小さく息をついて、答えた。
『分かった。連れて行こう』
『やった~!八重さん、ありがとう!』
その時何故か喜んだのはイートン。恐らく、情報収集が出来るとか何とかという理由で喜んでいるのだろう。
とにかく、こうしてこの後も同行することが決まったニーツであったが、その後何を思ったか二人の前から姿を消していた。
そして再び現れたのが…今、である。
「ちょっと、な」
イートンの問いかけに、ニーツは曖昧な答えを返した。その腕に抱えているものを見咎めて、イートンは興味を引かれる。
「それ、本ですよね?」
「ん?ああ、…読むか?」
「読むかって…うわあ!」
ニーツが、持っていた二冊の本のうち、薄い方―とはいえ、普通の本の2倍は厚さがあったが―をイートンに投げて寄越した。慌ててそれを受け止める。
「危ないじゃないですか!もっと丁寧に扱ってください!
…それにしても、古い本ですね」
「千年前の戦争の記録が載っている本だ。そっちはまだ新しい方」
「せ…千年前ですか…」
予想もしていなかったニーツの言葉に、イートンは恐る恐る本を開く。開いた瞬間、目を輝かせた。まさにそれは、知識の宝庫。だが、ある物を見つけて、イートンは顔を曇らせる。
「…ニーツ君。これって、図書館の持ち出し禁止本なのでは?ほら、『禁帯出』の印が…」
「あの司書のけちじじい、この二冊しか貸してくれなかった。他にも、借りたい本はあったのにな」
「他にもって、それも、持ち出し禁止のですか?」
「そうだ」
普通はこの二冊も貸してくれないだろう。そう、イートンは心の中で突っ込む。一体、何処で借りて来たというのか。
(魔界とかの、魔族専用図書館だったりして…)
有り得そうで、笑えない…
そんなことをイ-トンが考えているうちに、ニーツが腰を下ろして、残った方の本を開いていた。
ちらりと覗き込むと、イ-トンには意味不明な言葉が並んでいる。どうやら、古の言葉らしい。
「ニーツ君って、若いのにそんな物読めるんですか」
思わず口をついて出てきた言葉に、一瞬、ニーツは意味ありげな視線を彼に向けた。おやっと思う間もなく、本に視線を戻してしまったが。
もう何を言っても答えてくれそうになかったので、イ-トンも借りた本に、目を通し始めた。
「これか…」
「何か、解ったのか?」
ニーツが呟いた言葉を、ちょうど薪集めから帰ってきた八重が聞き咎める。イ-トンも、本から顔を上げて、ニーツを見た。
「これだ」
本を二人に見せて、ニーツが示した先には、古の地図が載っていた。その中の一点を、ニーツは指さす。
「これが、エルフの森だ。此処から西…」
つつっと、ニーツは指を動かす。
「此処だ。これが、エルフの森に逃げ込んだ人間の国に戦争を吹っ掛けた国-ヴェルンだ」
「ヴェルン?」
「そう。今はもう、滅びて、無くなっているけどな。けれど、何か、痕跡くらいは残っているかもしれない。
…どうする?八重。行ってみるか?」
「ううむ…」
八重は、腕を組んで本を睨む。
「しかし、クーロンでの予言は南東に…」
「行きましょうよ。八重さん」
八重の言葉をまたしても遮ったのは、イ-トンだった。
「ひょっとしてクーロンでの予言は、八重さんにヒントをくれる人、精霊達の事だったかもしれないじゃないですか。それに、少しくらい回り道をしても良いんじゃないですか?」
「ううむ。確かに、そうだが…」
「どうするんだ?」
ニーツが八重を見上げながら、再び問い掛ける。八重は腕を組んだまま本を見、ニーツを見、イ-トンを見て…小さく息をつく。
「そうだな。行ってみるか」
それで駄目なら駄目で良い。
次の目的地は-西。
PC 八重 イートン ニーツ
場所 エルフの森付近
NPC なし
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色々な事があった日だった。
八重は変身するし、森には迷い込むしと、大忙しである。
ようやく落ち着けたのは、夜になってからだった。
野営の準備も終わり、イートンは一人、日記をつけていた。
「ふうん。熱心な事だな」
突然、上から声がかかって、イートンは上を見上げた。見上げて驚きのあまり、ポカンとする。
「ニ…ニニニニニ…ニーツ君!?」
「なんて顔してるんだ」
そう言って、ニーツはイートンを見下ろす。
イートンは、てっきり木の上にニーツがいると考えていたのだが…
「そ…そんな事言ったって、何で浮いてるんですか!?」
「ああ、そんなことに驚いていたのか」
こともなげに言って、ニーツは降りてきた。
そう、イートンの言った通り、まさにニーツは宙に浮いて、イートンの日記を覗き込んでいたのだ。流石にこれには誰でも驚くだろう。
…普通の人間なら。
「…そんなことも出来たんですか…ああ、驚いた。…って、まさか、日記読んでないでしょうね!?」
「そんなもの、読むか阿呆」
不機嫌そうにニーツがイートンを見る。そうですか、とホッとすると同時に、愚か者、馬鹿、阿呆と称号が増えたことに、ちょっとイートンは複雑な気分になる。しかもご丁寧に、「あほ」ではなく、「あほう」と呼んでくれた。
「八重は?」
「え?ああ、八重さんなら、薪を拾いに…何処行ってたんですか?」
あの森を出た後、ニーツのことでちょっとだけ揉めた。この後も、ニーツを引く連れて行くか否かの問題だ。
色々と助けてもらったとはいえ、魔族は魔族。
『今回は助けてもらったが…、やはり一緒にいることは出来ないな』
そういった八重を引き止めたのは、なぜかイートンだった。
『ええ?何でですか!?良いじゃないですか。だってこんなに可愛いんですし!』
『…おい…触るな!』
ニーツの頭をぽんぽんと叩きながら言うイートンを、抗議をしながら睨みつけるニーツ。
なんとなく、馴染んでしまったようだ。
『お前は?ニーツ。私たちと一緒にくる気は?』
『…俺は、君に興味があるから。ねえ、八重ちゃん?』
にっこりと笑って先程と同じからかいを口に乗せるニーツ。
『それはやめろと言っているだろうが!』
『え~、つまらないですよ。可愛いじゃないですか、八重ちゃんって』
『イートン!』
『それに、俺は色々と情報提供できると思うけど?』
顔を赤くして怒鳴る八重に、口の端を吊り上げたまま、ニーツが言う。
『…本当なのか?』
『勿論』
笑ったままのニーツに、八重は小さく息をついて、答えた。
『分かった。連れて行こう』
『やった~!八重さん、ありがとう!』
その時何故か喜んだのはイートン。恐らく、情報収集が出来るとか何とかという理由で喜んでいるのだろう。
とにかく、こうしてこの後も同行することが決まったニーツであったが、その後何を思ったか二人の前から姿を消していた。
そして再び現れたのが…今、である。
「ちょっと、な」
イートンの問いかけに、ニーツは曖昧な答えを返した。その腕に抱えているものを見咎めて、イートンは興味を引かれる。
「それ、本ですよね?」
「ん?ああ、…読むか?」
「読むかって…うわあ!」
ニーツが、持っていた二冊の本のうち、薄い方―とはいえ、普通の本の2倍は厚さがあったが―をイートンに投げて寄越した。慌ててそれを受け止める。
「危ないじゃないですか!もっと丁寧に扱ってください!
…それにしても、古い本ですね」
「千年前の戦争の記録が載っている本だ。そっちはまだ新しい方」
「せ…千年前ですか…」
予想もしていなかったニーツの言葉に、イートンは恐る恐る本を開く。開いた瞬間、目を輝かせた。まさにそれは、知識の宝庫。だが、ある物を見つけて、イートンは顔を曇らせる。
「…ニーツ君。これって、図書館の持ち出し禁止本なのでは?ほら、『禁帯出』の印が…」
「あの司書のけちじじい、この二冊しか貸してくれなかった。他にも、借りたい本はあったのにな」
「他にもって、それも、持ち出し禁止のですか?」
「そうだ」
普通はこの二冊も貸してくれないだろう。そう、イートンは心の中で突っ込む。一体、何処で借りて来たというのか。
(魔界とかの、魔族専用図書館だったりして…)
有り得そうで、笑えない…
そんなことをイ-トンが考えているうちに、ニーツが腰を下ろして、残った方の本を開いていた。
ちらりと覗き込むと、イ-トンには意味不明な言葉が並んでいる。どうやら、古の言葉らしい。
「ニーツ君って、若いのにそんな物読めるんですか」
思わず口をついて出てきた言葉に、一瞬、ニーツは意味ありげな視線を彼に向けた。おやっと思う間もなく、本に視線を戻してしまったが。
もう何を言っても答えてくれそうになかったので、イ-トンも借りた本に、目を通し始めた。
「これか…」
「何か、解ったのか?」
ニーツが呟いた言葉を、ちょうど薪集めから帰ってきた八重が聞き咎める。イ-トンも、本から顔を上げて、ニーツを見た。
「これだ」
本を二人に見せて、ニーツが示した先には、古の地図が載っていた。その中の一点を、ニーツは指さす。
「これが、エルフの森だ。此処から西…」
つつっと、ニーツは指を動かす。
「此処だ。これが、エルフの森に逃げ込んだ人間の国に戦争を吹っ掛けた国-ヴェルンだ」
「ヴェルン?」
「そう。今はもう、滅びて、無くなっているけどな。けれど、何か、痕跡くらいは残っているかもしれない。
…どうする?八重。行ってみるか?」
「ううむ…」
八重は、腕を組んで本を睨む。
「しかし、クーロンでの予言は南東に…」
「行きましょうよ。八重さん」
八重の言葉をまたしても遮ったのは、イ-トンだった。
「ひょっとしてクーロンでの予言は、八重さんにヒントをくれる人、精霊達の事だったかもしれないじゃないですか。それに、少しくらい回り道をしても良いんじゃないですか?」
「ううむ。確かに、そうだが…」
「どうするんだ?」
ニーツが八重を見上げながら、再び問い掛ける。八重は腕を組んだまま本を見、ニーツを見、イ-トンを見て…小さく息をつく。
「そうだな。行ってみるか」
それで駄目なら駄目で良い。
次の目的地は-西。
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