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PC 八重・イートン・ニーツ 場所 エルフの森
NPC フェアリー オベロン ティターニア
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王妃を人質に取られると、王は意外なほどあっさりと降参した。今は幻影は消え、三人の目の前にいるのはしょぼんとした王、王妃と部下のフェアリーたちだ。王も王妃もフェアリーであるため体は十センチくらいしかなく、背中に生えている透明な羽もどことなくしおれているように見える。
「私たちの負けだ・・・。約束どおり、君の本の文字は返そう」
オベロンが人差し指をくいっと動かすと、森の奥からふわふわと文字が飛んできた。
「木の中に隠していた」
言うと、オベロンはくいっくいっと指を動かした。すると、ずばばばばばっという鳩の羽ばたきに似た音とともに文字がイートンの持つ本の中に飛び込んだ。
「わっ、わっ!!」
イートンが驚いている間に文字はすべて本の中に入り終えた。そーっとイートンは本の中を除いてみる。そこには以前と同じ、イートンの流れるような筆跡と同じ形で文字が以前と同じように並んでいた。イートンはほーっとため息をついた。
「よかった・・・、何もかも前と同じです・・・」
「・・・。よかったな、イートン」
八重がその様子を見てうれしそうに微笑む。その様子を、何故かティターニアが食い入るように見つめていることも知らずに。
「乱暴をはたらいたことは謝る。しかし、私たちは人間を、もうこの森に入らせたくはない。・・・人間は、災いを呼ぶ」
「それは、一体どういうことです?」
イートンが興味深そうに聞く。片手に日記帳、片手にペンを持って。
オベロンは語る。
「・・・千年前、私たちの森は今よりもっと大きく、もっと豊かだった。そして、そのころはまだ、私たちは人間とうまく付き合っていた。ある日、この森のそばにあった国の人間の兵士たちがこの森に逃げ込んできた。兵士たちは、自分たちをこの森にかくまってくれるよう私に頼んだ。私は、そのころ、その人間たちと互いを助けあうという協定を結んでいたので快くその兵士たちをかくまった」
そこまで話すと、オベロンは顔を顰めた。まるで、忌々しい記憶を思い起こそうとしているようだった。
「数日後、森に兵士たちの敵の国が攻め込んできた。・・・その国の人間どもなど私たちの敵ではなかった。しかし・・・」
「しかし、何です?一体何が攻めてきたというんです?」
顔を顰め、なかなか口を開こうとしないオベロンにイートンは尋ねた。オベロンは吐き捨てるように呟いた。
「・・・ヒエログリフだ。奴等が、そいつらと一緒にこの森に攻め込んできた」
「・・・!!ヒエログリフだと!!」
おもわず八重はがばっとオベロンの首をつかんだ。
「お前、ヒエログリフが何か知っているのか!!」
「ヒエログリフは・・・<太陽の力>・・を操る人間・・だ・・・。私は、それしか・・・知らない・・・っ・・・」
オベロンの苦しげな様子に、はっとして八重は手を放した。手を放されたオベロンはかわいらしくケホケホと咳をしている。
「・・・すまなかった。私はヒエログリフのこととなると、つい、興奮してしまってな・・・」
「<太陽の力>?それって何です?」
イートンが尋ねる。博識なイートンでも、<太陽の力>という言葉を聞くのは初めてだった。
「<太陽の力>・・・、奴等は<ヒエロ>と呼んでいたが・・・、それは、森を焼き尽くしフェアリーを殺す炎の力だ。奴等はその力で森を焼き、数え切れないほどのフェアリーたちを殺した。人間は全滅した。森も焼かれた。フェアリー達も大勢死んだ。・・・それ以来、私達は人間と関わることをやめた。森に人間を入れることをやめた。人間は、災いを呼ぶ」
すべてを語り終えると、オベロンは冷たい視線を三人に向けた。
「私の話はここまでだ。即刻この森から立ち去り、二度と足を踏み入れないでもらいたい」
「妾が、森の外まで送って差し上げましょう」
ティターニアがそういって一歩進み出た。そうして、三人はティターニアの案内で森の外へと向かった。そして二十分後、
「ここがこの森の出口です」
そういってティターニアが向こうを指差した。うっそうとした森の中を歩き続け、ようやく三人はこの森の出口へとたどり着いたのだ。ティターニアの指差す方角には開けた空間が広がっている。
「やったー、やっとこの森から出られましたね!」
イートンがうれしそうに言う。
「僕の日記も無事かえってきましたし、一件落着です!」
「・・・お前はのん気だな、イートン」
はしゃぐイートンにニーツが冷ややかな目を向ける。しかし、ニーツも内心はほっとしていた。この森にいる間中、いつ攻撃されてもいいように気を張り詰めていたのだ。それにこの森の陰気な空気はニーツもあまり好かない。
そうして三人は心も軽く、森の外に一歩踏み出した・・・。そのとき、
「この森を出る前に、・・・八重といいましたね。貴方に一ついいたいことがあります」
思いがけず呼び止められて、八重は振り向いた。
「妾もつい先ほど思い出したばかりなのですが、・・・千年前の戦いのとき、あのヒエログリフどもに混じって、妾は貴方の姿を見ました」
八重の表情が変わった。
「それは本当か!!」
「ちょっと待ってください!・・・千年前といいましたね。そんな昔に八重さんが生きてるわけないじゃないですか!」
イートンがつっこむ。しかし、ティターニアは真摯な表情で言う。
「いいえ、妾は見ました。あれは確かに貴方です。人違いでも見間違いでもありませぬ。ただし、とても幼い姿でしたが」
「ふ・・ざけるな・・・」
八重は頭を抱えて座り込んだ。自分の存在というもののあやふやさが、今の言葉ではっきりとのしかかってきた。・・・自分はもしかしたら、それをはっきりさせたいためにヒエログリフを探しているのかもしれない。
「・・・じゃあ、私は一体何だというんだ。どうして生まれたんだ。何故ここにいるんだ。答えてくれ!ティターニア!!」
「その質問に妾は答えることが出来ません。しかし、・・・告白しますが、妾はそれに気づいたとき、初め、貴方をどんな手を使っても殺そうとしました。
そのために案内役をかってでたのです。しかし・・・」
そこでティターニアはふっとした笑みを八重に向けた。
「私は貴方を殺すのをやめました。それは貴方が、あの時と違って<生きた瞳>をしていたからです。・・・あの時、ヒエログリフどもも貴方も、生気のない死んだ瞳をしていました。妾はそれがとても恐ろしかった。・・・しかし、今の貴方は違います。今の貴方の瞳はとても輝いていました。今の貴方はあのころの貴方とは違います。ですから、妾はもう貴方の過去の過ちは咎めません」
森を出た後、しばらく三人は無言だった。それぞれがそれぞれの思いにふけっているのだろう。最初に口火を切ったのはニーツだった。
「・・・しかし、結構いい女だったよな、エンジ」
ふっと八重はニーツの顔を見た。ニーツの顔がイタズラっぽくにやにやと笑っている。
「あの女がお前の育ての親か?・・・八重ちゃん?」
「っ、お前っ・・・!!」
その小ばかにしたような言い方に八重の顔が赤くなる。
「ふふっ、そういえばかわいらしい呼び方されてましたね。八重ちゃん?」
「そうだな、八重ちゃん」
そういってイートンとニーツは顔を見合わせて笑う。
「お前ら・・・、それ以上言ったら怒るぞ・・・」
「わかりましたよ~、もう言いませんってば」
「わかったよ」
二人は八重の百メートル先に行くと、くるっと振り返ってユニゾンで叫んだ。
「八重ちゃ~んっ!!」
「・・・っ!!<ルナ>ぁぁっ!!!」
「キャーvv八重ちゃんが怒ったーっ」
逃げる二人とそれを追いかける八重、その図はまるでサザエさんのようであった・・・。
PC 八重・イートン・ニーツ 場所 エルフの森
NPC フェアリー オベロン ティターニア
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王妃を人質に取られると、王は意外なほどあっさりと降参した。今は幻影は消え、三人の目の前にいるのはしょぼんとした王、王妃と部下のフェアリーたちだ。王も王妃もフェアリーであるため体は十センチくらいしかなく、背中に生えている透明な羽もどことなくしおれているように見える。
「私たちの負けだ・・・。約束どおり、君の本の文字は返そう」
オベロンが人差し指をくいっと動かすと、森の奥からふわふわと文字が飛んできた。
「木の中に隠していた」
言うと、オベロンはくいっくいっと指を動かした。すると、ずばばばばばっという鳩の羽ばたきに似た音とともに文字がイートンの持つ本の中に飛び込んだ。
「わっ、わっ!!」
イートンが驚いている間に文字はすべて本の中に入り終えた。そーっとイートンは本の中を除いてみる。そこには以前と同じ、イートンの流れるような筆跡と同じ形で文字が以前と同じように並んでいた。イートンはほーっとため息をついた。
「よかった・・・、何もかも前と同じです・・・」
「・・・。よかったな、イートン」
八重がその様子を見てうれしそうに微笑む。その様子を、何故かティターニアが食い入るように見つめていることも知らずに。
「乱暴をはたらいたことは謝る。しかし、私たちは人間を、もうこの森に入らせたくはない。・・・人間は、災いを呼ぶ」
「それは、一体どういうことです?」
イートンが興味深そうに聞く。片手に日記帳、片手にペンを持って。
オベロンは語る。
「・・・千年前、私たちの森は今よりもっと大きく、もっと豊かだった。そして、そのころはまだ、私たちは人間とうまく付き合っていた。ある日、この森のそばにあった国の人間の兵士たちがこの森に逃げ込んできた。兵士たちは、自分たちをこの森にかくまってくれるよう私に頼んだ。私は、そのころ、その人間たちと互いを助けあうという協定を結んでいたので快くその兵士たちをかくまった」
そこまで話すと、オベロンは顔を顰めた。まるで、忌々しい記憶を思い起こそうとしているようだった。
「数日後、森に兵士たちの敵の国が攻め込んできた。・・・その国の人間どもなど私たちの敵ではなかった。しかし・・・」
「しかし、何です?一体何が攻めてきたというんです?」
顔を顰め、なかなか口を開こうとしないオベロンにイートンは尋ねた。オベロンは吐き捨てるように呟いた。
「・・・ヒエログリフだ。奴等が、そいつらと一緒にこの森に攻め込んできた」
「・・・!!ヒエログリフだと!!」
おもわず八重はがばっとオベロンの首をつかんだ。
「お前、ヒエログリフが何か知っているのか!!」
「ヒエログリフは・・・<太陽の力>・・を操る人間・・だ・・・。私は、それしか・・・知らない・・・っ・・・」
オベロンの苦しげな様子に、はっとして八重は手を放した。手を放されたオベロンはかわいらしくケホケホと咳をしている。
「・・・すまなかった。私はヒエログリフのこととなると、つい、興奮してしまってな・・・」
「<太陽の力>?それって何です?」
イートンが尋ねる。博識なイートンでも、<太陽の力>という言葉を聞くのは初めてだった。
「<太陽の力>・・・、奴等は<ヒエロ>と呼んでいたが・・・、それは、森を焼き尽くしフェアリーを殺す炎の力だ。奴等はその力で森を焼き、数え切れないほどのフェアリーたちを殺した。人間は全滅した。森も焼かれた。フェアリー達も大勢死んだ。・・・それ以来、私達は人間と関わることをやめた。森に人間を入れることをやめた。人間は、災いを呼ぶ」
すべてを語り終えると、オベロンは冷たい視線を三人に向けた。
「私の話はここまでだ。即刻この森から立ち去り、二度と足を踏み入れないでもらいたい」
「妾が、森の外まで送って差し上げましょう」
ティターニアがそういって一歩進み出た。そうして、三人はティターニアの案内で森の外へと向かった。そして二十分後、
「ここがこの森の出口です」
そういってティターニアが向こうを指差した。うっそうとした森の中を歩き続け、ようやく三人はこの森の出口へとたどり着いたのだ。ティターニアの指差す方角には開けた空間が広がっている。
「やったー、やっとこの森から出られましたね!」
イートンがうれしそうに言う。
「僕の日記も無事かえってきましたし、一件落着です!」
「・・・お前はのん気だな、イートン」
はしゃぐイートンにニーツが冷ややかな目を向ける。しかし、ニーツも内心はほっとしていた。この森にいる間中、いつ攻撃されてもいいように気を張り詰めていたのだ。それにこの森の陰気な空気はニーツもあまり好かない。
そうして三人は心も軽く、森の外に一歩踏み出した・・・。そのとき、
「この森を出る前に、・・・八重といいましたね。貴方に一ついいたいことがあります」
思いがけず呼び止められて、八重は振り向いた。
「妾もつい先ほど思い出したばかりなのですが、・・・千年前の戦いのとき、あのヒエログリフどもに混じって、妾は貴方の姿を見ました」
八重の表情が変わった。
「それは本当か!!」
「ちょっと待ってください!・・・千年前といいましたね。そんな昔に八重さんが生きてるわけないじゃないですか!」
イートンがつっこむ。しかし、ティターニアは真摯な表情で言う。
「いいえ、妾は見ました。あれは確かに貴方です。人違いでも見間違いでもありませぬ。ただし、とても幼い姿でしたが」
「ふ・・ざけるな・・・」
八重は頭を抱えて座り込んだ。自分の存在というもののあやふやさが、今の言葉ではっきりとのしかかってきた。・・・自分はもしかしたら、それをはっきりさせたいためにヒエログリフを探しているのかもしれない。
「・・・じゃあ、私は一体何だというんだ。どうして生まれたんだ。何故ここにいるんだ。答えてくれ!ティターニア!!」
「その質問に妾は答えることが出来ません。しかし、・・・告白しますが、妾はそれに気づいたとき、初め、貴方をどんな手を使っても殺そうとしました。
そのために案内役をかってでたのです。しかし・・・」
そこでティターニアはふっとした笑みを八重に向けた。
「私は貴方を殺すのをやめました。それは貴方が、あの時と違って<生きた瞳>をしていたからです。・・・あの時、ヒエログリフどもも貴方も、生気のない死んだ瞳をしていました。妾はそれがとても恐ろしかった。・・・しかし、今の貴方は違います。今の貴方の瞳はとても輝いていました。今の貴方はあのころの貴方とは違います。ですから、妾はもう貴方の過去の過ちは咎めません」
森を出た後、しばらく三人は無言だった。それぞれがそれぞれの思いにふけっているのだろう。最初に口火を切ったのはニーツだった。
「・・・しかし、結構いい女だったよな、エンジ」
ふっと八重はニーツの顔を見た。ニーツの顔がイタズラっぽくにやにやと笑っている。
「あの女がお前の育ての親か?・・・八重ちゃん?」
「っ、お前っ・・・!!」
その小ばかにしたような言い方に八重の顔が赤くなる。
「ふふっ、そういえばかわいらしい呼び方されてましたね。八重ちゃん?」
「そうだな、八重ちゃん」
そういってイートンとニーツは顔を見合わせて笑う。
「お前ら・・・、それ以上言ったら怒るぞ・・・」
「わかりましたよ~、もう言いませんってば」
「わかったよ」
二人は八重の百メートル先に行くと、くるっと振り返ってユニゾンで叫んだ。
「八重ちゃ~んっ!!」
「・・・っ!!<ルナ>ぁぁっ!!!」
「キャーvv八重ちゃんが怒ったーっ」
逃げる二人とそれを追いかける八重、その図はまるでサザエさんのようであった・・・。
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