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PC 八重・イートン・ニーツ
場所 メイルーン・メイルーンへ向かう道
NPC <唄う山猫亭>主人・レオン=ウィグル
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「ほら、できたぞ」
そっとイートンが目を開けると、精霊の刻印の痕はきれいに消えていた。ニーツが額に滲んだ汗をぬぐう。
「・・・アイツら、魔力が弱いくせに、・・・きっと五人がかりだろうな、けっこう強い呪い、かけやがった。おかげで少し・・・、疲れたぞ」
「あ、ありがとうございますっ、ニーツ君」
イートンは屈託のない笑みでニーツに笑いかけた。ニーツはその顔を冷たい視線で一蹴する。
「全く・・・。宿に着いたらすぐに寝るからな、俺は」
そう言ってニーツは座っていた切り株からすっくと立ち上がった。どうやらニーツはメイルーンについてすぐ休むつもりでいるようだ。そんなニーツをイートンはニヤニヤして見つめる。
「あらあ、ニーツ君、まだ若いのにもうへばっちゃったんですかぁ?」
「煩い・・・、あのエルフの森でけっこう魔力を使ったからだ。そうでなければ、エルフの刻印ごときに疲れたりしない。・・・メイルーンにいい宿はあるんだろうな、イートン」
「ええ、<唄う山猫亭>なんかいいですよ。警備もしっかりしてますし」
そう言ってニーツに笑いかけるイートンの様子はどことなくうきうきとしていた。
「そんなに故郷に帰るのがうれしいか?イートン」
八重が優しく話しかける。
「ええ、たしかにあそこは物騒な街かもしれません。でも、僕にとっては僕が育った大切な街ですから。実は僕、父方に引き取られる前はメイルーンの少年ギャング団の副リーダーだったんですよ。信じられます?」
二人は同時に首を振った。イートンはくすっと笑って言う。
「だから、昔の仲間が今の僕を見たらきっとすごくびっくりしますよ。・・・
アエルはどうしてるかな。レオンとリルも。街の警備隊にとっつかまってなきゃいいけど」
故郷のことを話すイートンの横顔はどことなく優しかった。
悲しいことや辛いことがなかったわけではないだろう。しかも、少年ギャングの副リーダーだ。当時、彼の心は酷くすさんでいたに違いない。
しかし、それでもそこは彼の故郷。彼の故郷を懐かしむ気持ちに偽りはないだろう。
そんな彼を八重は少しうらやましく思った。彼に、故郷は存在しない。それどころか自分がいつ生まれたのか、誰の子供なのか、それすらも解らない。
-俺にも懐かしむべき故郷があればいいのにな・・・-
しかし、それは自分一人の秘密として心の中にしまっておくことにした。
メイルーンの街は、概観はそれほど悪くなかった。黄色いタイルが敷き詰められたきれいな道の傍にはきれいな建物が建っている。しかし、一歩その路地裏に入り込むと路地裏はみごとに荒廃していた。散らばったゴミ。下品な落書き。それらが散漫している。
「表通りのほうが確かに治安はいいんですけど、べらぼうに高い宿泊料をふっかけられるんです」
路地裏を縫うように歩きながらイートンが言う。
「だから、少し部屋が汚いのを我慢してくれれば<唄う山猫亭>が一番ですよ。あ、もうすぐで着きますから」
イートンの言葉どおり、ほどなく一軒の宿屋らしき建物が見えてきた。
「これでやっと休めるってワケだ」
ニーツが、彼にしてはほっとしたような物言いで言う。
「ええ、ここで一泊したら明日はヴェルンへ向かいましょう」
そして、彼らは木戸をくぐって宿屋<唄う山猫亭>へと入った。
「いらっしゃい、お泊りで?」
入ったとたん、カウンターにいた宿屋の主人が八重に話しかける。
「ああ、一泊させてもらう。いくらだ?」
「へい、お一人様一泊2000マナです」
「2000マナか、まあまあの値段だな」
そうして八重が手続きをしている間、ニーツとイートンは一通り宿屋の中を見回した。宿屋の一階は酒場を兼ねているらしく、今でも大勢の客が昼間だというのに飲んでいる。
「ふん、見るからに下品で、柄の悪そうな人間だ」
「ちょっとニーツ君、はっきり言いすぎですって・・・」
そのとき、背後でボンっという爆発音が聞こえ、思わず二人は八重のほうを振り返った。
そこには、目が点になっている八重と、宿屋の主人がいた。八重の手は、今まさに宿賃を払おうとしたと推測されるであろう形のまま固まっている。
「ちょっと・・・、八重さん・・?」
「俺もわからん・・・、金を払おうとしたら、目の前で金が消えて・・・」
「・・・フェアリーどものせいだな」
ニーツが苦々しく言う。
「お前たちが幻想に捕らわれている間、お前たちのカバンをあさっているフェアりーどもを見た。そのときに金に何か細工されたんだろう。これもあいつらのイタズラの延長だな、たぶん」
「じゃ、ちょっと待ってください!僕のお金も・・・!」
ボンッ
イートンが財布を開けたとたん、爆発音とともに金が消え、紙ふぶきが舞い上がった。とたんに、
「うっ・・・がーーーはははははは!!!!」
この光景を見物していた店の客がいっせいに爆笑の渦に包み込まれた。
「ヒーッヒッヒッ、なんだこいつら、金もないのに泊まる気してたのかよ!!
ひゃーっはっはっはっ!!」
「見たか?今の?ボンって、ハーッハッハッハッ!!」
「ひゃはははは、フェアりーどもにまんまと騙されてやんの!!」
「はーっはっはっはっ!!!ああ、腹痛てぇ・・・」
思わずイートンと八重は真っ赤になり、ニーツは嗚呼・・・とでもいいたげに首を横に振った。
逃げるように路地裏に戻った三人は、仕方なしに、路地に置いてあるドラム缶の上に腰を下ろした。
「しかし困ったな・・・、全くの一文無しだ・・・」
八重が肩を落とし、大きなため息をつく。
「全く、あいつら、フェアリーに騙されたことがないからあんな大口叩けるんですよ!」
イートンが口を尖らせて反論する。
「僕なんてあの森で死にそうになったんですからね!それに、ニーツ君、どうして君はお金を持っていないんです?君が少しでもお金を持っていればこんな・・・」
「俺は魔族だ。食いたければ盗むし、普段は宿なんかに泊まらない。だから金なんか必要ない」
「盗む!?君はまっとうに働くってことを知らないんですか!!」
「おい、まっとうに働く魔族が一体どこの世界にいるんだ・・・」
イートンとニーツが口論しているのを耳の端で聞いていた八重は、ふと、暗がりに何か蠢く者を見つけ立ち上がった。
「おい、イートン、血だ・・・」
「血・・・って、八重さんいきなり何を・・・。っ・・・!!レオン!!」
イートンはいきなりその者に駆け寄った。その方向に首を傾けたニーツは、暗闇に血だらけの人間を捉えた。
「っ・・・。イー・・トンなの・・か・・・?」
「レオン!どうした!何があった!!」
「お願いだ・・・、助けてくれ・・・、アエル達・・が・・・」
その言葉を最後に、レオンの首はがくんと力なく下がった。
PC 八重・イートン・ニーツ
場所 メイルーン・メイルーンへ向かう道
NPC <唄う山猫亭>主人・レオン=ウィグル
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「ほら、できたぞ」
そっとイートンが目を開けると、精霊の刻印の痕はきれいに消えていた。ニーツが額に滲んだ汗をぬぐう。
「・・・アイツら、魔力が弱いくせに、・・・きっと五人がかりだろうな、けっこう強い呪い、かけやがった。おかげで少し・・・、疲れたぞ」
「あ、ありがとうございますっ、ニーツ君」
イートンは屈託のない笑みでニーツに笑いかけた。ニーツはその顔を冷たい視線で一蹴する。
「全く・・・。宿に着いたらすぐに寝るからな、俺は」
そう言ってニーツは座っていた切り株からすっくと立ち上がった。どうやらニーツはメイルーンについてすぐ休むつもりでいるようだ。そんなニーツをイートンはニヤニヤして見つめる。
「あらあ、ニーツ君、まだ若いのにもうへばっちゃったんですかぁ?」
「煩い・・・、あのエルフの森でけっこう魔力を使ったからだ。そうでなければ、エルフの刻印ごときに疲れたりしない。・・・メイルーンにいい宿はあるんだろうな、イートン」
「ええ、<唄う山猫亭>なんかいいですよ。警備もしっかりしてますし」
そう言ってニーツに笑いかけるイートンの様子はどことなくうきうきとしていた。
「そんなに故郷に帰るのがうれしいか?イートン」
八重が優しく話しかける。
「ええ、たしかにあそこは物騒な街かもしれません。でも、僕にとっては僕が育った大切な街ですから。実は僕、父方に引き取られる前はメイルーンの少年ギャング団の副リーダーだったんですよ。信じられます?」
二人は同時に首を振った。イートンはくすっと笑って言う。
「だから、昔の仲間が今の僕を見たらきっとすごくびっくりしますよ。・・・
アエルはどうしてるかな。レオンとリルも。街の警備隊にとっつかまってなきゃいいけど」
故郷のことを話すイートンの横顔はどことなく優しかった。
悲しいことや辛いことがなかったわけではないだろう。しかも、少年ギャングの副リーダーだ。当時、彼の心は酷くすさんでいたに違いない。
しかし、それでもそこは彼の故郷。彼の故郷を懐かしむ気持ちに偽りはないだろう。
そんな彼を八重は少しうらやましく思った。彼に、故郷は存在しない。それどころか自分がいつ生まれたのか、誰の子供なのか、それすらも解らない。
-俺にも懐かしむべき故郷があればいいのにな・・・-
しかし、それは自分一人の秘密として心の中にしまっておくことにした。
メイルーンの街は、概観はそれほど悪くなかった。黄色いタイルが敷き詰められたきれいな道の傍にはきれいな建物が建っている。しかし、一歩その路地裏に入り込むと路地裏はみごとに荒廃していた。散らばったゴミ。下品な落書き。それらが散漫している。
「表通りのほうが確かに治安はいいんですけど、べらぼうに高い宿泊料をふっかけられるんです」
路地裏を縫うように歩きながらイートンが言う。
「だから、少し部屋が汚いのを我慢してくれれば<唄う山猫亭>が一番ですよ。あ、もうすぐで着きますから」
イートンの言葉どおり、ほどなく一軒の宿屋らしき建物が見えてきた。
「これでやっと休めるってワケだ」
ニーツが、彼にしてはほっとしたような物言いで言う。
「ええ、ここで一泊したら明日はヴェルンへ向かいましょう」
そして、彼らは木戸をくぐって宿屋<唄う山猫亭>へと入った。
「いらっしゃい、お泊りで?」
入ったとたん、カウンターにいた宿屋の主人が八重に話しかける。
「ああ、一泊させてもらう。いくらだ?」
「へい、お一人様一泊2000マナです」
「2000マナか、まあまあの値段だな」
そうして八重が手続きをしている間、ニーツとイートンは一通り宿屋の中を見回した。宿屋の一階は酒場を兼ねているらしく、今でも大勢の客が昼間だというのに飲んでいる。
「ふん、見るからに下品で、柄の悪そうな人間だ」
「ちょっとニーツ君、はっきり言いすぎですって・・・」
そのとき、背後でボンっという爆発音が聞こえ、思わず二人は八重のほうを振り返った。
そこには、目が点になっている八重と、宿屋の主人がいた。八重の手は、今まさに宿賃を払おうとしたと推測されるであろう形のまま固まっている。
「ちょっと・・・、八重さん・・?」
「俺もわからん・・・、金を払おうとしたら、目の前で金が消えて・・・」
「・・・フェアリーどものせいだな」
ニーツが苦々しく言う。
「お前たちが幻想に捕らわれている間、お前たちのカバンをあさっているフェアりーどもを見た。そのときに金に何か細工されたんだろう。これもあいつらのイタズラの延長だな、たぶん」
「じゃ、ちょっと待ってください!僕のお金も・・・!」
ボンッ
イートンが財布を開けたとたん、爆発音とともに金が消え、紙ふぶきが舞い上がった。とたんに、
「うっ・・・がーーーはははははは!!!!」
この光景を見物していた店の客がいっせいに爆笑の渦に包み込まれた。
「ヒーッヒッヒッ、なんだこいつら、金もないのに泊まる気してたのかよ!!
ひゃーっはっはっはっ!!」
「見たか?今の?ボンって、ハーッハッハッハッ!!」
「ひゃはははは、フェアりーどもにまんまと騙されてやんの!!」
「はーっはっはっはっ!!!ああ、腹痛てぇ・・・」
思わずイートンと八重は真っ赤になり、ニーツは嗚呼・・・とでもいいたげに首を横に振った。
逃げるように路地裏に戻った三人は、仕方なしに、路地に置いてあるドラム缶の上に腰を下ろした。
「しかし困ったな・・・、全くの一文無しだ・・・」
八重が肩を落とし、大きなため息をつく。
「全く、あいつら、フェアリーに騙されたことがないからあんな大口叩けるんですよ!」
イートンが口を尖らせて反論する。
「僕なんてあの森で死にそうになったんですからね!それに、ニーツ君、どうして君はお金を持っていないんです?君が少しでもお金を持っていればこんな・・・」
「俺は魔族だ。食いたければ盗むし、普段は宿なんかに泊まらない。だから金なんか必要ない」
「盗む!?君はまっとうに働くってことを知らないんですか!!」
「おい、まっとうに働く魔族が一体どこの世界にいるんだ・・・」
イートンとニーツが口論しているのを耳の端で聞いていた八重は、ふと、暗がりに何か蠢く者を見つけ立ち上がった。
「おい、イートン、血だ・・・」
「血・・・って、八重さんいきなり何を・・・。っ・・・!!レオン!!」
イートンはいきなりその者に駆け寄った。その方向に首を傾けたニーツは、暗闇に血だらけの人間を捉えた。
「っ・・・。イー・・トンなの・・か・・・?」
「レオン!どうした!何があった!!」
「お願いだ・・・、助けてくれ・・・、アエル達・・が・・・」
その言葉を最後に、レオンの首はがくんと力なく下がった。
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