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2025/03/10 16:10 |
21.湖畔の魔族達/ニーツ(架月)
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PC  八重 イートン (ニーツ)
場所  ヴェルン湖
NPC ベル=リアン
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 金目の少年魔族は、二人を見てにっこりと笑った。相変わらず、歌うように言葉を紡ぐ。
「オジサンたち、ハンターなの?」
「お前が、ベル=リアン?」
 八重が慌てて彼から離れると、警戒の眼差しをむけた。少年は、立ち上がってこちらの方へ向き直り、麦藁帽子を跳ね飛ばす。黒に近い、深い緑の髪が湖を渡る風に揺れた。
 イートンがいたら、『可愛い!』とか言って騒ぐだろうな、とこっそりと心の中でニーツは思った。金色の瞳は、魔族の中ではよくある物だ。
「そうだよ。オジサンたち、僕を殺しに来たんでしょう?だったら…」
 ベル=リアンがそう言うと、ザワリと、空気が揺れた。
「死んじゃいなよ!!」
 火が突然巻き起こり、敵意をもって八重に向かって疾る。だが、彼に到達する前に、霧散した。
「…!ニーツ!!」
 いつの間にか八重の隣に移動していたニーツが、振るった手を引っ込めながら、目を細めて呟いた。
「性質の悪い子供だ…」
「…あれも、私より年上とか、そういうことはないだろうね?」
「正真正銘の子供だ。人を殺したり、破壊する事しか考えていない。恐らく、20歳にもなっていないだろうな。赤子のようなものだ。魔力も、大したものじゃない。…まあ、俺のようにこの姿で留まっている方が、本当は珍しいんだけどな」
「あれ?綺麗なお姉…えと、お兄ちゃん…かな?も魔族なの?珍しいね」
 一瞬、自分の攻撃が防がれたことに目を瞠ったベル=リアンだったが、すぐに好奇の眼差しをニーツに向ける。
「ね、ね、名前はなんて言うの?せっかく会えたんだから、教えてよ」
「お前などに教える義理は…」
「コイツはニーツという」
「…おい」
 ニーツの拒絶の言葉を遮って、八重が少年の質問に答えた。ニーツは、半眼で八重を睨む。ベル=リアンは、ニーツの名前を聞いて、パッと顔を輝かせた。
「え?え?ニーツ?って、あのニーツ!?」
「…お前がどのニーツのことを言っているのか知らないが、多分そのニーツだと思うが」
「ホント?ホント!?本物?うわ~会えるなんて凄い!!」
「ほう。有名人なのか?お前」
 うんざりとした顔で腕を組むニーツの横で、八重が尋ねる。
「……長生きすると色々あるんだよ」
「へえ。お前も何かしたのか?コイツのように強盗とか、同族殺したとか、女癖が悪くて有名だと…」
 -ドガッ-
 八重の後頭部に、衝撃が来た。何か堅い物がぶち当てられたようだ。一瞬、八重の目の前に火花が散る。
「…失礼な」
 頭に当たった物は、そのまま落ちずにニーツの手の中に舞い戻り、消える。
「おま…それ…ほ…ん…」
 後頭部の痛みに顔をしかめながら、八重がたどたどしく抗議する。ニーツが八重に当てた物は、あの図書館で借りた本だった。実はもう借りてから3日過ぎているのだが、イ-トンがまだ読み切っていない、という理由でまだ返してきていなかったのだ。今一冊はイ-トンが持っており、ニーツが持っているのは、あの分厚い方だった。ついでに言うと、装丁はものすごく堅い。
 どうやら、身長差を考えて直接頭をはたくのは無理、と判断し、魔力を使って本を彼の後頭部に落としたのだろう。きちんと八重は腹部をガードしていたのだが、無駄になった。
「あはは。仲がいいね」
『何処が』
 ベル=リアンの台詞に、二人の言葉がはもる。それを聞いてますます少年魔族は笑い転げた。
「ニーツさんって、もっと大人で気難しいと思っていましたよ。僕、うちのじいさんたちに良く話聞いてました」
「じいさん…」
 思わず、八重は口の端をひくつかせる。ニーツは自分の年齢を三桁だと言っていたが、一体何歳なのだろうか?
 それに、ベル=リアンの言葉づかいが丁寧になっている事にも驚いた。
「何で人間なんかとつるんでるんですか?」
「別に。単なる気まぐれだ」
 鬱陶しそうに、ニーツは答えるが、ベル=リアンは上機嫌の様子で尚も話し掛けてくる。
「それでも勿体ないですよ。ねえ、僕達と一緒に来ないですか?楽しいですよ」
「人を苛めるのが?」
「そうです。あいつら、弱っちいんだもん」
 アハハと笑うベル=リアンに、冷たい視線を送りながら、ニーツは腕を外し、右手を腰に当てた。
「断る。お前みたいなやつが、一番嫌いだ」
「そうですか。残念ですね。じゃあ、戦うしかないじゃないですか」
「…お前ごときが、俺に勝てると思っているのか?」
「僕じゃあ、無理でしょうね。でも、兄なら、きっと可能です。僕は足止めするだけでいい」
「兄、だと…?」
 片眉を跳ね上げて、八重が反応する。
「さっきも思ったが、魔族にも兄とかいるのか?」
「当たり前だろう。人間達は俺達に偏見持ちすぎだ」
「ふうん。思っていたより人間に近いのだな。ということは、お前にも家族とかいるのか?」
「さあな」
 八重の質問に、ニーツは肩をすくめて答える。
「そんなことより、何かしてくるぞ」
 ニーツの目は、ベル=リアンの周りに集まる魔力の流れを捉えていた。
 大した相手ではない、とは言っても、人間はもとより、そこら辺にいる雑魚魔族に比べれば、格段に魔力は高い。何をやってきてもおかしくない。
「それじゃあ、行っきま~す!!」
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2007/02/17 22:53 | Comments(0) | TrackBack() | ○Under The Moon
22.赤と青/イートン(千鳥)
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PC  イートン (八重  ニーツ)
場所  メイルーン
NPC アエル 伯父さん
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「・・・アエル。シニワンというのは何者なんですか?」
 未だ痛む肩を押えながらイートンは尋ねた。
 地下牢は暗く、あれから一体どれだけの時が過ぎたのか、自分には知る由も無い。
「う~ん、ユサの腹心の部下って奴かな・・・?昔のイートンみたいな」
 それは悪い奴だ。イートンは複雑な心境で頷いた。
「それで?いつからこの町にいるんですか?」
 そばかすの浮かんだ鼻の頭をかき、アエルはふと首をかしげる。
「分からん」
「え?」
「昔からいたような・・・いや、違う。ユサが羽振り良くなったのはつい最近だっけ・・・」
 曖昧な答えが気になった。鮮やかな緑の髪に金色の瞳。
武術の達人といった風体だったが・・・
(彼は本当に人間なのだろうか?)
 そういえば、倉庫で彼の姿は無かったように思える。ニーツがいればこんな疑問もわかずに済んだのだろうが・・・。
(八重さんとニーツ君は仲良くしてるでしょうか)
 ふと、イートンは気になった。
まぁ、八重は大人だし、自分のように鳩尾をくらうことも無いだろうが・・・

「アエル。僕ちょっと出かけてきます」
「は?」
「調べたいことがあるんです」
 キョトンとするアエルを尻目に、イートンが腰をあげた。
「どうやって?」
「こうやって」
 石壁の隙間に手を伸ばし、その一つを押した。

 ガコン。
 
 また別の石を上、下、奥へと動かす。その手は一見ランダムに見えた。
「な・・・なんだよ、それは」
「隠し通路です」
 にっこりと笑みを浮かべて振り返る。そこに大人が一人通れる大きな穴が出来上がる。
「ユサにいつ閉じ込められるか分からない身だったものでね、僕も」
 それだけいうと、滑るようにイートンは中へ飛び込んだ。
  

 日の暮れた研究室で、男は実験台の前を行ったり来たりした。
 しかし、その紫の瞳がビーカーの中におちる抽出液から離れることは無かった。
 コンコン。
 ドアが遠慮がちにたたかれる。
「伯父さん・・・?」
 小さな声がドア越しに聞こえた。
 その声に全く覚えは無いが、どうやら自分の甥らしい。
「僕です、イートンですってば」
「知らん」
 そっけなく言ってみれば、扉の前の主は大きな音を立てて扉を開けた。
 しまった、鍵をかけるのを忘れた。
「お久しぶりですね」
「記憶に無いな」
 伸び放題の黒い髪をガシガシとかく。今は実験に夢中なのだ、そんな甥に構う余裕など無い。
「そうですかぁ・・・この青と赤の液体、綺麗ですね」
 背後で困ったように首をかしげたのが分かった。ランプに照らされた影がちょこんと動いたのである。

 「混ぜたら紫になるのかな」

 「ちょ!??まてっ!!」
 男は慌てて振り返る。そんなことしたら実験室はおろかここいら一面が消滅する。
「冗談ですよ、やだなぁ、伯父さん」
「この悪童めッ」
 吐き捨てると男は実験台から離れる。そこには金髪の、母親似の顔があった。
「俺の妹は元気か?」
 
 「ふ~ん、ここはちょうど、ヴェルン湖に位置する」
 イートンが持ってきた本を見ながら伯父はまた行ったり来たりし始めた。相変わらず止まる事を知らない人だ。
「ヴェルン湖っていうんですか?あの湖は」
 イートンは驚いて顔を上げる。この土地の人間は村外れの湖としか呼ばない。
「あぁ。学術的にってやつだな。名前なんて無くたって存在してるんだ。物ってのは」
「名前は力ですよ。軽視するものではない」
 モノ書きのイートンとしては見逃し難い言葉だ。
「でも、今更行っても無駄だと思うがな」
 喧嘩腰のイートンを気にもせず、伯父は肩をすくめる。
「どうしてです?」
「あそこは一度水を抜いて一大発掘が行われてるんだ。お探しの品はもう無いだろう」
「えぇ!?いつ?発掘品はどこに行ったんですか??」
「つい最近だ。場所って言えば、そりゃ決まってるだろ・・・。アノ市長のところだよ」
「アノ市長ですか・・・・」
 そして二人の間に気まずい沈黙がおりた。

2007/02/17 22:54 | Comments(0) | TrackBack() | ○Under The Moon
23.「湖畔の決戦」/八重(果南)
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PC 八重・ニーツ・(イートン) 場所 ヴェルン湖畔
NPC ベル=リアン シュワルツェネ=リアン クーロン
注)今回は八重の一人称です
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 少年魔族ベル=リアンは、無邪気に笑いながら火の玉を俺のほうに向けて続けざまに放ってきた。
「あははっ、まずはそこの無能なニンゲンから死んじゃえ!!」
「無能?」
 その言葉に、俺は少し遺憾を感じずにはいられない。すかさずニーツが防御障壁をつくって火の玉を弾いた。
「だって無能じゃん、ニーツがいなきゃ何もできないでしょ?」
 たしかに、今の俺はニーツの魔法に助けられてばかりで何も動いてはいない。さぞかし、今の俺はニーツのお荷物だろう。ニーツも二三発火の玉を返すが、俺を防御しているせいでまともにベルへ攻撃ができないようだ。・・・ベルの狙いもそうだろう。俺を攻撃することで、ニーツに攻撃させないようにしているのだ。

 冗談じゃない・・・。

 俺の胸に静かに炎が燃えた。

 あんな魔族のお荷物なんて、絶対に御免だ。

 俺がそう思い、ある決意を固めようとしていたそのとき、
 湖の水面が揺れたと思うとその波紋のなかから一人の男が現れた。
 長い深緑色の髪に、金色の瞳。

 そうか、コイツがあの魔族の兄・・・。

「兄ぃ!!」
 ベルが嬉しそうに声を上げた。
「兄ぃ!ニーツを倒してよ!コイツ、人間と組んで僕を殺そうとするんだ!」
「・・・解った、ベル」
 兄のほうはこの魔族とは違い、割と無口だと、俺は思った。
「・・・俺も、コイツとは一度戦ってみたいと思っていた。その能力を、見てみたいと・・・思っていた」
 そう言ってソイツは静かにすっとニーツを見つめる。
「・・・俺はニーツを殺るから、お前はそこの人間を片付けろ」
「わかった!シュワルツェネ兄ぃ!すぐ片付けて僕も加勢するよ!」
 シュワルツェネという魔族の言葉に、ベルは目をきらきらさせて答えた。それがますます俺の癇に障る。
「おい、ニーツ」
 俺の腹は決まった。先ほどから考えていた決意を口に出す。
「あのベルとかいう魔族、俺に任せてもらおう。俺にかまわずアイツと戦え」
 そう言って俺は目線でシュワルツェネとかいうやつを指す。
「おい、お前・・・」
 瞳に戸惑いの色を浮かべるニーツに、俺は強く言った。
「心配するな。魔力さえなければアイツなど、・・・五秒だ。魔力の軌道さえ読めれば、問題ない」
 ニーツは考え深げに俺を見ていたが、それは一秒だった。
「・・・解った。せいぜい犬死しないように戦いな」
 言うと、ニーツはふっとシュワルツェネにむかって駆け出した。シュワルツェネも無言で両手に魔力を溜める。俺がニーツの行動を見ていられたのも数秒だった。ベルが火の玉続けざまに打ってくる。
 しかし、はっきり言って俺は、しばらくの戦闘でベルの火の玉の動きが読めるようになっていた。俺は火の玉を交わすと、ひゅっとベルと間合いを詰めた。

ビュワッ

 俺のパンチをベルは間一髪でかわした。
「!!」
 ベルの額に汗がにじんでいる。俺はすかさずかくん、と足を曲げ、回し蹴りを決めようとしたが、
「・・・つっ!!」
 ベルがとっさに放った炎で俺の蹴りは防がれた。全く、動きはそれほどでもないのにこの魔法がうっとうしい。
 しかし、この攻撃で攻撃は完全に俺のペースになった。俺は次々にびゅんびゅんとパンチを繰り出す。
「くっ・・!!」
 ベルのほうは俺の攻撃をよけることに精一杯のようだ。それでも、何発かは確実にベルにヒットしている。ダメージは確実に溜まってきているはずだろう。
 ふっと、俺はニーツの方を見た。アイツもあのシュワルツェネとかいう魔族と派手に戦っている。二人がぶつかる度、花火のように火花が散った。それにしても、あの魔族はあのニーツとなかなか互角に戦っている。さすが、このベルとかいう魔族が応援を頼むだけはある。
「!!」
 突然、俺はニーツの危機に気づいた。ニーツの背後にいつのまにか、炎が迫っている。あの間合いとスピードでは確実に、避けられない。
「ニーツ!!」
 俺は無我夢中で足元にあったものを放った。放った瞬間、俺は、それが何であるかを知った。・・・先ほど、ニーツが俺の頭にぶつけた本だ。
 俺があっと思う間もなく、本はニーツの代わりにその炎を身に受けた。
 その瞬間、
「こりゃああああっ!!!」
 本から飛び出たホログラフィに全員の動きが止まった。
「げっ」
 そのホログラフィーを見たとたん、ニーツが苦い顔をした。
「・・・クーロン」

2007/02/17 22:55 | Comments(0) | TrackBack() | ○Under The Moon
24.停滞禁止!本は大切に!/ニーツ(架月)
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PC  八重 ニーツ (イートン)
場所  ヴェルン湖畔
NPC ベル=リアン シュワルツェネ=リアン クーロン ユサ
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 ニーツとシュワルツェネ、二人の間で魔力がぶつかり、火花が飛ぶ。
「遅い…」
 驚くべきスピードで、シュワルツェネはニーツの横に回り込んだ。ニーツは、死角から襲ってくる棍を、咄嗟に張った障壁で防ぐ。
 彼は、魔力だけではなく、体術にも優れているようだ。全く、隙がない。二人は、距離を離して対峙する。
「何故、本気を出さない?」
 静かに、シュワルツェネが問い掛けてきた。
「俺が、本気を出していないと?」
「そう、見えるな。少なくとも、少なくとも、弟の攻撃から人間を守るだけで精一杯なんて、そんな事はないだろう?」
「見ていたのか」
「弟には悪いがな」
 このような会話の間にも、二人の周りでは絶えず火花が散っている。話は途切れ、二人が同時に動いた。その時ふと、ニーツは背後に魔力を感じた。避けられないと判断し、チッと舌打ちして、なるべく被害を少なくしようと振り返った時、目に入った物は…
「こりゃあぁぁぁぁっ!!!」
「げっ」
 燃える本と、見慣れた人物のホログラフィー。思わずニーツは顔をしかめた。
「…クーロン」
 いつもニーツが行っている図書館の、クーロン地区担当司書の老人だった。
「ニーツ!いつも本は大事にしろと言っているだろうが!何故そんな簡単なことが守れん!?」
「どうせ、魔力で作った複製品だろうが」
「それでも、本は本じゃわい」
 ニーツのささやかな反抗に、ツーンと老人は横を向いた。ニーツはそれを、半眼で睨む。
「……このくそジジィ…」
「ワシがジジィなら、お主だってジジババの仲間じゃ。全く、いつまで経っても大人げのない」
 いつもなら此処で一発殴るところだが、いかんせん、相手がホログラフィーなのでどうしようもない。
「とーにかくじゃ!!もう一冊の本はきっちり返す事じゃ。全く、ただでさえ貸し出し禁止なのを長いつきあいだから貸してやっているのに。複製でも、作るの面倒なんじゃぞ。もしもう一冊も今回みたいに燃やしたらどうなることか、よぉく考えるんじゃな」
「…燃えたのは俺の所為じゃないんだが…」
 そう呟いて、ニーツは八重を見た。八重もベル=リアンも、突然のクーロンの来襲に目を丸くしている。
「それでも!借りたお主の責任じゃい!今決めた、そう決めた、ワシが決めた!!という訳で、今度返しに来たときは、説教一時間と反省文を覚悟しておくんじゃな」
「反省文って…おい!!」
 鉄砲…否、ガトリングガンのように言いたいことだけを言って、ホログラフィーは消えた。一瞬、辺りがしーんと静まり返る。
「ええと…」
 嵐のように現れて去って行ったクーロンに面食らいながらも、八重はニーツに話しかけた。
「…悪いな」
 そんな八重を、ニーツは無言で睨む。余計なことを、とその瞳は語っていた。
「そうそう、それとな」
「うわ」
 突然、ニョキッとクーロンの姿が再び現れる。クーロンは、ニーツにしか聞こえない声で囁いた。
「あの魔族には気を付けなさい。何故か、同族に対しては滅法強い。特殊な技を…」
 フウッと、今度は何かにかき消されるかのように、クーロンの姿が消えた。同時に、ニーツの足下に、複雑な陣が浮かぶ。
 真っ先に我に返ったシュワルツェネが、何かを仕掛けてきた事は解った。彼に対して、隙を見せすぎたと、ニーツは舌打ちする。
 ニーツは、慌ててそこから逃れようとしたが、陣の完成の方が早かった。
 紅い光が、ニーツを包んで、天へ向かって立ち上る。
「ニーツ!!」
 八重が、ニーツに駆け寄る。
「兄ぃ!」
 同時に、ベル=リアンも自分の兄へ駆け寄った。
「あの技?あの技使ったの!?」
「ああ。なかなか隙が得られなかったが…」
「じゃあ、もう僕らの勝ち同然だね。これこそ兄ぃの最強技だもんね」
 はしゃぐベル=リアン。
「兄ぃのあの技なら、敵がどんな魔力を持ってたって構わないもんね。だって…」
 紅い光が、スウッと消えた。ニーツは変わらずに立っている。一瞬ホッとした八重だったが、次の瞬間、ニーツの身体がグラリと傾いだ。
「お…おい!どうした…!」
「く…油断した…。やって…くれるじゃ…ないか」
 ニーツは八重に支えられながら、胸を押さえて喘ぐように魔族の兄弟を睨んだ。額には脂汗が浮かんでいる。
 身体の中を、灼け付くような痛みが駆け巡っている。
「今、お前を苛んでいるのは、お前自身の魔力だ」
「シュワルツェネ兄ぃの技は、人の魔力をそのままその人に反射させることが出来るんだよ。自分の中で、魔力が暴れてるの解るでしょう?相手の魔力が強ければ強いほど、効果を発揮するんだ。どう?自分の魔力に苦しめられる気分は」
「…良くは…ないな!」
 ニーツはそう言い放って、魔力を放った。それは、まっすぐベル=リアンめがけて飛んだが、シュワルツェネが障壁を張って防いだ。
「く…ああ…」
「あはは。そんな状態で魔法なんか出しちゃ、よけい苦しくなるだけだよ。もっと自分に苦痛が返ってくるよ?」
「ニーツ!!無理するな!!」
 八重が、腕の中で苦しむニーツに叱咤の声を上げる。
 しかし、厄介なことをしてくれた、と八重は心の中で独りごちた。ベル=リアン一人だけなら何とかなったかもしれないが、二人とも倒す自信は、八重にはない。
「そうそう、忘れていた…」
 その時、シュワルツェネが軽い口調でそう呟く。だが、その先の言葉は、八重の目を瞠らせるのに十分な物だった。
「あの街にいる…イ-トン?だったか。アレもどうにかしないとな」
「イ-トンを、知っているのか!?」
「当然だ」
 そう言って、シュワルツェネは、手に紅い光を宿した。


「ユサ!!大変だ!!」
 手下の一人が、そう言って、ユサの所に飛び込んできた。
「どうした?」
「イ-トンが…イ-トンが逃げた!!」
「何だと!?」
 そう怒鳴って立ち上がったユサの首筋には、紅い文字が浮かび上がっていた…


2007/02/17 22:55 | Comments(0) | TrackBack() | ○Under The Moon
25.月を掻き混ぜて/イートン(千鳥)
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PC  八重 ニーツ イートン
場所  メイルーン ヴェルン湖畔
NPC ベル=リアン シュワルツェネ=リアン 伯父
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 水面に月が映った。
 砂糖を入れて、コーヒーをかき混ぜる。
 ぐにゃぐにゃと歪んだ月 元の形も分からない・・・・。

「お前が甘党なのは知ってるが・・・どれだけ砂糖を入れる気だ?」
「・・・え?」

 伯父の言葉にイートンは我に返った。
溶けきれなくなった砂糖がザラザラと不快な音を立てた。
とてもじゃないが飲めたものではない。
結局、口をつけることなくカップを机に置いた。

「そろそろ、戻らないと」
「何処に泊まってるんだ?」
「地下牢です」
「そりゃあ物好きだな」

  窓の外、あの林の向こうにヴェルン湖がある。今すぐにでも彼らに追いつきたいと言う衝動をイートンは慌てて押さえつける。自分は戻らなければならないのだ、それが契約。
 それを守る限りユサたちも自分たちに手を出すことが出来ない。

 しかし、その光景を見た瞬間、イートンの理性は吹っ飛んだ。
 
 ――――――立ち昇る。紅い、光柱。  

 暗い林の中から、ソレは魂を乗せる箒星のように不吉な余韻を残し天に消えた。
「まさか・・・ニーツ君?」

 均衡が破れる。
 契約―――――不履行。
 イートンの身体に知らぬ間に植え付けられていたニーツの魔法が解けるのが分かった。
 
「外が騒がしいな」
 狭い路地の影で複数の人の動く気配がした。ユサに気づかれてしまったらしい。
「今から戻っても遅いですよね・・・」
 アエルも抜け穴から無事、脱出していれば良いのだが。
「来るぞ」
 カーテンを素早く閉めて伯父が言う。故郷のこの町でイートンが隠れる場所などここ以外には何処にも無いのだ。
「すいません、ご迷惑かけて」
 何、他人行儀なこと言ってるんだ。そう笑う伯父にイートンはさらに甘えてみることにした。赤と青、綺麗で危険な液体を指差す。
「じゃあ、ソレちょっと分けてくれませんか?」

 「ぐあっ!?」
 扉を開けて襲ってきた男たちを不意打ちで叩きのめすとイートンは外に出た。
「また、来いよ」
 男の腕を捻りながら伯父がそう言ったのが聞こえた。
「えぇ、近いうちに」
 その言葉に、イートンは心から笑みを浮かべ答えた。

-------

 微かな記憶を頼りに光の無い道を進むのは楽ではなかった。しかし大幅なショートカットの結果、イートンは半分以下の時間でヴェルン湖のほとりにたどり着いた。 

 「八重さん!?ニーツ君!!」
 「イートン!?」 
 
 ニーツを庇うように魔族と対峙していた八重が驚いてこちらを見る。
 魔族は二人だった。背の高い、長身の男に親子バッタよろしく一人の少年がくっ付いている。思わず二人で一人の妖怪か何かかとイートンは思った。
「ほぉ・・・あそこから良く脱け出せたな」
「シニワン!?」
 長身の男が振り向いて、意外そうに細い目を開いた。小さい方がピョンと男の腕から離れた。可愛らしい少年。しかし、さすがのイートンにも少年を愛でる余裕は無かった。
「また玩具が増えたね。シュワルツェネ兄ぃ」
「お前が・・・ベル=リアンなのか?」
 シニワンに向かって呟いたイートンに少年が頬を膨らませる。
「違うって言ってるだろ!こっちはシュワルツェネ兄ぃ。僕がベル=リアンだよ」
 何となく状況が飲み込めたイートンは、困ったように首をかしげた。
「足手まとい、逆に増えちゃいましたか・・・?」
 疲れた表情に口元だけ軽く持ち上げて、八重がニヤリと答えた。
「いや、一人よりはマシだ」 

2007/02/17 22:56 | Comments(0) | TrackBack() | ○Under The Moon

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