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2025/03/10 12:05 |
11.愛しいヒト/八重(果南)

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PC 八重 ニーツ (イートン) 
場所 エルフの森・幻影世界
NPC フェアリー オベロン 幻影エンジ
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 しかし、見上げた八重の目は、あの忌々しい天体、月の存在を見つけることは出来なかった。もとより、フェアリーたちの魔力程度では月を作ることなど到底出来ない。
-ふふふ、馬鹿だね、お前は-
フェアリーたちの幼い声のざわめきが大きくなった。
-自分から嫌いなモノをばらすなんてさ、これでどうだ-
 そして、目の前に月が現れた。・・・が。
てれ~ん、という効果音がふさわしいぐらいに、それは間抜けな格好をしていた。丸い大きな黄色い物体についた短い手と足。真ん中には大きな顔がついている。
「どうだ!満月だぞぉ!怖いだろ~」
そう言って自称「満月」は短い手をぱたぱたさせた。
「・・・ふぅ」
フェアリーは幼稚だと思ってはいたが、これほどまでとは八重も思ってもみなかった。このような満月に八重は当然、変身はおろか、心を乱すこともない。
八重は、苦々しい顔でとんっと「満月」の顔に手を当てた。
「・・・<ルナ>」
「ぎゃあああああっ!!!」
「満月」の悲鳴が森中にこだました。


しばらく、八重は森の中で何の障害にも出会わなかった。不気味なくらいに。かわりに辺りにうっすらと霧が立ち込めてきた。
(これは新たな罠なのかな?まあ、物理攻撃が通じる敵なら、どんなヤツであろうと勝つ自信はあるが)
心なしか、八重は森の出口に向かっている気がしなかった。むしろ、どんどん何者かによって奥に誘い込まれている気がする。しかし、全てが狂っているこの森の中を、八重はただあてずっぽうに進んでいくことしか出来なかった。
(こんな時、あの魔族なら、魔力の流れを読んで道を見つけ出すんだろうな)
ニーツの存在を思い出し、八重は自分が魔力を全く持たないことを恨んだ。ニーツについていったイートンは無事に森を出られるかもしれない。なんといっても彼は強い。しかし、自分は?
(くそっ、せめて魔力のカケラでも持っていれば、勘で道を選ぶこともできるだろうに)
そうしている間にも、霧はどんどん深くなってくる。もう、八重は一寸先も見えないほどの霧に周りを取り込まれていた。
「ん?」
八重は心なしか、周りを取り囲む霧がうっすらとピンク色をしていることに気づいた。
(やはり、この霧は罠なのか?)
そう思ったその時、
<・・・え・・八重>
その声にふっと八重は振り返った。なつかしいあの人の響きを確実に捉えたからである。
八重が振り返ったその瞬間、
「八重っ、まーたアンタは森に行ってたのぉ?」
驚きのあまり八重の目が点になった。
「エ・・ンジ・・・」
驚きと、感動で声がかすれる。そこには、エンジがいた。オレンジ色の髪の毛。意思の強い大きな瞳。彼がかつて誰よりも愛した女だ。
いつのまにかあたりも、かつて八重とエンジが暮らした家の周りの風景そのままになっていた。赤い屋根の小さな小屋。小さな井戸。周りを取り囲む林。八重は何もかもを忘れ、懐かしさで泣きそうになった。これは明らかに自分をここにとどめるための罠だとわかりきっていても。
「ん、どした~、八重?」
涙ぐむ八重の顔をエンジが覗き込む。
「アンタ、また森で怪我したんでしょ。アンタね~、男はそんなにカンタンに泣かないのっ、ほ~ら、いい子だから」
エンジは八重の黒い髪をくしゃくしゃっと撫でる。・・・あの頃と同じだ。八重は思った。あの頃、自分が十四歳の頃、エンジと二人で小さな家に暮らしていた幸せな頃と。なにもかも。
「八重~っ、それよりアタシお腹すいた~、早く飯作ってよぉ~」
エンジは八重の背中を押し、小屋に入ろうとする。八重はその瞬間、これが罠だということを忘れ、にっこり微笑んだ。
「はいはい、今すぐ作るから待ってろ、エンジ」


トントントン・・・。
小屋の台所で野菜を刻む。そのリズムが体に心地よい。思わず鼻歌を口ずさむ。今日はエンジの好きなビーフシチューを作るつもりだ。
「八重ちゃーんっ」
料理中だというのにエンジが背中に抱きついてくる。
「わぁお、おいしそー、ねっ、味見っ、味見させて、あ~んっ」
「・・・ダメだよエンジ、まだ出来てないだろ」
「い~じゃんっ、あ~んっ」
「ちょっ、エンジ・・・っ」
「あ~んっ」
仕方がないので、エンジの口に作りかけの料理を一口食べさせてやる。
「ん~、おいし~、八重ちゃんの料理はサイコーねっ」
「・・・いい加減子ども扱いするなよ」
「何ませたこといってんだか、まだガキのくせに、アンタはまだまだお子様ですよ~だっ」
そういうエンジを見ながら、八重は自然に笑みがこぼれて止まらなかった。
(・・・こういう幸せが永遠に続けばいい)
そう考えて八重はすぐに思い直した。
(何考えてるんだ俺は、まるで俺が前は幸せじゃなかったみたいじゃないか)
今では八重はほとんど幻影に染まりつつあった。以前の記憶が徐々に薄れてゆく。事実、八重の記憶はもうほとんど消えかかっていた。
そのとき、ぬっと、壁から手が一本飛び出した。続いて足が一本。とがった耳と、左右色が違う瞳が壁から現れる。
「・・・誰だお前は!!」
「ふん、見事に洗脳されてるな、八重」
ニーツはそう言ってふんと鼻を鳴らした。
「何で俺のこと・・・!!」
「ああ知ってる、だって俺たちは今日、森で出会った。思い出せよ、八重」
ニーツはちらっとエンジの姿を見た。
「ふん、お前もいい加減こいつを惑わすことはやめてもらおうか、オベロン」
「何、この人!?ちょっと、八重ちゃん、知ってるの!?」
「違う、お前は幻影だ」
言うと、ニーツはいきなりエンジを殴った。
「・・・っ、エンジ!!」
しかし、八重は目をこすった。一瞬エンジの姿がゆらりと揺れた気がしたのだ。
「エン・・・ジ・・・?」
「思いだぜ八重、幻影の中ではいつまでも生きられない。・・・お前も解っているだろう?」
言いながらニーツはちらちらと何かを気にしているようだった。視線がおぼつかない。
それは残してきたイートンだということを八重はあとから知る。
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2007/02/17 22:46 | Comments(0) | TrackBack() | ○Under The Moon

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