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PC 八重 イートン ニーツ
場所 エルフの森
NPC フェアリー・森の主
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ズズズ。地面が割れ、そこに生える全ての木々の根が一つに絡まる。それは精巧なレース編みのように複雑な模様を作り、立体を描いた。
「な・・・?」
八重とニーツがその様子を見つめる中、ウサギをやっと生け捕りにしたイートンが横で歓喜の声を上げた。しかし、すぐにその顔が青ざめる。
「あぁ!!そんなッ!」
「どうした?」
八重が覗き込むとその本は白紙になっていた。水の中に落ちたのだ、インクが滲んでいるなら理解できるがその空白は文字だけが逃げていったかのようである。
―――取引をしよう―――
いつのまにか人の形をとったソレが言った。
「ほぉ」
―――そうしたら、お前の本をそっくりそのまま返してやろう―――
「別に返してもらう必要はない。たいした価値も無いし」
「ちょっと!ニーツ君ッ。ありますって!返してもらわないと」
慌てて反論したイートンにニーツは半眼で振り返った。取引がどんなものだか分かっているのか?
―――鬼ごっこをしよう。―――
森の主と思われるソレの提案は酷く幼稚なものだった。しかし、幼稚なものこそ、その中には残酷な本性が潜んだいる。
―――この森から捕まることなく逃げれたら、お前たちを自由にしてやる―――
「中身も返してくれますよねッ?」
念をこめて聞いたイートンにソレが頷いた。
―――但し、お前たちが捕まったときは・…―――
ニーツは八重と目配せをする。イートンは気がついていなかったが、この森には幾つもの屍が転がっていたのだ。
「イートン!散るぞッ」
八重の叫び声とともに大きく地面が揺れた。
「わっ!?」
反射的にわき道へ転がったイートンは立ち上がりざま左手を引っ張られた。ニーツだ。そのまま走るよう強要され、イートンは思わず悲鳴を上げる。
「ちょっ、ひっ、左腕ッ!!怪我してるんですからッ」
腕がもぎ取られる激痛に構わず、ニーツは腕を引っ張った。同時に黄色い淡い光がイートンの腕に巻きつき、損傷部が見事に復元される。
「回復魔法…使えるんですね」
意外そうにイートンが言ったがニーツは答えなかった。今必要なのは森からでることであり、無駄口をたたくひまなど無いのだ。
「ニーツ・・君ッ。あのっ」
フェアリーたちの笑い声が頭上から降ってきては、殺意ある悪戯を起こす。それを僅かに縫うように二人は走った。
「なんだ」
途切れがちなイートンの問いかけに、息を切れすらなくニーツが答える。
「手を離したほうが速く走れるんですけど」
「!?馬鹿かっ」
愚か者の次は馬鹿か~…などと寂しく思っているイートンだったが、ニーツはそのまま罵倒を浴びせた。
「狙いは君だと言っただろう!?森を出るまでに如何に獲物を嬲り殺すかが退屈な森の精の遊びだ。俺がその目印を隠してるから君は急激に伸びた枝に心臓を一突きされずに済んでいるのだぞ」
「ひ…一突き」
「取引までするとはな!」
さらなる一言を続けるが、ニーツも焦っていた。握ったイートンの手からは絡みつくような虚脱感が伝わってくる。おそらく甲にかけられた呪いだろう。イートンにも影響しているはずだ。このまま走るのは自殺行為かもしれない。
ずるッ。
汗ばんだ手が思わず二人を離す。慌てて掴むより速くイートンの右手が伸びた。
「――――!」
―――やった!捕まえたよ―――
わらわらと、何処にそんなに隠れていたのか精霊たちが顔を出す。
「なるほど、いい度胸だな」
ニッコリと笑みを浮かべるニーツにイートンは背筋が凍った。今、一番恐ろしいのは周りにいる精霊たちではなく、目の前の自分より小さな少年だった。
「えっ。あの、別に僕のせいじゃ無いんですけどね・・・」
なんでこう自分の連れが一番危険なんだろう…。皮肉な旅をしている自分に顔を引きつらせながら、自分の右手の所在を確かめる。それはニーツの喉元をしっかりと捕らえていた。力が入り皮膚に自分の指がめり込むのをある意味他人事のようにイートンは思った。
(うわぁ、苦しそうッ)
――殺しちゃいなよ、じゃないと殺されるよ?―――
どちらへの囁きなのか、観衆は無責任に囃し立てる。
「先ほど言ったな?イートン…」
「は、はい?」
上ずった声で答える。
「『俺は意味も無く人殺しをしない』って」
ちょうどその頃。八重も八方塞に陥っていた。
「イートンにはあいつがついてるから大丈夫だろうが…」
通常の100倍ほどの大きさの蜘蛛を手刀でなぎ倒し、汗をぬぐった。
先ほどから襲い方がえげつない。蜘蛛とか、ミミズとか、なんやらと。イートンでなくても美意識に反するものばかりだ。
――ねぇ、お前には嫌いなものは無いの?――
襲い掛かってくる敵は、世間話でもするように無邪気に尋ねてくる。
「嫌いなもの・・か」
つまりこれも嫌がらせだったと知り、八重は苦笑した。彼らの精神年齢は酷く幼いようだ。強い視線をひしひしと感じ取り、八重はあごに手をやった。『ウサギ』と答えても面白くなかろう。
「そうだな…」
ここは賭けに出るしかない。森の主が自分と彼ら、どちらについて行ったか知らないが、自分だといいなと八重は思う。それだけ、相手の力が必要だ。
「俺が恐いものは、暗闇の『満月』だ」
途端に辺りが暗くなる。木々に囲まれ光を封鎖された空間。そこに八重はあの忌まわしき月を探した・・・・。
PC 八重 イートン ニーツ
場所 エルフの森
NPC フェアリー・森の主
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ズズズ。地面が割れ、そこに生える全ての木々の根が一つに絡まる。それは精巧なレース編みのように複雑な模様を作り、立体を描いた。
「な・・・?」
八重とニーツがその様子を見つめる中、ウサギをやっと生け捕りにしたイートンが横で歓喜の声を上げた。しかし、すぐにその顔が青ざめる。
「あぁ!!そんなッ!」
「どうした?」
八重が覗き込むとその本は白紙になっていた。水の中に落ちたのだ、インクが滲んでいるなら理解できるがその空白は文字だけが逃げていったかのようである。
―――取引をしよう―――
いつのまにか人の形をとったソレが言った。
「ほぉ」
―――そうしたら、お前の本をそっくりそのまま返してやろう―――
「別に返してもらう必要はない。たいした価値も無いし」
「ちょっと!ニーツ君ッ。ありますって!返してもらわないと」
慌てて反論したイートンにニーツは半眼で振り返った。取引がどんなものだか分かっているのか?
―――鬼ごっこをしよう。―――
森の主と思われるソレの提案は酷く幼稚なものだった。しかし、幼稚なものこそ、その中には残酷な本性が潜んだいる。
―――この森から捕まることなく逃げれたら、お前たちを自由にしてやる―――
「中身も返してくれますよねッ?」
念をこめて聞いたイートンにソレが頷いた。
―――但し、お前たちが捕まったときは・…―――
ニーツは八重と目配せをする。イートンは気がついていなかったが、この森には幾つもの屍が転がっていたのだ。
「イートン!散るぞッ」
八重の叫び声とともに大きく地面が揺れた。
「わっ!?」
反射的にわき道へ転がったイートンは立ち上がりざま左手を引っ張られた。ニーツだ。そのまま走るよう強要され、イートンは思わず悲鳴を上げる。
「ちょっ、ひっ、左腕ッ!!怪我してるんですからッ」
腕がもぎ取られる激痛に構わず、ニーツは腕を引っ張った。同時に黄色い淡い光がイートンの腕に巻きつき、損傷部が見事に復元される。
「回復魔法…使えるんですね」
意外そうにイートンが言ったがニーツは答えなかった。今必要なのは森からでることであり、無駄口をたたくひまなど無いのだ。
「ニーツ・・君ッ。あのっ」
フェアリーたちの笑い声が頭上から降ってきては、殺意ある悪戯を起こす。それを僅かに縫うように二人は走った。
「なんだ」
途切れがちなイートンの問いかけに、息を切れすらなくニーツが答える。
「手を離したほうが速く走れるんですけど」
「!?馬鹿かっ」
愚か者の次は馬鹿か~…などと寂しく思っているイートンだったが、ニーツはそのまま罵倒を浴びせた。
「狙いは君だと言っただろう!?森を出るまでに如何に獲物を嬲り殺すかが退屈な森の精の遊びだ。俺がその目印を隠してるから君は急激に伸びた枝に心臓を一突きされずに済んでいるのだぞ」
「ひ…一突き」
「取引までするとはな!」
さらなる一言を続けるが、ニーツも焦っていた。握ったイートンの手からは絡みつくような虚脱感が伝わってくる。おそらく甲にかけられた呪いだろう。イートンにも影響しているはずだ。このまま走るのは自殺行為かもしれない。
ずるッ。
汗ばんだ手が思わず二人を離す。慌てて掴むより速くイートンの右手が伸びた。
「――――!」
―――やった!捕まえたよ―――
わらわらと、何処にそんなに隠れていたのか精霊たちが顔を出す。
「なるほど、いい度胸だな」
ニッコリと笑みを浮かべるニーツにイートンは背筋が凍った。今、一番恐ろしいのは周りにいる精霊たちではなく、目の前の自分より小さな少年だった。
「えっ。あの、別に僕のせいじゃ無いんですけどね・・・」
なんでこう自分の連れが一番危険なんだろう…。皮肉な旅をしている自分に顔を引きつらせながら、自分の右手の所在を確かめる。それはニーツの喉元をしっかりと捕らえていた。力が入り皮膚に自分の指がめり込むのをある意味他人事のようにイートンは思った。
(うわぁ、苦しそうッ)
――殺しちゃいなよ、じゃないと殺されるよ?―――
どちらへの囁きなのか、観衆は無責任に囃し立てる。
「先ほど言ったな?イートン…」
「は、はい?」
上ずった声で答える。
「『俺は意味も無く人殺しをしない』って」
ちょうどその頃。八重も八方塞に陥っていた。
「イートンにはあいつがついてるから大丈夫だろうが…」
通常の100倍ほどの大きさの蜘蛛を手刀でなぎ倒し、汗をぬぐった。
先ほどから襲い方がえげつない。蜘蛛とか、ミミズとか、なんやらと。イートンでなくても美意識に反するものばかりだ。
――ねぇ、お前には嫌いなものは無いの?――
襲い掛かってくる敵は、世間話でもするように無邪気に尋ねてくる。
「嫌いなもの・・か」
つまりこれも嫌がらせだったと知り、八重は苦笑した。彼らの精神年齢は酷く幼いようだ。強い視線をひしひしと感じ取り、八重はあごに手をやった。『ウサギ』と答えても面白くなかろう。
「そうだな…」
ここは賭けに出るしかない。森の主が自分と彼ら、どちらについて行ったか知らないが、自分だといいなと八重は思う。それだけ、相手の力が必要だ。
「俺が恐いものは、暗闇の『満月』だ」
途端に辺りが暗くなる。木々に囲まれ光を封鎖された空間。そこに八重はあの忌まわしき月を探した・・・・。
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