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2025/03/10 06:53 |
9.受難は続く/ニーツ(架月)
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PC  ニーツ 八重 イートン  
場所  エルフの森
NPC フェアリー

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―ドスン―

「痛たたた…」
「大丈夫か?イートン」
 乙女の魔法が解け、イートンが落ちないように支えていたニーツの魔法も解けて、イートンは派手にしりもちをついた。その後、誰も助け起こそうとしないので、仕方なしに自力で立ち上がる。
「何だったんですか~?今の」
「何処かの馬鹿の早とちりによって引き起こされた現象」
「いや、あの、そうではなくてですねえ…」
 ニーツの物言いに、思わず脱力するイートン。そんなイートンを冷ややかに見つめながら、ニーツが口を開いた。
「今のは、まあ、先程も言った通り、罠だろうな。イートン、特に君は気をつけたほうがいい」
 そう言って、ちらりとイートンの手の甲を見る。其処には、先程できた赤い筋がまだ残っていた。
「くれぐれも、勝手に動かないように…」
「あ~~~!!」
 ニーツの言葉を遮って、イートンが大声をあげた。ニーツと八重は、思わず彼の指差
 ピョコピョコと長い耳を揺らしながら駆けていく小動物。ふっと振り返ったその口には、見覚えのある赤い日記…
「ウ…ウサギか??」
 思わず八重は一歩下がる。だが、イートンには可愛い小動物にしか見えなかったし、その口に加えている物しか目に入っていなかった。
「僕の日記!!待って、ウサちゃん!!」
「あ、おい!!」
 ニーツの静止の声も聞かず、脱兎のごとく―まさに言葉通りだが―駆けるウサギを追って、イートンは走り出した。
「…言ってるそばから…」
「イートン、お前…」
 後に残った二人は、思わず頭を抱える。そして、ちらりと目を合わせると、イートンを追うべく駆け出した。


「捕まえた!」
 しばらく行った所で、ようやく八重がイートンに追いつき、その首根っこを掴む。
「八重さん!!」
「全く、世話をかけるな。
 ………………ウサギは?」
「見失っちゃいました」
「そうか」
 なんとなくホッとしたように、八重が呟く。遅れて追いついたニーツが、その反応を見て、口の端を吊り上げた。
「嫌いなのか?ウサギ。<ウサギ>のおかげで先程のような力が出せたのだろう?」
「…うるさい」
 振り返った八重は、ニーツを睨み付ける。人のことを嘲笑うニーツが気に入らなかったのだ。だがそこで、ニーツの瞳が全く笑っていないことに気づいた。心の底からは笑っていない。ひょっとしたら、先程からそうだったのかもしれない。
 そんな八重から視線をはずして、ニーツは笑いを引っ込めた。
「さて、更に奥に迷い込んでしまったが…どうする?」
「どうするって…」
『どうするって…』
「……!?」
 言い淀むイートンの言葉が、そのまま森から響いてきて、三人は思わず上を見上げた。耳に微かに、女の笑い声が聞こえてくる。
 …何か、いる。
『どうするの?ねえ…クスクス』
『人間が入り込んでくるなんてねえ…嫌だわ、魔族までいる…』
『どうしましょうか?クスクス…』
「…フェアリーか…」
 小さな少女のような囁き声に眉をしかめながら、ニーツが呟いた。
「フェアリー?」
「知らないか?イートン」
「確か、森に住む下級妖精族で、迷い込んだ人々を苛めるのが好きとか何とか…って、ええ!?」
「完全に、ターゲットにされたな」
 億劫そうに呟いたニーツに、厳しい顔の八重が近づく。
「そんな事より、今聞こえた魔族というのは、お前のことか?」
 その言葉に、ニーツとイートン、二人の視線が八重に集まった。
「そんな事よりって…八重さん、そんな事言ってる場合じゃ…」
「イートン、これは重要なことだよ。お前は、魔族か?」
 睨み付ける八重に、ニーツは面倒くさそうな瞳を向ける。けれどすぐに、小さくため息をついた。
「君とイートンが魔族じゃ無いというなら、俺しかないんじゃないか?」
 そう言って意外にもあっさりと、擬態を解いた。尖った耳が顕わになる。
「魔…魔族?滅多に出会うことは無いといわれる、あの魔族??」
 イートンが何故か興味津々でニーツに話し掛ける中、淡々と八重は問い掛けた。
「どうして私たちに近づいた?私たちを襲うためか?」
 その言葉に、ニーツが不愉快そうに目を細めて、八重に呼びかける。
「……ウサギ男」
「八重、だ」
「では八重。どうも誤解しているようだが、俺たちは其処まで人を襲うことを好まない。人と子を成す者までいるくらいだからな。
 …まあ、中には人を殺すことを生きがいとしているような馬鹿者もいるがな。低級になればなるほどその傾向は強いらしい」
「ふむふむ」
 気が付けば、イートンがその話に聞き入っていた。なにせ、あまり知られていない魔族の生態を知ることができる絶好のチャンスだ。
「少なくとも、俺は意味も無く人を殺すのは好かないな。君たちに近づいたのは、単なる好奇心だよ、八重。
 でも……」
『クスクス…ほうら、出て行きなさい!!』
 ニーツが、突然視線を森に向ける。
 その時、森が動いた。
 すっかり無視されていたフェアリー達が動いたのだ。三人の周りにあった木という木が一斉に蠢き、その枝を鞭のようにしならせて、襲い掛かってくる。
 同時に、空気も動いた。三人の周りを、強烈な風が嵐となって吹き荒れる。
「うわ…!」
「く…」
 咄嗟に顔をかばったイートンを抱えて、八重は地面に伏せる。木切れや色々な物が、その上を飛び交った。
 暫くして、起こったときと同様に、風が唐突に収まる。恐る恐る顔を上げた二人は、周りの惨状を見て、目を瞠った。
 木という木が倒れ、その下に、透明な羽を持った手のひら大の大きさの少女達が下敷きになっている。風は、八重たちに襲ってくるもの全てをなぎ払っていた。
 その場に立っていたのは、ニーツ一人だけ。
(あの風は、こいつが起こしたものだったのか…?まだ少年なのに、何という魔力…)
 ぞくりと、背筋に冷たいものが流れるのを、八重は感じた。
 そんな八重を、冷たさを内包させた瞳で見下ろし、ニーツは呟く。
「必要と思った事には、躊躇う事は無い。勿論、罪悪感なんて物は無いな」
「こ…殺してしまったのですか?」
「あのフェアリー達の事か?いや、まだ生きてる。これくらいで死ぬ程、彼女達もやわじゃないさ。
 …ところでイートン」
「はい…?」
「君の日記。どうやら、取り返せそうだ」
「え…?」
 何とか立ち上がって、イートンはニーツの視線の先を見た。八重もつられてそちらへ目を向ける。
 先程のウサギが、其処にいた。
 そして、響いてくる声。
―よくも…―
 頭の中に直接響くような声だった。遠く、近く、定まらない。
 それでも、その声の主は何者なのか見当がついているらしく、ニーツは腕を組んだ。
「森の主が来る…」
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2007/02/17 22:45 | Comments(0) | TrackBack() | ○Under The Moon

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