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PC 八重 ニーツ イートン
場所 迷いの森もといエルフの森
NPC なし
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それは、金色にまばゆく光る乙女の像だった。髪も金なら体も金。その表情は、ツタンカーメンの仮面のごとく、無表情に凍り付いていた。その唇が上下にパクパクと動いて腰のほうから音声が発せられる。
「貴方が落としたのは、この赤い本ですか。それとも青い本ですか。それとも黄色い本ですか」
その乙女の手には三冊の本が握られていた。外見はどれも同じ。ただ、それぞれ背表紙の色が赤、青、黄色である。
「あーっ!!」
その本を見てイートンが声を上げた。
「あれ、僕の日記じゃないですか!!」
乙女が持っている本のうち、背表紙の赤い本はまさしくイートンの日記だった。
「じゃあ、あの時落としたのはこの日記だったというわけだ」
八重の言葉に急いでイートンは鞄の中を探る。鞄が開いていたことにまず絶望を感じたイートンだったが、やはり日記がないことを確認してさらに絶望的になった。
あの日記はただの日記ではない。今まで物語を書くためにイートンがメモした全てがあの日記に詰まっているのだ。
「お願いです、その本を返してください!!」
イートンは懇願する。あの本に詰まっている情報はイートンにとって命の次に大切なものなのだ。乙女は無表情に同じ質問を繰り返す。
「貴方が落としたのは、この赤い本ですか。それとも青い本ですか。それとも・・・」
「ええ、その赤い・・・むがっ!!!」
赤い本・・・、と言いかけたイートンの口をニーツが塞いだ。
「この愚か者が、答えてはダメだ」
「何故です!あの本はまさしく私の・・・」
「いいか、よく聞け、愚か者」
「イートンです!!」
「・・・ふん、ではイートン、よく聞け。これはエルフが作ったトラップだ。俺たちはどうやら知らず知らずのうちにエルフのテリトリーに迷い込んでしまったらしい」
「エルフの森・・・」
「お前たちは感じないのか、この森が魔力で満ち溢れていることに」
その言葉にイートンは周囲を見渡した。しかし、魔力がたいして高くもないイートンにはこの森が他の森と別段変わったところがないように見えた。不安げな表情で、イートンは八重に尋ねる。
「・・・どう思います?八重さんは感じるんですか、この森の魔力を」
「さあ・・・。私にはわからんな。私は、ルナシーであること以外は、普通の人間と能力的にはたいして変わらないからな」
「へえ、意外だな。<ウサギ>の時は魔力で満ち溢れていた君が、人間のときは魔力を全く持たないとは」
<ウサギ>という言葉に八重はぴくっと反応する。
「おや、気に障ったかな?これは失礼。しかし人間とは不思議な生き物だな。生き物を殺すときに「ワザワザ」罪悪感を感じるなんて」
そういってニーツはせせら笑う。そこに二人は彼の、人間と異なる点を見た。そしてある程度の種族の憶測もついた。
――コイツは、魔族だ。
「とにかく、何故僕は自分の本を取り返してはいけないんです?そのわけを話して下さい」
イートンが言う。今はとりあえず自分の日記を取り戻すことが先決だ。
「何も、取り返してはいけないとは言っていない」
必死な表情のイートンにニーツは言う。
「ただ、アイツの質問に答えるのが危険なだけだ」
「どういうことです?」
「アイツは、その持ち主が落としたものとそっくり同じもので、赤、青、黄色の物を出す。そして、もしその持ち主が赤と答えた場合」
「赤と答えた場合?」
「口から出す炎で焼き尽くされる」
「なっ・・・!じゃあ、青と答えたら?」
「水の中に沈められる」
「じゃあ、黄色は?」
「黄色・・・。黄色は覚えてないな・・・。もしかしたら黄色は何もなかったかもしれない・・・」
「解りました、黄色ですね!」
本取り返したさに早合点したイートンは、次の瞬間、乙女に向かって叫んでいた。
「私の本は、黄色い本です!」
次の瞬間、イートンの周りの土が緩んだ。
「わっ・・・!!わわっ!!」
なんと、イートンを中心にアリ地獄のような流砂が出来上がった。イートンの体はあっという間にその流砂にのまれていく。
「イートン!!」
「八重さ・・!!」
そのときニーツがぽんと手を叩いて、思い出したように言った。
「ああ、思い出した。黄色と答えたら土に飲み込まれるんだった」
「早く言え!!」
「まあそう焦るな。これは俺の責任でもあるからな、少しは助けてやる」
言うとニーツは両手を前に突き出し、なにやら念じだした。
「空気よ、固まれ。縛!」
すると、今まで土に飲み込まれていたイートンの体がぴたっと止まった。八重がほっと息をつく。
「よかった・・・、イートン・・・」
手を差し出そうとした八重をニーツが止めた。
「悪いが、コイツの周りの空気ごと固めてしまったからな。引っ張ろうとしてもムダだぞ」
「じゃあ、一体どうすればいいというんだ!?」
「カンタンだ、アイツを壊せばいい」
そう言ってニーツは顎で乙女のほうをしゃくった。
「アイツを壊せばこの魔法は消える。俺が壊してもいいが、生憎、俺がこの姿勢を崩した瞬間俺の魔法が切れてしまうからな。お前が壊すしかない」
ニーツがそう言うと、八重はすっと乙女の傍に近づいた。
「私を壊すですって。オホホ、馬鹿げているわ」
八重が乙女の目の前に立ったとき、乙女の腰からこう、声が漏れた。
「私の体は純金よ。魔力もなく、何の武器も持たない貴方に壊せるわけがない」
「・・・純金か。ミスリルでなくて幸いだった」
呟くと、八重は拳を構えた。
「あまり、この力は使いたくはないのだけれどな」
使えば、自分がルナシーであることを思い知らされるから。月に呪われしルナシーの唯一の利点。
「<ルナ>」
そう呟くと八重は純金の乙女に思いっきり拳を叩き込んだ。
瞬間、紫色の閃光とともに乙女の像はバラバラに吹き飛んだ。
「・・・!!」
驚きのあまり言葉もないイートン。ニーツはひゅうと口笛を吹いた。
「へえ、これが<ルナ>の力か」
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