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PC ニーツ 八重 イートン
場所 クーロン東南・迷いの森(仮)
NPC なし
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「―――!」
驚きはお互いに大きかった。
八重とイートンの目は頭上の人物の姿を的確に捉え、ニーツは思わず枝から足を踏み外した。
「君は・・・?」
高い木の上からきれいに着地したニーツをイートンが不思議そうに見つめた。折角体勢を整えた彼だったが、その身体は直ぐに八重の腕によって地面から浮く。
「ルナシーについて知っているのか!?」
「さぁ」
真摯の表情の八重にニーツは冷ややかな表情をむける。
「なら何故ここに!」
「俺は片腕の無い男に“化け物”が出たって聞いただけさ」
はっとしたように口を噤んだ八重は力無く手を離した。
「お前だって人間かどうか分かりはしないがな」
銀色の髪に色の異なる瞳。その冷めた視線は人間というより、まるで獣のようだ。
「そうかな。とりあえず、形は人間だろう?」
くすくすと笑ったニーツは意外にあっさり口を開いた。
「俺が知っているのは僅かな事だ。でも,お前達に利益をもたらす事は出来るだろう」
それは酔狂だった。
人を喰らう、たかがそれだけのことに心を砕いている彼らが面白かったのだ。
「ヒエログリフ以外にもルナシーを抑えることの出来るものがある」
「ニンジンですか?」
「・・・なんだそれは?」
イートンの答えにニーツが眉を寄せる。
「俺が聞いたのは道具だ。そういう道具があると聞いた」
「道具?それは一体・・・」
それがやはりニンジンだったら。そう思うせいか八重の表情は浮かなかった。
「まぁまぁ。信じる価値はありますよ。良かったですね、八重さん」
ぽんと八重の肩を叩く、そしてイートンはずっと言いたかった言葉を続けた。
「ところで、この格好どうにかしたいんですけど・・・」
ニンジン色に染まったシャツをつまんでがため息をついた。
ニンジンの臭いが鼻につく。着替えたくてたまらなかったのだ。
「あぁ、森の中に泉があったな・・」
「ホントですか!良ければ案内してくれません?」
思い出したように呟いたニーツの言葉にイートンが飛びつく。
「イートン!」
八重が声をあげた。まだニーツは信用できない。彼の持つ『色』は鮮やか過ぎる。ニーツを危険だと思うのは本能なのだ。そんな八重に対し、イートンは自信を持て返答した。
「大丈夫ですよ。こんなに可愛いんですし♪」
「「・・・・・・」」
この能天気な答えに八重は脱力し、ニーツは思わず身を引いた。
背が高く直立に構えた木々が生い茂る森の、道とも言えぬ獣道を通りながら三人は奥へと入って行った。慣れない道に遅れる二人を気にすること無く、ニーツはずんずん進んだ。自分の残した痕跡を辿って行けば必ず泉まで戻れる。そう踏んで歩いていた彼の足がふいに、止まる。
(・・・おかしい。空間がねじれている?)
最初はルナシーの影響を受けたのだと思っていた。しかし、少しずつ辿って行く跡がずれて行く気がするのだ。進めば進むほど。
(もうここは・・・先程の森ではないかもしれないな)
そう結論付けたニーツの耳に後方から思いがけない声が聴こえた。
「あ。ありましたよ。こっちに泉が」
「――――!?」
慌てて振り返る。イートンが嬉々として横道に逸れた。
「違う、それは!」
ニーツが珍しく切羽詰った声をあげる。しかし、それは既に遅かった。
――パシャン。
「大丈夫か!?」
左腕を庇っているイートンに八重が駆け寄った。彼の視線は血で染まった袖の下に注がれている。そこにはウサギが、八重がつけた傷があるのだ。
「大丈夫です、そっちじゃないですから」
ずっと気にしてたでしょう?八重を見上げて笑みを浮かべるイートンだが、
「あと、今水の中に何か落とさなかったか?」
次の言葉には苦々しげに呟いた。さすがウサギ・・・・
「その手の甲、見せてみろ」
八重の後ろから覗いていたニーツがイートンの左手を掴んだ。そこには引っ掻いたような赤い筋が形を成している。
「何かの文字みたいですね」
僕には読めませんけど・・・。尋ねるイートンにニーツは答えなかった。
ズズズ・・・。
静かだった水面に波が立つ。三人は顔をあげた。
金色の髪が大きく広がっている。それが大きく盛り上がり一人の女になった。女神のような美しい、造りモノめいた顔がギギギと音をたててこちらを見る。その口から漏れ出す声も、また偽りのものだった・・・・・。
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