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2025/03/10 07:01 |
6.月と魔族とウサギ鍋/ニーツ(架月)
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PC  ニーツ 八重 イートン  
場所  クーロンへ向かう道・クーロン東南
NPC ニンジン背負った男
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 まどろみとも呼べぬ浅い眠りから、ニーツはふと、目を覚ました。
 黒々とした森の、木々の間から、蒼い清浄な光が差し込んでいる。
 今宵は満月。「魔」の力が最大限に強まる刻。
「なんだ…」
 少年とも、少女とも付かない声が、その唇からもれる。ニーツは、思わず疼く左眼を押さえた。
 其処は赤く、冴え冴えと輝いている。強い魔力を感じたとき、そうなる事をニーツは知っていた。
 何か、この付近を乱す、強い魔力を感じる。
「この近くに俺の他に魔族がいるのか?」
 呟いて起き上がると、短いさらさらの髪がはらりと眼にかかった。
 魔族の中でも、珍しいとされる中性体、又は無性体と呼ばれる個体であるニーツは、髪を伸ばす事を厭っていた。理由は、以前伸ばしていたときに女に見られて面倒だった、と言うだけであったが。同様の理由で言葉遣い、立ち居振舞いなども少年のものだ。
「た…助けて…」
 ニーツの座っている木の下方から、か細い声が上がる。億劫そうに見下ろすと、其処には片手を失い、にんじんを幾つも背負っている男の姿。
 それが、目の前で足をもつらせて倒れた。一瞬、放っておこうかと思ったニーツだったが、思い直して木から飛び降りる。
「どうした?」
 声を掛けると、男は助かった、とでも言うように顔を輝かせたが、ニーツの姿を見た
 途端、ヒイッと喉の置くから叫び声をあげた。冷ややかに男を見下ろしながら、それも当然だろうな、とニーツは心の中で呟く。
 銀の髪に、赤と蒼の瞳という、異彩な色を持っている上に、久しく人間と交わっていないニーツの耳は、擬態が掛かってなく、先が尖っている。おおよそ人間ではありえない姿だ。
「ば…化け…」
「落ち着け。愚か者」
 半眼で告げると、ニーツは、未だ血が噴き出している男の腕に手を伸ばした。
 何かに噛み付かれ、引きちぎられたような切り口。ニーツがかざした手に魔力の光を
 宿すと、血がぴたりと止まる。
「あ…――?」
 男が、何か訊きたげに見上げて来たが、ニーツは無視した。単に、こうすれば少しはおとなしくなるかと思った上での行動であり、他意はない。流石に、腕の復元まではできないが。

――ドオン――

 突然、遠くの方から爆発音が響いた。直後、この辺りを乱していた強い魔力が、風に吹き消されるように、忽然と消え失せる。
「ひい…っ」
 一旦は落ち着いた男が、音のした方を見て、怯えた声を出した。どうやら、方向で何かがあったらしい。
「あちらで何かあったのか?」
「ウ…ウサギの化け物が…」
 静かに問い掛けると、男からかろうじて答が返ってきた。その”答”に、ニーツは思わず冷笑を浮かべる。
「ウサギ鍋でもやっていて、化けて出てこられたのか?」
「違う…!本当に、化け物が…!!」
「まあ、いいや」
 要領を得ない男の言葉に飽きたニーツは、笑いを引っ込めて男の額をトンッと突いた。
 瞬間、男の身体が崩れ落ちる。
 男の意識と、自分に会ったという記憶を奪い、
「確かめれば。判る」
 そう呟いて、ニーツは跳んだ。




”それ”を見つけたのは結局明け方だった。
 最初に聞こえたのは、人間の声。
「ああ、可愛い!!」
 眼鏡の、血を流してる男がその腕に抱いている物は、成る程、確かに「ウサギ」だった。だが、化け物というにははるかに小さく、可愛らしい。
(あれでは、鍋にしても、物足りないな…)
 冗談なのか本気なのか分からないことを考えながら、ニーツは彼らのすぐ上の枝へ移動する。此処へ来る間に、何があってもいいように耳を人間の物に擬態しておいた。

 近づくと、ウサギから魔力の残り香を感じることが出来る。
(やはり、あれが化け物ウサギなのか?)
 首をひねったとき、目の端に、明るい光が飛び込んできた。太陽だ。
 月が、追われるように沈む。魔の刻が、終わりを告げる。
 夜が明けた瞬間、ウサギが走り出した。それを追う眼鏡の男を追って、ニーツも彼らの頭上を移動する。
 そして、そこで目にした物は、ニーツの目を瞠らせるのに十分な物だった。
「やっ…やややっ…八重さんっ!!!」
「…よう」
 先程のウサギは、人間の男へと姿を変えていた。人間二人はその後、いくつかの会話を交わし、ウサギ男は着替え始める。
 それをじっと見ながら、ニーツは古い記憶を辿った。昔。誰かから聞いた言葉。
 月の呪いを、受けし人間。
「…ルナシー、か…」
 この小さな呟きが耳に入ったのか。
 人間二人が、同時に頭上を振り仰いだ。
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2007/02/17 22:41 | Comments(0) | TrackBack() | ○Under The Moon

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