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人物:八重・イートン
場所:クーロン
NPC:宿屋の娘・客の男2人組
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―――『踊る牡鹿亭』
女将の家庭料理が人気のこの宿は、クーロンでもかなり安全な部類に入る場所であ る。一階の食堂は昼間にも関わらず人々で賑わっていた。
「貴様!イカサマしやがったなッ」
「なんだと、やる気か!!」
今も一組の男達が争うだけで、店の中は穏やかだった。
そんな店の端で、イートンはスープ皿の中身を退屈そうにつついていた。今が旬の トロール芋がごろごろ入ったポトフ。その中のオレンジ色の固体だけが器用に山積み になっていた。
ガシャン!
飛んできた食器がイートンの後ろで砕ける。向かいの席は今だ空席だった。
(おそいなぁ・・・八重さん)
イートンと八重が出会ったのはつい3日前である。クーロンに続く一本道でイート ンが彼を見つけた。お互い旅の連れを探していた2人は、すぐに意気投合した。 カラン、カラン。
扉が開き、八重が入っていた。黄土色のスーツを着たごく普通の中年男。一見そう 見える彼がこれからのイートンの相棒であり、イートンの小説の主人公になる。
「遅いですよ~」
「すまない、時間がかかってな」
正面の席に腰を下ろし八重が言った。彼はこの町の占い師に会っていたのだ。勿 論、イートンなどは存在すら知らない裏の世界の人物である。一日に一人しか「視」 ない為、話をつけるのに3日かかった。
「今日中に発つ」
「で?」
「あっちの方向に向かう」
八重が突然壁の向こうを指す。
「あっち?南ですか?どちらかと言えば東南・・・」
ハッキリしない八重にイートンは不満げだ。
「仕様がないだろう?本人がそう言ったんだから、こう指をさして」
・・・そこに貴方の、そしてお連れの方の探し人がおりましょう・・・
ちらりとイートンを見た。彼は黄緑かかった金髪を苛立たしげに弄っている。
彼は旅の目的を『物語を書くこと』と自分に話していた。
しかし、本当は?
(まぁ、私には関係ない、か)
そこで八重は皿に視線を移した。
「君はニンジンが嫌いなのか?」
「あ!・・・ただ、食わず嫌いなだけです」
強がりだろう。ニンジンの欠片を口に放り込んだイートンは直ぐに顔を歪ませた。
「では、出ようか」
「やめて下さいってば!」
男達の喧嘩はエスカレートしていた。たまらず店の娘が止めに入る。
「うるさい」
「きゃっ」
弾き飛ばされた娘をイートンが支える。
「大丈夫ですか?」
しかし、次に弾き飛ばされたのはその男であった。八重が隣を通り過ぎた瞬間であ る。
「!?」
突然襲う腹部の痛みに男は目を白黒させた。もう一人が動き出すことはなかった。
恐らく、目にもとまらぬ八重の一撃に気づいたのだろう。
「世話になった。宿賃だ」
八重が振り向いて娘に銭を渡した。その顔は意外なほど優しげだった。
「いい天気ですね」
「あぁ」
宿の外は良い天気だった。まだ月は見えなかったが今日は望月である。もうすぐ月 が満ちる・・・。
「その前に」
八重がイートンに言った。
「はい?」
「ニンジンを買おう」
「はぁ!?」
イートンの上ずった声が後ろから聞こえた
人物:八重・イートン
場所:クーロン
NPC:宿屋の娘・客の男2人組
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―――『踊る牡鹿亭』
女将の家庭料理が人気のこの宿は、クーロンでもかなり安全な部類に入る場所であ る。一階の食堂は昼間にも関わらず人々で賑わっていた。
「貴様!イカサマしやがったなッ」
「なんだと、やる気か!!」
今も一組の男達が争うだけで、店の中は穏やかだった。
そんな店の端で、イートンはスープ皿の中身を退屈そうにつついていた。今が旬の トロール芋がごろごろ入ったポトフ。その中のオレンジ色の固体だけが器用に山積み になっていた。
ガシャン!
飛んできた食器がイートンの後ろで砕ける。向かいの席は今だ空席だった。
(おそいなぁ・・・八重さん)
イートンと八重が出会ったのはつい3日前である。クーロンに続く一本道でイート ンが彼を見つけた。お互い旅の連れを探していた2人は、すぐに意気投合した。 カラン、カラン。
扉が開き、八重が入っていた。黄土色のスーツを着たごく普通の中年男。一見そう 見える彼がこれからのイートンの相棒であり、イートンの小説の主人公になる。
「遅いですよ~」
「すまない、時間がかかってな」
正面の席に腰を下ろし八重が言った。彼はこの町の占い師に会っていたのだ。勿 論、イートンなどは存在すら知らない裏の世界の人物である。一日に一人しか「視」 ない為、話をつけるのに3日かかった。
「今日中に発つ」
「で?」
「あっちの方向に向かう」
八重が突然壁の向こうを指す。
「あっち?南ですか?どちらかと言えば東南・・・」
ハッキリしない八重にイートンは不満げだ。
「仕様がないだろう?本人がそう言ったんだから、こう指をさして」
・・・そこに貴方の、そしてお連れの方の探し人がおりましょう・・・
ちらりとイートンを見た。彼は黄緑かかった金髪を苛立たしげに弄っている。
彼は旅の目的を『物語を書くこと』と自分に話していた。
しかし、本当は?
(まぁ、私には関係ない、か)
そこで八重は皿に視線を移した。
「君はニンジンが嫌いなのか?」
「あ!・・・ただ、食わず嫌いなだけです」
強がりだろう。ニンジンの欠片を口に放り込んだイートンは直ぐに顔を歪ませた。
「では、出ようか」
「やめて下さいってば!」
男達の喧嘩はエスカレートしていた。たまらず店の娘が止めに入る。
「うるさい」
「きゃっ」
弾き飛ばされた娘をイートンが支える。
「大丈夫ですか?」
しかし、次に弾き飛ばされたのはその男であった。八重が隣を通り過ぎた瞬間であ る。
「!?」
突然襲う腹部の痛みに男は目を白黒させた。もう一人が動き出すことはなかった。
恐らく、目にもとまらぬ八重の一撃に気づいたのだろう。
「世話になった。宿賃だ」
八重が振り向いて娘に銭を渡した。その顔は意外なほど優しげだった。
「いい天気ですね」
「あぁ」
宿の外は良い天気だった。まだ月は見えなかったが今日は望月である。もうすぐ月 が満ちる・・・。
「その前に」
八重がイートンに言った。
「はい?」
「ニンジンを買おう」
「はぁ!?」
イートンの上ずった声が後ろから聞こえた
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