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2024/05/17 07:48 |
3.出会いと変身/八重(果南)
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PC 八重 イートン  
場所 クーロンへ向かう道・クーロン東南
NPC なし
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「ちょっとー、重いですよ、八重さーん」
 サンタクロースのように、大きな袋を背中に担いだイートンが、ふうふう言いながら八重の後ろをついてくる。時刻は夕方。陽が、山の端にかかって名残惜しそうに別れの挨拶を送ってくる。・・・袋の中身は全て、クーロン近隣の村で購入したにんじんだ。この量じゃ余裕で一か月分はあるな・・・と、密かにイートンは思っていた。しかし、そのにんじんを何に使うのかは未だ知らされていない。しかも、購入した八重自身は手ぶらで目の前を歩いており、にんじんは全てイートンが背負う袋の中だ。
「ちょっと、なんで、僕がにんじんを全て持たなくてはならないんですかー!
八重さんも、自分で買ったものなんですから少しは持ってくれたっていいと思うんですけどー!」
イートンが文句を言うのも当然で、ごろごろとした約一か月分のにんじんは結構な重さだ。貴族出身で、もともとあまり体力のないイートンは、早くもへばりはじめていた。にんじんの袋をずるずる引きずり、額も汗ばんでいる。髪がはらりと眼鏡にかかる。
「仕方ないだろう。私が持っていても意味がないのだ」
そう言って、イートンの方に首を向けて振り返った八重が、相変わらずの冷めたような鳶色の眼を向ける。
「それを持っていても、私は本能的に変身前、手放してしまう。胃の中に入ったにんじんもそうだ。変身前には嘔吐し、それを吐き出してしまう。・・・そういえば昼間食べたポトフにも入っていたな。・・・変身の時間を知るいい目安になる」
「ちょっと、何の話です?それ?」
その言葉に、イートンが、わけがわからないという顔をした。
「変身が何とか、にんじんを吐くとか。一体何の話をしているんです?」
「<ウサギ>の話だよ」
八重がにやりと笑う。
「イートン、死にたくなければそれを絶対に手放さないことだな。そうしなければ、私は一番初めに君のことを喰らってしまう。・・・ああみえて<ウサギ>は素早いからな」
「<ウサギ>?」
その言い方は、普通に「兎」という言い方と微妙にニュアンスが異なるものだった。一言一言を強調している感じだ。
「何です?その<ウサギ>っていうのは・・・?」
「君がこの先も私と行動を共にしたいというのなら」
八重の黒い前髪が夕方の風にはらりと揺れた。
「嫌でも分かることだ」

 八重がイートンと出会ったのはつい三日前のことだった。
-私は旅の作家なのですが、貴方のお話を書かせてはもらえないでしょうか-クーロンへ向かう道で、ふいに彼にそう呼び止められたとき、正直、八重は彼をうざったいと感じた。特異体質であるため、八重は人との関わりあいを極力持たぬよう努めていたのだ。なにせ、満月の夜に誰かが傍にいた場合、その人間を殺してしまう可能性が高い。うかつに人を自分の傍に近寄らせるわけにはいかないのだ。
 しかし、さすが作家。彼は口がうまかった。いくら八重が近寄らせまいとしても一歩も引く様子がない。どうやら八重は彼に気に入られてしまったようだ。彼の粘り強さに、とうとう八重の根も果てた。
(全く・・・、俺はどうなっても知らないからな)
 そんな八重の気が変わったのは、彼の発したある一言からだった。
「<ヒエログリフ>・・・?確か、<ルナシー>の対になってるって言われている人物ですよね?」
その言葉を聞いたとき、思わず八重は彼の胸倉をがばっと掴んだ。
「何故知っている、それを!」
「何故って・・・、作家たるもの、地方の伝説を調べるのは当たり前じゃないですか。特に僕が書こうとしているのは英雄の一代記ですし・・・。伝説にヒントを捜し求めて何がいけないんです?」
 その言葉に、八重はあわててイートンの服を思いきり掴んでいた手を放した。
(なるほど、こいつはつまり職業柄、伝説に詳しいのか・・・)
八重は思った。<ヒエログリフ>も<ルナシー>も、存在自体が曖昧で、もはや伝説の中にしかその存在を確認できない。つまり、伝説をたどっていくことが<ヒエログリフ>の行方を掴む鍵となるのだ。
(案外こいつは使えるかもしれないな・・・)
しかも、彼も自分と同じく探し人がいるという。これは少し親近感を憶えずにはいられなかった。
そういうわけで、利害関係も含めて、八重は彼、イートンとともに旅をすることになった。

(うっ・・・・!!)
突然八重に激しい嘔吐が襲ってきた。
(いよいよ・・・か・・・)
これはまさしくにんじんを吐き出そうとする嘔吐・・・<ウサギ>化の前兆である。辺りが宵闇に染まってきた。いよいよ、変身のときも近い。
「イー・・トン・・・、よく聞くんだ・・・」
「なっ・・・!八重さん・・・!!」
駆け寄ろうとしたイートンを、八重は手で静止した。
「<ウサギ>が暴れ、人間を襲おうとした場合・・・、にんじんを・・口にほおりこんで欲しい・・・。そうすれば・・・、<ウサギ>は無力になる・・・」
言ったとたん、かはぁっと八重は嘔吐した。嘔吐物の中には、ごろごろとにんじんの塊が入っている。
「くっ・・・、いよいよ・・・か・・・っ・・」
「どうしたんですか!八重さん!!」
イートンがあわてて近寄ろうとする。
「寄るな・・・、イー・・トン・・・」
それが、人語としての八重の最後のセリフとなった。
「ぐがあああああああああっ!!!」
猛獣のような奇声を発し、八重は身体を掻き毟った。眼は真っ赤に充血し、かっと空を見上げる。・・・空には、月が昇っていた。大きな、満月が。
「!!」
イートンはその光景から眼がそらせなかった。
ビリビリっと八重の服が裂け、八重の身体から、ムキムキとした筋肉が盛り上がってくる。口が大きく横に裂け、牙が生え、口内が真っ赤に爛れる。耳が長く伸び、白い体毛が生える。瞳が血のような鬼灯色に染まる。
「ウ・・サギ・・・」
・・・確かに、「ソレ」はウサギとしての特徴を十分に備えていた。耳が長く、色が白くて、眼の色が赤い。見た人間はとりあえず「ウサギ」と呼ぶであろう。しかし、ウサギはウサギでも、ソレは<化け物ウサギ>だった。第一、可愛らしさの欠片もない。
「八・・重・・・さん・・・?」
おびえた眼を、イートンは<ウサギ>に向けた。
「そんな・・・、嘘ですよね・・・、八重さん・・」
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2007/02/17 22:38 | Comments(0) | TrackBack() | ○Under The Moon

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