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2024/05/17 00:35 |
泡沫の命題-2/エスト(周防松)
PC : エスト・ドミノ(仮面)
場所 : コールベル

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

月の綺麗な夜だから、遠回りして帰ろう……なんてロマンチックなことを考えていた
わけではない。

エストがそこにいたのは、『たまたま』である。



彼――エストがコールベルに着いたのは、ずいぶん前のこと。

芸術の都と名高いそこを訪れたのは、観光目的などではない。
人探し、である。
エストは、10年前に生き別れになった妹を探して旅をしている。
別に、探し出してどうこうしよう、というつもりはない。
生きているのか、それとも死んでいるのか……ただそれだけが知りたいのだ。
幸せに暮らしているのなら、それに越した事はない。
もし、妹が生きていて、幸せに暮らしているのなら、「俺はお前の兄だ」などとで
しゃばるつもりはなかった。
手がかりのないまま旅立って、はや四年。
妹と同じ特徴の少女がいると聞けば、片っ端から会ってみた。
少しでも名が知られるようになれば、妹がいつか気付いてくれるかもしれないと思っ
て、ギルドのランクを頑張って上げてみたりもした。
……しかし、いまだに妹に繋がる情報はない。
エストは最近、自分のやっていることに意味があるのだろうか、と時折思うようにも
なっていた。
あるいは、もう妹は――死んでいるのではないか、と。


ともあれ。

コールベルに着き、さてこれから……というまさにその瞬間、彼は見てしまったの
だ。
何やら道端でうずくまっている老人と、そのそばで途方にくれる幼い子供。
率直に言ってしまえば、エストには一切関係のない話である。
だから、関わらずにいることも可能ではあったのだ。

(別に俺の知りあいじゃないし)
(でも苦しそうだし)
(そのうち誰かが声をかけるさ)
(誰も見向きもしてないみたいだけど)
(俺は人探しをしてるんだぞ)
(だけど……)

思考を巡らしながら、エストはうろうろうろうろと彼らの前を何度も何度も往復した
挙句、とうとう声をかけてしまったのである。
――結果。
腹痛で動けないという老人をどうにか家まで運んでやると、老人は古美術商を営んで
いて、これでは明日からお店を休まなきゃいけないと困り果てた顔をするので、エス
トはこれまたさんざん迷った挙句、店番を引き受けてしまった……のだった。
人がいいのか、あるいはただ単に断れない性格なだけなのか。
従業員のような状態を、エストはもう何日も続けていた。


そんなエストが少女に遭遇したのは、老人に頼まれた届け物を済ませた帰りのこと
だった。
老人の営む古美術品店に戻るには、この通りを通る必要があった。

エストは、突然現れた少女を見据えた。
銀色の長い髪。
黒い上着を身につけ、顔の半分を仮面で覆い隠している。

「誰だ」

厳しい声音でそう尋ね、じり…っと片足を後ろにずらす。
命を狙われるような覚えはないが、警戒をしておくに越した事はない。
あいにく、今は得物である弓矢を持っていないのだ。
素手だと全く戦えないというわけではないが、体術は弓矢に比べて得意ではないので
ある。
最悪、なりふり構わず逃げ出さなくてはいけないだろうか、などということを、エス
トは頭の隅でちらりと思った。
「警戒しないで頂戴。別に危害を加えるつもりはないから」
そう言い、目の前の少女は飛び降りた際に乱れた銀色の長い髪を手ぐしで整える。
「そう言われてもな。だったらなんで目の前に飛び降りてくる?」
エストの顔立ちは、あまり優しい印象のものではない。どちらかといえば強面であ
る。
おまけに性格の不器用さもあって、エストはしばしば初対面で怖い人と誤解されてし
まうことが多かった。
悲しいことに、泣かれてしまったこともある。
しかし、少女のエストを見る黒い瞳は、珍しいことにいたって冷静なものだった。

「仕事中だったのよ」
仕事、という言葉にエストはぴくりと反応する。

(……ギルドハンターか)

しばしの沈黙が生じる。
冷えた夜風が、少女の黒い上着のすそを小さく揺らした。

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2007/02/12 21:12 | Comments(0) | TrackBack() | 泡沫の命題

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