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2024/05/16 21:06 |
蒼の皇女に深緑の鵺 02/ザンクード(根尾太)
PC:セラフィナ ザンクード
NPC:ゴキブリ血統種軍団&侵略種幹部
場所:カフール国境近辺
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
───空そらには…僅かな重低音が響き始めていた。
全てが深い闇に包まれた刻、東の果ての森の奥深く…霧に包まれ濃い緑がかかった更
なる闇の中を…高速で蠢く影が飛び交っていた。
通常の人間が飛び出せば一瞬ではね飛ばされる程の超高速で、樹木駆け回り時にぶつ
かり合うその影は…
時に刃物の衝突する音を立て、火花を散らし辺りの枝から果ては樹木まで斬り裂いて
いた。

と……突如その中で大きく呻く断末魔。それはヒトのモノどころか、一般に見られる
生物のそれよりもずっと醜いうなり声である。
醜い断末魔が森の中に響きわたり…バラバラになって大木から降ってくるナニカ…。

それは当然ヒトでも無く…余りにも醜くく、まるで鳥でも獣でもなく…昆虫に近い異
形の外骨格に覆われた怪物の骸であった。
それも無数の投擲小鎌が胴体を貫き、首から腕まで細切れにされた無残な死骸であ
る。
<ギズリーッ!!>

直後に轟く…硬質な物を激しくこすりあわせるような、ギチギチと鳴り響く“声”…

その“声”の根元を辿ると、そこには亡きギズリと呼ばれた異形の同族達が、巨大な
大木の枝に群をなしていた。
彼らは黒色とも言って良い程濃い茶色の外骨格と鎧に体を覆われ、黒い複眼と鋏状の
口のあるバケモノの形相で憤怒し、長く伸びた触角で相手を探る
<後悔すると言ったはずだ。>
そんな言葉が先程のような“声”で響く。
群の異形達は振り向くと、更に高い巨大な大木の先端に、朧気な月光に照らされたも
う一体の異形を見つける。

先程と同じく異形の外骨格がその一体にも覆っていたが、対峙する群のおどろおどろ
しい形状をした茶色の外骨格とは異なり、どちらかと言えば細長く人型に近く、付近
の樹木の葉の如く深い緑に染まった外骨格だった。

<ザンクードッ!!…てめぇよくも…>

<安心しろ…、もう直ぐ仲間の下に送ってやる、貴様ら外道をな…>


そんな言葉を彼らの触角が感知すると、逆上した群はほうこうし、直後に頂点まで唸
り声が達した暗雲が月光をかき消し、稲光が呻く。
高速移動で襲いかかる群。
事態の全ての動きを予め読み切っていた…ザンクードという名で呼ばれしその異形
は、深緑の闇に落下し…地に着く直前で羽を展開し飛ぶ。
すると低空飛行で辺りの落ち葉を撒き散らした直後、外骨格の体色が変化し、落ち葉
が地面に落ちる頃には…判別不能な領域までに深き森の景色の闇に紛れ、群はその姿
を見失う。

ギチギチと牙を擦りあわせ発生させた音波で、
<探し出してブチ殺せェッ!!>
と空中で騒ぎ出し、辺りを探るが…
……背後から突如として投擲小鎌の雨が飛来し一体が斬り刻まれ、
その攪乱に乗じて続いて二体目が突然背に重圧がかかるかと思うと…そこに深緑の闇
と同化したザンクードが、その一体の背に乗るような体勢で元の体色を露わにして姿
を現し、背後からの至近距離で…鋭利な棘と爪が付いた手刀が繰り出す斬撃で斬り刻
み、相手の異形がバラバラになると…次の“足場”へ跳躍するように空中を飛んでま
た姿を消す。

<探せェッ!!ブチ殺せェ!早く奴の擬態を炙り出してブチ殺せェッ!!>

姿を察知し、群達は鉤爪を剥き出し闇雲に辺りの森の木を斬り裂き始めるが、
最中にある一体は突如鎖で締め殺され、またある一体は混乱を利用されて斬り倒され
る樹木に潰され…
群は相手の思惑通りに攪乱されその数を消耗していく。

<騒かずとも…、お前らは全員死ぬ。>

とうとう生き残りが三体となった群はその声に反応し振り返ると、そこには泥で湿っ
た草村に着地し…いつの間にか既に元の体色に変化していたザンクードがそこにい
た。
周囲に生き残った三体の異形が舞い降りると同時に待ちかまえる…

三体は連携を取って標的を取り囲み、それを察知すると鎧の背部に手を回すと、ザン
クードはヌンチャクのような武器を取り出してから振り回し始め…構えると同時に棍
の部分が鎌のような武器に可変し、二丁鎌が鎖で繋がれた鎌ヌンチャクに形態を変え
た。

次第に三体は速度を上げる。それは到底人間の肉眼では確認出来ぬ程の超速にまで達
し…
そしてそれが一定にまで到達したその時…

<くたばれぇッ!!!!>

風を切って彼らの姿は消え、そのいびつ爪が標的の異形の腹を喰い破る…
その寸前───…

腰部を軸にして上半身をほぼ90度に反ると、構えていた鎌ヌンチャクの鎖で…
腹を喰い破ろうとして急接近した群の一体の腕を捕らえ、
そのまま体に回転をかけて次に攻撃を仕掛けるもう一体に叩きつけ、鎖を解くと同時
に外骨格の関節を狙い投擲小鎌を投げつけ、空中で回転する刃で二体はバラバラに刻
む。
直後、その背後に最後の一体であるリーダー格が高速接近し…牙で噛み千切ろうとす
るが…

──<…遅い>

瞬間的に反応した彼の殺戮能力の方が速く、もう少しで牙が触れる直前で外骨格の体
色が変化し、回避と同時に消えた。

相手は激情し、気配をその長く伸びた触角で探ろうと振り返るが…

──……刹那─ 息が止まる程の殺気が背後から襲い……
触角が斬り裂かれた瞬時にリーダー格の四肢に鎖がを巻き付き、身動きがとれなくな
ると…元の体色で相手が現れたのを確認した直後…

<終わりだ…>

リーダー格の心臓は…回転をかけて縛り付く鎖の最先端についた鎌に突き刺され、鎖
を解かれた勢いで鎌を引き抜くと…さらに首から下をザンクードの持つもう一方の鎌
に千切りにされ…激しい流血を上げてリーダー格の首が落ちた。


暫時───森の気配が静かになり、倒れた異形を…見下ろして首を蹴りで異形の仲間
の死骸へと寄せると、“彼”は手にした二丁鎌に付着した己の命を狩りに来た者達の
血を振り払う。

──ふと物思いにふけるように、彼は…“皮肉”にも、仲睦まじく寄り添う骸を見つ
め佇んでいると…
やがて激しい雨が降り出す。
雨に打たれ…彼は思う。
これは重ねる殺戮の天命を洗い流すモノではなく、ただその寒気で彼を攻め続ける拷
問のソレでしかない、と…───

彼は次の標的の動向も掴んでいたため、即座な足を歩ませた…が…。
──その時
殺気を感じた彼は鎌ヌンチャクを構えたとほぼ同時に…紫色の刀身の刃が襲った。

間一髪、外骨格に多少かする程度ですみ、鎖で受け止めた刃を跳ね返し、
襲いかかる脅威を確認すると…それは…自分と同族の異形の外骨格を持つ者ではな
く、唐笠をさし紅い着物を羽織った一人の舞子の女だった。

「どこへ行く気だい…“暗鬼刀”さん…。あたいと遊ばないかい?」

無色なまでに白い肌で、紅く塗られた口で嘲笑い、手には先程の紫色の刀身をもつ刀
が握られており、
女の真上の闇には、巨大な獣がまるでそこに隠れているかのように・…不気味な眼球

浮いていた。

彼は牙を擦りあわせ無害な超音波を発生させて女に放ち…触角に跳ね返り伝わる音波
の反応を、感覚神経を通して複眼に“映像処理”させる。
蝙蝠の超音波の扱いに酷似したこの能力は、
簡単に言うなら骨格レベルでの硬質な物質のみを視覚化する透視能力。
つまりは骸を被った“侵略種”を見抜く護身術であり…
案の定…彼の察しは的中した。

女の背後にあるのは…獣の眼球では無かった。木陰から見せた…獣の眼球のように見
えるその正体は、血のように濃厚な紅い四枚の羽の異様な模様であり、彼は即座に投
擲小鎌を投げつけ距離をとるが、女はその四枚の羽で宙を舞い軽々と避けた。

「声帯言語で…俺出し抜けるとでも思ったか?」
「あら、残念。“見た”のねェ~。えげつないわぁ~」

すると、彼はさっきまでのギチギチという音波から…通常の声帯から発せられる声に
変わり女に話かけると…
女の声は…男の声のモノへ変化していく。

「貴様らのような外道に許されるのか…、他者をえげつないと言うセリフを吐く事
が…」
「殺りまくりのあんたも同じ穴のムジナじゃないのよぉ~♪あたいら“仲間”じゃな
ぁい♪」

「そんなもの俺には不必要な要因に過ぎない。ましてや貴様は下世話すぎる。連携な
ど取らずとも…お前の首を斬る事は出来る。」

鎌ヌンチャクを構え戦闘体勢をとる。
「カリカリしちゃって…。そんなに根に持つような事?…あの女“喰った”事が…」

と…ここで女が言った言葉に対し…
先ほどまで、彼の冷淡な思考に怒りのブレが見え始めたのはこの時だった…
彼にとって、この相手が出現する事は想定外だったが…

殺傷能力で比較するなら、さっきまでの雑魚よりも多少高い程度で脅威とは思えない
範囲だと、先程受けた攻撃から推測していた…。“連中”の幹部の奴を殺すなら今だ
という事は充分察していた…。

逆上の殺気が彼から漏れだし……体色変化と高速移動で姿が消えた瞬間、
直後、その殺気のみを具現化したような刃が女の首に食らいつこうと迫った………。

─ところが…
消えてから女が微笑みながら指を鳴らした時だった。──

刃が女の首に触れる寸前…
切っ先の速度が鈍り女に回避されると、彼に突然目眩と息苦しさが襲い、足下がぐら
つき始めた。
痛覚に感じる痺れの感覚を踏ん張るが…
…周囲の闇の色素にとけ込んでいた外骨格が…茶色の斑模様に変色し始めた……。

彼は…女の姿をかぶったソレが宙に浮き、急降下で猛毒の塗られた刀で斬りかかって
くるのを反射的に交わそうとしてギリギリ鎌ヌンチャクの鎖の防御で防ぎるが…毒が
体力を奪い続け、全感覚が次第に薄れていく。

<この神経毒食らってよく立てるねぇ~♪けどォ…十八番の擬態は使用不可ッ♪!!つ
いでにあんたの体の機能は…もって1日も経たないうちに止まっちまうんだからねェ
エッ!!♪この刃の毒が外骨格に触れた時点で…あんたの負けさぁッ!!♪>

斬り合いの最中に伝えられる死の宣告…
薄れゆく意識の中、怒りで立ち上がるものの…必死に防御の動きを止めなかったザン
クードだったが、
とうとう腹を毒の塗られた刃が貫き、
勢いよく引き抜かれ…ザンクードは牙の隙間から血を吐き出すと、痺れが限界を越え
た脚は遂に膝が着き…ゆっくりと力尽き果てて倒れた。

「もう少し楽しませてくれたら良いのにねェ…。」

毒に侵食されていく相手を見下ろしながら、それだけ言って…ゲタゲタと笑うその女
の表情は…
次第に禍々くなっていき、すでに鋏状の牙がむき出し眼球は昆虫の複眼と化してい
た。

意識が全く無いザンクードは…外骨格ごと首もとを掴まれ、
片腕一本で…人間の女のものとは思えない程の力で投げ飛ばされると…

嵐で濁流化した付近の河川に叩き落とされた。

<さぁて…そろそろ行かないとね…ギドリが五月蝿く言わないウチに…、蜂や蟻ども
に気付かれると厄介だしね…>


>>>>>>>>>>>>>>>>>>

―――――――─良いかい?…ザンクード。あんたがもしこの“戦い方”ってやつを
完全に会得したその時…、あんたは誰かの“刀”になるんだよ…────

ふとそんな…懐かしい声が聞こえ…、悪夢に覚めかけていた彼には…ぼやけた長い髪
の女の残像が見え…─

────「姉…さん…?」
やがてそれは…彼がよく知る人物でない事がはっきりと視覚化されていき…、完全に
覚醒したと同時に体が反応し、…仰向けに倒れた状態の自分の付近に女の姿が映った
瞬間、
──半身を起き上がらせ、相手が身を引き戦闘に充分な距離を取らせる間も与えない
程の速度で…手刀の爪を相手の眼前すれすれに突き立てた。

自身の記憶が途切れた箇所が確かなら、あの突然現れた毒蛾血統に死の宣告を受けて
から…嵐の濁流に飲まれたはずだった。
周囲を見た状況判断から、俺は嵐が収まった夜中の山中におり…
焚き火が燃えている最中…目の前には全く面識の無い人間の女がいる…

「一応傷は塞ぎましたが、完治にはまだかかりますよ」

人間の女の顔には…恐れというものが無く、この状況にも関わらずただ満面に微笑み
ながら…そんな医者のようなセリフを吐く。

音波探知で相手を見ても、恐らく“侵略種”ではない…。ただの人間である。

恐る恐る己の体に目を向ければ…外骨格の変色は消え、外傷もほぼ治癒されかけてい
る…。
半身に掛けられている毛布、女の側には荷物があり、すぐ隣には自分の上半身の鎧と
武器…。
治療するにあたっておそらく外したかのように見せて、抵抗の手段を奪い取る、…と
いう理由も…ザンクードは当てはめたが…
そんな姑息な方法を手にする奴ならば…そうだとしても今の臨戦態勢で、想定外の危
険性に対する手段を考慮しないなら“同業者”としてはかなりの素人だと考えられ
た。

“俺の体に何か施した事は明確であり…
河岸が付近だった事から推測するに、濁流に飲まれた後に…嵐が収まってから俺は岸
に流れ着き、この女に運ばれたというのは察する事が出来るが、
…その目的が不明。

だが……現時点ではこいつに、俺が殺される可能性は無いだ…。
殺気が無いのもただ隠しているだけなのかもしれないが…、そうだとしても…危険性
はまず無い。”

──そう判断した彼は…
女の眼前に向けた手刀を退かせ、臨戦態勢を解いて女から離れた位置に座る。
「セラフィナです。あなたは…?」

「……ザンクード」

人間共には二つ名しかあまり知られていないのが幸いだった。
侵略種と無関係でないなら話は別だが…。

「この川はカフールに通っていますね。何があったんですか」

やや神経そうな表情で話かけ、どんなに危険ないざこざに巻きこまれて死にかけてい
たか分からない相手の素性を質問する相手を…
実に向こう見ずで…余程“死に急いでるバカ女”だと彼は思い、敢えて答えたくはな
かった。

触角から“連中”の匂いも気配も感じられ無いので、既に目的地に移動を開始した後
だと彼は察知出来たが…
何らかの目的で多数の兵士を引き連れてこの先のカフールという国に向かって移動し
てる情報から、彼がそれを追って来た所で戦闘になり死にかけたと言ってみれば…

こういう人間は真っ先に興味本意で接触した挙げ句、“連中”のディナーになる眼に
見えていた。

「答えられ無いなら違う質問をしましょう。“ねえさん”って誰です?」

…と、質問責めが…とうとう彼の寝言の話までエスカレートしてくるのに対し…ザン
クードは焦った。
視覚がかすんでいたとは言え…“身内”とこの女を間違えた事についてだったので…
流石に少々怯んだ。

「…聞いてたのか…」

「はい、一応」

その外骨格の顔面には表情など無いが…
彼は困ったように頭を抑え…こればかり参ったと言いたげな素振りを見せると、

「…見ず知らずの貴様には関係無い…。忘れろ。一切だ」

「そう…ですか」

ぴしゃりと言って相手を怯ませる中、ザンクードは改めて腕の状態を診る

「治してくれたのか…」

「はい…」

と…爪から腕の棘まで舐めるように確認している様が…まるで鎌状の腕の手入れをす
るカマキリに見えたのか…
クスりと微笑される。

「・…なんだ?」
「…ゴメンなさい。あなたみたいな方に会ったのは初めてだったもので…」

恐らく…よほどものすごく不快に思ったのか、
ザンクードはこんな事を言う。

「俺は歩く昆虫図鑑じゃない。いい標本が造れそうか?」
「いえっ・・そんなつもりじゃ」

「別にいい…“そういう扱い”は腐るほど慣れてる。」

―たちまち重圧な沈黙を、辺りにぶちまけてしまう・…―

「……」
本心は…相手を探るための挑発のつもりでもあったが…

…お互いとてつもなくやり難い状態になっているのに少々罪悪感を感じ…

先に口を開いたのはザンクードだった。

「…不躾ですまない…。おかげで、“仕事”で死にかけたところを命拾いで済んだ
…恩に着る」

「え…あ、いえ…こちらこそ」

そしてやっと本題に話を進めた。

「ここの地元民なら…頼みたい事がある。もし良ければ…この先のカフールという地
への近道を案内して欲しい。」

今は“奴ら”を追う事が最優先であり…このセラフィナという女が何者であれ、案内
人としての利用価値はあると踏んだザンクードは、その返答を待ちかまえた。
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2007/02/12 21:20 | Comments(0) | TrackBack() | ○蒼の皇女に深緑の鵺

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