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2024/05/16 19:14 |
四海の詩1~季節の幕開け~/狛楼櫻華(生物)
PC:狛楼櫻華 ノクテュルヌ・ウィンデッシュグレーツ ソアラ・シャルダ

場所:ソフィニア
NPC:魔術学院農学部の面々 サクラバ
―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 間が抜けたほどの青い空に、ふらふらふわふわと白い雲が流れていく。その
下を飛ぶ鳥もどことなくゆったりと飛んでいるようだ。周りを見れば畑に囲ま
れ、農作業に精を出す人がのんびりと働いている。
 そんなのどかな風景の中をソフィニアから徒歩で半日ほどの距離を乗り合い
馬車が走っていた。走るといっても全力疾走する人間には軽く追い抜いていか
れそうな速度だが。
「むー、櫻華ちゃん」
 ノクテュルヌが不満そうな声を上げる。金髪に赤い瞳、空の青さをそのまま
切り取ったような紺碧の服をまとったノクテュルヌはなかなかの美人なのだ
が、馬車を待っている間に買ったりんご飴やら駄菓子がいっぱいに詰め込まれ
た袋を抱えた姿は実際よりも幼く見える。
「のくてぃ、人前で名前を呼ぶのは止めろと言っただろう」
 表情を変えず、視線も窓の外に固定したまま櫻華は言葉を返す。闇夜に舞う
桜吹雪を思わせる着物に身を包み、静かに外を見つめる表情は、その外見より
もずっと大人びた雰囲気を感じさせる。
「いーじゃん、どうせ二人しかいないんだし。櫻華ちゃんは気にしすぎなんだ
よ」
 袋から取り出したりんご飴を器用にくるくると回すノクテュルヌ。櫻華はた
め息を一つついて視線をノクテュルヌに向けた。
「まあ、いい。で、なんだ?」
「むあ? つあんあーい」
「食べながら喋るな」
 櫻華はノクテュルヌががぶりついているりんご飴を引き抜く。引き抜いたり
んご飴にはノクテュルヌの歯形がしっかりと残っている。
「つまらないなら歩くか?」
「……我慢する」
 両手いっぱいの駄菓子を持って歩くのはさすがにノクテュルヌも嫌だったら
しい。櫻華からりんご飴を取り戻すと再びかじりついて視線を外に向ける。
 この後も何度かノクテュルヌがぐずりはしたが、ゆったりと馬車は走り続け
ソフィニアの手前で停車する。
「お嬢ちゃん達。ついたよ」
 御者の老人が小窓を開けて報せてくる。待ってましたとばかりにノクテュル
ヌが飛び出していく。ちなみに袋いっぱいの駄菓子はすべてノクテュルヌが食
べて馬車の中に袋が丸まって捨てられている。
 袋を拾って、櫻華は馬車を降りた。御者に料金を払い、短く礼を言うとノク
テュルヌの後を追った。やや小高い丘の上に作られた待合所の後ろにはレンガ
造りの円筒状をした小さな建物があった。
「櫻華ちゃん、こっちこっち。早く」
 丸まった駄菓子の袋をゴミ箱に入れ、円筒状の建物のドアを開けると地下へ
と続く階段が伸びていた。両脇には魔法灯が等間隔に設置され、十分な明かり
が空間内を包んでいる。
「楽しみだねぇ、魔法列車って乗るの初めてだよ」
 階段を軽やかに下りていきながらノクテュルヌがはしゃぐ。ソフィニアには
大陸唯一の地下を走る魔法列車が整備されている。わざわざ街の手前で馬車を
降りたのはこれに乗るためである。
「あまりはしゃぐと転ぶぞ」
「大丈夫だよ」
 階段を下りたところで視界が開ける。俗にホームと呼ばれている場所だ。地
下のせいか閑散としているにも関わらず空気が淀んでいる。向かい側の壁には
「市営ソフィニア線:魔術学院東市外施設前」と書かれた看板が貼り付けられ
ている。
「わー、ひろーい」
「お嬢さん、ホームで走ると危ないよ」
 興味津々であちこち駆け回るノクテュルヌに初老の男性が声をかけてきた。
年は六十前だろうか、白髪頭に平べったい帽子をかぶっている。濃紺の制服の
胸元には市営ソフィニア線と書かれたエンブレムが貼り付けてあった。両手に
ほうきとちりとりを持っているところをみると掃除をしていたらしい。
「ああ、すまない。魔法列車に乗るのは初めてで少し興奮しているんだ。のく
てぃ、少し落ち着け」
「はーい」
「お嬢さん達は地下鉄に乗るのは初めてかい? ならこっちの窓口で切符を買
っておくれよ、今開けるから」
 人好きしそうな笑顔で駅員は先ほど降りてきた階段の横にあるドアを開け
て、その横の小窓から顔を出す。
「大人二人で銅貨四枚だよ」
 櫻華は着物の裾から出した銅貨を駅員に渡し、代わりに小さな紙切れを二枚
渡された。
「それが切符だよ。なくすとまたお金かかるからね、なくさないようにね」
 そう言って駅員は再び掃除に精を出し始めた。切符を袖に入れ――ノクテュ
ルヌに渡すとなくしそうなので二枚とも――櫻華は備え付けのベンチに腰をお
ろす。ホームには駅員のほうきが床を掃く音とわーきゃー騒ぐノクテュルヌの
声が響く。しばらくすると地上のドアが開く音と共に大勢の足音と賑やかな話
し声が響いてきた。
「おや、農学部の子達。今日は早いね」
 一人つぶやいて駅員の老人は窓口に駆け込みいそいそと切符の準備を始め
た。いつものことなのか、その手つきには手馴れた感じが見て取れる。
「見てみて、櫻華ちゃん。すごい。シマシマの馬だ」
 櫻華の隣に座ってノクテュルヌが話しかけてくる。
 何を馬鹿な、櫻華はため息をついた。ここは地下だ、しかもこれから列車に
乗ろうというのに馬を連れてくる者などいないだろう、ましてシマシマの馬な
ど櫻華は見たことがなかった。たしかにカッポカッポという蹄のような音が聞
こえなくもないが。
「のくてぃ、そう言う事はせめて……」
 宿屋についてから、と言いかけた櫻華の目映ったのは馬だった。たしかに馬
だった。馬には違いない、そう違いないのだが……。
「は、花柄ぁ!?」
 絶叫して、立ち上がった櫻華の前には馬がいた。普通の馬に比べるとやや小
ぶりだが、その容姿は間違いなく普通の馬だった。ただ一つ、模様が花柄だと
いうことを除けば。
「あ、こんにちは」
 花柄馬の顔がこちら向き、もごもごと口を動かす。一瞬この馬が喋ったのか
と思ったが、その影から一人の少女が笑顔で姿をみせた。

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2007/02/12 21:24 | Comments(0) | TrackBack() | ○四海の詩

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