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2024/05/17 22:50 |
立金花の咲く場所(トコロ) 1/ヴァネッサ(周防松)
PC:ヴァネッサ アベル
NPC:男
場所:エドランス国のギサガ村

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

エドランスという国のギサガ村には、冒険者向けに宿屋を兼ねた酒場がある。
切り盛りしているのは元冒険者の夫婦である。
夫の方は一年前に行方不明となっているが、残された妻は気丈に切り盛りしていた。

そこへと続く小道を、亜麻色の髪をした少女が歩いていた。
両手に、はちきれんばかりに野菜の入った袋をぶら下げている。
袋の持ち手が指に食い込むのが辛いのだろう、道の途中で何度か袋を降ろしてみた
り、持ち替えてみたりしながら、ヨタヨタと歩を進める。
彼女にしてみれば、腕が抜けてしまいそうなほどの重さだった。

――不意に、腕の抜けそうな感覚が消える。

もしかして落としたのだろうか。
彼女は、視線を巡らせ――
「あ」
かすかに声を上げた。
「『あ』って何だよ『あ』って」
彼女の視線の先では、黒髪の少年がむすっとした表情を浮かべていた。
その両手に、先ほどまで彼女の持っていた袋がぶら下がっていた。
どうやら、感覚がなくなったのは、少年が彼女の手から袋を取り上げたためらしい。
この少年は、彼女のよく知る人物だ。
血の繋がらない弟である。
「アベル君、ありがとう」
彼女が微笑むと、少年――アベルは頬を赤く染めつつ「別に」と呟き、先に歩き出し
た。

「しっかし、どうしたんだよコレ」
コレ、の部分で彼は袋をガサリといわせた。
「野菜の仕入れなら、こないだ行ったばっかりだろ。なんか足りないモンでもあった
のか?」
「違うの」
彼女は首を横に振る。
「三軒向こうに住んでるおじさん、薪割りしていてケガしたんですって。それで頼ま
れて、ケガを治しに行ったの。そうしたら、お礼に、って……」
彼女には、傷を治癒する魔法が生まれつき備わっている。
村の人間はそれを知っていて、時折、彼女に治療を頼んだりするのだ。
別にそのことは苦ではない。
むしろ人の役に立つのならと、喜んで駆けつけるところである。
だが、その後が少しゆううつなのだ。

田舎の人間特有の行動なのだろうか、彼らはお礼にと自宅で取れた野菜をくれるの
だ。
しかもその量が半端ではない。
最初はイモをくれると言っていたものが、じゃあついでにアレもコレもといった具合
にどんどん増えていくのだ。
そんなにいただけません、と遠慮しても、彼らには通じない。

「……頼まれて行っただけなのに、こんなにもらっちゃって。なんだか申し訳ない
なぁ」
「お礼だって言ってるんだから、素直に受け取っておけよ。変に遠慮する方が失礼っ
てモンだろ」
アベルの言葉に、彼女はやや悩みつつ、小さく頷いた。
わかってはいるんだけど……と言いたいところなのだろう。

「ヴァネッサちゃーん!!」

突然大声で呼ばれ、彼女――ヴァネッサは振り返った。
今来た方角から、一人の男がこちらに向かって走ってくる。
ただならない雰囲気を、その身にまとって。
「今すぐ来てくれないか、大変なんだ!」
駆けてきた男は、いきなりヴァネッサの手首をつかみ、元来た道を戻ろうとする。
説明も何もナシ、である。
「いきなり何なんですかっ」
ヴァネッサは警戒し、足に力を入れて突っ張った。
「大変って、何が大変なんだよ?」
「村はずれの洞窟で、落盤があったんだ!」
横からアベルが投げかけた疑問に、男は早口に述べた。

村はずれの洞窟。
ヴァネッサは思い出した。
そういえば、しばらく前から、どこかの学者だかが、洞窟で取れた鉱石を研究したい
と言って調査に来ていた。
そんな状況で、洞窟の落盤が起きたとすると……。
「運の悪いことに学者先生が何人か巻き込まれてる。ケガ人の治療をして欲しいん
だ。だから来てくれ」
そういうことならば、話は早い。

「わかりました……でも、お義母さんに伝えてからじゃ、駄目ですか? 一言伝えて
から行けば、余計な心配をかけなくて済むと思うんです」


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2007/02/12 21:27 | Comments(0) | TrackBack() | ▲立金花の咲く場所

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